序章
何もできない。やることがない。
俺は、彼女を失ってから何をしていいかわからなくなった。だから、というか、まあ、とりあえず約束だけは守ることにした。
彼女と交わした約束。それは、『週に一回は子供と会うこと』だ。会うのが無理なら電話でもいいとの救済措置があったので、俺は大学のうちはそうすることにした。その代わり、帰省した時には毎日会いに行っている。可愛くて仕方がない。
子供。
そう、子供。
俺たちには子供がいる。今年の春で3歳になる子が。目と鼻はあいつに似てて、でも性格は俺にそっくりな娘が。
現在俺は20才、子供は3才、三年前の俺は17才、彼女がいなくなったのも17才で、つまり三年前。
つまるところ俺らは、できちゃった婚、をしようとしていたわけだ。高校生にして。俺は、できちゃった婚は悪くないと思ってる。だって、それが愛の形で、育んだ結果がそうなったのなら、契約なんて、年齢なんて関係ない。でも、まずかったのは、自分で稼げないってことだった。いくらバイトしたって、子供を養えはしない。俺は
「流産しよう」
と勧めたのだが、彼女が断固拒否した。
「命は無駄にしたくない」
「それは俺もだ…」
「それに!」
俺の声に被せるように、彼女は言ったものだった。
「あなたとの子供がこれから先いつ産めるかなんて分からないでしょ」
「でも、産んでも育てられないじゃん」
「それは…、どうにかする」
「どうにかって?」
「…」
そのあとは、笑ってはぐらかされたような気がする。
彼女はいつも曖昧にする。