宿のポンプ2
すいません。短めです。
ともかくこのポンプ、一体どうするか。個人的には直してやりたいが、知識的な意味で俺にはちょっとな……。
内政チート並みの主人公であれば何とかなったかもしれないが、正直言って俺は頭はよくない。勉強は嫌いである。故に俺がおぼえている知識は偏っているうえに基本的には曖昧で断片的な物ばかりだ。円にもよく「変な事ばっかり知ってるよね」とか言われたものだ。その割に、それにかかわるはずの情報を知らない事もあって「何であの事は知ってるのにこのことは知らないの?」なんて言われたりもしたが。神様とかって、知りたい神様だけ調べて肝心の神話や他の神様の事だけ大雑把とかよくあるよね。
どちらにせよ、内政チートなんて夢のまた夢だろう。そもそも壊れているのは機構のほとんどない取っ手の部分。知識ではどうにもなりそうにない。全く、一体誰がこんなことをしやがったんだ。初ポンプのチャンスが先延ばし、場合によってはパーだ。もしそうなったら、やった奴一発ぶっとばしてやる。いや、そこまででもないか。
……あ、いや、ちょっと待てよ。知識じゃなければ、頑張れば直せるかもしれない事を思いついた。
まあ、幻魔導の事なんだけど。実際の所、こういった継接ぎ的な使い方が出来るのかも、そもそも構造が曖昧な物が実体化できるのかも分からないけど、そう言った実験的な意味合いも込めて試してみるのは悪くない案なのではないだろうか。
「うむ。すまんがそのポンプ、少し詳しく見させてもらっても良いか?」
「あ、はい。どうぞ、じゃなくて、うむ! 自由に見て回るが良い!」
ヤヨイが俺の突然な提案に、ウズキと会話していた影響か、若干素の話し方で答えつつも許可をくれた。
良し。どれどれ?
改めてみてみると、そのポンプの取っ手はほぼ根元から切断されているようだ。これでは木やなんかを括り付けて代理の手すりとして利用することもままならない。
しかし、手すりの断面から察するに構造自体は単純だな。
ふむふむ。これなら想像は簡単か。
どれ、ここはひとつ試してみようじゃないか。
「ちょっとやってみたい事があるのだが良いだろうか? 成功すればポンプが使えるようになるとは思うのだが」
「へ? ま、まあ、何をするのか知らないが、直してくれるのなら有り難いぞ。どっちにせよ、もう交換するしかないんだ。自由にやってくれ!」
と言う事で許可ももらったし、やってみますかね。
おっと、その前に、ちょっとだけ皆に離れていてもらわないと。もし失敗して、そこらの空中にでも出現しちゃったらヤヨイとウズキは危ないからな。
「ヤヨイ、ウズキよ、もしよければ少し離れていてもらっていいか? あ。あと、失敗した時恥ずかしいから目を瞑っていてくれ。失敗したらその間に処理するから」
言うや否や、二人はポンプの周辺から離れ、具体的に勝手口の影から、こちらを窺っていた。
おお、漫画とかではよく見るけど、実際にあのトーテムポールみたいに縦に並べるもんなんだな。ちなみに、上はヤヨイ、下がウズキである。
アイリーンは特に危険もないし、もともと俺について回っているため、俺の斜め後方に居る。流石に後ろには出ないだろうからその位置でも安全だろう。
「ふぅー……」
昨日の夜からの二回目の魔法行使。いざ改めて使おうとすると、実を言うとそれなりに緊張する。
あの魔法の性質上、回数を重ねれるごとに消費魔力が増えると言った事は無いだろう。しかし依然としてどんなもので、どんな使い方をして、その結果どれだけの魔力が消費されるのかは完全に闇の中だ。
当然、もしこの一回の魔法で多くの魔力が消費されてしまったらと言ったような考えも常に心の隅でちらついている。もちろん、普通に考えれば、あのガラス玉の消費があれだけなのだから問題は無いはずだ。しかし、やっていなければ、教えられなければ、そう言った不安は消えないのだ。
唾をのみ、覚悟を決め、創造を開始する。今回の使い方は、実験の一環。初めての継接ぎだ。取っ手の大きさ自体はそこまででもないので、消費魔力自体は少ないはず。なのでここで消費された量が多くなれば使い方で魔力量が変わると言う事なのだが――。
魔法を発動させる。
現実に魔力が集まり徐々に輪郭をなし現実として形成され、身体からごく僅かな、二度と帰ってこない魔力でなければ気が付けないような量の魔力が消費される。
そして、そこには取っ手が無かったと言う事実などなかったかのように、実体化した取っ手と一体化したポンプと、消費量が変わらなかったと言う事実が存在していた。
「ふぃ~……」
そんな事実に特に意識した訳でもなく、ため息の様な安堵の吐息がこぼれた。
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「ありがとうございます!」
それからは慌ただしい物だった。
ヤヨイたちは、わざわざ目を瞑らせたりした事をどういう意味で取ったのかは分からないが、特に何かを聞いてくる事は無かった。しかし、ポンプが治ったと言う事実に対して、何かお礼をさせて欲しいと言われ、しかもこちらが何か返す前に今夜は宴会とまではいかなくとも少し豪勢なものにすると言われ、しかも夕飯代を多く取らないばかりか今晩の分はサービスです、と言って先に払ってあった分の中から一食分を返却すらされた。そして何よりもそれらはあくまでサービスのため後からまた何かしてほしい事を聞きに行くとまで言われてしまった。
「それでは今夜の夕食、楽しみにしていてください!」
「ヤヨイ。おれ、材料買ってくる!」
「お願いします。私も準備を始めなくては!」
そう言って、二人はそれぞれの方向へと風のように姿を消した。
……早いなー。これは見事にポンプ云々を言い出すタイミングを失ってしまったぞ。
んむぅ。まあ、仕方が無いか。それに向こうも俺に対してお礼をしたいって言って準備してくれているんだから、少しくらいは我慢しよう。まだ初日だしな。
「さて、アイリーン。見ての通り、ちょっと頼みにくい空気になってしまったし、ちょっと予定を変更して、このまま村の散策でも行かないか?」
「そうですね。カース様が宜しいのでしたらそういたしましょう」
それじゃ、行こうかね。と言う事で、宿を後にすることにした。
扉を開け外に出る。改めて宿を見上げてみても、旗や外見の装飾から、良い宿だと言う事が分かる。昨日は夕暮れで細部まではっきりとは見えなかったが、なかなかに大きな宿だったようだ。確かに、昨日も大きさと言う意味では大きいと認識はしていたが、そう言う意味ではなく、いわゆる、ランクと言うやつだ。
しかし何故か、全くと言っていいほど客はいないし、近所付き合いも、昨日の夜の間だけだったとはいえ碌になかった。
そもそも、この宿の周りはなぜか不自然に建物が少ない。この狭い村でこのように宿の周りだけ建物が離れるだろうか。昨日、歩いた限りでは建物の距離は村長宅を除いて特に大差なかったはずなのだ。
これほど露骨に人が寄り付かないと言うのはやはり何か特殊な事情があると言う事だろう。
ま、今は考えても仕方が無いわな。正直、ろくすっぽこの村の人と話してないんだから、事情なんぞ本人達から聞く以外分かるわけがない。案外、周りの人も知らないかもしれないがな。
と、僅かな間の思考を、アイリーンが無言でこちらを見ていることに気付き、若干無理やりぶった切って振り向いたその視線の先、アイリーンのさらに向こう側に、こちらを窺う二人組が見えた。
「ん?」
初めは偶然、こちらを見ていただけの村の住人かと思っていたが、宿から出てきた俺達を見て目を丸くしていたので、恐らく宿の関係者、それも、良い方の関係者ではなく悪い方の関係者なのだろう。
「アイリーン、アイツラはいつからあそこにいたんだ?」
それでも一応、いつから様子を窺っていたのかを聞いておく。まず間違いなくアイリーンはアイツラに気が付いているからな。
「え? ……ああ、アイツラですか。確か、私たちが、宿でポンプをどうするか話していたあたりに姿を現したはずですね。その時から、ずっとあそこにいてこの宿の様子をうかがっているようでしたが」
つまり、朝っぱらからずっとそこの位置をうごかず宿の様子をうかがっている不審者ということか。
「ちなみに、あまり意識していませんでしたのですべては聞き取れませんでしたが、なぜあの宿に人が同行とか話していましたね」
「聞こえたのか?」
「いえ、少し意識すれば、糸の振動を通してある程度声を聞き取ることができますので」
アイリーンは盗聴が簡単にできるようだ。
それはともかく追加情報で完全に黒が確定したな。どう考えてもアウトだ。あ、ちなみに、走り去っていったウズキが反応しなかったのは単純に気がついていなかっただけである。かなり慌てていたから仕方がないだろう。
「どれ、ちょっと話に行ってみようか。今、ここの主人は忙しそうだし、この宿は個人的に気に入った。代わりに対応するのも、まあ、ちょっと用件を聞くぐらい問題はないだろう。なにかあれば、中にいるヤヨイを呼びに行けばいいし」
「そうなのですか。わかりました。それでは、私が先に行きましょう」
「いいのか? では頼む」
ということで軽くお話でも行きましょうかね。……アイリーンがメインで。
ま、まあ、こういう時はきっと見た目的にも、コミュ力的にもアイリーンのほうが適任だ。それにこの宿を気に入ったというのも本当である。一番初めに泊まった宿ということもあるのだろうが、なんだかんだ言って過ごしやすかったし、雰囲気も良かったしな。だったら俺が行けよって話だが、さっきの通り適材適所である。
どうやら近づく俺たちに気が付いたようだ。何やら慌てて話を始めた。しかし、それもすぐに終わり、逃げることなくこちらに視線をよこした。
……妙に視線を感じるな。二人とも俺を見ている? なんか、イヤーな視線だな。こう、値踏みするような、ねっとりとした視線。イラッとするな。
「失礼。先ほどから何やら私どもが泊まっている、宿のほうをじっと伺っていらっしゃる様子でしたが何かご用でしょうか? よろしければ、宿の方をお呼びいたしましょうか?」
会話が可能な距離となったからか、足を止めアイリーンがそう声をかける。
「ああ、いや、不審に映ってしまったのなら申し訳ない。私たちは別に怪しいものではないんだ。私は一応、この村の村長をさせてもらっているガンドというものだ。こちらは、あー、まあ、私の連れだな」
この二人はただの不審者ではなく、偉い不審者だったようだ。アイリーンが会話の一部を知っていたせいでどうあがいても、不審者の枠は超えられないのだ。
「それで用事があれば、ということだったが、もういいんだ。先ほどまでは用事がないとも言えなかったが、ついさっき目的は果たせたのでね」
それだけ言うと村長は隣の男に行くぞ、と声をかけて踵を返した。
「それでは、迷惑かけたね。まあ、特にこれと言って何もないような村だが、ゆっくりして行ってくれ」
そのまま、村の中へと姿を消してしまった。なんというか、気のせいかもしれないが最後の、ゆっくりって言葉が妙に癇に障った。こう、強調されているというか、変な意味を含ませているような気がした。
まあ、いいか。どっちにせよあと三日程度しかいないのだ。
「何だったのでしょうか?」
「まあ、なんだっていいさ。あまり迷惑をかけなければな。さ、それよりも不審者村長のお言葉に甘え、村を楽しみに行こうじゃないか」
「……そうですね。それでは行きましょう。そういえば、糸を村の三分の一あたりまで張り終わったんです――」
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「村長、良いのですか? あいつらをあのままにしておいても」
アイリーンたちと別れて直ぐ。
村長がアイリーンと話している間も、無言だった男がそう口を開く。
「ああ。あれで問題はない。あなたは見えたのかわからないが、泊まっているといっていた二人組、かなりの上玉だ」
そういった村長の顔は下卑た笑みが張り付いていた。
「しかし、あ奴らは冒険者ではないのですか?」
「そうだろうな。こんな村に来るのは決まって冒険者か商人だ。商人があのような簡素な格好をしているとは思えん。しかし、このような村に来る輩が高ランクの冒険者だと思うか?」
「ああ。なるほど。では問題ありませんね。確かにあの騎士たちがその程度の冒険者に負けることはありませんな」
尊重と同じ考えに行き着いたのか、男も同じように下卑た笑みを浮かべた。
「そういうことだ。あとはあちらの判断に任せればいい。冒険者程度では邪魔すらできまいよ」
そして、二人は一つ重なるよう笑い声をあげ、村長宅に帰って行った。
明後日位に続きをあげます。そっちも短めの物になってしまいますがご容赦ください。ちょっといろいろあってあまり書けず、二週間以内と言ってしまったので、ここで一回上げさせていただきます。申し訳ありません、ご容赦ください。




