私≠仕事
カメラのフラッシュが瞬く。その眩い光が収まるのを見計らってポーズを変える。
またカメラのフラッシュが瞬く。
ポーズを変える。
これを出版社の人間やアパレルブランドの人間が気に入るまで繰り返す。
まるでカメラのフラッシュに反応する人形みたいだ。
世の中これが仕事と言えるのであれば、ニュースで時折目にする災害で出動する自衛隊の皆さんに申し訳がたたない。
世が世なら私は非国民と罵られたかもしれない。
いや、まてよ。ひょっとして戦意高揚ポスターのモデルに抜擢されるかも…。
ってそんな訳はないか。私みたいなヒョロヒョロでガリガリなノッポな女じゃ戦意どころか意気消沈だ。
そんなくだらない事を考えながらでも成立してしまう今の仕事ってなんだろう?
「ハイ!オッケーでーす!!」
カメラマンの大声で我にかえる。
「ありがとーございまーす!」
私も反射的に大声でお礼をする。
この瞬間にいつも思う事がある「慣れって恐ろしいわ」内気な私のはずなのに。
この仕事を始めてどの位経つだろう?
スカウトなんて都市伝説と思っていた私にその声がかかるなんて思いもよらなかった。
青天の霹靂とは正にこの事か?と当時の私は思ったものだった。
芸能界に疎い両親でさえ名前位は知っている有名な事務所だったので特に反対はなかったし、奨めもしなかった。「やりたければやるば?」といった感じだ。
そして事務所側の熱心な薦めもあり、始めの頃は読者モデルとして細々と仕事をこなしていた。そしてその収入で趣味を満喫してたりもした。
少額のギャランティとはいえ、お小遣い以外で自由になるお金は正直嬉しかった。
それから高校を卒業してこの業界に本格的に入ってからは、あれよあれよという間にどうやら売れっ子になってしまったらしい。
出版社やアパレル業界の人達が言うには、私が表紙だと部数が伸びるとか、私の着ていた服の発注量が増えたとか、笑顔で話しかけてくる。
極めつけは渋谷の道玄坂にある有名な数字参文字で呼ばれているビルに私のドでかいポスターが貼られた事だ。
こうなると私が、望む。望まないに関わらず売れっ子の道を歩まざるをおえなくなってしまった。
勿論、収入のほうもウナギ登りに上がり、今の仕事だけで両親から独立し生活が成り立つまでにいたった。
無論。趣味につぎ込む金額もそれ相応の額を自由に使える。
そう、私の職業は「モデル」だ。
それも全国の女性が憧れるほどの。…らしい。