ネウルメタ蜘蛛騒動終結2
「ま、まあ、事情は分かった。それで、先ほど、街から白い像みたいなものが消えたのが見えたのだが、あれは、アイリーンの魔法で作られたもので、消えたと言う事は、説得は終わったと言う事でいいのだよな?」
「あ、はい。そうです。先ほどまで、私の糸魔術でカース様の像を丁度、現在カース様がおります場所に編上げておりました。それで、説得が終わりましたので、解きました。まあ、はっきりとそう指示を出したわけではありませんが、この街を襲うように指示を出していた者は説き伏せましたので、もう問題は無いかと思います」
やはりそうか。って事は、取りあえず街に対して危機は去ったって事を伝えてミッションは終了だな。そんでもって、蜘蛛を退散させてこの街を去れば全てまるっと片付く。
もうのんびりと出来ないであろうからな。去るのは仕方が無いだろう。
あ、でも、この蜘蛛の集団って、俺がアイリーンを連れてっちゃっても、もう暴走はしないのかな?
「アイリーン、この蜘蛛の集団は、直接アイリーンが説得した訳ではないんだよな? と言う事は、アイリーンがこの場を去った場合、また街を襲うようなことは無いのか? もし、居なくなって襲う可能性があるのであれば――」
――どうにかしてこの集団をしっかりと説得できないだろうか、そう続けようとしていたのだが、俺の言葉はそこで喰い気味に声を上げたアイリーンに遮られてしまった。
「嫌です!!」
びっくりした。心臓がバクバク言っている。
クレーターを一つこさえるくらいだから、激しい感情を持つことはあるのだろう。しかし、今の今まで、このクレーターくらいしか、それを実感する事は無かったのだ。だからこそ不意打ち気味にあげられたその声の力強さに驚いてしまった。
しかし、一体何がそんなに嫌なのだろうか。そんなにこの集団を説得するのが嫌なのだろうか。……いやまあ、確かにこの数を説得しろって言われたら、俺も拒否するかも知れんけど。
驚きで考えがまとまらず、何も、先ほどの言えなかった言葉の続きすら口にできずに固まっている俺を気にせず、アイリーンは言葉を続ける。
「私は、私は貴方について行きます! 絶対に、離れない! 私は諦めない、諦めたくは無い! あいつの様にはならない! こんな場所に残って、この阿呆どもを率いる、それではあいつの二の舞、いや、あいつそのものだ。私は、そんなのは嫌だ! そんな結末は認めない!! 絶対に、ついて行きます……おいて、行かないで……」
まっすぐと俺に向けられた視線。血でも吐き出すんじゃないかと思わせるような気迫と、聞く者の心を直接殴りつけるようなむき出しの感情の吐露。そのあまりにも生々しい声と悲壮な表情はは、パニックに陥っていた俺の思考を一瞬で正常に戻す。
……そうか、アイリーンは俺において行かれると思っていたのか。そこまで、俺の事を思ってくれていたのか。
きっと、ここまでの荒々しい感情は、此処に着いた時に見せた表情にさせた何かが原因なのだろう。
アイリーン自身が説得したと言う黒幕に何事か言われたか、あるいは、その黒幕に自身の何かしらを通し見てしまったのか。
なんにせよ、今のアイリーンは、表情も戻り落ち着いているように見えて、内心では延々と渦巻く不安で心が乱れていたようだ。これはたとえアイリーンが巧みに隠してしまっていたのだとしても、僅かにすら気付けなかった俺に落ち度がある。いや、忘れてしまっていた俺に、と言う方が正しいかも知れない。
ただ、いま、言うべきことがはっきりとしているのは有り難い。もとより、言うつもりでいた言葉で、すでに言った気でいた言葉だ。
「落ち着け、アイリーン。いったいなぜ俺がお前を置いて行くと思ったのだ。俺は、お前を置いて行く気など毛頭ないぞ? 先ほども、どうにか説得は出来ないかと聞きたかったのだ。おいて行きたかったわけではない。それに、どうも俺以外の竜は随分と不親切らしい。お前が居なくては俺はこの先どうすればよいのか分からなくなってしまうからな。それに、そもそも、俺がこの世界を、まるで製作者のように詳しく知っていたのだとしても、そこまで思ってくれている相手を無下にあしらう様なことはしない。安心しろ。お前が俺を嫌ったりしない限り、おいて行くなどと言う事はしないよ」
あくまでも、俺の考えていた事で、気の利いた言葉なんぞ分からない。それでも、必要な事は、今言った中に入っているはずだ。少なくとも、俺がそう思っていたのだから気持ちは籠っている。
アイリーンは俺の言葉を聞いて、始めは驚いたような表情を、そしてそのまま顔を俯かせてしまった。だから今の俺には、アイリーンが今どんな表情をしているのかは分からない。
「すでに私はお前よりも先に居た様だな」
ほとんど時間は掛かっていないはずだ。それこそ、一分もたっていないだろう。それくらいの短い時間で、何事かを呟いてアイリーンは顔を上げた。つぶやきは残念ながらよく聞き取れなかった。
表情が見えない時からこれと言って嗚咽や、すすり泣くような声などは聞こえていなかったから、泣いてはいないだろうとは思っていたし、実際に今のアイリーンはなんというか、すがすがしいと言うべきか、明るい顔をしていた。何処となく勝ち誇っているように見えなくもない気がする。
良かった。どうやらさっきの言葉で気持ちを整理してくれたようだ。うんうん。全然一緒にいた時間は短いけれど、やっぱりアイリーンには明るい表情の方が似合ている。いや、すべてを見下すような冷たい表情とかもある意味では似合うとは思うのだが、今はそういう話をしているのではない。
「さ、アイリーンよ。もういいか?」
「はい。先ほどはご迷惑をおかけしました。どんな罰でも……」
「いい。別に気にしてなどいない。そういう事もあるさ」
罰とか重いよ。この程度の事で。アイリーンにとってはこの程度ではないだろうけど、俺にしてみれば、感情が荒ぶることくらい誰だってあるだろう、くらいにしか思っていないしな。
「それよりも、先ほどの質問の答えを聞きたいのだが」
ちらっと街を見たんだが、少し前までは固まっていた筈なのに、今はどうしたらいいのか分からない的な意味でがやがやしている。速くしてやらないと可哀想だ。
「ああ、えっと、それならば問題ありません。どうとでも可能です。こいつら役立た……蜘蛛どもはそこまで知能は高くありませんから、一度命じられた命令にかなり忠実に従います。それも、命令した者の力量しだいで自身の命すら厭わずに忠実に命令をこなしますから、軽く指示すれば街を襲うようなことは無いかと思います」
ほー。そういうものなのか、鬼蜘蛛の群れってのは。自分の命すらってすげえな。これも魔物ならではって事なのかな。普通の動物ならだいたいは自分の命を優先するだろうし。しかし、いま絶対に役立たずって言おうとして……いや、なんでもない。そう何でもなかった。それでいいのだ。触らん方が祟られずに済むだろう。
まあいいや。それよりもさっさと指示をして街の住人達を安心させてあげた方が良い。
「じゃあ、アイリーンよ。指示を頼めるか」
「いえ、此処は申し訳ないのですがカース様が行った方か確実かと思います。先ほどもお伝えした通り指示した者の力量が、今後も忠実に従うかの基準となります。なので、実力、力量で言えば最高峰の竜であるカース様が指示をすれば破られる事もないでしょう」
なるほど。そりゃそうだ。
「だが、言葉は通じるのか?」
「はい問題なく。ただ、指示する際は、意図的に魔力を放出して行ってください。それを圧倒的力量と勝手に解釈してくれるはずです。あ、それと、森から出るな、位は全然指示していただいても構いません。森の中でさえあれば問題なく生きる事でしょうから」
森から出なくても良いのか。まあ、アイリーンが良いと言っているのだし問題ないのだろう。……ちょっとアイリーンが悪い顔をしていたような気がしたが、問題は無いのだろう。
「分かった。普通にこの場で蜘蛛に向かって言えばいいのか?」
「はい。おねがいします」
よーし。この後、街に届くようにに声を出す必要があるからな。予行演習だ。ちなみに近くまで言って言えばと言う意見は恰好がつかないから却下である。
軽く息を吸う。まあ軽くと言っても、竜の身体では結構な息を吸っているように感じるが。それでも、対象はすぐそこに居るから軽くでもいい。あ、でもどういう指示にしよう? ……その場の勢いだな。良し。
魔力を意識して放出する。正直やり方がよくわからなかったので、魔法を使うときのイメージで、魔法と言う形にする前段階で放出するイメージをしたらそれっぽくなった。辺りが若干だが、霞がかったようになる。多分これで出来ているのだろう。出来ていることにする。
演説のように僅かに顔をめぐらしながら声を出す。
「聞け、鬼蜘蛛の集団よ。私、カースの名において今これより先の街、ネウルメタに対する襲撃およびそれに類する行為を禁ずる。そして、可能な限り森から出るな。森に入った人間を襲う事まで制限するつもりはない。しかし、これ以上、無用な騒ぎは起こすな」
うむ。このくらいで良いかな。
軽く周りを見渡す。大丈夫かな? 俺にはこの蜘蛛たちの変化はよくわからん。
「分かったのであれば、森へ帰り今まで通り暮らせ。……良し、行け。鬼蜘蛛たちよ」
すると、周りを囲う様に佇んでいたすべての鬼蜘蛛が、ぞろぞろと森へと帰り始めた。
どうやらしっかり伝わっていたようだな、よかったよかった。
それでも一応アイリーンに確認を取るか。
「これでいいか。どうだ、アイリーンよ。これで指示になっただろうか」
俺の声に、固まっていたアイリーンが思い出したように動き出して、返事をする。
「はっ! は、はい。大丈夫だと思います。奴等も理解できたようですし、あれだけの魔力を浴びながらであれば破ろうと言う気すらおこらないでしょう。流石カース様です」
良し。アイリーンが絶賛しているし大丈夫だろう。なんか固まっていたように見えたがきっと大丈夫なんだろう。
「さて、次は街に対してだな」
すると、アイリーンが不思議そうな顔をした。
「街、ですか?」
そういえば、この後街を去る事も伝えていなかったな。
「ああ。アイリーンは知らないと思うが、街では討伐隊がどうのと言う話まで出ていたんだ。だが、せっかくアイリーンが説得した事を無駄にするような事にはさせたくはなかったからな。俺が、冒険者達を引き留め、此処に来たのだ。だから、街にもう安全であることを伝えておかねばならない。それと、こうして派手に目立ってしまったからな。急で悪いがこの後すぐにここを立つ。すまんな」
俺の言葉を聞き終えると、アイリーンは素晴らしい笑顔で言った。
「いえ、私はただついて行くのみです」
有り難いが、その忠誠がやはり少し怖いわ。これ、魔力云々以外にも理由ある気がするわ。
「まあ、もう来ないと言う訳ではないだろう。その時にはまた案内を頼む」
「はい」
まあいいや。それよりもさっさと冒険者や、兵士たちに教えてあげよう。
さっき予行演習したように叫んで伝える。
普通なら声など届かない様な距離だが、今の竜の身体と身体能力ならばできるような気がするのだ。
失敗したらどうするかはあとで考えるかな。どうせ、失敗と言う事は向こうに対して聞こえなかったと言う事であって、つまり、此処で聞いているアイリーンに聞かなかったことにしてもらえば万事問題ないし。
言う内容は、さっきと同じでその場のノリだ。っと、ギルドをアイリーンが破壊したまんまだったっけ。どうするか。アイリーンなら取りあえず糸で穴をふさげるかな?
「アイリーン、ギルドの建物の穴は覚えているか?」
「はい。確か、フィーリアとか言う女を送った建物ですね」
「そうだ。それで、その建物の穴なんだが、せめて塞ぐくらいの事はしておきたい。もし、糸で穴を塞ぐとしたら、どのくらい時間が掛かる?」
「そうですね、穴をふさぐだけでしたら、五秒から、十秒と言ったところでしょうか」
かなり早いな。それなら、通り過ぎる一瞬でも十分か? と言うか、遠隔で補修してたよな。なら、今も、ふさぐくらいならできるかな?
「因みに、今ここから穴をふさぐことは?」
するとアイリーンは申し訳なさそうな顔をして言った。
「申し訳ありません。ここからふさぐには、少々、糸が足りません」
流石に無理か。まあ、仕方が無いかな。でも、糸が足りれば可能なのか。流石ハイスペック。
「分かった。ならば、この街を離れる時、ギルドの上を通って行く。その時にふさいで欲しい」
「かしこまりました。お任せ下さい」
良し。ギルドの穴も、完全な修理に関しては丸投げだが、アイリーンの糸だったら十分すぎる強度になるだろうし、取りあえず問題は解決だな。
街の方を向き、先ほどよりもしっかりと息を吸い込む。地球に居た頃の大声を出すときと同じように肺に、体の隅々に行き渡るように。竜の身体は、本気で息を吸い込むと、想像以上に大量の空気を取り込むことが出来た。
言葉を発しようと口を動かす。初めの一言から、きっちりと息を吹き込む。一言一言を意識する。街に、広く伝わるイメージをする。
そして、言葉が音となる。魔力を伴って。
「街のものよ! 此度の危機は去った! もうこの森にすむ鬼蜘蛛はこの街には手を出さないだろう! この私、灰竜カースが、保障しよう! そして、ギルドマスターと冒険者たちよ。私の仲間がギルドの建物に穴を開けてしまってすまない。それはこちらで補修して行こう。かなり丈夫だから、しばらくは問題ないはずだ。完全に治せずに申し訳ないが、あとは、順次修理して行ってくれ!」
……おや? 魔力?
しかし、そのように疑問に思っている暇はなかった。その声はかすかにではあるが、街から聞こえた。よく聞いた事がある声で、しかし、意識して聞くことはあまりない声。自分自身の声である。
すぐ隣で、アイリーンが魔力の正体を話した。
「流石、カース様です。まさか声に魔法をお使いになられるとは」
ああ、成程。魔法ね。そうね、きっちりとイメージしちゃったもんね。そうかー、こうやって勝手に発動することもあるのね。こりゃ、なんかイメージしてしようとするときは少し気を付けるべきかも。まあ、実害が出てないなら別にいいんだけど。
ともあれ、イメージの内容から、そして街から聞こえた声から俺の言いたい事は確実に街に伝わったであろうことが理解できたし、さっさとここを離れるか。
「さあ、アイリーンよ。行くぞ、乗ってくれ」
「はい。……あ、すいません、少々お待ちください」
アイリーンが、クレーターの中に下りて行く。
なんだ? なんかあったのかな?
どうやら、クレーターの中で何か拾ったようだ。
「どうした?」
戻ってきたあたりで聞いてみる。
「いえ、少し、思う所がありまして。見届けさせてやろうかと」
? さっぱり何のことかわからない。でも、なんかスゲー満足そうな顔をしているし、まあ、いいか。
「そうか。まあいい。今度こそ行くぞ」
「はい。それでは失礼します」
今度はさっきとは違いすぐに足に乗ってくる。
「今回は屋根の補修をしなければなりませんので、途中までは、この位置に居させていただきますね」
ああ、そうか。そりゃそうだ。この街に来た時のように頭の上に居るとやりにくいよな。
「そうだな。よろしく頼む」
「はい、お任せ下さい!」
お願いすると、今まで通りに素晴らしい笑顔で了承してくれる。
「よし!」
日は未だ頭上を越えて少し行った辺りに居る。二時とか三時くらい?
一日もいなかったはずなのに濃厚な日だった。いや、まだ陽が沈むまでには少しかかるが。
「さらばだ。ネウルメタ。また、此処に来ることを楽しみにしているぞ」
大変ではあったが、楽しかったネウルメタに別れを告げて。そろそろどこか別の場所へ行こう。
せっかくこの世界に詳しい仲間がいるわけだし、存分にこの異世界を楽しもうじゃないか。さて、次はどんなものがあるかな?
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カースが飛び立った後の砂漠には三人の人影があった。
アイリーンが助けた、グランド、アルマ、ザックの三人の冒険者である。
「……本当だったんだな」
グランドはぽつりと呟いた。確かにアイリーンに、疑う理由も無い、と言いはしたが、所詮それは建前であり、実際には猜疑の目を向けていた。
「そうね。まあ、あれほど強かったんだから、おかしくはなかったのよ」
そのつぶやきに、アルマは何かしら察していたのか実に軽く答えた。
「すごかったな。まるで、嵐みたいだった」
ザックがその場の空気に飲まれたかのように呆けて言った。いや、実際に飲まれてしまっていたのだろう。先ほどまでカースが居た空間は、カースが飛び立った防壁とは比べ物にならないほど濃密な魔力が満ちていたのだ。その魔力は、カースが降り立った蜘蛛の集団の中心部からさらに離れた、避難した位置にいた三人の下にまで及んでいた。
それが一体どれほどの魔力であったのか、想像に難くは無いだろう。
「そうだな。竜様の周りが歪んで見えた。しかも、僅かに霧が漂っていた」
「俺、竜様がああして魔力を使うの、初めて見たよ」
「私だって初めてよ。そもそも竜様が魔力使うのなんてだいたいの人が初めて見るでしょ。ねぇグランド」
普通は、神殿仕え、鍛冶師、薬師、森人族と言った特殊な職業、種族でもなければ王都に住む王国民くらいしか一般人が、竜が魔力を使う所などそう見る機会は無い。
「ん? ああ、そうだな。俺は見た事あるが、普通はそうだろうな」
しかし、グランドは偶然ではあるが今回のほかに見た事があった。
「そうそう、そうよね――え?」
「ほら、五年くらい前に王都で森の魔物の氾濫があったろ」
そう。グランドたちはちょうどその魔物の氾濫の時に居合わせたのだ。魔物の氾濫自体は、魔物が多く生息する場所では偶にだが起こる。しかし、それが起こったのが火竜が住む王都だった。
「あ~、もしかしてその時?」
ザックが僅かに嫌そうな顔をして尋ねた。見ればアルマも渋面を浮かべている。
「おう。そん時だ。お前らが運悪く寝込んでた時」
何故同じパーティ内で見た事が無い者が居るのか。それはごく単純な理由だった。その時二人は森にすむヒドラ―と言う魔物に毒を喰らわされていたのだ。
ヒドラ―とは魔力の森に僅かに住んで居る魔物で、吐く息と血に毒を持っている。アルマとザックはこのヒドラ―と相対した時、きっちりと倒しはしたものの、血をよけきれず浴びてしまったのだ。この時グランドはきっちり避けていた。
基本的にヒドラ―の毒は吐息に猛毒を含んでいるのであって、血には致死性と言う意味ではそれほど強い毒性はない。しかし、それでも戦闘を中断するには十分な毒で、内容はめまい、吐き気、浴びた部分の軽いしびれ、場合によっては幻覚や、魔力障害と言った厄介な物だ。結果、二人は寝込んでしまったのだ。ちなみにだが、この時はまだフィーリアは仲間になっていない。この、寝込んだ神殿で臨時の治癒師として働いていたところを反乱が終わってからスカウトしたのだ。
「あの時、あんまりにも魔物が増えてきたもんで、火竜様が焼き払ったんだよ。ありゃ、すごかったぜ」
グランドはその時の事を思い出しているのか、何処となく感動したような表情を浮かべていた。
「何で話してくれなかったんだよ」
ザックが羨ましそうに言う。アルマも似たような表情をしていた。
「言ったさ。氾濫が終わったら真っ先に自慢しに。でもお前らまともに話を聞けるような状況じゃなかっただろうが」
「うぐう」
まるでカエルを潰した時のような声でザックがうめいた。しかし、実際にその通りだった。この時グランドは寝込んだ二人に一応聞かせていたのだが、グランドが会いに来ていることに気付かないほど衰弱していたのである。
「ま。またいつでも話してやるよ。それより、そろそろ街に戻ろう。さっきの竜様が冒険者って言ってたしフィーリアは街にたどり着いたと思うが、俺たちがいつまでもここにいるといい加減フィーリアが心配する」
「そうだな。今度はフィーリアも交えて事細かに聞かせてもらおうかね」
「そうね。そうしましょう。お酒でも飲みながら、ね」
「つぎはどこに行くかも決めておきたいな」
グランドがふと思い出したように言った。
「そうだな。まあ、グランド任せになるだろうけど」
「私としては、革鎧の修理と薬の補充がしたいわね」
「俺も、武器とか見たいわ」
「そうなると――」
そのまま、雑談を交わしながら彼らは街へと歩き出した。
彼らの間には先ほどまであった、暗い雰囲気はすでになかった。しかし、次に目指そうとしている場所は、あまり雲行きが良いとは言えないかも知れない。
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時を同じくして、ネウルメタから僅かに離れた、荒地。その殺風景な風景の中、大岩に立った一人の男が居た。
「ほ~お。おもしろいのがいたなあ。これはあ、奴らを誑かした甲斐があ、あったってもんだあ」
その妙に間延びした喋り方の男は、にたぁ、と笑った。視線は未だ、小さいながらも空に見える竜と蜘蛛を追っていた。
しかし、その表情もあまり経たないうちに不機嫌そうな、何かを惜しむような表情に変わる。
「おおっとお、いつまでも、こおんな目立つ場所に居るわけにはあ、いかねえ。何処にいるか分からねえ、あのやろおうに見つかる前にい、帰るかなあ」
その言葉だけを残し、男は音もなくその姿を晦ました。その身のこなしは、まさしく実力者のそれだった。
まるで、不穏な空気を煽るように、風が虚しく、砂を巻き上げた。




