動きだす物事と変わらぬ竜と蜘蛛
その日、魔物討伐と言う名目の遠征に出ていたイクシア王国国王が帰還した。およそ五日ぶりの帰還だった。
正面の門から、普段は露店街と呼ばれる、今は何一つとして店などない大通りを、大勢の馬に乗った騎士や、大きな旗を持った旗手が列をなして歩いていた。
王や、家臣団は皆一様に笑顔で手を振っている。その表情は皆、とは言い難いものの大概のものが柔らかかった。
表向きは。
やがて、その行列もすべてが城に吸い込まれ、引いていた露店も準備を始めた。街は何事もなかったかのように喧騒を取り戻していった。
しかし、城の中はいつも通り、とはいかなかった。王は帰還してすぐに王妃並びにメイド長、事情を知る幾名かの文官を会議室に呼んだ。
王は、まっすぐと会議室へと足を運ぶ。その後ろには共に遠征へと出ていた武官が並んでいた。
「お前たちは、これより警戒態勢に入れ。私がわざと連れて行った各国の間諜たちの行動を知るためにも、王都に出入りする者の確認、城の警備を強化せよ。現状一時的にではあるが、出来る事はもうないからな」
その歩みを止める事なく、背後に付き従う者に対して指示を出していく。
「ただし、レゴンは残れ」
返事は無い。
しかし、レゴンと呼ばれた男を残して、すべての者は素早く指示された行動を開始した。
少しの間の無言。響くのは、石製の廊下を蹴る硬質な足音。
そして、周囲に誰もいなくなった辺りで、レゴンが口を開いた。
「……面倒なことになったなぁ、陛下」
その口調は、一国の王に対してはどこか軽いもの。しかし、この場にそれを咎める者はいない。
「そうだな。密偵すら欺かれていたとは思わなかった。そしてまさか、あれに必要な物が僅かな手順で可能だとは」
国王ですら気にせず会話を続ける。
「しかし、あれは本当に途轍もない」
「確かに私でもびくともしなんだのには心底驚かされたよ。【特殊】すら効かんとは、しかし、大事なのはそこではない」
「確かにな」
その会話は知らないものが見れば、気軽な日常会話に見えて、今回の遠征の真の目的であり、それにかかわる重大な事実なのだが、全く気にも留めずに、会議室まで歩みを進めた。
そして、会議室に付くと、すでにそこには王妃である、ミクラール・フィル・イクシアと、その従者でありメイド長のミュウ、執事長のラスカー。 そして、宰相を含む数名の文官がすでに着席していた。
「呼びつけておいて、遅くなった。一応これでもまっすぐにここに来たのだ。許せ」
そう言って、国王――ウェルス・フォン・イクシアが、返事も聞かずに入室し、席に着いた。
「問題ありません。すぐに会議を始められます」
執事長であり、この場においてなぜか文官よりも司会をこなしているラスカーが話を進める。
「いや、会議と言うほどの事はしない。あくまで、集まりやすく、他の者がこないからここを選んだのだ。することは行ってみれば、連絡、だな」
因みに、レゴンは静かに入室し、こっそりと席についている。
「連絡ですか?」
「ああ。連絡だ。現状、話し合ったところで何もできる事は無い。向こうもまだ大々的に動いたわけではないのだからな」
ならば、とラスカーが早く切り上げてしまおうと、ある程度予想は出来ている内容をウェルスに聞いた。この場に集められた者たちは全員遠征の本当の目的を知っているのだ。
「そうだな、内容は、皆予想が出来ているとは思うが、今回の遠征の結果についてだ。結果としては、着いた頃には手遅れだった。どうやら、想定よりも圧倒的に簡単に行使できたらしい。加え、我が国の密偵も、偽の情報を掴まされていたようだ。何らかの特殊な魔法による干渉を確認した。結果、術式としてはすでに完成、行使されており、また、その結果によって呼び出されてしまったであろう者も確認された。その力は、私の【特殊】すらも防ぐ厄介な物だった。まあ、問題はここではないが、どちらにせよ今はもう何もできん。先に話した通り、向こうが何かしら行動を取らねばな」
その内容に、この場に居たミュウとラスカー以外の者は驚きを隠せてはいなかった。驚かなかった二人は、ある程度その可能性も考慮していたのだ。まあ、全く驚かなかったわけではないが。
「以上が報告だ。基本的にこれからの行動は、周辺他国の情報収集。武官には既に警戒を強めるように指示を出した」
そして、周囲を見渡して、異論がないのを確認する。
「よし。文官は全員行動に移れ」
やはり、そこに返事は無い。しかし、武官と同じく全員が速やかに行動を開始した。これらすべてはウェルスの好みであると同時に、緊急の事態を考えてであった。
しばしの沈黙。先ほどと同じように、退出する文官たちの廊下とは違い、絨毯が敷かれているためくぐもった足音だけが響く。
そして部屋には、王妃とメイド長、執事長、レゴンそしてウェルスの五名が残った。
「さて、次は私が居なかった間に合った事を聞かせて欲しい。何か、ひと騒動あったとは聞いているが」
本来であれば、出て行った文官たちに聞くような内容。しかし、この場では、それはミュウの担当だった。
「はい。実際にその通りです。ウェルス様がご帰還されるおよそ二日前、シンシア様が誘拐されました」
「何!? 大事件ではないか!」
今すぐにでも飛び出してしまいそうなウェルスをミュウが慌てて押しとどめる。
「ご安心ください。すでにその件については解決されております。シンシア様もすでにこの城にお帰りになられております」
その言葉を聞いてウェルスは元の落ち着きを取り戻し、膝がぬけたかのように椅子に座り込んだ。シンシアは溺愛されていた。
「そうか。して、その誘拐犯と護衛の処分はどうした?」
「盗賊については皆殺しだそうです。後も残っていなかったとか。護衛については保留です」
「……皆殺し? いや、それ自体は構わんが、『だそう』と言うのはどういうことだ」
ミュウは僅かに申し訳なさそうに答えた。
「はい。私たちはあくまでも聞いただけにすぎません。シンシア様は、竜様に助けられたのです。その竜様が、跡形もなく吹き飛ばしたのだと、シンシア様が仰っておりました」
「なるほどな……。その竜様はいったいどなたなのだ? バーナに手伝ってもらって御礼くらいは伝えておかねばなるまい」
ウェルスは至って当たり前のように、火竜を呼び捨てにした。これはこの世界の常識で考えればまず考えられない事であるが、しかし、ウェルスにとっては偶然火竜の人の姿の時に飲み友達となりその縁で、火竜からも呼び捨てにしてほしいと言われたため、当たり前の事であり周知の事実なのである。
「それがですね……。新しくお生まれになった竜様らしく、お名前が分からないのです。それでも、見た目はどの竜様とも違ったものでしたので、バーナ様にお聞きすれば分かるかと思います」
「分かった。後で聞いておこう。……して、そのバーナは帰っているか? 確か、私が城を出る二日ほど前に出て行ったはずだが」
ウェルスは流石に一週間もたっていれば帰ってきているだろうと思っていた。確かに竜は、様々な大陸中を頻繁に飛び回っている。それでも火竜は比較的この大陸に来る事が多く、その中でも特にここ、イクシアの王城に居る事が多いのだ。そして竜の移動はかなり早い。その中でも、四源竜、双派竜は特に移動速度が速かった。
「いえ、未だ王都にお姿を現してはおりません。何処にいるのかも、これと言って情報は得られておりません」
どうやらミュウたちも、その言動から察するに火竜を探しているようだった。
しかし、ウェルスの予感は当たっていたようだ。
大抵の物事に例外が存在するように、火竜もまた、あくまでよく居ると言うだけで、一週間以上帰ってこない事は間々あった。今回は、王都へと帰ってきた際、軽くでも、人の姿でも顔を出すはずであるが、それが無かった。故に予測が出来ていた。
「そうか。分かった。ともかく、新たに竜様の存在が確認できたのであれば早急に世界へ知らせる必要がある。それは分かっているだろう?」
このイクシア王国は、火竜が王都の王城を拠点としていることもあり、世界中を見てもそのような国は他に存在しない事から、新たに竜が生まれた際は全世界に告知すると言う大役を任されているのだ。
だからこそ、その仕事に遅れは許されない。
「はい。しかし、今回の様なパターンは初めてで今まで通りに事が進んでおりません。具体的には、普段であれば、火竜様がその新たな竜様についてお教え下さるのですが、今回は未だ何の情報も得られておりません。しかし、すでに新たな竜様はその御姿を現してしまっており、早急に情報を発信しなければいけないのが余計に作業を遅らせる原因となっているようです」
「そういう事か」
確かに厄介な問題だった。全世界から責任問題を追及されかねない。そうなればいったい何を要求されるか。火竜との空の旅権など要求されるかもしれない。いや、流石にこれは冗談ではあるが、この世界の王たちはなかなかに図太い。どこの王も自身の国に竜を欲しているのだ。それは、崇拝する竜が自国に居て欲しいと言う思いも確かにあるのだが、もっと実用的な意味では、竜が友誼の関係を結んだものが頭になっている国には戦争を仕掛けにくくなると言う意味が出るのである。
竜は基本的に大きくこの世界の在り方にかかわる事は無い。具体的には同種族が、戦争をしようが殺し合おうが、絶滅さえしなければ――自身の教会位は守るかもしれないが――傍観する。ちなみに多種族同士はすぐにとはいかないかも知れないが、かなりの速さで仲裁する。これは、多種族同士だと『容赦』がなくなってしまうからだ。
さて、この竜たちだが、あくまで、基本的に同種族戦争に手を出さない、のであって当然のように例外が存在する。それが、自身の配下、および、友人と認めた存在が傷つけられるないしは、それに類する行為をされた場合である。つまり、国の頭が友人関係であったならば、その国も最低限ではあるが保護対象になっている可能性があるのだ。実はそれを明言した事は、竜たちも唯一そういった関係となった王であるウェルスも一度もないのだが、あらかじめ知らされていた介入条件からそう思われていた。いざそうなれば、すぐにではなくとも介入するのだろうが。
結果、各国の王は竜と言う存在との友好関係を求めているのだ。竜とは、崇拝すべき対象であり、時には隣人の様な存在なのである。
「因みに、シンシアはその竜様と会話しているのだよな。何か情報は無かったか?」
「すみません……。私は何も……」
ミュウは、王妃付きのメイドでもある。そのため、シンシアが得た竜に関する情報をあまり知らなかった。しかし、そこで王妃が。
「……そういえば、あの子、帰って来てお城へ入るなり、いろんな人に灰竜様がー、って話していたわよ」
と、情報を口にした。
「なるほど、その新しく生まれた竜様は灰竜様と言うのか。字だけでもわかっているのであれば、話は早い。なれば、全世界にそう発信しよう。その後、バーナに詳しく話を聞けばいいだろう。他に何か、発信しておいた方が良い事はあるか?」
「それでしたら、外見について、注意をしておいた方が良いかも知れません。見た目が資料で伝わるフェイクドラゴそっくりでしたから」
「成程、分かった。そのようにせよ。他にも必要な事があれば加えて発信せよ」
「承知しました」
「……すまんな。誘拐やら、新たな竜様やらで流石に少々疲れた。細かい事はまた明日にしよう」
ウェルスが一息ついたのか、疲労を顔ににじませそういった。
そしてその言葉に、否を示すものは無く、この場はお開きとなった。
「ああそうだ、ラスカー。情報の公開は急ぎたい。ミュウを手伝いに行ってやってくれ」
「御意」
そう言って、ラスカーは先に部屋を出たミュウと王妃を追う。
レゴンも、
「俺もちょいと休ませてもらいますわ。先の話も、何とも眠気を追いやるのがきつくて」
と言ってすでに部屋を退室している。
部屋にはウェルス一人が残っていた。そして、
「はぁ。最近は色々あり過ぎだ……」
そう独り言ち、緩い動きで席を立った。
実は、シンシアは「灰色の《・・・》竜様がー」と言って話を広めていただけなのだが、気付けば噂話は祭りのごとく装飾され、灰竜となっていたのだが、しかし、その真実を知る者はシンシアとその話をもっとも近くで聞かされていたメイドくらいしかいない。
この後も、軽い休憩後に改めて直接シンシアに新たな竜について話を聞きにいかなければならない。
ウェルスの苦労はまだしばらく続きそうだ。
その日の夕、ミュウ、ラスカーその他広報担当者の頑張りにより、世界中の国、冒険者ギルドなどの重要拠点に新たな竜の誕生を知らせる報が届いた。
それは、カースがネウルメタを飛び立った、数時間後の出来事だった。
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時は少しさかのぼり、カースが未だたった一匹の蜘蛛以外には気付かれずに森で眠る頃。
とある国では、大きく事態が動こうとしていた。
「おおぉ……」
誰かが感嘆の声を漏らす。それがだれなのか、この部屋に確認する術を持つ者はいない。なぜなら、この部屋はいま、まばゆい、それこそ直視すれば失明しかねないほどの閃光が溢れているからだ。
そして、その声を咎める者もいない。皆が全く同じ感想を持っていたからだ。いや、一人を除いて、と言う方が正しいかも知れない。そのものはこの計画の影の発案者であり、この計画をここまであまりにも円滑に進めた者でもある。そのような感想は抱いていないかも知れないからだ。もしかすれば、この閃光の中、この場に居る者の表情を確認する事さえも、出来るのかもしれない。
やがて、光は徐々に勢いを弱め、見方によっては、まるで中心に不思議な陣を描き圧縮されて行くかのように消えていった。否、それは正しいのだ。実際に、その光はとある魔方陣を描いていた。
「……」
その場にしばしの静寂が広がる。
やがて、今の明るさに目が慣れてきたのか、各々が辺りを、そして無機質な磨かれた石で作られた部屋の中心にある魔法陣を見た。
そこには、二人の人影があった。
突然の出来事に驚いていたようだが、何かを思い出したらしくそのうちの一人が声を上げる。
「だ、誰か、誰か助けてください! かー君が……かー君が死んじゃう!」
いったい何があったのか。いったいどういう場面でこの二人を呼び出したのか、この場に居た者たちには皆目見当もつかなかったが、たった一つだけ、多くの死に触れるこの世界だからこそわかっていることがあった。
――もう助からない。
それは、この場にいるだれの目から見ても明らかだった。ぐったりして、ピクリともしないのはどうやら男のようだが、その男はあまりにも血にまみれていて、それを、子をあやすように抱きかかえた彼女もまた、元がどんな色の服だったのか分からないほど真っ赤に染まっていた。
思わず、動きを止めてしまう者たちの中で、たった一人、最も魔法陣の近くにいた、すなわち少女の近くにいた老いを見せ始めた男が少女に歩み寄った。
「落ち着きなさい、少女よ」
その声は、見た目に反して若く聞こえる。ただ、微かにガラガラと振るえ、知らないものが聞けば心のどこかに不快感を抱く、そんな声だった。
しかし、そんな声でも泣き喚いていた少女はある程度の落ち着きを取り戻した。小さく鼻を鳴らしながらも、その男の声に耳を傾ける。
「少し、その少年の様子を見せてもらっても良いかな?」
許可を求めるような言い方ではあるが、相手の返事など待たず、少女が抱える少年に手を伸ばし、観察を始める。
「ふむ。……治療班! ただちにこの者の治療には入れ! 急げばまだ、どうにかなるかもしれん!」
その声に驚いたのは、治療班のメンバーと少女だ。
「し、しかし……」
何かを言おうと口を開いた治療班のリーダーは、男と目が合い、何かを察したのか言葉を切った。
「お前ら、直ちにあの少年の治療に移る! 丁寧に少年を治療室へ運べ!」
リーダーは先ほどとは打って変わり、声高に他メンバーに指示を出した。指示されたものも感じていた疑問を追い払い、何も文句は言わずに迅速に行動を開始する。
少女は混乱したままだが、何かをする前に、手元の少年を回収された。
少年を丁寧しかし素早く、運びながら、治療班は部屋を後にする。
廊下に出てからの彼らの言葉をはっきり聞いたものはいなかった。しかし、扉に近いものは微かに聞こえていた。
「もういいぞお前ら。どうせもう助からん。さっきのも形だけ――」
ガチャン。
ドアが閉まり、この場に居て、先ほどの事態についていけなかったものがはっとする。
「さて、取りあえず、彼らに任せておけばいいだろう。少女よ、これで良いかね?」
少女も、当然事態の変化についていけてはいなかったが、彼を助けてくれるつもりだと言うのはおぼろげに理解し、不安定ながらもなんとか頷いた。
「さて、急にこのようなことになって色々と不安だろうし、私たちも説明がしたい。どうだろう、少し場所を移さないか? 君もいったん着替えると良い」
やはり、彼女は頷いた。しかし、未だ頭の中の整理は追いついてはいないようだ。
その様子に男はうっすらと気味の悪い笑みを浮かべた。
「では、少し失礼。いや、なに。おびえる必要はない。この部屋から出るために必要な事なのだ」
たたみかけるように話しかけ、男は少女の首元に手を伸ばし徐に取り出したそれを取り付けた。
当然、先ほど出て行った治療班の面々は首にはなにも付けてはいなかったのだが、この少女は反応できなかった。
それは、真っ黒な首輪だった。
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ネウルメタを離れ、早二、三時間。現在俺は、夕日の中を目的地もなく飛んでいた。ギルドの修理は、アイリーンの事前申告よりも、早いおよそ瞬き一回で終わった。速すぎてよくわからなかった。
そして、たった今、少し前に始まった魔物解説が終わったのだ。正しくは、死んだ後の魔物についてだが。
事の発端は、単純に出発前にアイリーンが何かを拾っていたからだ。あの時は詳しくは聞かなかったが、そのあと飛行中にあれが、魔物が死んだ後にその場に残す魔物の核、『魔核』だと聞いた。
魔核とはそのまま、魔物を構築する核の部分で、人間で言う、心臓や脳に近い物らしい。まあ、どちらかと言えば、核が指示を出したりするわけではないから心臓に近い。
そもそもの魔物とは、魔力から生まれる生物、または『動く何か』だそうだ。基本的に魔力が集まり形を成して魔物となる。一度魔物として完成すれば、それは現実に存在する質量を伴った物質となる。魔力を糧にするのは、単純に魔力から生まれた身体――正しくは核――を万全に保つためだ。そして、ゴースト系統のほぼ実体のない魔物と言うパターンもあるがそのタイプの魔物はそんなに種類はいないらしい。こいつらは基本的にテンプレ通りに魔力を伴った攻撃に弱い。
そんな魔物だが、死んだ場合は当然、すでに魔力ではなく質量を伴った現実となっている魔物の身体が消し飛ばされでもしていない限り、その場に残り、核も同時にそこに残る。
そんな魔物の身体はよくある通り、素材となって冒険者の鎧や魔道具に加工され、時には食され日常生活に役立たされる。……そういえば屋台で食べた岩窟丸鳥の焼き鳥、美味かったなぁ。
核は、そのまま魔力の塊みたいなものなので、エネルギー源的な扱いや、多少加工して魔法使いの魔力回復の手段に用いられる。
ちなみに、この魔核、めちゃくちゃ固い。そして、素材の方も、魔物のころの硬度そのままなので固いやつは手におえないくらい固い。しかし、それらを加工するのはそんなに難しい事は無く、魔力を込め少しずつ変質させながら弄ることで加工できるらしい。
と、大体こんな事を説明された。なお、アイリーンが拾った魔核の本体はアイリーンが蹴った時に一緒に消し飛んだ模様。
「だいたいご理解いただけましたか?」
「ああ。ありがとう。そういう仕組みなのだな」
「そうですね。後は、魔物がランクアップするくらいだと思います」
ランクアップ? 聞き慣れない単語が出てきたのでそれについても聞いておく。基本的に今は村やら街やらが見えるまで暇なのだ。流石に日が完全に落ちる前に、何処かしら見つけておきたいが。
「はい。ランクアップとは、魔力を多量体内に取り込むか、長年魔力を溜めつづけた魔物に起こる現象で、存在そのものが魔力によって補強され同じ種類の上位種へと変化する現象です。上位種の魔物は、通常の生まれ方以外にこの方法でも生まれるのです」
ふむ、つまり進化か。
「なるほどな。ちなみにアイリーンは上位種なのか?」
「はい。一応私たち鬼蜘蛛は土蜘蛛の上位種ですね。ただ、あの森では初めから私たちは生まれますのでランクアップの方ではありません」
うん、実は鬼蜘蛛じゃなくてアイリーンの紫鬼蜘蛛について聞きたかったんだが、まあいいか。そもそもアイリーンに伝えていなかったし。伝えた方が良いのかなぁ。
ちなみに俺の予想では、多分、ランクアップの一種ではあるんだろうけど、特殊な物ではないかと思っている。同じ種類の上位種になるらしいけど、鬼蜘蛛に紫付けただけだしな。
まあ、一応言うだけ言っておこうかな。
と、考えた時、アイリーンが俺に報告をしてきた。
「カース様、どうやらこのまま少し行った先、そのあたりに小さな村があるようです」
おっと。ようやく発見か。
まあ、伝えること自体はいつでもできるし、今言う空気でもなくなったし、また今度にしよう。
さて、他に探してる時間もなさそうだし、出来たらだけどその村にお邪魔させてもらおうかな。
「よし、アイリーン。今日はもう日が暮れるし、その村を目指そう」
「承知しました、そのように道案内いたします」
この話だけではなく、全体的に主人公以外の視点が多いのでタグに他視点多めと加えておきます。今更になってしまいますが苦手な方はご注意ください。




