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宿屋の夜の説明会

 結局、元気な了承をもらった後はこれといって面倒なことは起こらなかった。

 そのまますんなり双子に先導され入った宿屋は『つきこよみ亭』と言い、入り口からすぐのところの玄関に受付、そこから両開きの大きな扉を隔てて後にそれなりに大きなホールがあり、他には倉庫のような場所やキッチン、従業員用と思われるちょっとした部屋が見受けられた。どうやら主要な宿泊用の部屋はすべて二階以降に固まっているようだ。あと、お風呂は各部屋にそれようの部屋が設置されているとのこと。なお建物自体は三階建てである。村長宅と思われるあのときの建物は二階建てであったものの、この建物よりも幅があった為大きかったのだ。高さという意味ではこちらの方が大きい。

 少しそうやっていろいろ辺りを見回し見えた部屋を予想した位の時間ですぐに部屋を案内された。どうやら部屋の鍵をとってきていたらしい。料金はその待ち時間の間にアイリーンに払ってもらってある。

 そして二階に上がってすぐの部屋に案内されたが、特にこれと言って荷物もなかったので、軽く部屋を覗いてすぐに夕食に向かった。見えた部屋はかなり整っていて意外にきれいだった。ちなみに階段すぐ横の部屋なので階段を 移動するときの音がうるさいのかと言えばそうでもないらしい。防音を各部屋にしっかり施してあるのだとか。ちなみに、予想した部屋はだいたいがあっていた。夕食はホールで食べた。キッチンはこのホールに隣接しており、カウンターのようにこちらから見えるようになって、繋がっている。

 注文から少しして出てきた夕食は意外に普通のメニューで味も普通においしかった。内訳としては、何の肉は分からないが、ハンバーグ。そこに添えられて、普通に見えるキャベツ。汁物はコンソメスープのような味のする透き通った何か。それらに米を合わせて夕飯である。全て、特に名前は聞かず(と言うか聞き忘れた)に持ってきてもらっていたので正式名称は分からないが、何処となく日本ぽいと言うかファミレスっぽいメニューだった。


 そのまま、少し休んで時間的にも遅かったため部屋に向かった。風呂にはとりあえず部屋に着いた後に少し休んでから入ろうと思っている。風呂自体は魔法でパパッとできるしな。……多分。

 ちなみに部屋は本当なら分けようかと思っていたのだが、アイリーンがごねたので2人部屋となった。それが、さっき案内された部屋なのである。流石に、「私をお見捨てになるのですか……?」っていう目でじっと無言で見つめられては諦めるしかない。まるで雨に濡れた子猫の様だった……。


 部屋に着き、特に荷物の整理などもないため何となくそのへんに腰かけ、よくある宿泊する場所のの部屋に着いてすぐに訪れる心地良い無言の時間を堪能する。


「ふぅ……」


 と言うか、こんなに和んでいる場合ではない。そもそも和んでいるのは俺だけで、アイリーンはものすごくこっちを見てきている。

 何故、和んでいる場合ではないのかと言えば、単純についさっきご飯を食べている時に、一応は俺の配下的扱いになっているアイリーンに、何かネウルメタを救った褒美と言うか対価と言うかをあげないといけないような気がするなあ、と思ったのだ。確か、アイリーンの過去を聞いた時に火竜が配下になにかを渡したと言ったような事を言っていたような気がしたしな。認めた証? とかそんなのだ。

 ともかく、そして一度そう考えてしまえばそのまま何もしないのは、すごくもやもやした気持ちになるのだ。まあ、俺としてはアイリーンは友人に近い仲間だと思っているので、今まで世話になったお礼ということでいいだろうが何かお礼がしたい。


「なあ、アイリーンよ。俺はアイリーンには世話になっている。まあ、一日すら立っていないわけだが、その一日が非常に濃かった。その中でアイリーンには本当に世話になった。だから、火竜が配下に何かをくれていたように俺もアイリーンに何か御礼をしたいのだ。だから、何か欲しいものなどは無いか? 俺が渡せる物なんぞ微々たるものだが、たとえ今持っていなくともこの先旅を続けるうちに手に入る事もあろう。遠慮なく言ってほしい」


 と、こんなところで良いだろう。

 すると俺の言葉を聞いて、少し悩んだようなそぶりを見せた後、小声で要望を話してくれた。


「そ、その、それではカース様の鱗が欲しいです」


 おお、そうだ! それだ。アイリーンから聞いた過去の話で、火竜が配下の奴らに渡していた物。確かそれがあると遠方でも会話ができるとか。もうそれ、お礼とかじゃなくても俺のために渡したいわ。


「ふむ、鱗か。本当に鱗で良いのか?」

「は、はい!」


 案外アイリーンとしてはダメ元で話したのかもしれない。俺が確認を取ると、ずいぶんと力強い返事が返ってきた。


「分かった。では早速――」


 と、そこまで言ってはたと気づく。どうやて鱗をやればいいのだろうか? まず第一に普通に考えて鱗は一枚一枚がかなりデカい。元が元だから仕方が無いのでなあるが。そして第二に今の姿には当然鱗なぞついていない。もし取りたいならば、竜に戻らねばならない。今から外に行くのか~。まあ、それは別にいいんだが、少し離れて鱗を取ってまた戻ってくるって大変だよなあ。しかも出入りは非公式と言うか正式な物ではないので当然のようにジャンプによる不法侵入をするしかない。それは流石にたとえ今が夜で真っ暗でも、巡回の自警団員には目立つ。

 もういっそのこと魔法で作れないだろうか。取りあえず、この村から出るまで持てばいいのだから。


「いや、すまないアイリーン。もし鱗を渡そうとすると竜にならねばならず、この宿が壊れてしまう。かといって、村から出るのは正式な手順を踏んでいない以上避けたい。だからすぐには渡せそうにない」

「あ、そ、そうですね。その通りかと思います。流石に、私が竜様を探す旅をしていた時も、同じ町に何度も、と言うのは避けておりました。それは控えておいた方が良いでしょう」


 そう返事をしたアイリーンの顔は確かに納得はしていたようだが、僅かに沈んだ表情になっているように見えた。


「ありがとう。本当にすまない。魔法で作れでもすれば仮としてでもそれを渡せるのだが……」

「そうですね……。そのお言葉は非常にうれしく思います。ですが、カース様は空を飛ぶ際などに魔法を使用していたようなのですし魔法については詳しく知っていらっしゃるのかもしれませんので、余計な話となってしまうかもしれませんが、先の村の探索の折に少しお話ししたかと思います通り本来、魔力によって生成された物は、時間が経てば消えてしまうのです。私の作った服のように抜け道例外はいくつかありますが」


 おお。そうだったのか。ってか、そう言えばその話についても聞きたかったんだよな。双子店主の印象が強すぎて忘れてたわ。


「そういえばそうだったな。すまないがアイリーンよ、それについてもう少し詳しく教えてくれないか? 確かに俺は魔法を使ってはいるが、あくまで一般的な魔法の使い方を知っていると言うだけなのだ。基本的には何にも、それこそ自身の所有する固有魔法すらよくわかっていない」


 俺の言葉を聞いたアイリーンは僅かばかり驚いたような表情を見せた後いつもの様な良い笑顔で了承してくれた。

 ってよく考えればそうなんだよな。口に出して気が付いたわ。俺自身、自分の魔法についても良くわかってない。解説は使い方ではなかったし、あやふやな説明だったのはよく覚えている、再現がどうの、ってな。


「まさかよくわかっていない、強いて言うなら一般の魔法の使い方のみの状態で、あそこまでの魔法をお使いになられていたとは思いもしませんでした。ネウルメタの時も、あの魔力の声は何となくだったんですね」

「ああ。そうなるな」


 どうやら驚いていたのはシンシアと同じ意味だったようだ。確か、シンシアも何となくって言ったら驚いていたよな。


「分かりました。それでは先ほどの言葉の解説を致しますね。と言いましてもそう難しい事ではありません。簡単に言うと、魔力によって生成された火や水、風などはあくまでも再現、模倣の類であり、本物ではないと言うだけなのです。いくら魔力が変換されそれらの物質となっているとしても本物を出現させることは出来なかったと言う事ですね。まあ案外、四源竜様方や、双派竜様方であれば可能なのかもしれませんが」


 なるほどなるほど。確かにシンシアに教わった時も魔力が変換され~みたいなことは言っていたが、それはあくまで本物の再現に過ぎないのか。ある意味、幻だな。俺の魔法が全属性使えるって言うのはコレが理由なのか? まあそのへんは、流石に分らないが。

 アイリーンはそのまま説明を続ける。


「そして、例外や抜け道と言うのが、私の作り出した服です。これは服と言う、常に身に着けていると言う性質を利用して再現させている魔力が霧散しないよう、常にと言う訳ではありませんが、装着者が無意識に体外に放出させている魔力をかすめ取り、供給を行っているだけなのです。普通の魔法でも魔力を供給し続ければ消えないのと同じ原理です。例外はそういった勝手に消えない固有魔法ですね、そんなもの聞いた事はありませんが。後は『特殊』でそういった、魔力によって作られたものを消えないようにすると言ったものを所持している場合とかです。こちらも聞いた事はありませんが理論上は存在するはずですので」


 ほほう、色々出来るんだなぁ。そしてそれよりも特殊とか言う言葉が出てきたな。特殊ってもしかしなくても竜眼で見た時に表示された加護とかが書いてあった場所だよな。


「なるほどな。魔法については分かった。ただ、最後に出てきた『特殊』とは一体何なんだ?」

「あ、そうですね。カース様に特殊については話したことがありませんでしたね。申し訳ありません。それで『特殊』と言うのはですね、うーん、まあ、簡単に行ってしまえばたった一つしか効果を発揮しない魔法の様な物、です。ああ、あくまでも魔法の『様な物』であって、その効果は当然、普通の魔法とは比べ物にもならず、物によっては魔力などの要素を一切必要としません。そして大概が突拍子もない効果や、途轍もない力を持っています。まあ、その中でも強い弱いはあるそうですが」


 ほー。そう言う物だったのか。てっきりゲームでよくある様な称号的な物だとばかり思ってたわ。


「それに、その『特殊』もすべてが魔法よりも優れていると言う訳ではおらず、中には聞いた話では手元に石を一つ出現させる【意識の外側】と言うものもあるそうです」


 それはなんと言うか残念だな。まあ、使い方次第だと思っておこう。じゃないとその持ち主が救われない気がする。

 それにしても、どうやって自分がそう言う力を使える事やその使い方を知るのだろうか。


「なるほどな。そう言う物なのか。ただ、どうやって自分がそれらを使える事を知るんだ? やはり教会などに行って魔道具で確認するのか?」

「いえ、私は経験した事は無いのですが、『特殊』が使えるようになると頭の中と言いますか、自身にしか聞こえない不思議な声が聞こえるそうですよ。ただ、中には常に効果を発揮しているものもあります。そういったものは基本的に所持の有無は魔道具だよりになりますね」


 おや。どうやら半分だけ予想はあっていたようだ。

 ふーむ。多分その声って竜眼使って詳しく見ようとしたときに聞こえたあの声だろうな。

 ん? そういえば、アイリーンにもいくつか『特殊』に書いてあったような記憶がある。でも、アイリーンは声は聞いた事が無いって言ってたし、もしかしてあれが常に発動しているタイプって事かな。


「そういえば、アイリーンにもいくつか『特殊』があったな。気付いていたか?」

「……いえ、そうなのですか?」


 どうやらアイリーンはその事実に気が付いていなかったらしい。


「ああ。ちょっと待ってろ」


 と言う事でもう一度アイリーンのステータスを確認する。


 えーと、なになに? 灰竜の配下・灰竜の加護・種族長の知識・大食美食家グラトングルメ、と。確か前回もこんな名前のだけだったな。特に増えてはいないか。


「どうやら、灰竜の配下・灰竜の加護・種族長の知識・大食美食家グラトングルメと言うものがある様だぞ」

「わ、私に『特殊』が。それも、カ、カース様の配下、カース様の加護……!」


 俺の言葉を聞いてにやけた表情になるアイリーン。分かりやすい。

 っと、それよりも詳細も教えたいのでそのままそれらを確認する。

 まずは、あえて分かりきっている知識から見て行こう。何々?


『種族長の知識。この世界における様々な知識を持つ者に授ける。これを得られるのは基本的に種族長の上位の魔物のみ』


 予想通りである。アイリーンは森で生まれてすぐにすでにしっかりとした意識をもって、欲求と言う知識を持っていたって事は、本来はそう言うさだめだったのだろう。

 ただ、すでに過ぎた事だ。考えても仕方が無い。それにネウルメタでまた族長っぽいことしてたし問題ないだろう。では次。グルメは気になるから最後に取っておこう。と言う事で灰竜シリーズ。


『灰竜の配下。灰竜の配下であることを示す。また、灰竜に対して忠誠を誓いそれを承諾された場合もこれを手に入れる」


 どうやらこれは特に効果は無いようだ。なんだ、結局称号みたいなもんじゃないか。じゃあ次。


『灰竜の加護。加護を受けし者を、加護を受けし者の力を深い霧の中へと包み込む。それは主以外には覗き見る事の出来ない不可視の領域。また、幻の竜の加護を受けし者の力は幻の竜の力の欠片を継ぎ、心に傷をつける。それは相手であり自身でもある。そして、その傷は小さなものではあるが、弱りし心は器を支えられずにその内を僅かにこぼす。その傷は罅のように広がる事もあれば、静かに元の形へと、より強き心へと形を戻す』


 あれ、なんか他の二つよりも説明が異質だぞ? 哲学? もう少し具体的に説明プリーズ。

 ……無理のようだ。これで納得するしかないのか。まあ、加護を受けている者の攻撃には精神を僅かに傷つける力があるって事でいいだろう。多分。

 では本命と言うか、一番名前から想像できないやつ。


大食美食家グラトングルメ。美味しいものを多く求める者に、その質と量に伴った力を授ける』


 ……これも良くわからん。食べた物に応じて身体強化的な効果があると言う事でいいのだろうか。

 なんかこれもその前のも、スキルの時はもう少しましだったがそれでもどことなく抽象的な物が多い気がする。もともとそんなに厳密にコレっていう効果は決まっていないのかもしれないな。


「――と言うものらしいぞ」


 とりあえず、そのままと言う訳ではなく俺による大雑把な要約の結果をアイリーンに伝える。


「なるほど。私が持っていたのは全て常時発動型のものでしたか。それに恐らく自力で取得したのはその大食美食家グラトングルメと言うものだけでしょうね。ですがこれで謎が解けました。実は私、本当に美味しいと思ったものを食べた後は妙に体の調子が良かったのです。多分この『特殊』の効果ですね」


 それはどうなのだろうか。ただ美味しいものを食べれたから満足していただけな気がしなくもない。

 まあ、本人が納得しているのならそれで別にかまわないのだが。


「そ、そうか。まあ、おかげでよくわかっていなかった『特殊』について知れた。ありがとう。……ああ、だが結局固有魔法の使い方まではよくわかっていなかったな」


 始まりはそれだったので、特に使い方は話題にはしていなかったが、あくまでも後半は確認的な意味合いの独り言だったのだが、アイリーンに聞かれてしまっていたらしい。


「固有魔法ですか。そういえば、先ほどもカース様はご自身の固有魔法の使い方がよくわからないとおっしゃっていましたね。ですが普通には使えていらしたようですが……」

「いや、私の魔法は幻と現実を使い分け如何こうする物らしいのだが今のところそれらしいことが出来ていなくてな。それが気になってしまってな」


 おそらく、この使い分けると言うのは一般的な魔法のように扱う場合か、魔力のまま見た目それっぽく発動させると言う意味だと思っていたのだが、結局よくわかっていないのが現状だ。試してみれば。とも思うがその場が今までなかった。


「そういう事ですか。ですがそれでしたら人化の時のように確認してみては?」

「そうなんだがな、それで出てきたのがよくわからない説明だったのだ」

「……それでしたら使い方を知りたいと意識して見てみてはいかがでしょうか?」


 おお、それはまだ試してなかった。あの時は人化については使い方について知りたかったのだが、他は説明を見たかったのであの時に見れたものは使い方ではない可能性が高く、使い方を見たいと考えながら見れば見れる可能性があるのだ。さっきの通り、どうもこの世界のこの手の部分は曖昧な要素が強いしね。


「なるほどな。ありがとう早速試してみよう」


 よーし。そうと決まればあの時のように竜眼を使い自身に目を向ける。


 おっと、そういえば俺自身の『特殊』を確認していないな。

 二つだけだし、分かりやすい名前のだけだし、今見ちゃうか。


『異界の知識|(地球)。地球の知識を持つ者を示す。その知識量は問わない』


『加護を与えし者。守りたいもの、無くしたくないもの、平和に、健康に過ごして欲しい、そう言ったありとあらゆる思いに呼応して対象に特殊な力を授ける力をもつことを示す。そこに負の思いは無い。基本的に精霊や竜などの存在がこの力を得る』


 うむ、シンプルでよろしい。ちょっと与えし者の方は回りくどいが、まあ分からんでもない。許容範囲内だ。


 兎も角、『特殊』の確認も終わったことだし、出てきたステータスの中の幻魔導を使い方を知りたいと考えながら注視してみる。

 すると、あの時とは違った説明文が浮かび現れた。


『幻魔導。自身の想像により幻を作り出す。それはまるで魔法の様で、しかしそこに再現された物は無く、精神と現実に干渉する幻があるのみである。術者の意思でそれはどちらかにのみ影響を及ぼすように制御できるが幻想は所詮、幻想に過ぎず現実に及ぼす影響については限界がある。しかし、己の身を犠牲に成り立ったった幻はその存在を確かな現実へと昇華させる』


 わけのわからなさ加減がアップした。

 え、なに? 哲学其の二なの? そしてさっきの哲学よりもよくわからない。難易度あがってる。実は俺が使ってたのは魔力を返還させる魔法ではなくて、変換させていると勘違いさせて魔力で直接、幻を出していた固有魔法だったといことでいいの? まあ、全属性は四源竜たちでも扱えないそうだし、そう考えるのが妥当だろうけど。

 で、己の身の犠牲って何それ、超怖い。最後の切り札的な意味合いなの? 死ぬ直前にうったりするやつなの?

 いや、流石にそれは無いと思いたい。なんせ前に見た説明では使い分けって書いてあったんだし、これは身を犠牲にとはいっても死ぬほどではなくて案外何回も使えるものと予想。

 ……良し。


「悩んでいるよりも一度使ってみた方が早いか」

「? 何か問題でもございましたか?」

「ああ、いや、そう言う訳ではないんだ。何というか、俺の固有魔法が存外難しそうでな。で、考えるよりも一度試してみようと思ってな」


 使い分けられるって書いてあるのに、それを使ってで俺が死ぬようなことが有ったら、使い分けれてねーじゃんって話になる。だからきっと大丈夫だと予想したのだ。

 とはいえ、始めっからでっかいのやすっごいのを試すのはちょっと腰が引けるな……。

 なんか小さい物――ガラス玉とかにしよう。


「さて、まずはイメージして……」


 アイリーンは変わらず見守る態勢に入っていたので、一人黙々と進めさせてもらう。

 俺がイメージしたのは、昔家にあったトンボ玉である。トンボ玉はいくつかあったが、その中でもパッと頭に浮かんだ、中心に青と白の線がうねりを描いていた物をイメージした。


 さて、問題はここからどうするかだが、やり方が今一、分かってないんだよな。

 魔法はイメージらしいし、使い分けるって言うんなら、現実のものになってくれってな風に考えればいいのだろうか。

 果たして、それが正しい発動方法だったのかは分からない。しかしどうやら俺の考えはきっちりと俺の幻魔導を発動させてくれたらしい。


 俺の手のひらに一つのよくある様なトンボ玉が転がっていた。その模様も俺が想像していたものと一致する。数回しか使った事が無いため、あまり意識した事は無いが、魔法は本来僅かに魔力を帯びるのだが、このトンボ玉には魔法のように魔力を感じることなどは無い。流石に掌の上にあればそのくらいすぐにわかる。

 いや、しかしこれは……。


「……どうやらご成功なされたようですね」


 俺がだまったままで居たのをどう解釈したのかは知らないが、アイリーンは僅かに喜ばしそうにそう伝えてくれた。

 しかし、俺は成功したと言う事ではなく、別の事を考えていた。

 対価である。

 説明に書かれていた『己の身の犠牲』。これの正体が分かったのだ。


 普通、魔法を使えば魔力を消費する。しかし、今回のこれは少々わけが違った。

 その感覚は確かに失った感覚だ。だが魔法を使ったときのような、消費した、と言うものではないのだ。それは言うなれば、喪失に近い。完全に失った感覚。ぽっかりと穴があいたような無。もとがかなりの大きさのため強く実感できるものではない。しかしそれは感じ取れてしまう感覚。僅かに、確かに失った、と。


 そう、この現実とする魔法は、己の魔力を完全に消費して(・・・・・・・)発動するものなのだ。

 そこで消費された魔力は自然回復はしない。もしかすれば、何らかの回復手段や、このトンボ玉を元の魔力に戻す方法もあるのかもしれないが現状、そのような手段に説明などを見てみても心当たりは全くなく、固有魔法による消失と言う事から、恐らくこの魔法を所持する俺か、可能性としては他の竜にしか分からないだろう。


「どうかなされたのですか?」


 すると、成功してから黙りっ放しだった俺にアイリーンが流石に不信感を覚えたのかこちらを気付かうようなしぐさを見せた。

 一瞬伝えようかとも思ったのだが、すぐにその考えを捨てる。別に無用な心配はかけさせたくない。俺だけでは本当にどうしようもなくなったら話そう。


「いや、な。……何でもないさ。少々特殊な魔法だったから戸惑ってしまった」

「そうなのですか?」

「ああ。ほらアイリーンもこれを触ってみろ」


 確かにごまかすための言葉ではあるが、実際に見せたかったのでそのまま話を進める。このままいければいい具合に誤魔化せそうだしな。

 おずおずと手を伸ばし俺の持つトンボ玉に触れる。


「これは、まさか、本物、実物ですか?」


 アイリーンなら気が付いてくれるかと思ったがやはり予想通りだった。かなり驚いているのか、その言葉は信じられないと言った響きを含んでいた。さっきもアイリーンは実物を創る事は出来ないみたいなことを言っていたしな。その驚きはもっともだろう。竜ならあるいはとも言っていたが、きっと冗談みたいなものだったんだろうし。


「ああ。本物だ。俺の固有魔法は少々負担もあるが実物を創る事も出来るらしい」

「……流石です。やはりカース様について来て正解でした」

「はは、そう言ってもらえるとうれしいよ。あと、取りあえずこのトンボ玉……ガラス玉はアイリーンが持っていてくれないか? こういったものを仕舞っておく所が無くてな」

「かしこまりました。お任せ下さい」


 俺が頼むと、快く引き受けて、トンボ玉を髪の中にしまった。それと、言い換えたのはもしかしたらトンボ玉と言う言葉ではこの世界では通じないのではと考えたからである。実際、トンボ玉と言った時一瞬だがアイリーンが、ん? と言ううような表情をしたのできっと通じなかったのだろう。


「さ、大体必要な話も終わっただろう。アイリーンは先に風呂に行ってきなさい」


 あんまり話して不審に思われても困るので、風呂へ誘導する。

 そのまま、少しだけ先に入るのは……とごねたが最終的に風呂へ行ってくれた。


 しかし、これはやっかいなものだ。いざ使いたいときにはある程度、想像やその際の大きさなど、加減の慣れが必要で、しかし無制限にバンバン使えるものでもない。とりあえず大きさにもよるが後何回かは練習しておきたい。正直この、何の役にも立たないトンボ玉を作ったのは間違いだったな。せめて実用性のある小物にすべきだった。

 ……まあいい。過ぎた事は考えても仕方が無いし、逆にトンボ玉を作ったことにより、小指の先にも満たないどころか髪の毛にも及ばないほどの魔力でどういうものか知れたのだからな。きっとこの分ならもう少し大きい物でも問題なく作れるだろう。乱用は禁物だが、あと数回、いくつかのパターンで試してみたい。もう少し大きなものを作るとか、一度に大量に作るとか。ある程度の加減・・は調べたいしな。


 そこでふと外を見れば、今までいくつかついていた村の家の明かりも消え、それなりに遅くになっている事が窺えた。どうやらこのタイミングでアイリーンを風呂に送ったのは正解だったようだな。

 ちなみにこの部屋は立地的に村の半分を見渡せる位置にある。見渡せると言っても二階だからそれなりだが。


 何にせよ、今日はもう遅いしアイリーンが風呂からあがったら俺も入って寝るか。

 一日ぶりの風呂……いや、死んだ日はまだ学校で風呂になんかは言ってなかったし実質二日ぶりの風呂か?

 どっちにせよゆっくりつからせてもらおう。


 なお、すぐにアイリーンは出てきて、風呂場は本当に湯を掛けただけらしくきれいな物だった。実は蜘蛛の巣的な物があるのを少し想像していて覚悟していたのだが安心した。こんなことアイリーンには絶対に言えないがな。



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