ネウルメタ蜘蛛騒動1
前回のギルドの描写をほんのちょっと修正。物語に影響はありません。
「──締めて、金貨4枚と小金貨3枚、小銀貨3枚、大銅貨1枚、銅貨4枚になります」
この店に案内してくれた店員の声が聞こえました。
ふむ、それなりの金額になりましたね。
「さて、アーシー。ここは私が、相席していただいたお礼もかねて、金貨分は払いましょう」
流石に、すべて払うのは相手に無駄に申し訳ないと言った感情を持たせてしまうため遠慮します。それでも、御礼などの意味を込めて金貨分は払うと申し出ました。
ちなみにアーシーはこの店で相席した、150cmほどの身長と、焦げ茶色の、肩にぎりぎり届かないくらいの長さの髪の少女です。
そのアーシーは、私の言葉を聞くと慌てて返事を返してきました。
「そ、そんな! 申し訳ないですよ! 相席は、このお店のシステムですし、別に、私は何もしていません。それなのに、金貨の分を全額だなんて……」
おや、この金額設定ではだめでしたか。それでは、金貨三枚くらいですかね?
「それでは、このぐらいの金額を――」
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結局、私たちの話し合いは、次々出される提案の中間案を取る事でそれなりに早く済みました。その時ちらっとカース様の様子を窺ったのですが、何か不思議な物を見るような表情で私たちを見守っておりました。……はて? 何かおかしなことでもあったのでしょうか。
店の前まで来たところでアーシーがおもむろに口を開きました。
「今日は、有難うございました。ほんとは、一人で、食べることになるはず、だったのに、お二人のおかげで、楽しく食べれました」
「いえ、こちらこそ。本日は相席をしていただいたうえに、これほど楽しいひと時を提供していただきありがたく思います」
「そうだな。今日は、アーシーのおかげでとても楽しいひと時を過ごさせてもらった。礼を言う。有難う」
「いえ、そんな、感謝なんて、されるようなこと……。でも、もし、恩を、感じてくれているのでしたら、私の友達で、いてください」
おや、何をいまさら。
「もちろんです。私たちは、とっくに友達ですよ? 今も、これからも」
「そうだな。そんな心配はするだけ無駄だぞ? 安心しておくといい」
「っ……! 有難う、ございます。これからも、また会ったときは、よろしくお願いしますね。きっと、どこかで会う、そんな気がしますから」
そうですね、私もそんな気がします。
「アーシーはこの後はどうするんだ?」
カース様が、アーシーの行き先を聞きました。確かに、目的地は特にありませんから聞くのはありですね。
「私は、これでも、拠点が別の町にある身なので――」
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「それでは、また、別の街で!」
アーシーが手を振りながら、一人、道を進んでいきます。とうとうお別れですか。短かったようで
「ええ。また、別の街でお会いしましょう」
「ああ。また会おう!」
私たちも、返事とともに手を振り返しました。
アーシーはしばらく手を振り、そのまま人ごみに紛れて消えて行きました。
確か、あちらは正門の方向でしたか。どうやら、アーシーはこのまますぐに町を出るようですね。
できれば、先ほど言っていた三つの街には行きたいですね。まあ、カース様ならきっと寄ってくれるでしょう。
……おや? 魔力? しかも、竜の気配がする……?
このあたりに竜が来たのでしょうか? だとすれば、やはりカース様に会いに?
ふむ。この気配は、恐らく地竜、ですね。
まあ、こちらから出向く必要は無いでしょう。カース様がまるで気にしていませんからね。
「アイリーン、先ほどの街について知っているか?」
ちょうど、カース様のことを気にしたタイミングで、声を掛けられて、一瞬反応に遅れてしまいました。
「え、あ、ああ。はい。訪れたことが無いので、あまり詳しくはありませんが、知っています。ソールヴィニオン、シャリアルドネ、カルベンネ、それとアーシーが住んでいるヴィアレーリアについてですよね。あ、すいません。ヴィアレーリアについては行ったことがありましたね」
そういえば、カース様は生まれたばかりでしたね。それなら、聞きたくなるのもおかしくありません。先ほど、アーシーとの会話で忘れたふりをしていたようでしたし、アーシーには聞けなかったのでしょう。聞いてしまえば、忘れたふりは無理がありますからね。
「ヴィアレーリアだけに行ったことがあるのか? ほかの三つの場所は――」
さて、出来る限り思い出しましょう。行ったのは、竜を探し始めてすぐのころでしたからね。
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「――他にも例を挙げるなら、女帝麻痺鶏や、虹色雨蜥などは魔力感知が得意ですね」
「女帝麻痺鶏、虹色雨蜥?」
あ、そう言えば知りませんよね。
「ああ、女帝麻痺鶏はまあ、鶏の魔物です。虹色雨蜥は、珍しい虹色の蜥です。どちらも、あまりお気になさらなくても問題ありませんので先に進めます。それで、その魔力の焼き付けなのですが、魔力を読み取る魔道具を使うんです。しかし、その魔道具では、強大過ぎる魔力までは読み取れません。と言うか、暴走しそのまま爆発します。魔道具の原理が理由らしいんですが、まあ、今はそっちよりも爆発することが重要です。実は、過去に風竜様が、カース様のようにギルドに登録しようとしたんです」
鶏や蜥蜴などは気にしなくともよいのです。あんな、鬼蜘蛛と知れば、突っついたり舐めたりしてくる生き物など。
それよりも、カース様に風竜の結末をお伝えしなければ。正直、ギルドの人間がどうなろうとさほど興味は無いのですが、カース様は心配です。爆発程度でどうにかなるとも思えませんが、万が一がありますからね。
「その結果は当然、大爆発。ギルドの建物自体が吹き飛ぶほどだったとか」
カース様は、僅かに驚いた顔をした。
「その結果、水竜様よりすべての竜様に対して、ギルド登録禁止と言う文言が出されたのだそうです。また、ギルドに対して、強大な魔力を持つ存在、上位の魔物などに対して厳重な警戒を行うようにとの指示が出されたのです。なので、私もカース様も恐らく登録は出来ないかと」
「正直、その話をされてまだ登録に行こうなどと言うほど常識を捨てたつもりはない。それより、その話の爆発による、けが人やなんかはどうなったのだ?」
「あ、そちらは、風竜様がお守りしたため、建物以外被害はゼロだったそうです」
「そ、そうか」
ふむ、カース様は人間を気にする方でしたか。まあ、他の竜もすべての種族を気にしていますし、おかしなことではありませんね。
ただ、そうなると私も、さほど興味が無い、などと言ってはいられませんね。少し気を配りましょう。
「まあ、それでも、ギルドがどういった建物かは見ておきたい。頼めるか?」
頼む、だなどと、私がカース様の頼みを断る筈もありません!
おまかせくだ……む?
森から、来ているのは知っていたが、これは……。徐々にネウルメタに向かってきている?
アイツ等……! よりにもよってカース様のいらっしゃるネウルメタにあれほど、殺気を漲らせて何をしに……!
ここでアイツ等を放置するのは簡単だが、何やら人間の気配もする。カース様は人間を気にするだろう。カース様の配下であるのならば、此処はアイツ等を止めに行くべきだろう。
っと、つい、戻りかけたがこのままの口調ではいけない。今はカース様がそばにいる。
「……すみません。カース様のお願いを断るのは非常に心苦しいのですが、少々、外せない用事が出来てしまったようです。一度、単独行動をお許しいただけませんか?」
私の言葉を聞いて、カース様は少しだけ不安そうな顔をしました。
「それは構わないのだが、その用事とやらが終わった後に合流する手立てはあるのか?」
どうやら、合流の事まで考えて下さっていたようでした。
あの程度の輩のためだけにカース様のお手を煩わせるわけにはいきません。
それにしても、カース様に不安な顔をさせるとは、アイツ等確実に潰す……!
「はい。確実に問題ありません。私たち、鬼蜘蛛全員……かは分かりませんが、私自身は気配探知には優れているつもりです。少なくとも、一度認識さえしてしまえばこの街全域を、私たちが入ってきた防壁の所から把握するくらいは可能です。なので用事、いえ、本来ならば雑事と言い切ってしまっても良いのですが……ともかく、つまり目的を果たし次第、カース様が何処に居ようとも、確実かつ迅速に合流を果たして見せます」
ええ。確実に、この世界の、どこに居ようとも、探し出して、合流して見せます。
「わ、分かった。それさえ知れれば何の問題もない。俺は、アイリーンを頼りにしているからな。アイリーンが帰ってくるまでゆっくりしているよ。だから、アイリーンも慌てる必要はないから気を付けて行くんだぞ?」
『頼りにしてる』。
今まで、頼まれる事はあった。でも、今はっきりと『頼りにしている』と言われた。
私は必要とされている。今、頼りにされている!
ならば、それに答えない訳にはいかない。
「はいっ、承知いたしました! 一切の被害も許さずに、確実に処理してまいります!」
さて、じゃあさっそく行動に……っと、危ない危ない。忘れる所だった。確かに、カース様の頼みごとを断ってしまう事にはなったが、せめて場所だけでもお教えしなければ。
「あ、ギルドはあちらに見える大きめの黒色に黄色の縁取りの建物です。もしよろしければ、時間つぶしにでもご利用ください。それでは行って参ります!」
「あ、ありがとうございます? 行ってらっしゃい?」
何やら、カース様のお言葉が困惑しているように聞こえたが気のせいだろう。
さあ、今度こそ行こう。取りあえず、一番近くの鬼蜘蛛の元に急がねば。あの位置はもうネウルメタが見える位置だし。
おや、そう言えば口調が戻りっ放しだったか。まあ、カース様と話すわけでもないし取りあえずはいいだろう。
私は、正門の方面に駆けだした。かなりの速度で。
人ごみを、隙間を縫うように抜けていく。結果、ほぼ一息で防壁に到着した。恐らく、街の人間にははっきりと何が通ったかは分からないだろう。
後はこの壁を越えるだけ。しかし、到着した時の勢いのままジャンプして越えようとすると、力が入りすぎて地面を砕きそうだ。なので、糸を壁の向こう側に貼り付け、糸を思いっ切り縮めつつ壁を、足を添えるように蹴りつけ舞うように壁を超える。
ちょっと飛びすぎたか? まあ、問題は無いか。ここは櫓の影だし。頂点辺りで、櫓の兵士と目が合った。こんにちは。
そのまま、流れで砂地に着地する。
その時、今まで感じていた鬼蜘蛛の気配が止まった。どうやら、逃げ続けていた人間が居たのだが、とうとう追いつかれたらしい。
「コレは、被害を出さない、と言う考えで行けば助けなければ不味いか。仕方が無い。もともと急いでいたんだし、ちょっと、本気で走ろう」
意識して力を込める。足元は砂地。あまり踏ん張りはきかない。しかし、蜘蛛糸で網を張り足場を作る。
「はっ!」
強化された地面を蹴る。
ボスン。
その音がしただけで、景色が流れていく。
ふむふむ。流石に少しは勢いが吸収されたか。しかし、これでも鬼蜘蛛の元に行くには十分だろう。まあ、次までには改良しておこう。
そして、あっという間に目の前に四匹の鬼蜘蛛と、それに囲まれる人間の女が現れた。
ドンピシャ!
ちょうど、鬼蜘蛛がその鋭い前肢を振り下ろそうとしているところだった。そこにそのままの勢いで回し蹴りをブチ込む。
メゴォ! と何かが砕けるような音がしたと同時に蹴られた蜘蛛が、消えた。
おっと、このままだと私も通り過ぎるな。
咄嗟に腕のみを蜘蛛の脚に戻す。
その際、服を操作し、袖を肩あたりから袖口に向かって、円錐のような形に広げ、脚を出しやすくかつ、動きやすくする。
それぞれ三本ずつの計六本で、砂をかきながら勢いを殺す。
甲殻が擦れる音と共に砂煙を引きながら、何とか三匹と一人の集団の僅かに前方の辺りで停止することに成功した。
屈むようになっていた姿勢を起こし、女に問う。
「怪我は?」
被害を出さないと言った手前怪我をされていては、面目が立たない。まあ、はるか前方にいる三人組はもう怪我くらいしているだろうけど。あっちは、気にし始めたときにはもう、戦闘が始まっていたので数に入れない。
「……へ?」
私の言葉に女は呆けたような声を上げた。
「だから、怪我はないか、と聞いたんだ」
「け、怪我は無い、けど、あなたは……?」
どうやら無事らしい。そして、何故か名前を聞かれた。まあ、確かに、こんな登場の仕方ならば訝しんでもおかしくは無いか。
前までの私で有れば答えられなかったが、今の私にはカース様に付けて頂いた、列記とした名前がある。なので、それを堂々と名乗ってやる。
「私はアイリーンだ」
しかし、私の名前を聞いてもなぜか女の態度は変わらなかった。何というか、警戒しているような雰囲気だ。
なんだ、私の名前が不満か? 殺すぞ?
「そ、そうじゃなくて……。そ、その腕、一体貴方は何者……? 私を助けてくれたの?」
ああ、そう言う事か。確かに今の私の腕は、膝あたりまである蜘蛛の脚。もともと着ていた服が長袖だったため、脚の全容は見えていない。しかし、袖口から溢れるようにきちきちと蠢くそれはさぞ異形に見える事だろう。
それに加え、勢いよく走ってきたため外套はめくれ、隠していた小さな角も露出している。、幸い目元の赤い点は模様か何かだと思っているのかさほど気にしている雰囲気は感じないが、目の前の女が角のことを気にしているのは、その視線から明らかだろう。
ちなみにこの赤い点はすべてが目である。
「私は鬼蜘蛛。新たに誕生された竜、カース様の配下だ。だから、この場にはお前を助けに来たことになるな」
「え? え? 新たに誕生した……竜? カース……。聞いた事が無い。でも、一撃で鬼蜘蛛が一匹消えた。本当に生まれたばかりの竜が居るの? あれ、そういえば鬼蜘蛛って言ってなかった? 同士討ち?」
私の宣言を聞いて何やら小声でぶつぶつとつぶやき始めた。丸聞こえだが。
せっかくなので軽く答えてやる。あと忘れているようだから一つ指摘してやろう。
「確かに同士討ちだが、私はカース様の配下だし、気にしないで良い。それと、忘れているようだから言っておいてやるが、今お前は鬼蜘蛛三匹に囲まれていることを忘れているぞ? 気を抜き過ぎじゃないか?」
そうなのだ。この蜘蛛たちは私が止めているだけで、未だこの女は助かった訳ではない。まあ、私が助けるつもりでいる時点で、どうあがいても助かってもらうのだが。
補足として、どうやって蜘蛛を止めているかといえば、蜘蛛糸で……というわけではなく、威圧によって、である。
過去に火竜から受けた威圧を真似した物である。まだうまく使えているわけではないが、この数年間で練習して大雑把には形になっていた。
それを、目の前の女には影響が出ないように気を配り使用したのだ。
私の言葉をはじめは、何故聞こえていたのかと言ったような表情で聞いていたが、後半の言葉を聞いてはっとしたような、何かを思い出したような表情になった。
「そ、そうだ! 仲間、私の仲間が、森の方で鬼蜘蛛の集団に襲われているの! 早く街に、情報を伝えないと……! 早く仲間を助けに行かなきゃ、みんながっ!」
急にまくしたてるように私に縋り付いてくる。動きを見るに右足を痛めているらしい。ふむ、自分の心配よりも仲間の心配か。
「落ち着け。お前の方が今は危険なんだぞ? それでも仲間の心配か? それにお前は怪我をしているだろう。それでどうやって街まで行くつもりだ」
「でも! それでも、みんなは信じて私を送り出してくれたんです。怪我は、自分で治せます。それに、助けてもらっている立場で失礼を承知で言いますが、貴方ならここにいる鬼蜘蛛をどうにかする程度造作もない事でしょう? どうか、助けてください! 私が街まで行くのを手伝ってください!」
事実だし、別に失礼でも何でもない。この場の蜘蛛も、私の威圧によって弱り切っている。軽く脚を振るえば紙切れのように吹き飛ぶだろう。
それはそれとして、さっき私は助けにきたといった言葉の通り、手を貸すつもりでいる。
初めの、囲まれていることを忘れるな発言は、あくまでも、冒険者としての心構えを教えるためだし、まるで、手を貸さないような言い方をしたのは、ちょっとした興味からだ。
ただし、街まで行くのを手伝ってくれなどと、まるで私一人では、この先にいる三人を助けられないというような物言いだけは気に入らない。
「初めに言っただろう。この場にはお前を助けに来たことになる、と。だから手を貸すのは問題ない。実際、此処にいる鬼蜘蛛など造作もない」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
私がそう言うと、女は目を見開き、エサに食いつく魚のように反応を示した。
ただし、私の言葉はそこで終わりではない。
「しかし、私ではこの先に居る集団はどうにもならないと言ったような物言いは気に食わない。だから、街までついて行かずに、お前を送ってやろう。私はそのまま、先の集団と合流させてもらう」
そう言いきり、出来る限りにっこりと笑みを作ってやる。
「え? え? な、何をする気ですか……? め、目が笑ってないですよ……?」
おや、しっかりと笑みを作ったつもりだったが、目元が笑っていなかったか。まあ、仕方あるまい。
「さて、それならば、さっさと周りのごみを片付けようか。善は急げ、だ」
女の言葉には得に答えず、さっさと行動に移す。と言っても、一瞬だ。
先ほど考えていた通りに、脚を一閃、振るっただけである。
たったそれだけで、ここには私とこの女しかいなくなった。辺りは、巻き上げられた砂煙が、ネウルメタの防壁のように壁を築いている。
「ほえ?」
今日何度目か分からないとぼけた声を女が漏らした。しかし、これで終わりなわけがない。もう二、三度、とぼけてもらおうか。
「さあ、次だ」
そのまま、女に対して糸を放った。
きゃっ、という可愛らしい悲鳴を上げ女は糸に包まれて行く。その際、直接巻かずに空間を持たせて球体にする。
そして、砂煙が晴れるころには、一つの白い球が出来上がっていた。大きさはだいたい私の身長より少し高いぐらい。当然中には先ほどの女が入っている。
私がその出来に満足していると、作業が終わったのを察したのか、中からくぐもった抗議の声が聞こえてきた。
「な、何をするんですか! いったい何をする気ですか!」
「そんなもの決まっている。お前を、ギルドに送り届けてやろうとしているんだ。なに、ちょっとした仕返しだ。身の安全は保障してやる。それと、着いた後のその糸は好きにしていいぞ」
「え? お、送り届けるって、もしかして――」
お、気付いたな。その、もしかしてだ。じゃあ、快適な空の旅を楽しんできてくれ。外は見えないが。
「それじゃあ、行って来い!」
私は、全力で蜘蛛の糸の球を蹴り上げた。
ズガン!
「きゃあぁぁぁぁぁああああ!!」
まるで何かを強力な魔法で撃ち抜いたかのような音と共に球は、悲鳴と一本の糸の尾を引きながらネウルメタ上空へと飛んでいった。
「よく飛ぶな」
軽くつながったままの糸を引っ張る。
制御は……良し。正常にできているな。糸を通して、多少雑音が混じるが、音も聞こえる。これなら問題ないだろう。
さて、あの三人組はどうなった?
……ほう。だいぶ近づいて来ているな。しかし、あの数相手に善戦している。かなりの腕だな。人間と闘った事は無かったし、終わったら一戦申し込んでみようか。
私は、三人組に向けて軽く駆け出した。
脚は未だきちきちと音を立てている。
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さて、アイリーンに教えてもらった通りに、ギルドにでも向かおうかな。他にやる事もないし。
と言う事で俺は今、大通りを歩いている最中だった。少しばかり遠回りになるが、下手に道を逸れると迷子になりそうだし、屋根だけを頼りにショートカットは出来ない。。
俺は、高校の入学式の次の日、道に迷って一限目に遅刻したと言う程度には方向音痴だった。なので、こういった時に無茶をするのはよくないのだ。
しかし。ただ歩いているだけではイベントも起きるような事は無く、きっちりと二、三分後には迷子になっていた。
「おかしい……。ただ、普通に歩いてきただけなのに何がいけなかったんだ。もしかして、あの時こっちに行った気がする、と言うあやふやな記憶だけで進んだのがまずかったのか、それともあのときか? いや、あの時な気も……過ぎた事は考えても仕方が無い。今どうするかを決めようじゃないか」
うじうじ考えていたって仕方が無い。取りあえず、こういう時の鉄則、引き返す、を使おう。
くるりと、後ろを向いて気が付く。
「あれ、これ知らない道だ……」
ノリで進んできたのがいけなかったのか。
振り向いてもそこは、異世界だった。
辺りを見回す。どうやら、裏路地、と言う訳ではないが、それなりに人気の少ない、いわゆる生活道路に来てしまったようだ。
こういう時は、人に聞く、と思ったのだが、あかん。人がいない……。
その時、がさりと言う音がした。振り向いてみれば、出店の商品をいくつか持った少年がこの道に入ってきたところだった。
ちなみに、この世界の出店にビニール袋などと言う便利な物は無い。くれるのは、大きな植物と思しきものの葉っぱを、謎の繊維で編んだ、取っ手も謎繊維でできた袋もどきである。実はこれ、意外に丈夫で何かと重宝しそうなので、丁寧に畳んで、数枚所持しているし、実際すでにエベレスイートのケーキを二つ持って帰るのに使用している。お持ち帰りで、注文しておいたらしい。
少年も、その袋を片手に持っていた。もう片手には、岩窟丸鳥の焼きとり。
あ、やべ。満腹だったはずなのに、見てたら食いたくなってきた。後で、もう一回寄っておこう。
っと、それよりも早く話しかけなければ彼が行ってしまう。最悪、此処で孤独を愉しんでいてもアイリーンが迎えに来てくれるはずなので、問題は無いが、一人でギルドくらいは行きたい。
「申し訳ない、君。少しいいかな?」
こういう時、俺はそこまで人見知りしない。別の事で慌てていることもあり、どうせもう会わない、合っても気づかないだろう、と言った考えで、それなりに話せる。
「ふぁい?」
彼が、口に焼き鳥をほおばりながら振り向いた。見た目も、何処にでもいそうな少年。大通りでこんな服装の子供をよく見かけたような気がする。
子供が一人で出歩いているなんて、意外と治安がいいんだな、この街。小説とかの影響からか、こういう世界だと人さらいなんかが横行してそうなもんだけど。
ただアイリーン曰く、奴隷とかは居るらしいが。
「ちょっと迷ってしまって、道を教えて欲しいんだ」
彼は、んぐ、と焼き鳥を飲み込むと、明るく言った。
「良いですよ。何処へ行きたいんですか?」
「ああ、ええっと、ギルドに行きたいんだ。この街には来たばかりで、地理には明るくなくて……」
俺が行先を告げると彼は、どこか驚いたような顔をした。
「ギルドに行きたいって、お姉さんもしかして、登録する気ですか?」
お姉さん……ああ、そう言えばそんな見た目だった。やっぱり全然なれないな。
「いや違うよ、せっかくこの街に来たんだから、ギルドも一度見て見たくて」
「あ、成程。早とちりしてしまいました。ごめんなさい。それで、ギルドの場所でしたっけ? それでしたら、僕が来たこの道を大通りまで言って、そのまま左に曲がればすぐですよ」
おお、割と近そうだ。
「謝る必要はないよ。むしろ、教えてくれてありがとう」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。それではお気をつけて」
そのまま、彼は手を振りつつも行ってしまった。
俺も、軽く手を振返しながらギルドに向かう。
彼が言っていた通り思っているよりもずっと早く大通りに出た。そこから、すぐにギルドの正面に着くことが出来た。
「あそこって、思った以上に近かったんだなぁ」
呟きつつも、俺は、目の前の建物が纏う異世界感に圧倒されていた。
やっべえ。超異世界っぽい。
扉をひっきりなしにくぐる者は大抵が何かしらの武装をしている。革鎧を着て武器も、剣や槍、弓と言ったようなものから、黒ローブに杖の様なべたな物まで様々だった。
ギルドは、日本の一般的な民家の屋根をドーム型にしたような二階建てという外見をしていた。規模は、それなりに大きく、日本で言う豪華な民家と言った程度だ。
一瞬とはいえ、呆然としてしまったが、目の前でガシャガシャ音を立てて歩く冒険者に、現実へと意識を戻した。
鉄鎧もあるんだな、一回着てみたいわ。革鎧もだけど。
っと、そろそろお待ちかねの入場でもしようか。某ハンターゲームのようにギルドボードに依頼とか貼ってあるのかな? アイリーンには冒険者については聞いて居ても、建物内の様子については聞いてないからなぁ。
絡まれるのか絡まれないのか若干期待しながら、重そうな木で出来た、曇りガラスが付いている扉を押し開けた。
通行の邪魔にならないように僅かに横にそれてから、辺りを見回す。
中は、人であふれかえっていた。若干アルコール臭もする。てっきり男性ばかりかと思っていたが、それなりに女性もいるようで、固まって行動している集団や、二人組、一人でなんていうパターンもあった。
片側の壁際の丸テーブルやいすが、セットでいくつかおかれている空間はそこまで人は多くなく、集まっているのはそれとは反対側の壁際の様だ。
「おお……。すげえ……」
あれは休憩スペースかな? 何というか、こういう光景を見ていると、異世界に来たんだなぁ、と言う感情が湧き上がってくる。ただこんな時でもやっぱり、そこまで地球を懐かしいとは思えなかった。転生した影響か?
「まあ、いっか。取りあえずあの人だかりに何があるのか見に行くかな」
どうしてもああまで賑わっていると気になってしまうものだ。
っと、そう言えば何の目的もなく来ちゃったけど、問題は無いのかな? ……まあ、何か言われてから考えればいいか。
さっそく、と一歩踏み出そうとしたとき、ふいに背を向けた休憩スペースみたいなところから声を掛けられた。
「おいおい、お前みたいな小せえ子供が一体何の用だぁ?」
声に吊られて振り返ると、クマみたいな大男が気持ち悪い笑みを浮かべて話しかけてきていた。
うわ、酒くっせえぇ……。このおっさんすげえ酔っ払ってんじゃん。何か言われたらとは思っていたけど、お前みたいなのは望んでない。あ、でもテンプレな絡みと言う意味ではアリかもしれん。
よく見れば、おっさんの後ろにも、ひょろっちい酔っ払いがこっちを見ていた。多分仲間だろう。
おっさんは、大きさ太さは二倍程度違うが、バットみたいな形の棍棒の様な物を腰にぶら下げている。
ひょろ男は、小太刀を二本腰にぶら下げていた。
足元は共にふらっふらとまではいかないもののかなり酔っていそうだ。。
「あ、あにきぃい~、どうしたんですか~」
喋りもひょろかった。
「おう、ここに子供がいるんでなぁ。しかも一人で来てる見てえからちいと話をなぁ」
「そりゃ~いけませんねえ~、こんなところに一人でなんて」
意外に呂律も回っているな。
「確かに一人だが、そこまで子供でもないから、心配は無用だ」
絶対に心配しているわけではないだろうが、一応そう言ってみる。
「へえ、それなら問題ねえや。どうだい嬢ちゃん、ちょっと俺達と付き合わねえかい?」
絶対に御免こうむる。ってか、そもそも、男だって訂正すればいいような気もしないでもないが、それすら面倒だ。なんか、さらに絡んできそうで。
「へへへ、鬼蜘蛛狩りって言えば、流石にあんたくらいの歳でも知ってるでしょう? もっともBランクに近いCランク、それが~俺達のことよ!」
へえ、鬼蜘蛛ってアイリーンの種族だよな。ああ、アイリーンは紫鬼蜘蛛か。ともかく、あその鬼蜘蛛を狩ったのか。それはすごいな。ただ、そのもっとも~はダサいと思う。あと、喋り方うざい。酔ってるからかな?
「いや、この街には来たばかりで、知らない。すまないが失礼させてもらう」
正直、こいつらに付き合っているのも馬鹿らしいので、さっさと人ごみに行こうとしたのだが、食い下がってきた。
「まあ、まあ、いいじゃあねえかよぅ。知らねえなら教えてやるよ、身体の芯までなぁ」
そう言って、げへへと笑う二人。
シンプルに下種そうな奴等だった。
とりあえず、見回してみるが、皆目が合っても関わってこようとはしない。まあ、面倒事には関わりたくは無いわな。
仕方が無いので無視を決め込み、去ろうとしたのだが、歩こうとしたとき腕を掴まれてしまった。
「おぅい、おいおい、つれねえじゃねえかよぉ」
ぞわっと、身体中に鳥肌が立つ。
「勝手に触るな」
反射的に振り払おうとした――のだが、耳にヒュー、と言う何かが降ってくるような音が聞こえ、思わず動きを止めた。俺の耳は転生してから非常に良くなっている。そのため、僅かにその音が聞こえたのだ。
そして、その時こいつらに、天罰? が下った。
バキバキバキッ!
天井が砕け散る音と共に白い物体が視界を遮って、地面に刺さった。
これは、毛玉? いや、なんかこの糸、見た事あるぞ。……そうだ、アイリーンの糸だ。それの球? なんで空から? まさか、監視されている!? いやいや、それは無いな。多分。
とりあえず降ってきた天井を見上げてみる。そこには、空まで見える大穴と、それを補強するように張り付いた白い糸が見えた。
なんで、降ってきたのかは分からないが、少なくともアフターケアは完璧か。あ、いや、穴あきっぱだから完璧ではないわ。辺りを見回してみたが、けが人はあの二人組以外はいない。まあ、けが人が二人組だけってことだし、良しとしよう。ちなみに、あの二人組は白い球の下敷きになっている。
ギルドの中は先ほどまでの喧騒がうそのように静まりかえっていた。
暫く、俺も含め誰も声を発さない状況で、唐突に変化は起きた。球が、割れたのだ。
まるで、ガチャガチャよろしく横に真っ二つに割れ、上半分が開いて中から出てきたのは、一人の女性だった。頭を抱えて蹲っている。
「大丈夫か……?」
どうすればいいか、状況がよくわからないので、適当に声を掛けた。この子に何かアクションを起こしてもらわないと話が進みそうにない。
「う、うう…。あれ、此処は? 私、生きてるの?」
おい、アイリーン。この子に何をした。第一声が、生きてるの? っておかしいだろ。
「ああ、何かよくわからんが、お前は生きてるぞ」
下敷きになった奴等は分からんがな。ま、アイリーンが何とかしてるだろう。天井がああだったし。
「へ? あ、貴方は? ここはどこですか?」
「私はカース。そしてここはネウルメタのギルドだ」
「ネウルメタ……、ギルド……。はっ! そ、そうだ、早くマスターに伝えなきゃ! みんなが! 女の子が、蜘蛛なんだけど一人で!」
なんか、すげえ慌ててるな。何が言いたいのかわからん。
「ひとまず落ち着け。私はここに来たばかりだから、よくわからん。まず、深呼吸して、それでから、マスターとやらに話に行け」
「あ、はい。すー、はー……。良し、っとその前に、《回復》!」
ん? 魔法か? なんか唱えてたな。へえ、そういうやり方もあるのか。でもシンシアは唱えたりだとかはしてなかったな。場所によって違うとかかな? 俺も真似してなんか唱えようかな。適当に名前付けて言うだけでも雰囲気でそうだし。
俺が、そうやって感心していると、彼女はゆっくりと立ち上がって声を張り上げた。
「みなさん! 落ち着いて聞いてください! いま、ネウルメタに鬼蜘蛛の集団が迫ってきています! 誰か、ギルドマスターを呼んでください。詳しくはその時に話します!」
その言葉に周囲がざわざわと色めき立った。
「おい、鬼蜘蛛だと? Aランク冒険者がパーティで相手をするよな魔物じゃねえか」
「マジかよ……」
「うそよ、鬼蜘蛛の集団なんて勝てるわけないじゃない」
「早く逃げなきゃ……」
「腕が鳴るな」
色々な感想が聞こえるな。鬼蜘蛛ってAランク冒険者のパーティが相手をするような魔物なのか。
一人やる気満々の奴もいるみたいだが。
「私が、ギルドマスターだ。その話、本当ならば、ここにいる冒険者も無関係ではない。ここで話してはくれないか」
ざわざわしていると、何やら、白髪の、同じく白いひげを生やした、老人のはずなのにどこか精悍な印象を覚える男が人ごみの中から進み出てきた。どうやら、あの人ごみの中に階段があったらしい。
「わ、分かりました」
彼女は、その老人の雰囲気に気圧されながらも話を始めた。
……なぜ俺を挟んで話をするのか。すごく気まずい。
==========
「そうか……。森から蜘蛛が……。しかも、竜の配下を名乗る女性が一人で、か」
ギルドマスターが確認するように言う。
それ多分、俺の連れです。ってか、何してんの、アイリーン。仲間の説得とかか?
「はい。カースと言う竜の配下だと話していました。確かにカースという名前は聞いた事がありませんが、本人は自分を鬼蜘蛛だと宣言ていましたし、鬼蜘蛛四匹を一瞬で片付けてしまった事からも、このギルドの現状を作り上げた事からもその実力は確かです。なので、今は本当に配下であるのかを気にするよりも、その女性が一人で鬼蜘蛛の集団に向かっていってしまった事、そしてそこに未だ私の仲間がいることです」
あ、確定だわ、これ。カースって、もろ俺だし。
「そうだな。一々疑っていても仕方があるまい。それに本当に生まれたばかりで、王国が発表できていないだけかもしれん。しかし、鬼蜘蛛か。グランドたちが居て、その規格外の女性が居るとしても、集団を相手取る時は不慮の事故が起きないとは言い切れんしな。Aランクを、それも上位の実力者を二パーティは欲しい。できればSランクが欲しいが、今は誰もネウルメタに来ていなかったはずだ」
ギルドマスターは確認するように辺りを見回した。
「……ちょうど、Aランクが二パーティか。運がいいのか悪いのか。すまないが、Aランクの二パーティは、直ちにグランドたちの救出に出てくれ。今回はマスター権限を使用しての依頼だ。が、内容が内容だ。断ってくれても良い。その場合は別の案を考えよう。最悪は私が出ても良い。どうだろうか」
ほう、ギルマス自らって事はギルマスって強いのかな。こういうのでよくあるのは、高ランク冒険者が引退して~ってパターンかな?
「拒否するつもりはない。グランドたちも知らない仲ではないしな」
「私たちも同意見だね。アイツラとはたまに飲み合う仲だ。断る理由はないかな」
人ごみの中から男女それぞれ一人ずつが言葉を返す。あの二人が例のAランクのパーティリーダーなのだろう。
「そうか。では頼んだ。グランドたちならばおそらく死なずに、徐々に戦線を下げるなどして食い下がっておるだろう。できるだけ急いで現地へ向かってくれ。それと、確か、フィーリア、だったか。君には案内を頼みたいのだが、行けるか?」
「はい。お任せください」
「頼んだ」
会話を終えると、二パーティと、フィーリアと名乗った女性は準備を始めた。まあ、準備といっても急ぎだからか、ざっと装備の点検をするくらい見たいだが。
「準備ができ次第教えてくれ。私も門まではいく。そこで集団が見えれば、そのまま迎撃態勢を都市の衛兵と協力して整える。見えなくとも、いくつかの班に分かれて迎撃態勢を万全のものとする」
なんというか、ギルド内部の空気がピリピリとしたものになっている。
せっかくだから、俺もこっそりついていこう。
「マスター、準備できたぞ」
先ほどのAランクのリーダーの内、男のほうが代表としてギルマスに告げる。
「わかった。では、ここにいるAランク以下の冒険者に告ぐ。Bランクは、領主に――」
てきぱきと一分もしないうちにすべての指示を行い、ギルドを出立した。
ちなみにだが、例の下敷きになった二人は、毛玉の下で繭のようになっていた。予想通りアイリーンがどうにかしたようだ。
現在は、防壁を目指して、全員が駆け足だ。俺は、その少し後を堂々とついて走っている。
ギルドを出る際に、中にいる冒険者以外の全員に、街まで行く者はついてくるようにと言っていたので、便乗させてもらったのだ。恐らく依頼に来ていた一般人で、家に帰る人たちだろう。俺も実際、街まではいくつもりだったので、嘘は言ってないし問題は無い。
徐々に速度を緩めたのか、気づけば、隣にはフィーリアが駆け寄っていた。
彼女の役割は道案内だが、流石にまだその時ではないのだろう。
「さっきはありがとう。あなたのおかげで冷静になれた」
「いや、お礼を言われるようなことはしていない。ただ、普通に会話しただけだ」
どうやら、お礼を言いに来たらしい。ずいぶん律儀な子だ。
「それがありがたかったんだよ。もう知ってるとは思うけど私はフィーリア。あなたは?」
「私は先ほど名乗ったはずだが、カースという」
「あれ、そうだっけ。ちょっと気が動転してて聞き逃しちゃったみたい。そうか、カースちゃんか」
「いや、私は男だ」
「そうだったんだ。ごめんね。見た目が女の子ぽかったからつい。でも言われてみれば、男の子に見えるね
」
やっぱ、微妙な見た目なんだな。
「いや、訂正したがそこまで気にはしてない。よく言われるし」
「そうなんだ、私だけじゃないんだね」
「ああ。店員にも間違われたよ。ところで、フィーリアはずいぶん余裕に見えるが、いいのか?」
「ん? ……ああ、仲間のこと? うーん、私はみんなを信頼してるから、ね。助けさえ呼べればあとはどうにでもなると思って」
そう話す彼女の表情には先ほどの焦りや、曇ったような雰囲気は感じられなかった。どうやら、本心のようだ。
「そうか。なら問題ないな」
「うん。カース君はどのあたりに……あれ? そういえば、カースってどこかで聞いた気が……」
あ、そういえばフィーリアって、知ってるんだっけ。
どうやら、冷静になって、俺の名前に聞き覚えがある事に気付いてしまったらしい。
ばれたかな? 面倒なことにならなければなんでもいいんだけど。
「あっ! そうだよ、カースって、さっきの女の人が――」
ちょうどフィーリアが何かに気付いたとき、辺りにびりびりと大気を揺らし、爆音が響いた。
「きゃ! な、なに!?」
ああ、これは、嫌な予感がするなぁ。面倒事が向こうから転がり込んでくる予感が。




