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初めに

   初めに

 

 題目にもある「古代天皇系譜伝承の古代史的意味」について考察しようと思うまでは、アジア・太平洋戦争敗戦後(以下、戦後)の古代天皇実在論そのものについて研究しようとしていた。戦後、『古事記』(以下、『記』と略す) 『日本書紀』(以下、『紀』と略す) のいわゆる『記紀』に記されている万世一系の天皇系譜等の諸伝承を根拠としていた皇国史観が歴史の隅へと追いやられていき、『記紀』の自由闊達な考証の結果、後述する歴代の古代天皇架空説や「万世一系の天皇系譜は実はどこかで完全に途切れている」という王朝交代説等が現れることもあった。そのような中でも『記紀』に記されている歴代の古代天皇の実在を唱えている説に強い関心を持った。

 そのため、戦後の古代天皇特に初代神武天皇から九代開化天皇までの九代の実在論を唱えている者たちの主張を読んで聞く中で、先学諸氏が述べていることに一種の共通性、つまり同じことを言っていることに気付いた。

 それが著しいものでここに明記することに差支えがない者たちは、坂本太郎と田中卓、いわゆる皇国史観の代名詞である平泉澄と肥後和男そして植村清二であるが、その先学諸氏の主張(1)を大まかにまとめると、以下の通りになった。


・「神武天皇の伝説が多分に神話的であることは否定できないが、反映されている史実の核がちがったとは言えず、皇室の祖先としてヤマトの国を開いた者に関する記憶はあったとしても差支えないこと」

・「天皇の系譜は『帝紀』をもとに書かれているが、神武天皇の即位以降から開化天皇まで九代に『旧辞』を基にした具体的な活動についての記述が無いこと、そして天皇の系譜を中心とした『帝紀』の記述しかないことは、架空性の理由にはならないこと」

・「神武天皇から開化天皇までの九代の寿命が分かっている人に限っても、三桁となっているのは、歴代の天皇の数を机上で創作して増やし、歴代の寿命を適切な二桁にしなかったことから、この九代の実在を否定することは難しいということ」

 

 またこれ以外にも田中と坂本が神武天皇から開化天皇までの九代とその社会について「大和の一地域の豪族として代々世襲継承されていたのではないか」という趣旨の論(2)を展開していた。

 以上の通りに戦後の古代天皇実在論の共通性を考察し表したがその表した共通性を見て、厳密な意味での実在論、即ち当時然るべき肉体を持ち、呼吸をして言葉をしゃべっていた「人間」として存在の実証は難しいと考えた。しかしその一方で、先に述べた実在論の共通性を見直して、古代天皇系譜の記述または伝承が決して『記紀』編纂時に、「急ごしらえ」で創作、言葉を選ばなければ捏造されたものではなく、ある時期に核となる出来事やきっかけが存在し、それが長年を経て伝承されてきたものであると言い換えられなくもない(3)。

 以上のことを踏まえ、ここで取り上げる古代天皇の実在論そのものを考察するのではなく、古代天皇系譜伝承が形成と伝承されてきた古代史的意味について考察し、論じていこうと思ったのである。

 なお主な研究の対象としている古代天皇系譜の範囲は、今日では「完全に」伝説上の存在となっている初代神武天皇から九代開化天皇までの九代の天皇系譜である。だから、次章では最初に『古事記』『日本書紀』のいわゆる『記紀』に記載されている初代神武から九代開化までの九代の天皇系譜伝承の概要を書いていく。


(1) 坂本太郎氏『日本史概説(上)』『日本歴史の特性』田中卓氏『日本国家の成立と諸氏族』、平泉澄氏『物語日本史(上)』と肥後和男氏『神武天皇(肇国伝説の形成)』そして植村清二氏『神武天皇(日本の建国)』、詳しい出版年と出版社は、参考文献に記載。

(2)『日本史概説(上)』坂本太郎、『日本国家の成立と諸氏族』田中卓

(3)戦後の古代天皇架空論は、古代天皇系譜の伝承の『記紀』編纂時の「急ごしらえ」で創作・捏造説のようにも読めた。


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