1 プロローグ
「ハル、こっちまでこれる?」
「シイ、あぶないよ。そんなところのぼったら」
小さな子どもが本棚に登っていた。もう一人の子どもが必死に止める。天井は高く、本は天井まで敷き詰められている。
「ほら、これ。わたしオススメのほんだよ」
「ちょっとまって。いまハシゴをかけるから」
ハルと呼ばれた子どもは、ハシゴを両手で抱えて重たそうに運んでくる。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
シイは本を片手で持って降りようとしている。
「まって」
「え、きゃあ!」
シイは足を踏み外した。ハルは咄嗟に魔法を使おうとしたが、反応が遅れた。シイは本と一緒に床に落ちる。
「いたた……」
「だいじょうぶ? あしがはれてる。おとなをよばなくちゃ」
「だめ! ないしょでここにきたこと、バレちゃう」
シイは痛みで顔を歪む。見ていられなくなったハルは意を決してシイに向き直った。
「……いまからわたしがやること、おとなにはないしょだよ」
ハルの言葉にシイは「どういうこと?」と聞いた。
ハルは指先で空中に魔方陣を描いてみせる。指が通り過ぎた線は紫色の光が帯びている。
「せいれいよ。わたしのなのもとにちからを……。せいなるひかり、はるかなるかぜ、ははなるみず。ヒールライト」
シイの足元に光が集まる。暖かい光だった。
「きれい」
シイは小さな手をかざして光を見つめる。
光が痛みを食べていくようで、赤みが引いていく。光が飛び跳ねるように消えていくと、シイはゆっくりと足が動かした。
「ハルはかいふくまほうがつかえるんだね。すごい」
「おとなにみつかるまえにいこう」
ハルとシイはお互いの顔を見て頷く。
本棚に隠れながら出口を目指したが、すぐ大人に見つかってしまった。魔法を使った気配で、既にバレていたのだ。