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復讐の結末2

 さて、俺はこの世界と生きると決めたんだ。まずは目の前のことに集中しよう。

 まず、俺は何をしたいのか? ――俺は彼女たちに手を差し伸べたい。傲慢な考えかもしれないが、俺にはそれだけ大きな力がある。助けを求める人を全て助けられるとも助けたいとも思わないが、少なくとも目の前に助けを求めるものがいるならばどうにかしたいと思うのだ。結局は俺のわがままだな。案外、傲慢な考えで何も間違っていない気がする。


 とはいっても、彼女たちを救いたいという思いだけではどうしようもない。何か方法を考えなくてはならない。


 この世界では、少しばかりの間とはいえ見て回っているので、多少なりとも知っている。その際に思ったことは、地球にいたころとの技術の差、だ。

 技術差は当然、義手義足などの代替人体に影響を及ぼすのだが、何よりもできることが(・・・・・・)極端に狭くなる(・・・・・・・)のだ。

 わずかな操作で人間の代わりに動く機械はなく、人間の仕事をサポートしてくれる便利な道具も少ない。


 代わりのように魔法という技術が存在しているが、魔法そのものは基本的に身を守ったり、暮らしを便利にするために使えるものが少しばかりある程度。魔法によって作り出された魔道具も、結局は暮らしを便利にするもので、仕事に使うといった話はあまり聞かない。

 ついでに言えば、そういった道具も、使用者がそれなりに苦労しなければ十全に扱えないようなものばかりだろう。魔力を扱うことは一朝一夕で身につく技術ではないはずだ。俺は割と苦労なしでできてしまったが、それは前知識があったから。この世界の住人も同じようなものだが、根本的に違うことは、扱いに慣れている者といないものの差だ。

 俺は知識はあっても慣れていないからこそ、竜という土台があったとはいえ、それなりにスムーズにできた。慣れている者は、初めから何かしら問題があったならともかく、健全であった状態から扱っていたものはやはり感覚が狂う。そうなれば慣れるまでは大抵が今までのようにうまくは使えないのだ。もちろん例外はあるだろう。魔力を扱うのに実際に手足が必要という訳ではないから、熟練したものであればそう時間のかからないうちに元のように使えるようになるかもしれない。


 っと、そういえば、この世界の義手義足技術はどの様なものなのだろうか。そのことに関して碌に知らずにいろいろ考えていたが、魔物がいて、それを討伐する存在がいる以上、そういった技術は発展していてもおかしくはない気がする。あの時軽く見えたサラのつけていた義手は一見するとマネキンのようなきれいな表面でありながら、あまり違和感を与えない程度に動いていた。もしあれがこの世界の平均であればどう考えてもこっちらの方が技術が進んでいる。そうなれば環境の問題ということになり、俺では簡単に解決できなくなってしまうが……。

 とりあえず義手のことを、知っているかはともかくとして、アイリーンに聞いてみようかな。


 こそこそとアイリーンに近寄って小声で訊く。


「アイリーン、この世界の義手なんかの技術はどの程度のものなんだ?」


 一瞬迷ったような表情の後に教えてくれた。


「しっかりとお答えできずに心苦しいのですが、私はあまり詳しく知らないということを前提に聞いていただければ幸いです」

「わかった」

「では。私が知っているのは、のぺっとした腕の形を模した――ガラクタ、ですね」


 衝撃を受けた。もう少しまとものなものかと思っていたが、まさかガラクタとは。


「基本的には腕や足の形をした、粘土の塊のようなものだと聞いたことがあります。土属性の魔法が扱えなければろくに扱えないなどと言う話も聞いたことがあります」

「そうだったのか……」


 しかし、そうなるとこの場にいる彼女たちはみな土魔法が使えるのか?

 あ、でもサラが力があったとか言っていたような気がするな。


「私が知っていることはこの程度です」

「ありがとう、参考になった」


 予想を下回る内容だった。もちろんアイリーンの知識量が、ではない。技術が、だ。


 しかし、これならまずはその義手をどうにかすれば多少なりとも変わるかもしれない。

 そして、実はアイリーンの話を聞いている間にふと思いついたことがある。


 それは、俺の魔法だ。


 俺の想像力次第で、いかようにもできるまるで万能とも思える魔法。代償はそれなりに大きいものではあるが、あの幻魔導であれば高性能の義手くらいならばできるかもしれない。


 もちろん俺は義手の細かな内容など分からない。しかし、多少おおざっぱでも可能なのは宿屋のポンプで経験している。あの時よりさらにおおざっぱになってしまうが、そこは魔法の性能に頼るしかないだろう。

 消費魔力についても不安は残る。ポンプもトンボ玉もごく少量だった。しかし、今回は量も内容も全く違う。俺はあの傷の旅団全員に魔法を使用しようと考えている。


 傷の旅団の、街で起こした惨状の犯人疑惑はまだ解決されていない。すっかり聞くタイミングを失っていたため真偽のほどがわからないのだ。だが俺自身はすでにこれまでの話を聞いて、彼女たちではないと確信している。彼女たちは決して殺人を許容してはいなかった。であれば無益な被害は絶対に出さないだろう。そして、まず間違いなくあの宿と彼女たちにかかわりはない。


 だからこそ、まずは旅団全員を助ける。そのあとでゆっくり話を聞けばいい。それでもきっと問題はない。どれほどの魔力を消費するのかわからないがそんなものは必要経費だ。俺の目が覚めた御礼、のようなもの。


 さて、そうと決まれば善は急げだ。まずは彼女たちに許可をもらわなければならない。初めから善意の押し付けで行うつもりではあるが、何が起こるかも、成功できるかすらもわからない。一言くらいはあってもいいだろう。


 その前にどうやって動かしていたのか竜眼で見ておいた方が良いかもしれない。魔法同士の干渉といったような話は、経験が浅いこともあって聞いたことがないが、何か影響があってはいけないからな。


 ここでステータスを見たところで何がどんな効果なのかぱっと見ではわからないから、見えないものが見えるらしい竜眼を信用して、どうやって動かしているのかを見たいとイメージしながら使用する。一個一個確認するというても出来なくはないが、このようなことであまり時間をかけたくはない。


 すると視界に浮かんできたのは、無数の魔力と思しき糸のようなものだった。それがサラから旅団員全体に伸びている。


 まさか、個々が動かしているのではなく、彼女一人が動かしていたのか……?


 さすがに想像を絶する結果だ。道理でどの子も違和感なく動かしていたわけだ。そして、サラがいないときにカメリアの足元の動きがぎこちなかったわけだ。さすがに完全に一人という訳ではなく、装着者本人が何らかの制御を加えているのは、細かな動きができることや、見ていないところで本人の意志を反映して動いていたことからも確かだろうが、どう考えても負担が大きすぎる。


 あれでサラは、今の今まで平然といていたのか。

 余計、助けたくなる理由ができてしまった。


 すべてを吐き出したのか、うずくまったまま動かなくなってしまっていたサラに声をかける。


「なあ、少し、いいか?」


 彼女の周りにはだれもいなかった。先ほどの姿があまりにも強烈すぎたためか、旅団員は誰も動けなかったのだ。だから、俺の言葉にゆっくりと顔を上げた彼女の姿はよく見えた。

 真っ赤に腫れた瞼。涙にぬれる頬。そして、先ほどの堂々とした姿とはかけ離れた、縋る様な視線。そのどれもがやはり強烈に印象に残る。


「……」


 彼女はこちらに視線をよこすだけで何も話さない。視線だけで内容を訊いてきていた。


「やはり、みんなの義手や義足、代替となるものがしっかりとしたものであれば、今よりましな状況になるだろうか?」


 初めは何が言いたいのかわからなかったのだろう。あまり理解のできていないような表情だった。


「私なら、もしかしたら、君たちの力になれるかもしれない。どうか私に、協力してくれないか?」


 そこまで俺の言葉を聞いて、ようやく俺が何かしたいのだと理解した表情を浮かべる。

 きっと先ほどまでの彼女ならば、疑って、裏を探って、ようやく信用するような内容であろうが、今の彼女にそこまでの気力はなかったようだ。


「ふふ、いいわよ。私が協力してあげる。何がしたいの? ああ、安心して。後ろの子たちのうでなんかを動かしているのは主に私なんだけれどね、ちゃんと切り離して、ある程度は自立できるようになっているわ。じゃなきゃ私が死んだときに困るからね。もちろんずっとは続かないけれど、あの子たちならすぐにどうにかできるようになるわ。だから、安心して私を使って」


 どこか自棄になっているような気もするが、ここはありがたく話を進めさせてもらう。彼女の口ぶりではまるで死んでしまうかのような雰囲気だが、そうはならないはず、いや、そうはさせない。


「ありがとう。早速だが、協力してほしいのは、私がどこまでできるのかを知るためだ。ここで理想どおりに行けるのであれば、君の仲間にも同じことをしたいと考えている。それで君にやってほしいことだが、少し、そこでじっとしていてくれればいい。ああ、いや、一応立っていてくれるとありがたい」

「わかったわ」


 俺の明らかに胡散臭い内容に素直に応じて、ゆっくりとした動作だが、立ち上がって体をこちらに向けてくれた。


 よし、準備は整った。


「では、始める」


 返事を待たずに想像を開始する。


 俺の能力は、自身の想像により幻を作り出す。


 俺が理想として想像するものは、触覚などの感覚があり、一切のぎこちなさを感じさせないほどの性能の、人体の代替となる魔道具。

 へたに義手や義足を想像しない。それでは普通の者で泊まってしまう。あくまでも俺は彼女たちを救うために物を創るのだ。普通ではならない。だからこそ魔道具。こんな飛んでも性能の物体をどこまで再現できるのかはわからない。だが、できると、信じるしかないのだ。


 俺のこの魔法で、人体は、生身は創れない。ゆえに、無機物でできる最高の性能を。


 ひたすらに魔力を練れ。目に力を入れる。彼女の全体をおぼろげにとらえるように。彼女のすべてに当てはまるように。神経を巡らす。

 ポンプやトンボ玉の時の比ではないほどの気力の、精神の消耗。


 魔力を対象に、サラに覆うように広げる。サラがどこを代用しているのかわからないからこそ、全体を包み、異常のある部分を俺の魔力で置き換えるように、魔法そのものに指示を出すようにイメージする。


 魔法というものの、可能性を信じ、明らかな無理を通していく。今までの流されるままや、漠然とした考えの行動ではない、助けたいのだとはっきりと意識して。


 もとからあったものを分解し、排出するように魔法を調整する。俺の魔法はどうやら、相応に魔力を完全消費すれば物質によったりなど条件はあるだろうが、対象を分解させることもできると、感覚で理解した。


 下準備は終わりだ。あとはゆっくりと無理のないように実行するだけ。


 しかし、そこで感覚が理解する。このままでは無理だと。俺の理想とするあまりにもあやふやなそれは、創りだせないと。


 やはり、ダメなのか……。


 その時、唐突に俺の内側からため息とともに、あのステータスを読み上げるときのように声が聞こえたような気がした。

 

『仕方がありません。此度きり、少し、力を貸しましょう』


 それはまさしく、ステータスを読み上げるあの冷静冷徹な声のようであり、しかし、まるで感情がこもり別人のようにも聞こえる不思議な声だった。


 それだけで声は聞こえなくなった。しかし、同時に明らかに不可能だと示していた俺の魔法が、指針を持ったかのように、可能であると作業を再開したのだ。


 どう考えてもあの声が何かしたのだろう。しかし、今はあまりそちらに気をやれない。今は目の前のことで精いっぱいだった。


 強い魔力が周囲一帯を満たしていく。そして彼女の周囲に満ちた一際強い魔力が光の帯のようになり彼女の全身に吸い込まれていった。


 彼女や、周りから驚きの感情が伝わってくる。アイリーンですら驚いているようだ。そこに加え僅かに、気分が優れない様子も伝わってきた。どうやら一帯を満たす俺の魔力に当てられたようだ。強すぎる魔力は人によってはあまり良いものではないらしい。ただ、対象となっているサラは平気そうなので、あくまでも魔法に関わりがない者に限るようだ。

 ともかく、あまり影響を与えないように、無差別に広がった魔力が人にふれる前に薄まるように調整する。


 それにしても、やけにはっきりとその感情が伝わってくるな。もしかして、魔力を伝って流れてきているのか?

 今まで、これほど魔力を使おうとしたことはなかった。ある意味感情が伝わることも、魔力に関しても、収穫だな。


 そんな風にわずかに思考がそれても一度始まった魔法は止まらない。


 吸い込まれていった光の帯は気が付けば、彼女の腕や足、耳や目などにもともとあった異物を光の粒子のようなものに分解しながら置き換わっていっているようだ。


 幻想的な光景だった。サラの体を光の粒子が淡く包み込み、その中を光の帯が妖しくうねる。

 しばし、俺自身も言葉を忘れ見とれてしまっていたが、やがてそれも終わりを迎える。


 光は順調に収束し、ほぼ完全にそれぞれの部位をかたどった帯は、現実としての形を得ていく。


 ――己の身を犠牲に成り立ったった幻はその存在を確かな現実へと昇華させる。


 その言葉通り、俺の中から魔力を糧として、『現実』が成立していく。


 そして、それは形を成し、物質となった。


 原理すらもわからず、ただ思いのみで構成された、謎の声の助けも借りた、この世のものならざる魔道具。


 彼女の腕には、足には、耳には、目には、まさしく彼女の体があった。


 一見しただけではわからない、先ほどのマネキンのような見た目とも違った、まるで生きているかのような義手、義足、義眼、その他様々な体の部位。


 はは、成功だ! っと、まだ喜ぶのは早いか。あれが魔力ではなく意志の力で動いて初めて成功と言えよう。

 未だに状況をしっかり飲み込めずに呆然としているサラに声をかける。


「サラ」

「っ……! な、何?」


 本当に周りのことを忘れてしまうほどに驚いていたのだろう。俺のただの呼びかけに肩を揺らしながら、何とか返事を返してきた。


「今のはの魔法なんだが……その体は、動くか(・・・)?」


 その言葉に、はっとしたような表情をして食いつくように、何か、諦めていた物を思い出したかのように、自分自身の腕に目をやった。 


 俺の魔法で作られた魔道具ではあるが、大事なのは出来る限りリアルの肉体に近いか否か。

 もし彼女が動かそうとして動かなければ、動かし方がわからなければ、その時点であの魔道具は失敗ということになる。もちろんその場合でも、簡単に諦めるつもりは無いが、現状ではどうしようもなくなってしまうのだ。


 成功して欲しい。


 そう、強く願い彼女を見つめ続けた。


 彼女はただ無言を貫いている。彼女の仲間たちも、何となくでも状況を理解したのか、固唾をのんで見守っている。


 ぴくりと、指先が動いた。そして、それにつられるように手のひらが、腕が持ち上がる。

 俺はこれが魔力を使わずにあるいは、僅かな、無意識にこぼれ出る程度の魔力で動いているのか、慌てて竜眼を使用して確認した。


 視界には、先ほどのように魔力の糸のような物もなく、あふれるほどの魔力もないごくふつうのように見える義肢が映っていた。よく見ればうっすらと魔力をまとっていることがわかるが、それはふつうの肉体も同じように纏っている程度の量で、それはつまり、体が無意識にあの義肢を肉体の一部だと認識している証拠。

 この世の人間は誰であれ、たとえ魔法を使え無い者でもうっすらと体に魔力を纏っている。帯びていると言った方が正しいかもしれない程度の量。しかし、それが明確な人体と非人体の境目となるのだ。


 腕を持ち上げたサラは、顔の近くまで手を持ってきたかと思えば、そこでゆっくりと噛みしめるように、手を握った。


 それからは素早く全身を確認していく。そして全てが動く(・・)と確認が終わり、動きを止めた。

 何かあったのかと、よく観察してみれば、足元の地面に水滴が落ちたような跡がいくつもあった。


「よかった。うまく行ったようだ。当然、それらは元々の肉体ではない。だが、俺にはこれが精一杯なんだ。どうか、我慢してほしい。いつか、元の体に戻れるかもしれない、などという無責任な事を言うつもりはない。その体を新しい自身だと思って、強く生きて欲しい。この願いは俺のただのわがままだ。お前たちには生きていて欲しいとそう俺が思っただけの傲慢なもの」


 どうせすぐには返事はできないだろうと、サラの言葉を待たずに続ける。


「成功したのならば私はこれをみんなに施したいと思っている。構わないな? 断られてもやるが」

「ば、ばい、ぜひ、おねがいしまず。みんなを助けてください!」


 てっきり返事はできないかと思っていたが、思いのほか強い返事が返ってきて内心、驚いてしまった。

 しかし、許可どころか、ぜひとまで言われてしまったのだから、もともと全力で取り組むつもりではあったが、より気合を入れる以外選択肢はない。


「わかった、その願い承った。私に任せておけ」


 俺が同じく強い返事をかえしたとき、何者かから妙に間延びした言葉が返ってきたのだった。


私は基本的にハッピーエンドが大好きです。

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