一人?≠みんな
「やっぱり来ないダナ~」
「んぁ」
○月○日。小川さんとカネコさんは高島平のファミレスに来ていた。
言わずもなが本日はマルハチ会の日だ。だがそこに私の姿は無かった。
彼らは何かを喋る訳でもなく只ひたすら私が来るのを待ってる。
その様子をファミレスの従業員さん達が固唾をのんで見守っていた。
しばらく何事もなく時がながれたが、入店を知らせるチャイムが鳴ると事態は動いた。
スーツ姿の男性が小川さんとカネコさんのいるテーブルに近づいて来たのだ。
その男性は二人のテーブルの前で止まると一枚の名刺を差し出しながら話し始めた。
「初めまして。私、リタのマネージャーをしておる物です。小川様にカネコ様ですか?」
二人共面識の無い男性の登場に少々驚いている様子だが、黙ってうなづいた。
すると
「随分前にウチのリタがご迷惑をかけたようで申し訳ございません」
そう言ってマネージャーさんは頭を下げたが小川さんとカネコさんは慌て立ち上がり
「迷惑かけたなんてとんでもないダヨ。むしろ僕達のせいで隊長に迷惑かかってないダか?」
「んぁ」
「とんでもございません。全てはリタのしでかした事です。彼女には良く言って聞かせますので、今後ともリタの方を宜しくお願いします。」
「んぁ。でも隊長が来ないンじゃマルハチ会は始まらないンだよ」
「そーダナー。僕ら隊長の連絡先とか知らないし…」
もの悲しげな口調で小川さんがそう呟くと、マネージャーさんは不敵な笑みを浮かべて
「つきましてお二人にご相談がありまして」
そう、コッソリと話しかけた。
○月○日・都内某所。
私は青山にある撮影スタジオにいた。
メイクルームでメイクさんにメイクをしてもらいながら待ち人の来るのを待っていた。
メイクは終わりメイクさんは撮影にそなえてスタジオの方へと移動する為ドアを開けた。
するとメイクさんと入れ替わる様に二人の男性が恐る恐る頭だけを突っ込んできた。。
私はその男性二人を見るのと大声で
「遅い!!」
と叫んだ。
その二人の男性は一瞬ビクッとと身体を震わせたが、聞き覚えのある声がしたのでその声の主を探そうと一生懸命、目だけ動かしていた。
勿論、メイクルームには私しかいない。
私は椅子から立ち上がると気を付けの格好をした。履いてあるブーツのカカトが「カツンッ!」と響く。
「自分は大山プロダクション所属!J&J専属モデルの田中信子と申します!作戦行動中の秘匿名はRitaです!!本日はマルハチ会へようこそ!!」
と、敬礼をしながらそう叫んだ。
二人の男は見知らぬ女の自己紹介を突然受けて動揺を隠せない様子だったが
「旧帝海の敬礼ダヨ…カネコさん」
「んぁ。ひょっとして隊長?」
私はニッコリと微笑むと
「なにをしてるか!!状況は刻一刻と変わってるんだ!そんな所に突っ立ってるな!!」
乱暴に二人をメイクルームに入るように促した。
「うわーい!やっぱり隊長ダヨ~!!」
「んぁ~~~!!」
小川さんとカネコさんは堰を切ったようにメイクルームに雪崩れ込んできた。
「コラっ!!大の男が情けない声を上げるな!!」
私もそうは言ったが胸に熱いものが込み上げて来て思わず言葉を詰まらせた。
小川さんは私の両肩に手を置き
「隊長。この前はスマなかったヨ。まさか隊長が売れっ子のモデルなんて思わなくて…。本当にスマない…」
そう言った。
「んぁ、水臭いじゃねぇか。俺達に一言位あっても…」
その後ろからもカネコさんが、ぶっきらぼうだが瞳を潤ませながら
そう言ってきた。
「ゴメンね。私がいけなかったの二人は何にも悪くないよ」
と言って雑誌「丸」を差し出した。
それから私達は今までの分を取り戻すかの様にしゃべりまくった。
しかしその内容は軍規に反するので割愛させて頂く。




