糸 新地を這う
超能力がちょろっと
「あーもしもーし!テノアでーす。調査対象の左腕、捕ってきたよー」
魔女のような帽子を被った少女、テノアは緑色に光を放つ袋をブンブン振り回しながら誰かと話している。
とても小柄な少女で、その髪は銀色、帽子を取って陽の光を受ければきっと綺麗に輝くであろう。
「えー!?今すぐ事務所に帰って来いって?やだよー外は楽しいもんね。それじゃあねーポチっと」
少女は電話を切ると、人で賑わうF市商店街の人ごみの中へ走っていった。
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僕は今、全身が糸になってF市の地面を這っている。所々切れたりしているが、すぐに繋がるので何の問題も無い。
正直、人に踏まれようが車に轢かれようが糸の僕には関係が無いのだ。
「どこに行ったんだ?あんな格好ならすぐわかるはずなんだけど」
糸の状態では、あまり早く動くことができない。
当然(とはいえないと思うが)、視覚は眼球が糸になった部分のみに存在する。
しかも、ある程度元の眼球の形になっていなければ視える状態ではない。
しかしこの糸、見えない代わりに認識力に長けており、触れさえすれば大体の形を認識できるという便利な能力である。
つまり、服の形状さえわかっていれば、見えなくてもその形状により認識はできるのだ。
が、もし捜す対象の形状が変わった場合、捜すことが著しく困難になる。
しかも、脳はひとつしかなく、糸から入ってくる情報はひとつずつ処理していくしかない。
要は、糸で探し物はすんごく疲れる。
捕られた左腕が糸になるが試してみたが、糸になる気配は無い。
わりと離れていても糸にすることができるのだが、何か別の力が邪魔しているようである。
「クソッ...いない」
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服を着替えたテノアは、人通りの少ない路地にいた。
「ふー疲れた。そろそろ能力解いてもいいよね」
一瞬のうちに緑色の袋が消え、人間の腕が露わになる。
「こんなの持ってるの見つかっちゃったらかなりまずいよねー」
テノアは背負っているリュックにそそくさと腕を入れ、豪快にファスナを閉めた。
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「...はへぇ...そろそろ、かなり疲れた...あ、まずいな」
糸が切れやすくなってきた。
疲労が溜まってくると、糸の強度が落ち、繋がりづらくなる。
今、元に戻った場合、左腕が無い状態になり、いろいろとまずい。
「しかし、あと10分もたんぞ...」
そのとき、左手の小指に激痛が走った。
「痛っつ、ってあれ?何で今頃左手の感覚が...まさか」
そうして、左腕は糸になりながら、真っ直ぐに主の元へと伸びていくのであった。
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