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ドーグの街

申し訳ありません。お待たせした割に今回は本当に短いです。


「いたぞ! そっちだ!」

「くそっ! また裏路地に入られた!」

「なんであんなに大人数なのに捕まえられないんンだよ!」


 男たちが、そう愚痴をこぼしながら、大人数の何者かを追いかけていた。その行動自体は街の衛兵や兵士たちのようにも思えるが、男たちの格好はそのどちらとも少し違って見えた。


「はぁ、はあ、はっ」


 男たちの視線の先には、長い間走っているのか、息が上がりその息も大きく乱れているその集団は見える限りでもおよそ10人は下らない人数が見て取れる。

 しかしそれほどの人数にもかかわらず、男たちの言う通り、追手である男たちは全くその集団に追いつけないでいたのだ。


「リーダー、次は、その角を、左へ」


 息も切れ切れに、集団の中の一人がそう指示を出した。

 リーダーと呼ばれた女性はその指示に素早く反応を示し、一瞬意識を集中するように目をつぶったかと思うと、すぐさま目を開き指示通りに裏通りのさらに細道を左へとまがった。


「くそ、さらに奥に行こうとしてやがるぞ!」


 男たちはそう愚痴のように言葉をこぼす。


「こんなところに道があったのか……。おい! 半分はこの道の先を調べて回りこめ! 挟み撃ちにするぞ」


 男たち側のリーダーである様子の男がそう指示を出す。


 そう、男たちがなかなか追いつけないのにはもちろん理由があった。それこそが先ほど男が言ったことである。つまり男たちはこのような裏道にあまり明るくないのだ。それを利用して集団は大人数にもかかわらず決して追いつかれないように逃走できていたのだ。


「リーダー、ここ!」


 静かに、しかし力強く、先ほど指示を出した女性が声を発する。その声に集団のものすべてが素早く反応を示し、同時に、一軒のぼろ屋の扉がひとりでに開き、姿をくらませた。


 追いついた男が、先ほど集団が逃げ込んだ路地を除くがすでにそこに人影はない。


「くそ! 逃げられたか。いや、まだ近くにいるはずだ。ともかく、報告を――」


 その男はぼろ小屋に目をやることはなく、いったん来た道を引き返して行った。

 すでにこの周辺は仲間によって包囲されている。その考えが、深く探すことを後回しにさせたのだ。


 結局、男たちはその後その集団を発見することはできなかった。



==========



 一台の馬車が、荒野を駆け抜けていく。


「全く、急に呼び出しおっていったい何の用なのだか……」


 そこに乗った太った男がそうぼやいた。見るからに貴族然とした服装。実際その男はある領地を収める伯爵だった。


「しかし、なにやら利益のある話だとかなんだとかおっしゃっていましたな」


 白髪で、白いひげの生えた老人がそう声をかける。


「ああ、そんなことも言っていたな。まあ、あ奴が――プラリーニョ伯爵が話を持ち出してきた時点で確実に私にとって利益になるのは間違いないだろう」


 その時、御者台にいた男が声をかけてきた。御者は通常であれば、下男などの身分の者がするのが普通であろうが、その男は見るからに仕立てのよい執事服を着ていた。そして事実その男は今馬車に乗っている伯爵専属の執事だった。


「そろそろ、ドーグに到着いたします。申し訳ありませんが準備をお願いいたします。また、初めは町の宿に宿泊することになりますがご了承ください」

「わかっておるわい。出発前にあらかじめそう決めたのは私だからな。戦場にいたころと大して変わらんから、お前も心配する必要はない。むしろこっちの方が気が楽だ」


 そう伯爵は、御者の今は執事になってしまった男と隣に座るすっかり老いてしまった男とともに魔物が跋扈する戦場を駆けた記憶に思いを馳せた。


「懐かしいものですな。そうそう現役時代に魔物の氾濫など起こりませんからな。あれは貴重な経験だった……」

「何を言う。お前は今も現役バリバリではないか」


 どうやら、同じように思い出していたらしい老人に、気恥ずかしくなったのか茶化すように声をかけた。


「全く、あの時のことを思い出すと、今がうっとおしくて仕方がなくなる」


 愚痴も交じりつつも、しばらく思い出話は続く。


 馬車は、少しばかり楽しげにドーグの街に入っていった。



==========



「さて、ここがトーグの街か。案外、大きいのだな」


 少しばかりなだらかな丘になっているのか、なだらかな坂道の下から見上げるように街に目を向ける。

 正直、特に有名なものもない、アイリーンが言ったことがなく、聞いたことがある程度のレベルの街と聞いていたので、もっとこじんまりとした街を想像していたのだが、その街の風景は、想像していたものよりもずっと立派なものだった。


「そうですね。私も始めてきたので、これほどの規模だとは思いもしませんでした。おそらく、これと言って有名なものがないながらも、地道に、大きくしていったのでしょう。まあ、あくまで本当に何も有名なものがなかった場合ですが」


 そうだな。今回ここに来たのは、完全に違法なやり方で奴隷売買を行っている輩をどうにかしようと思ってきたわけだからな。ちなみにどうするのかはまだ深くは考えていない。


 あの後、ネウルメタからここまで、宿が込み合わない時間に間に合うようそこそこの速度で飛ばしてきた。結果、実際に予定していたよりも幾分か早く着くことができ、余裕をもっての行動が可能となったのでこうしてのんびりと街を見ながら歩いているという訳だ。たぶん暗くなるまではまだ二、三時間はあるだろう。

 なお、街に入る手段はもはや恒例のジャンプである。壁はそんなに高くなかったのでばれないようにするのは簡単だった。抵抗はもはやない。まだ、今回含めて三回目だけど、もはや恒例行事だもん。……正規で入れる日は来るのだろうか?


それはともかく。


「では、とりあえずは今夜泊まる場所を探すか。せっかく来たわけだし、何もすぐさま貴族のもとに行く必要もないだろう。まず、その帰属が今屋敷にいるのかも確かめなければいけないし、情報でも集めながらゆっくり行こう。焦ったって仕方がないしな」

「奴隷の保護はよろしいのですか?」


 アイリーンがそう聞いてくる。雰囲気から察するに、奴隷たちを気づかっての言葉ではないな。俺の目的がそれだから、念のために忠言したってところだろう。


「ああ。少なくとも、奴らにとっては商品だ。自分の扱う商品を乱雑に扱う商人はよっぽどのバカでもない限りいないだろう? ……まあ、ここの貴族がそのバカではないという保証はないが……どちらにせよ、バカであった場合も、二、三日では大して変わらん」

「なるほど。承知しました」


 予想通り、俺の言葉を聞いて特に気にすることもなく引き下がった。


「よし。ではいくか」


 ということで、軽く散策しながら手ごろな宿を探す。

 今回の宿は前回と違って何か問題を抱えているといったこともないと思う。

 そういえば、この街についたあたりで気が付けば鶏は消えていた。まあ、あの鶏のことだ。空の旅に怖気付いたなどと言うことはないだろう。でも、本当にこの後も突いてくる気なのかなぁ? そうだとしたらどうやって合流する気なのだろうか?

 ま、いいか。いなくても困るものでもないし、あれだけ図太ければどこでだって生きていけるだろう。ただ、出発前はすぐに飽きるとか思ってたけど、全くそんな気配が感じられん……。この後また何食わぬ顔で合流していそうだし、この町ではぐれたままでいるところが想像できん。


 ともかく。


 しばらくあたりを観察しながら歩いていたのだが、大通りの中ほどまで来たあたりで、声をかけてくるものがいた。


「こんにちは! お姉さんたち、もしかして旅のお人? 冒険者とかかな? まあ、なにはともかく今夜の宿はもうお決まりかしら? そうでないならうちはどう? 決して高くはないし、快適なお部屋を提供するよ!」


 どうやら、宿屋の客引きらしい。ずいぶんと元気な子だ。よくあるような話なら、この後で仲良くなったりなどもあるのだろうが、そういった話は大体が男の主人公で、俺は今の言葉から察するにいつも通り女性として見られているようだし、そもそもうちにはあまり人に素顔を、というか、角を見せられないアイリーンもいるしそういうことはきっとないだろうな。


「ふむ。どうする? 俺は別にどこの宿でも気にしないが、アイリーンはどこかおすすめのような場所はあるか? なければ別にここにしてもいいが」

「そうですね。私もこの街にはあまり詳しくありませんし、見たところこの宿にもこれと言って問題は見受けられませんし、カース様さえよければここの宿でもよいのではないでしょうか」


 どうやら料金などは聞いていないが、ここでも問題はないようだ。でも一応は聞いておいた方がいいよな。相場はわかんないけど。

 確か、双子のあの宿の値段は、本来は食事抜きで大銅貨一枚とかそんな感じだったかな? 大体五百円くらいだとかなんとか考えたような記憶がある。


「ちなみに一泊いくらぐらいだ?」

「はい~、うちの宿は、一泊小銀貨三枚です! 少々お高いですがもとよりそれなりにお金のある方々向けの宿ですし、朝昼晩お食事つき、魔道具使い放題かつそれら魔道具はお部屋にすでに備え付けられております! いかかでしょう?」


 小銀貨……千円くらいだっけ? それが三枚、つまり三千円。……たっか! あの二人の宿屋のお値段を想像してたから想像以上の高さだった! でも、どうやらここはもとより富裕層向けの宿だったようだ。そりゃ高いし、見た目もいい感じなわけだ。

 でもお値段が少々予想外だったのでもう一度、周りに聞こえないように小声でアイリーンに相談する。


「どうする? どうやら富裕層向けの宿みたいで、俺が想像していた以上の値段だったが……」


 すると、何でもないことかのようにアイリーンは答えた。


「そうですね。カース様にはふさわしいかと思います。むしろもっと高い宿でもよろしいかと」


 その答えはさすがに予想外だ。そういうことか。外観なんかもきっちり確認したうえで、問題は見受けられないって言ってたってことはそもそも初めから把握していたのか。っていうか、その問題って俺にふさわしいか否かか……!


「あ、ああ、そうか。まあ、結局のところお金を出すのはアイリーンになるわけだから、アイリーンがいいのならいいんだがな、うん」

「私のことでしたらお気になさらず。お金もこの程度でしたら何の問題にもなりませんしね」


 アイリーンの意見はこれと言って変わりそうにないし、この後、街をさまよって探しても、見つけた宿に部屋があるのかわからないし、ここで決定ってことでいいか。ちなみに、アイリーン曰く、この街の規模であれば、宿屋は、三、四件はあるだろうとのこと。なお街の規模はネウルメタと同じか、一回り小さい程度だ。こう考えるとネウルメタって大きいんだな……。あ、ネウルメタにはアイリーン曰く宿屋が十件近くあるそうです。細かく数えたわけではないらしいが、そのくらい見たらしい。


 それはともかく、この宿にすると決まったからにはさっさと部屋を取ってもらおう。


「わかった。ではとりあえず一泊お願いしたい。延長については、明日決めさせてほしいが、可能か?」

「はい! 可能ですよ。では、一泊でよろしいですね?」


 よーし。正直明日の予定がわからないから、明日延長が決められるのはありがたいな。


「ああ。ではそれで頼む。部屋に特にこだわりはないが、二人が泊まるのに窮屈になるような部屋はやめてくれよ?」

「もちろんです~! それでは二名様入りま~す!」


 さて宿も決まったし、暗くなるまでは軽く散策するかね。あと二時間くらいはあるかなー?

金貨、小金貨、銀貨、小銀貨、大銅貨、銅貨、小銅貨

(だいたい)10万、1万、5千、千、500、100、10円

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