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種族 人形 はチートだった  作者: 天漏り
第一枚  人形 と 出会い
5/6

 精霊王 と 人形

 柔らかな風が、頬を撫でる。

 

「おっほ、成功じゃ!成功なのじゃーーーーー!!!」


 目覚まし時計代わりに、歓喜の声が聞こえた。

 なにが成功なの?


「まさか(ふるい)にかけられても消滅しないとはのう!」


 なんか聞こえる・・・・。

 消滅?

 なに、それ?

 物騒な響きだね。


「さっすが、奴とわしが認めた魂。かなり丈夫な魂よな。」


 巻き込まれたの、こっちは。


「さっきから聞こえとるんじゃが?気が付いたなら、目をあけんか!」


 ばれてた。

 俺は恐る恐る目を開く。

 声からするに、あの時のおじいちゃん―――――


 じゃない!!

 え?え?

 だって、口調からしておじいちゃん・・・なのに!

「ふむ、儂の姿を見て驚くものは沢山おるだろうな」

 そういう彼は、簡単に言うと美男子。

 白いひげ、のかわりに、銀糸のような髪が宙をたなびく。

 雪のような白い肌故に、薄いライトグリーンの瞳が映える。

 その目は、優しくも威厳のある、”王者の目” であった。

 服装も・・・白いな?

 お前は雪だるまですか、と言いたくなるほどの白い山伏姿だった。

「お、おまえ・・・、この儂、”精霊王”を雪だるま呼ばわりしたのは、お前が初めてじゃぞ?」


 え?

 精霊王?

 見たことはないけど、もうちょい・・・ねえ?

 初老とか、その辺とか思ってたぞ。


「これでも儂は2000歳。・・それより、体はどうじゃ?」


 体?

 ここで、俺は初めて自分の手に目線を向けてみた。

 なんと、関節という関節が球体状になっている。

 膝をみても、球体。

 腕を見ても、うん、球体のものが関節にハマっている。

 どうやら、人間ではないようだ。


「その体はな、儂がこの世界樹を切り出して、加工したんじゃぞ」


 世界樹?

「世界樹?この辺には木なんて見当たらないですよ?」

「ふ、ふふ、ふはははは!」

 質問をしただけなのに、笑われた。

 なんて奴だ!

 と言いたいところだが、まだいろいろ聞きたいことがある。


「ふうむ、聞きたいことが山のようにあるようじゃな。」

 ・・・・ヤッパリな。

 ハーデでも心の中を読めていたんだ。冥王にできて精霊王にできないなんてことはないだろう。

 なにせ、”覇者”なんだから。

 まあ、それはおいといて。

 俺は、精霊王に次々と質問を投げかける。


1.Q世界樹って何?ないよね?

  A世界樹とは、途轍もない生命力で世界をも作ることができる木。根っこに栄養が凝縮されており、その根の広がっている範囲は広大で、全ての世界の植物へと栄養を送っている。

   ちなみに、今俺たちがいるこの部屋は、世界樹の幹を、<俺の体>を作るためにくりぬいたためにできた空間を住みやすくしたもの。


2. Q…枯れないの?

  A(精霊王)自体が世界樹の核なので、儂がいる限り枯れない。

     ただ、1万年に1回、核を戻してやる必要がある。この工程のため、精霊王の寿命が1万年と言われるようになった。


3. Q若いね?

  A2000歳とかまだまだヒヨッ子。人間でいう20歳ぐらいの見た目だが、記憶は初代から受け継いでいるので物知りだよ!語尾の”じゃ”は、初代からの受け売り。


4.Q今俺、どうなってるの?

  A人形。


5.Q…

  Aめんどくさくなったので、”ナビ”をやる。


 ナビ?

 手渡されたのは、親指の爪サイズの歯車と、スマートフォンのようなタブレットだった。

 歯車なんて、どうやって使うのか?

 そう思った時だ。


《寄生先を確認。これより脳の情報管理器官の制圧に入ります。》

 機械音声が響く。

 歯車は、俺の手から溶けたかのように体に入ってきた。

 ・・・しかし、ちょっと待ってほしい。

 「寄生先」?「脳の情報管理器官の制圧」?

 ヤバいんじゃないの、これ?

 そのとき、俺の体から再び声が聞こえた。

《脳を見つけることができませんでした。対象は思考能力がないか、体の中に中枢機関のない人形だと考えられます。》

 俺は脳がないらしい。

 ていうか、この機械音声()怖い!

 拒否とかできないのかな?

「無理じゃな、お前には”わしの改造には対抗できない”という、制御プログラムをかけといたからのう。解きたければ、|制御プログラムをかけた者《契約者》よりも強くならねばならんぞ。

 まあ、儂じゃがな!」

 つまり、契約者より強くならねば自力での解除はできないのか。

 無理じゃない?

 そこで俺は、あることに気が付いた。

「自力で無理なら、俺じゃない他人ならどうなんだ?」

「儂と同等、またはそれ以上の力が必要じゃがな。」

 これは・・・”実質不可能”じゃないか!


《脳が見当たりませんでした。『対象の意志に基ずく知能の作成』を開始します。尚、体を動かすことは意志のみでもできますが、知能を作成、意志とリンクすることにより、神経を通ずるプロセスを排除することができます。》

「開始しとくれ」

《了解しました》

 勝手に話が進んだ。

 

 しかし、知能と意志のリンク?ってもしかしてチートなんじゃない?

 神経から中枢神経、そこから神経、運動器官の流れをすべて感覚器官でやっちゃうって、単細胞生物みたいな感じになるのかな?

 そういえば、俺って脳ないんだよね。

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚は、全て脳で処理するもんでしょ?

 それを俺がやるんじゃなく、この知能がやってくれる。

 反応、情報処理能力も格段にアップするんじゃ?

 うわ、なにそれ凄い!

 メリットしかないじゃないか!


 …あれ、俺もう一個なんか渡されたよね。

「これじゃろ」

 精霊王は床からそれを拾った。

 なんで床から?と思ったけど、どうやら興奮していたために無意識に手を放してしまっていたようだ。

「よかった、ひびは入っていないようだ。」

「ひびなんて入るわけないわ!ふはは、お前面白いことを言うな!フフッ。」

 ひびが入らないことに絶対の自信を持っているようで、当たり前だと笑う精霊王。

「そいつはな、この世界のなんでもマニュアルみたいなものよ!歯車(今は溶けてしまっているがな)は、お主のことを理解し、最大限のお主の補助を行ってくれるが。しかし、それはあくまでも、”お主自身の経験、能力”しか情報がないまま補助しているにすぎん。電卓だって自分が問題を解く方程式を知らねば意味がないじゃろ?」

「その方程式を教えてくれるのが、これってことか。」

「まあ、そういうことじゃ。」

 王界でもこんなのあったな、電子書籍みたいな感じかな。

 そう思うことにしたのだが・・・


「地図、能力の記録、自身のステータス、鏡、時には盾としても使えるぞ!詳しくは、『使い方を教えて!』とでも念じるがよい。そのタブレットにも、あの歯車の劣化版が搭載されているからのう。意志に沿い、答えてくれるだろうよ。」

 …これもか!

 これもチートなのか精霊王!

≪チートです≫

 そこは答えなくていいからね。


 それより、まだ解けていない疑問があったね。

 知らなければならない、重要なこと。

 俺は、今の俺の容姿を知らないのだ。

≪鏡を起動します。≫

 タブレットさんが鳴いた。

≪容姿確認のため、全身モードに移行します。≫

 その瞬間、手のひらサイズだったタブレットが成長し、150センチくらいになった。

 全身モードとか言ってたから、俺が150センチくらいなのだろう。

 普通より大きな人形としか言いようのない容姿なのだろう。

 そう思い鏡を覗く。

―――――――――――――――――目の前には、他人がいた。


 それも、ただの他人じゃない。

 光すら反射しないほどの、漆黒の髪。ただ、左横髪に、粉雪のようなメッシュが入っている。

 長さはショートとミディアムとの間、ってトコか。

 触ってみると、ふわふわ・・・サラサラ・・・!!

 至極の触り心地であった。

 肌は、人間のようにしっとり暖かい。絹のような肌触りだった。

 一番の問題は、顔。

 少女と見紛うほどの美少年、または少年と見紛うほどの美少女。

 つまり、中性的な顔立ち。

 しかし、ここで問題が。

 上半身は細いのにしっかり柔らかい筋肉がついている、という理想的な体だったが、下半身。

 足の長さはバッチリ。筋肉も細さを維持しながら綺麗についている。

 どこに問題が?

 股間である。

「そこは再現しないとと思ったんじゃ」

 しなくていいよ!!

 そう、ないのだ。

 なんだか、すごく殺風景。

 樹ジュニアどころか、性器がないのだ。

 しかし、なぜか排便施設はある。

「便秘は困るからな」

 ポジティブにとらえれば、美味しいものが食える。

 そう考えたい。

「いずれ役に立つじゃろ。人形は糞はしなくてもいいんじゃが、消化器官をつくれば出る!ただ、儂が『性別器官を変えてはならぬ』とプログラムしたらな、喉仏、胸、骨格、性器、ついでに出口まで変えられなくなった。だから、消化器官をつくるならば、あった方がいい!」

 いやいや、精霊王さん、ドヤァ…ってされてもですね…

 

 男でも女でもない。

 でも、排便施設はある。

 さすがに、こんなのが常時素っ裸でいるのはヤバいよね。

 王界では、上半身に衣服をまとってないだけでも、場所によっては大事なのだ。

《衣服の申請がありました。周りの魔粒子を昇華し、衣服を製作します。》

 おや、歯車さんの声がする。どうやら、俺の願いを実現してくれるようだ。

≪スキル「魔粒子操作」を獲得。≫

≪人形の特性「操り糸」が「魔粒子操作」に吸収。「物質浸透操作」を獲得。≫

≪魔法「ドレスアップ」を獲得。≫

 は???

「種族 人形 は自分の体から「操り糸」を出して、その体を動かすことで、直接魔粒子を動かせるからな。それ以外だと・・・、魔方陣を描くか、常に魔粒子の動きを脳内で考え続けねばならんから、大分面倒なんじゃぞ。」

 そういうことじゃないの。

 そもそも、魔粒子って何?

≪魔法を使うことができる全生物が唯一操れる元素です。水素の1/100 の体積と質量です。≫

 うーん、もっと詳しく!

≪水を操る場合、水分子を魔粒子で囲む(ロックする)必要があります。魔粒子を浮かせれば水も浮く、解除すれば水は下に落ちます。ロックされた状態の物質は、周りの環境に耐性が付きます。また、操れる粒子の多い者ほど、大量の物質を移動させることができます。≫

《 ウズ は「物質浸透操作」があるため、ロックする必要がありません》

≪物質浸透操作とは、物質の中に魔粒子を溶かし、物質をそのまま操ることができます。ロックした場合と浸透(メルト)した場合では、メルトの方が大幅に魔粒子の削減が可能です。≫

《尚、体を動かすという過程は、王の命により削除しました。念ずるだけで発動が可能となります。》

 機械で会話が成立しちゃったね。

 ともかく、めんどくさそうな魔法の発動が念ずるだけでできるようになった。

 しかも、メルト?ってのができるから、大分大きな魔法ができるんじゃない?

 今はドレスアップしかないけど、もしかして豪華な服ができるのかも。


―――――――――――――――――ん?ウズ?

 聞きなれない単語に、俺は首を傾げる。

「儂がな、この世界のお主の名前を決めてやったのじゃ。”イツキ”は、三文字で呼びにくい!からな。」

 …?

「ちなみに、人形の名づけは、プログラムじゃないぞ?さっきの歯車に、”ウズ”って書いちゃったからのう。変更はできんぞ。」

「え?え?」

 


 ”卯渦(うず)(いつき)”の生涯は、こうして幕を閉じた。

 代わりに、ファンタジアに”ウズ”という人形が誕生した。

 精霊王の、第2子として。

 

 

長いな。

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