人形 の 独り立ち
「ちょっと待てよ!!」
「ええい、やかましいわ!さっさと入らんかい!」
世界樹内部。
今現在、人形と青年が口論をしている。
「あああああ、うっさいのう!精霊王精霊王と――――――!」
「は?精霊王は精霊王様だろうが!ほかに何があるってんだよ!」
「フン、知りたいか、儂にも立派な名前があるのじゃ」
―――――というイカス名前が―――――――――――、と話したところで、青年は口を抑える。
口封じのように、青年が、人形を箱の中に押し込む。
勿論、只の箱ではない。”転移ボックス”という魔法器具である。
中に入れた物を、のぞんだところに運ぶ、一方通行のワープゾーン。そんなかんじだ。
そして今、二人の勝負が決した。
青年が、人形を箱に入れ、蓋を閉じたのである。
彼が念じた先は、大陸の最南端の森、”キノコの森”。魔物も弱く、西に30キロ進んだ先には”大地の都ガイア”がある。
大陸の中心、世界樹に抱かれた王都”ユグドラシル”で、一人青年は呟く。
「また、アイツが暴れてる。…近々、一動乱くるかもな」
――――――――――――――制止力として呼んじゃったけど、なるべく巻き込みたくなっかたから。
彼は、誰にも明かさない弱音を、心の中で吐いた。
「なんだアイツ、ここはどこなんだ?!」
そう、精霊王に箱に入れられたとこまでは覚えている。
そこまでなのだ。
「まさか、自分の名前を聞かれたから、口封じをせねば、とか思って、急に強引になったのかな。」
教えたくないほど恥ずかしい名前なのか、と聞かれると、そうでもない。
”エント”。
それが奴の名前だ。
恥ずかしくもないし、むしろいい名前じゃないか。
それにしても―――――――――
「なんでこうなった?」
今の俺の状況を知るには、少し時を遡らねばならない。
「ところで、なんで俺は呼び出されたんです?」
そう。これこそが、一番の謎なのだ。
ゲームが親友、だったはずの情けない男に、なぜ転生という道を与えたのか。
問いかけてみたのだが…
「さあな?それより、{かわいい子には旅をさせよ}が、儂のポリシーでな。甘く育てるつもりはない。」
華麗に無視された。
「まあ、いい感じのフィールドまでは送ってやるから、安心せい」
安心なんてできるわけねーだろ!! という俺のツッコミは、またしても無視。
「儂のム…、・・・魔女でも尋ねるとか、目的をもってこの世界になじんで来い。」
何を言おうとしたのかわからないが、とりあえず・・・
”魔女を探せ”
こういうことだろう。
「どこにいるんだ?」
「たわけ!そんなの、自分で探すに決まっとろうが」
そうだよな。さすがにそう思うが・・・
聞いてみる。
≪魔女はどこにいるんだ?≫
≪プライバシー・ロックがかかっています。≫
クッ。
「それでは、いい感じのフィールドまで送ってやるから・・・」
「ちょっと待てよ、精霊王様!自分の能力すら知らねえんだよ!」
「そんなの、自分で確かめればいいだろうが!」
「ちょっと待てよ!どうやって確かめるんだよ!」
「向こうで試せばいいじゃろうが!」
「ちょっと待てよ!精霊お・・・」
「ええい、やかましいわ!」
そして口論になり、箱に入れられどんぶらこ~、というわけである。
マッタク、ひどい王様である。
そう思いつつ、タブレットを起動する。
≪ねえねえ、俺って何ができるの?≫
回答はこうだった。
≪能力 (限界突破 体力が許す限り魔粒子を限度無く操れる)
(タンク 酸素、または食料のエネルギーで生きることができ、体内に水やエネルギーを貯めることができる。)
(トネリコの加護 損傷部分に水をかけると治る。周りの環境の影響を無効化するが、過酷であればあるほど体力を消耗する。)
(メルト 魔粒子を物質に浸透させ、その物質の性能も上げる。)
魔法 (ドレスアップ まわりの物質を衣類に変える。)≫
・・・・やばくない?
絶対(限界突破)とかやばいスキルだって。
これを聞く限り、必要なのは体力ですよね。
どうやってつけるんだろ?
タンク の食料?が気になるな。
《食料でも体力はつきます》
予想通りのようですね。
さっそく、俺はその辺にあったキノコを食べた。
食べた後に、毒キノコだったらどうしよう?という不安が俺の心を巣食った。
しかし、もう遅い。
俺は、強烈なめまいや頭痛に襲われ―――――――
―――――――――――――――――――――――なかった。
ブッッッッ
代わりに屁が出た。
「なんだ、毒キノコじゃないみたいだ。」
そう思い、俺は辺りにあったキノコをむさぼり食らう。
そして、噛む度に屁が出る。
まって?これ、もしかして・・・
――――――毒物を食らうたび、毒素が屁としてでるんじゃないだろうか?
《技・放屁を獲得。》
獲得しなくていいわあ!!
かっこよくもないからね?
これ、ばれたら恥だからね?
≪この媒体は身分証明書としても使用できます。同時に魔法、技、種族も公開しますので、確実にばれます。≫
無慈悲な一言がタブレットから聞こえる。
身分証明書なんて、どこで使うんだよ!!と思ったら、すぐそばに、身分を証明する必要がありそうな小屋を見つけた。
小屋の前の看板には、{旅のステーション キノコの森支店}と刻まれている。
中からは、男性たちの豪快な笑い声が聞こえる。なんだか、酒場のような雰囲気である。
いいな!俺も入りたい!
足が入り口に吸い込まれていく。
そのとき、何かに首元をむんずとつかまれた。
誰だ?
ゆっくりと後ろを見る。
そこには・・・
≪魔女”シノブ”が作成した、人形です≫
ここで魔女の名前が明らかに!ってそうじゃない。
人形は、冷たい目で俺を覗き、定型文を発する。
『ここは全国で2000店舗を展開する、旅のステーション、キノコの森支店です。』
『対象を認識…できませんでした。会員、または冒険者でない可能性…100%』
『カードを発行します。身分証明書を提示してください。』
ヤッパリな、使うと思ってたぜタブレット!
ただ、相手は人形である。恥ずかしがる必要はない!
しかし、旅のステーションとはなんなんだ?
『シノブ一人が運営する、大規模な旅人援助機関です。旅のステーションでは、宿泊、食事、仲間の結成支援サービス、武器やお金の預かり、引き出し。また、回復アイテムの販売や武器の販売なども行っております。販売のみ、有料です。』
『食事は、300yで提供しておりますが、食材の持ち込みでただとなります。』
まさに、旅人の味方のような場所である。
それにしても、こんなのを一人で2000店舗行っている魔女というのは・・・・・・恐ろしいものである。
早速俺は、タブレットを差し出した。
人形が、クスリと笑ってから、カードを発行してくれた。
…ん?わらった・・・だと・・・?
『私の感情は全てマスターとリンクしております。』
先に言って欲しかった!!
これで魔女に会えても、変な目で見られるだけではないか!!
アーア、やらかした。
しかし、憂鬱な気分は、扉を開いたとたん吹き飛ばされるのであった。
目の前で繰り広げられるは、まさに居酒屋そのもの。
パーティが組まれては酒が頼まれ、新しい仲間とグラスをぶつけ合う。
綺麗なおねーちゃんを誘い入れたパーティには、嫉妬の目が向けられていたが…。
老若男女、パーティ問わず、笑いあえる空間。
たまらなく、心地よかった。
そして、新たな出会いを描いて、俺は心を躍らせ、その空間へと足を運んだ。
だんだん書いてる方も楽しくなってまいりました。