新生活、春の香りと腐香
完全に化物語に影響されてますね…!
タイトルも野村美月先生のパクリ!
中々あれですね……!
ゾンビ。
ゾンビの起源はどこかの宗教だっただろうか? その宗教についてぼくは、詳しくは知らないけど、日本では動く死体みたいなイメージを持っている人も多いだろう。
ぼくも実際そんな風に思っていた。
そう、あの子に会うまでは。
一章 新生活、春の香りと腐臭
春。
爽やかな風が吹き、桜が舞って、過去との決別を予感させる。
ぼくは、新生活を楽しみにしていた。
田舎の地元を離れ、先日、合格した都会にある高校に通うために、一人暮らしを始めてから一週間程たったある日。
朝、目覚めると、部屋から、腐臭がしていた。
俗に言う、卵が腐ったようなにおい。だが、ぼくの部屋に腐るような物は置いていないし、仮にあったとしても一晩で、急激に物が腐るはずがない。
腐臭はキッチンからしている。
ぼくは、臭いの原因を確かめるためにキッチンに向かった。
キッチンには、モゾモゾとゴミ箱に頭を突っ込むなにか。
最初は、猿か何かかと思ったが、そこいたのは、とんでもない腐臭を撒き散らす少女だった。
「きみ、ここでなにしてるの?」
ぼくは、当然の疑問を少女にぶつける。
「ご飯を食べているのよ、見たらわかるでしょ?」
少女はここでご飯を食べていることになんの疑問もないように答えた。
待ってほしい。ここはぼくの家だ、ぼく以外の人間がいることはおかしいはずだ。
だが、そんなことよりも、ぼくが驚いたのは彼女が手に持っているものだった。
生肉。
それを、彼女はおいしそうに口に運んでいる。
「……きみが、今食べてるのって生肉だよね? しかも、ぼくの冷蔵庫に入ってたやつ」
「んっ。おいしそうだったから、つい食べてしまったわ。ごめんなさい、あなたも食べる?」
「……食べないよ。というか、そもそもなんでぼくの家に居るのさ」
「あなたのご両親が、ここに住みなさいって言ってくれたからよ」
……一瞬脳がフリーズしてしまった。
ぼくは、携帯電話を手に取り、電話帳から実家の番号を探し、発信ボタンを押す。
……プルルル、プルルル、プルルル。
「もしもし?」
三回目のコールの後、電話にでたのは、母さんだった。
「ねえ、母さん。朝起きたら、母さん達に紹介されて家にきた、とか言ってる女の子が居るんだけど」
「あー、そうなのよ。行くところがないって言うもんだからあんたの家を紹介してあげたのよ」
ぼくは、大きく息を吸って怒鳴った。
「なんで、ぼくの家なんだよ! 憧れの新生活も始まったばかりだって言うのに! それになんであんなにあいつ臭いんだよ!」
「でも、あんた好きなんでしょ? 生ゴミみたいなにおいが」
……ぼくは、黙ってしまう。
実は、ぼくはにおいフェチなのだ。
それも、物が腐ったにおいが大好きな……。
それが原因で中学校では虐められて、高校は地元を離れ都会に出て来た。
「ふざけるなよ! ぼくが、こっちの高校に来た理由を知ってるだろっ!
それにぼくのアパートは女子禁制だ! 仮に住ますとしたって、あんな腐臭を撒き散らしてたんじゃ、大家さんにすぐバレるに決まってる!」
「でも、可愛いでしょ、あの子。きっと暗い青春を過ごすであろう、愛しの息子への母からの贈り物よ」
ぐぬぬ。
確かに可愛い、でも、全体的に腐っている女の子。
いや、そもそもあいつ人間なのか?
「人を見た目で判断するのはダメって、お母さん昔から言ってるよね」
「でもさー」
「仕送り止めるわよ」
「……わかったよ。取りあえず話だけでも聞いてみるよ」
「よろしい」
元々は、すぐにでも追い出そうと思っていたけれど、仕送りを止められてはたまらない。ぼくは、しぶしぶキッチンに戻り、話しを聞くことにした。
「なあ、お前、名前は?」
「人に名前を尋ねるときは、まず、自分からでしょ? それに、ずっと気になっていたけど、相手の名前が分からないからってお前って言うのはやめて。お前って言われるとむっとするわ」
「……勝手に転がり込んできたくせに、ずいぶんと高圧的な態度だな。まあ、いいけどさ。俺の名前は心だ。豆島心」
「知ってるわ。あなたの名前は、孝道と雪子から聞いてたし」
……この野郎。
野郎じゃないけど。
ちなみに、孝道と雪子は、ぼくの父と母の名前である。
「……わたしの名前は」
「名前は?」
やけにもったいぶるな。
「わたしは、ゾンビである。名前はまだない」
「……おい、ふざけてんのか」
「どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも気付いたときから、人に臭い臭いと、虐められていた事だけは記憶している」
「……」
「わたしはここで始めてわたしのにおいを嗅いで嫌な顔をしない人間を見た」
「……コメントしにくいな。腐臭とか言っちゃったし」
「まあ、嘘だけどね」
「嘘かよ! どこまで嘘なんだよ!」
「ベタなツッコミね。嘘は全部。でも、名前がないのは本当よ」
「んっだよ、ゾンビも嘘かよ」
「どうかしらね。ところで今言ったとおり、わたし、名前がないのよ」
……だから、なんだと言うのか。
いや、自分でもわかっている、この後の展開を。
こいつが、このあと発する言葉は……。
「だから、あなたに教える名前はないわ。……どうしようかしら。わたしあなたが名付け親なんて絶対に嫌だし」
「なんでだよ!」
ぼくは、叫んだ。
「普通、ここはぼくに向かって、あなたが名前を付けてって言うところだろ!」
「何よ、わたしの名付け親になりたいの?」
「なりたくないよ! この名無し女!」
「本当に?」
「付けたいです!」
「そこまで、言うならいいわよ」
……ああ、この時点でこれからの方向性が決まってしまった気がする。
彼女がSで、俺がドMで。
しかし、ぼくは名前を付けるという行為に憧れていたのだ。
ぼくの事を裏切らない、友達ができる気がして。
「こういう日が来たときのために、ずっと暖めてた名前があるんだよ」
「自信満々ね」
「……ああ、ずっと待ってたからな」
童貞、ぼっち、虐められっ子。
そんなぼくに、ゾンビとはいえ舞い降りた美少女。
そんな彼女にぼくが、捧げる名前は……。
「妙子だっ!」
「……」
ぶすっとした顔で妙子はこちらを見ている。
「なんだよ」
「昨今、キラキラネームが社会問題になってるからって、奇抜な名前を付けちゃダメ……。なんてことはないのよ?」
「いやいや、奇抜さなんかいらないのさ」
そうだ。
奇抜さなんかいらないのだ。
むしろ、ゾンビの女の子の名前が妙子だなんて、ギャップ萌えを感じさせて最高じゃないか。
「わたし、外見はどちらかと言えば、ヨーロッパ系の人間に近いと思ってるんだけど……」
「だからこそじゃないかっ! 妙子が名前を付けていいっていたんだからぼくは、譲る気はないよ」
「はぁ……。別にいいけどね。まぁ、古臭いだけで変な名前じゃないし」
「そうだろう、そうだろう」
妙子は、しぶしぶではあるが、名前を受け入れてくれたようだ。
「妙子。妙子。……いい名前だなあ」
「ずっと人の名前をぶつぶつ言って……。気持ち悪いわね」
「ペットに名前を付けたら、取りあえず呼んでみたくなるだろう? それと同じだよ。ほら、妙子、お手。とか言ってみたり」
「……」
ペット扱いされて怒るかも。と思ったのだが、妙子はこちらを見て何かを考えている。
「もしかしてなんだけど……」
「……なに?」
あまりに真剣な顔をしているので、身構えてしまう。
「あなた、友達いない?」
グサッ。
妙子は確信を突いてしまった。
思春期の触れてはならない場所。
ぼっち。
童貞。
虐められっ子。
「妙子っ! お前は今っ! 言ってはならないことを口にしたなっ!」
ぼくは、叫ぶ。
「そこはっ、気付いててもっ! 触れてはっ! イケナイ場所だろうがぁーっ!」
喉を潰してでも、訴えなければならない。
伝えなければならない。
人には、本当に触れられたくないことがあると言うことを。
しかし、ぼくの目の前のゾンビは嬉しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「同じだわ。わたしも、友達いないの」
要望あれば頑張って続き書きます!