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迷子

予測していた通り、遅れました。まことに申し訳ございません。

「では、俺は先に行く。部屋の方は頼んだぞ。あとで合流してくれ」

「承知しました」


 俺はアイリーンに宿のことを任せて、一足先に街の散策に出向くことにした。特に何か理由があるわけではなく俺が早く行きたかったからである。

 とはいえそれだけが理由という訳ではなく、アイリーンにこの宿に入る前に聞かされたのだが、前回は客が俺たちだけだったため魔道具の説明などがなかったと思われるらしいが、本来はたいていの場合においてどの宿も、宿に備え付けられている魔道具や飯付きの場合は食堂の説明などを簡単に行うものらしい。そして俺は部屋代なんかもろもろ含めてアイリーン任せだから、俺がいてもしょうがないという理由もなくはないのだ。別に待っていればいいと思わなくもないんだが、アイリーン曰く規模にもよるがそこそこかかる時はかかるらしい。


 そして、俺は意気揚々と街へ繰り出した。


 そして、俺は早速道に迷った。


「ここは、どこだ」


 油断していた。近場なら大丈夫だろうと思ったのだが、あれだ。雰囲気のありすぎる裏道がいけないのだ。ちょっと覗いてみたくなったって仕方がないだろう。そのまま進んでいったのは失敗だったが。


「なんか、前にも、っていうかネウルメタでも道に迷ったなぁ」


 あの時は確か、偶然裏道に来た少年に道を聞いて事なきを得たんだっけか。っていうか、そもそも前回は完全な裏道じゃなくて生活道路っぽかったのも大きかったんだよな。今回のここは完全にTHE裏道って感じの裏道だ。

 基本的に方向音痴は自分一人の力で帰ろうとしてはならない。悪化する。だからこそ、道行く人が頼りなのだ。


「うむ。今回はそういう意味で言えば安心だな。確実にアイリーンと合流することが決まっているし、それも大して時間のたたないうちに合流できるはずだ。うむうむ。やはり安心だ。何も心配することはない」


 それでも、やはり一人で静かな裏道にいるのは心細いなぁ。

 個人的には誰かしらに道を聞いて表通りに戻っておきたい。今回はそこまで奥まで入っていないと思いたいが、前回と違い表通りがそこまでにぎやかでないため、音で戻ろうとするのは無理がある。


 いやー、静寂が耳に痛いぜ。


 が、そんな状況はあっさり覆る。なんと、集団で歩く人の足音が聞こえるではないか。もしかしたら前回といい、転生して運でもよくなったのかもしれないな。


「……あ、待てよ。裏道で、集団と言ったら破落戸ならずもの的な何かの可能性の方が高いのでは?」


 とも思ったがよく考えれば俺の強さ的に何の問題もないから、いいか。


 で、現れたのは、破落戸――じゃなくて、ボロボロの外套をまとったホームレスのような格好の、かろうじて女だとわかる集団だった。


 ま、危ない人じゃなければ誰でもいいや。たぶん、このまま話に行っても危険はないだろう。なんとなくだが、悪人ではない気がしたのだ。

ちなみにこう時には確かにそこまで緊張しないのだが、相手が女性の集団なら話は別である。


「申し訳ない。道を尋ねたい。道に迷ってしまった、表通りに出たいのだ。」


 その言葉にようやく俺の存在に気が付いたらしい集団の先頭の女性と目が合った。

 やけにほの暗い、生気を感じさせない瞳。

 その目が俺を見て、一瞬警戒のような色を表情ににじませた後、穏やかな表情となり、一本の道を指さした。


「あっち。あっちの道を道沿いにまっすぐ進んで、そのあとに……どっちだっけ?」

「……右に行って、ボロボロの小屋の前を抜ければいい」


 思わずずっこけそうになるタイミングで後ろの女の人に聞いて道を教えてくれた。


「そうか、ありがとう」

「! ……いえ、どういたしまして」


 素直に礼を言うと、なぜか驚いたというか、久しぶりにその言葉を聞いたかのような表情を浮かべた後に一言告げて去って行った。



 そして、無事俺は表通りに帰還した。


「俺、帰還!」


 その後、大して時間もたたないうちにアイリーンと合流し、本格的に街の散策へと戻った。




==========



 結果として、街の散策はそれほど苦労せずに終わった。事前情報通り、これと言って特産らしき目新しいものも見つからず、加えて、当然ではあるが一般人の立場では入ることのできない場所などの関係もあり消して小さくないはずのこの街だったが、あっという間に回り終わってしまったのだ。まあ現代社会で言う住宅街のような部分の多い街だ。見るものが少なくてむしろ当たり前ともいえる。しいて言えば、領主がいるであろう領主館の周囲を確認したことくらいか。

 ちなみにこの街の領主館は小高い丘の上にあった。それなりに豪勢な建物でよく目立っていたので捜索は楽だった。もちろん入れなかったがな。


 そして現在。早めに散策が終わってしまったこともあって、一足先に宿に帰ってきて、さてどうしようかと食堂のようになっているロビーで座って一休みしていたのだが、五分もたたないうちにかなりの混雑具合を見せていた。


 そう、今まであまりこの時間帯に人の多い場所にいなかった影響ですっかり忘れていたのだ。ここは異世界であり、こういった世界は大抵、人の行動が早いということを。


 電気系統が発展していないため、日が暮れた後はあまり明かりを使わないように暗くなりすぎないうちから、帰り支度を始める。確かに思い出してみれば道中に街灯自体は立っていたが、その数はお世辞にも多いとは言えなかった。こうして宿屋の中にも部屋を照らす明かりはあるものの、明らかに燃料は電気ではなく、おそらくではあるが魔法関係であることがうかがえる。ちなみに、アイリーンに聞いた話では魔道具の定義は、よくあるような魔石を使っているか否か、ではなく、魔力で動いているか否かであるようだ。場所によっては、魔石で動いているものに限定している地域もあるようだが。


 ともかく、現在この宿のロビーはわずかばかりの酒気と悪い気のしない明るい喧噪で満ちていた。


「それにしても、たとえ富裕層向けとはいっても、意外とにぎわうものなんだな」


 夕食を食べながらふとつぶやいた俺の言葉に、アイリーンが口に含んでいた食べ物を飲み込んでから答えた。


「そうですね。見た感じ、そこそこのお金を持っている者向けといった様子なので、貴族とまではいかない、ある程度の喧騒を好む者が比較的多いようです。もちろん、貴族の者がいないわけではないようですが、こういった喧噪に不快感を抱かないものは、ほら、あちらにいるように、各々で固まって酒の肴としているようですよ」


 アイリーンが視線を向けた先を見れば、なるほど。確かに、数人の見るからに貴族然としたものたちが集まって楽しそうに酒を飲んでいた。中には太った貴族っぽい男が人を待っているのか対面の席を空けて、待ち時間の肴として喧噪を眺めていたりもしていた。


「そうか。金を持っているという点で言えば、高位の冒険者たちや商人も含まれるからな」

「はい。それにこれだけ料理がおいしいのですからそれほど文句なんて出ないでしょう」


 なんと。まさかアイリーンが冗談を言うとは。いや、まあ、そこまでおかしくはないかな? たぶん料理が予想以上にうまかったので気分がよくなっているんだろう。実際ここの料理はうまいしな。


 その時、突然返事をする声が増えた。


「その通りです! 基本的に冒険者といえど高位にもなればみなさんマナーにも厳しくなっていますからね。貴族のみなさんと同じ宿でも大きな問題にはならないのです。そして当然私も呼び込みの時にはそういった方々をある程度見極めてから宿にお誘いしているんですよ」


 と、話に入ってきたのは、宿屋の前で客引きをしていた女の子だった。


「あ、どうもすみません。自己紹介がまだでしたね。私、この宿の経営をしている夫婦の娘で、グミと申します! つい料理がおいしいという言葉を聞いて話に混ざりに来てしまいました。厨房にいてこの料理を作っているの私の彼氏なんです」


 なにやら照れながらも、そう理由を話しているグミ。お、おう。まさか客の話に割り込んでまで、彼氏の自慢話をしに来るとは……。俺は別にかまわないんだが、一般常識的にそれはどうなんだ。

 と、この何とも言えない空気を察したのか、慌ててグミは言葉をつづけた。


「すいません。その、今ちょうど配給が終わって片づけが始まる時間までちょっと暇になっちゃいまして、今日唯一だった女性客の御二方とお話がしたかったんです」


 店内にはそこそこ人がいるように見えるのだが、これでもターゲットの客層が客層ということもあって、宿の規模を考えれば客は少ない方らしい。実は給仕の子は、この子以外にも二人ほどいる。がしかし、暇になったというのも本当のようで、どちらの子も各々体を休めていた。


 なるほどなるほど。暇だったのか。なら仕方がない……とはあまりならないだろうが、俺は別にかまわないし、アイリーンもタイミングよく機嫌がいいから、特に話をしても問題ないかな。っていうか、理由から察するに普段も似たようなことをしているのか? 案外、地球とは違って、冒険者やなんかがいるこの世界だからこそ、こういったことに寛大なのかもしれないな。

 でも一応アイリーンには確認をとっておこう。


「まあ、私としては別にかまわないが……アイリーンはどうだ?」

「……私としても、カース様がよろしいのでしたら」


 よし。若干不満そうではあるが、いつもの「殺しますか?」的なテンションに比べれば天と地レベルの差でましだし、おおむね予想通りだな。個人的にはいっそのことこの会話を利用して、いろいろ聞ければと思っていたからアイリーンの機嫌がよかったのは好都合だ。


「ということだ。あまり気にしないでいい」

「ありがとうございます! いやー普段は、他にも数人位は女性客がいるものなんですけれど今回はお二人しかいなかったんで若干不安だったんですよねー。これでも一応、話に交じってもよさそうな人を見極めているんですが、今回は選択肢がないうえに、いかんせん判断がしにくくて……安心しました」


 やっぱり普段からやっているんだな。そしてお客を見極めたり、そういった混ざっても怒られない客を見極めたりと人を見る目も確かなようだ。まあ、俺が男であることを見抜けていないので、まだまだ伸びしろはあるみたいだが。双子の方がそういった意味では上かもしれないな。



=========



「でですねぇ、私、ここでお金稼いで、この街を出て宿を彼と二人で経営するのが夢なんです」


 かれこれ一時間は会話に付き合うこととなった。


「そうなのか」


 すでに相槌は適当になっている。が、問題はないようだ。おそらく話を聞いてもらえればそれでいいのだろう。

 ちなみに、情報といった情報は聞けていない。


「はい!」

「どうしてまた。この街でも別に宿はできるんじゃないのか?」


 なんとなく、話を聞いて疑問に思ったことを、こうして時折質問する。

 それだけで、こうして満足そうに会話が成立していた。


「それはですね。この街の税率が少し高いからなんです。もちろん、法外なほどに高いわけではないので、国も特に気が付くことはありませんし、私たちを含め街の住民たちもこぞって街を出るようなことはない。そういうぎりぎりの基準で設定されているんです」

「なるほどな」


 アイリーンンは基本的に会話には交じらずに食事を続けている。食べ初めのころのような勢いではなく、まるで酒のつまみでも食べるかのようにゆっくりと、ちびちびと、話に付き合ってくれるサービスとして出された小鉢をつまんでいた。


「あと、この街って、教会もないうえにはずれの方にあるせいかあんまり竜さまがいらっしゃらないんですよね。でも、少しくらいは生で竜様を見てみたいって願望もあります」


 そういえば、確かにざっくりと街を回った時にもそれらしきものは見なかった。


「この規模で教会がない街というのも珍しいものだな」

「ええ。この街くらいの大きさであれば一軒くらいは立っていてもおかしくはないんですけど、もともとがあまり大きくない場所だったので、そのままなあなあの内に建設できないまま、いまの規模にまで発展したそうですよ」


 どうやらもとはもっと小さかったらしい。発展したということは、今の領主の先代とかががんばったのだろうか。今の領主はあまりほめられたものではないが、先代あるいは先先代は真面目な人だったのかもしれないな。

 それはともかく、もうあまり聞けることもなさそうだし、アイリーンはとっくの昔に飽きたようだし、今日はもう寝てしまいたい。どうにか話を切り上げるムードに持っていけないだろうか。


「いろいろあるんだな」

「はい。ああ、そういえば最近、この周辺が物騒になってきたっていうのもある意味早く独り立ちしたい理由になりますかね。ほら、旅をしてるカースさんなら知っているかもしれませんが、ここ最近は傷の旅団が現れたとかって話がうわさになってるじゃないですか。それも、やり方が最近残忍になったっていう話も聞いちゃって、だからいっそのこと、帝都や王都に宿を構えられればなーってより一層思うんです」


 なにやらよくわからない単語が出てきた。傷の旅団とはいったいなんぞや? 俺たちは似非旅人だからなー。そういったうわさはよく知らないのだ。


 せっかくだしその傷の旅団について軽く聞いてから切り上げようかと思ったら、タイミングよくというべきか悪くというべきか、グミの親御さんからストップがかかった。なお、一切話に絡んでこなかったグミの親御さんだが、もちろんちゃんといるしお仕事もしている。具体的には母親がレジ、父親が例の彼氏さんとやらと一緒に厨房だ。彼氏さんの方は元は捨てられていた孤児で両親の安否は不明だと先ほどグミが話していた。


「ほーら、グミ! いい加減仕事に戻っといで! みなさんそろそろ食べ終わって、部屋に戻るころだよ!」


 その言葉に、フロアを見渡して事実確認をした後に、不承不承といった様子で返事をした。


「ごめんね。そろそろ時間みたい。こんなに長い間付き合ってくれてありがと。またうちの宿に泊まりに来てね。あと私たちが独立したらそっちの宿もよろしく! それじゃ、ごゆっくり!」


 そう言い残して、仕事へと戻っていった。


「ようやく終わりましたね」


 完全に席を離れたのを確認してから、アイリーンがそう口を開いた。


「まあ、そういうな。何か面白い情報でも聞ければと思って話をしていたんだから、別にそう悪いことではなかったさ。まあ、そんな情報があったかと聞かれれば微妙なところだがな。ああ、そうだ。アイリーンは最後に名前が出てきた傷の旅団とやらについて何か知っているか? なにやら噂になっているらしいが」


 このまま何かわからないままで終わるのもアレなので、アイリーンに旅団のことを聞いてみた。


「傷の旅団ですか? そうですね……申し訳ありません。私自身、興味がなく詳しく調べたことがないので、なにやら賊のような集団で、時折どこかの領主館に襲撃をかける、ということくらいしかわかりません」


 詳しくないらしいが、俺そこまで詳しく知りたいわけではなかったので、その程度の情報で問題なかった。

 賊か。領主館ってことは貴族ばかりを襲うと言うことか。義賊みたいなものなのかな? でも、やり方が残忍になったってどういうことだろう。まあ、いずれにせよ、確かにそうなると冒険者や旅人は気にしそうだな。うわさが広がっていてもおかしくはない。


「いや、それで十分だ。ありがとう」


 まあ、俺たちにはあまり関係のない話だろう。なにせ、碌にひとところにとどまらずに行動しているしな。一週間近く滞在した場所は村で領主館などなかったわけだし。


「あまり関係はなさそうだな。そうなるとこの街の前任者が有能だったくらいしか役立ちそうな情報はなしか。ま、よかろう。とりあえず、明日に備えて寝るか」

「そうですね」


 アイリーンからの同意も得られたし、軽く身支度を整えて、布団へ向かおう。



==========



「まだ侵入者は見つからんのかぁ!」


 きらびやかな服に身を包んだ細身の男の怒鳴り声がその部屋に響き渡った。

 一体、細い体のどこから出されているのかと疑問に思うような、その声に合わせて、その男の怒りを示すかのように部屋に飾られた豪奢な飾りが震える。


「申し訳ありません!」


 怒鳴られた男たちは、その衛兵のような力強い服装とは逆に情けなく身を縮めさせた。


「そ、その、奴らの逃げ足が思いのほか早く、なかなか追いつけず、し、しかも、土地にも精通している者がいるらしく、追い詰めたと思っても、するりと包囲を抜けられてしまうのです……」

「やかましい! そんなことを言っている暇があったら、下民に悟られぬ前にさっさと探せぇ!」


 男たちの中の一人がしどろもどろにながらも、言い訳を試みたがあっさりと細身の男に一蹴された。

 そのまま返事もまともに返さぬままに這う這うの体で部屋を後にした。その細身の男の言葉はこの街の住人に見つからぬように、また知られる前に探せという非常に難易度の高いものであったが、文句を言うことなどない。それをするとどうなるのかわかったものではないからだ。


 誰もいなくなった室内で、男は一つため息をついた。


「はやく、見つけんか……。どうすればいいんだ……。いやだ、まだ、死にたくない、いやだ、死にたくないぃ」


 情けなく力なく一人残った細身の男は呟いた。何か良い方法はないかと迷うように、しかしそれらを上回る死の恐怖により。


 男は震えていた。


 まるで、自身が狙われているとわかっているように。


 まるで――自身のしでかしたことに怯えるように。


 部屋にある華美な装飾品たちはまるで男が孤独であるとでも言うかのように寂しく男を照らしていた。

何処かで魔道具の説明ってしていましてっけ? メモがなくなって、かつ今ちょっと読み返している時間があまり取れずに説明がしてあったかの確認ができない……。ということなので、もし説明してあって今回書いてあることと違っていた場合、連絡とともに修正が入るかと思われます。そのために短く説明にならないような説明しか入っていません。

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