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異世界に降り立った剣客ミツルギ

魔法学園リズワディア。


この異世界レインブルクにおいて最高峰の魔法教育機関であり、どの国家にも属さない中立都市の一つでもある。


そんなリズワディア学園に、一人の少年が訪れる。


背は五尺と七寸。この世界では珍しい黒色の髪を後ろで束ねたその男は、街行く人々を見て、これまたこの世界では珍しい黒い瞳を大きく見開かせて驚いた。


なんと摩訶不思議な光景か。


人々は皆一様に杖を手に持ち、灰色の羽織をはためかせながら街を行き交っていた。

いや、それはまだ良い。


あろう事か、箒なんぞに跨がって空を飛ぶ者達がいる!


この地に訪れてからと言うもの、見慣れぬ着物を来た異人達や異形のあやかしどもを見て驚いてはいたものの、こうも度肝を抜かれた事はなかった。


「ねぇねぇそこのアンタ!」


「? ……拙者か?」


恰幅のよい女に手招きされ、男は己に指を差す。


「そうそう、アンタだよ。アンタ、この街は初めてのようだね? アタシで良ければ簡単に街の紹介をしてやるよ?」


女は店先に果物や木の実を並べながらカッカッカッと元気良く笑う。


「それは助かる。何分、この様な光景は初めてで」


チラと空を見上げれば、空には箒で空を飛ぶ者達ばかり。

たかが箒でと思うものの、どこか似合って見えるのは何故だろう。


「アンタこそ珍しい服装だがね。さて、この街の名前くらいは知ってるんだろ?」


「あぁ。りずわでぃあ、と言うのだろう?」


旅の道中で知った情報だ。


「そうさ。ここは魔法学園リズワディア。子供から大人まで、魔法を学ぼうとする人たちが集まる学校さ」


魔法……この地に訪れて来て知った事の一つだ。

虚空から氷のつぶてや火炎を生み出す妖術。

その街は、その妖術使いの私塾のような所らしい。……私塾と言うには規模が大きすぎるが。


「うむ。……で女将、あの空を飛ぶ箒も、その魔法なのか? ……氷や炎は見慣れたが、あんな魔法は初めて見たぞ?」


男が聞きたかったのはそれだ。旅の道中、様々な魔法に触れて見て来たものの、空を飛ぶなんてデタラメのような魔法は、見たことがなかった。


「魔法ではあるけど、唱えてできる魔法ではないねぇ。アンタ、一度点けると灯りっぱなしのランプは見た事あるかい?」


「勿論、これであろう? 旅の道中世話になった」


男は腰に吊していたランプを持ち上げる。

道中夜盗に襲われていた商人を助けた時に譲って貰ったのだ。


「そう。それのように、物に魔法をかけて使えるようにしたものだよ」


「ほぅ。……いやしかし、箒で人が飛ぶとはなあ」


男はまた空を見上げながら呟いた。


「なんだい、アンタそんなに空を飛びたいのかい?」


ずうっと空を見上げてた男があんまり箒の事ばかり言うものだから、果物屋の女将がカッカッカッと笑いながらそう聞いた。


「うむ。拙者、日が良い時は空を眺め雲の形を見るのが趣味でな。空を飛べれば雲にもっと近づけそうだ。女将、女将は箒を持ってるか?」


なんなら買うぞ?

と聞いてみたが、女将は大きく笑った後山の様に高く尖った建物を指差した。


「ただの箒は持ってるけど、空飛ぶ箒は学園の所有物さ。あの時計塔の下にある学校に通えば好きなだけ乗れるよ」


「なんと真か!?」


「嘘なんてついてどうしろってのさ。と言うか、アンタ入学しに来たんじゃあ無いのかい?」


「そもそも私塾に払うほど金子は無いからな」


「基本的に学費は0だよ。『学びたい者達にこそ扉は開かれる』って初代学園長様が言ってくれてねぇ。まあ他の事にはお金がかかるけどね。食い物とか装備とか」


学費0と言う言葉に、男は大きく食いついた。


衣食住などに金がかかるのだろうけれど、タダで学べると言うのは、この男が元いた国ではありえない程の事だったからだ。


「にしてもタイミングが良かったね。今なら新学期前だから少しの審査で入れるよ」


「ほう、それは良い事を聞いた。感謝する。礼に何か買おう。美味い物をくれ」


「ならこの林檎なんてどうだい? 片手で持てて皮ごと食える」


「うむ。ではそれを頂こう」


「あいよ。一個50f(フォルン)だよ」


「たしかこの銅貨だったな?」


懐から取り出した硬貨を女将に払うと、男は真っ赤な果実を受け取った。


「毎度あり。……所でアンタ、リズワディアには何しに来たんだい?」


学園に入学するわけでもないとすると、まだ少年と呼べるくらいの歳の男が旅をしている事になる。

旅の途中に立ち寄ったのだろうかと思いながら女将はなんとなく聞いた。


「む? いや、拙者はある妖術師、いや魔法使いを探していてな?」


「魔法使い? どんな魔法使いなんだい?」


思っていたのとは違う答えに興味が沸いた女将は問う。


シャコッ、と音をたてて林檎にかぶりついた男は、数秒咀嚼して飲み込んだ後、鋭い目で女将を見た。


「『神隠し』を行う魔法使いだ」


腰に差した、緩やかなカーブに伸びる変わった鞘から伸びる柄に片手を置きながら、その男はそう言った。





「……最悪」


シシェは自分の運の無さに嘆いていた。

母譲りの金色の髪は今日に限って寝ぐせが酷く直すのに多大な時間がかかり、数週間前から調子の悪かった箒も絶不調で変な方向にばかり飛ぶし、学園近くにまできて片足のソックスを履き忘れているのに気付き寮に戻る事になる。


「ふんっ、何か匂うと思ったらハーフエルフのシシェじゃなあいか」


そして極めつけはコレだ。


「……バーンスっ」


「様。……と言わせたいところだけど、まぁ君の美しい外見に免じて許してやるよ」


二頭の白馬が引く無駄に豪華な馬車から降りて来た小太りの少年が、ニマニマといやらしい笑みを浮かべてシシェを見る。


名をバーンス・アルバクロス。

実家はとある国の伯爵家で、地位を盾に尊大な態度を取る少年だ。

シシェはこの男を大の苦手としている。


「どうやらまだ箒は直ってないようだね。箒を直すのにも時間が掛かるしね。やっぱり箒くらい自分専用のを買わないと! まぁ僕は入学祝いにパパから貰った箒がいくつもあるから、調子が悪くなったら新しいのに替えられるんだけどね」


フフンと鼻で笑いながら自慢するバーンスに怒りを覚えるも、バーンスの言う通り歩きのままじゃあ遅刻しそうなのも確かだ

だからバーンスを無視して歩き出そうとすると、バーンスに手を強く掴まれた。


「痛っ。何すんのよバーンス!」


「貴族の僕が話しかけてるのに無視するなんて平民のくせにいい度胸だな!」


シシェは腕を振り払うも怒り心頭し、今にも殴り掛からんとする勢いで叫んだ。

バーンスもまた怒りを露わにした。


「どうせ大した用事じゃないんでしょ? 平民が嫌いなら声を掛けずに行けばいいじゃない!」


「頭を下げるんだったら馬車に乗せてあげてもいいと思ったのに、なんだよその態度は! これだから平民は教養が足りないんだ!」


「アンタみたいな奴に頭を下げるくらいなら私は遅刻するわ!」


「なんだとぉ!」


罵り合いが続くとヒートアップし、バーンズはついに杖をシシェに向けてしまった。


「っ!?」

「お前に貴族の調教をしてやる!」


シシェがポケットから杖を出すよりもはやく、バーンスの魔法が完成する。


「食らえ、ライトニングボルト!」


バーンスの杖から放たれるのは雷の初級魔法。

当たっても死ぬわけではないが怪我は免れない。


(ぶつかる!)


電撃が目の前に迫り、シシェは思わず瞳を閉じた。


バチィッ!


雷が音を立て弾けた。


……だが、いつまでたっても痛みがこない。シシェは恐る恐る目を開けた。



「なんと、拙者の剣は雷切ライキリの域にまで達したか! 随分眠気を誘う速さであったが、雷切には互いない」


手に若干の痺れは残るものの、男は魔法を叩ききった事に満足していた。

チンッ、と音と共に刀を鞘に納めると、男は振り返り少女を見下ろした。


「いや、勝手すまない。最初はそなたら妖術師達の仕合を見物するつもりだったのだが、雷の妖術を見てついつい切ってみたくなったのだ。すまぬ」


片手を立てて謝る男に、シシェは何も返せず口を開けていた。


「そしてそちらの御仁。いやぁすまなんだ。突然始まった仕合ながら観戦にしゃれ込もうと思ったのだが、……ついな。まっこと申し訳ない」


そして突然の乱入者に茫然としていたバーンスにも男は頭を下げた。


「な、なんだお前は!」


突然の事に驚きつつも、顔を赤くし杖を男に向け叫ぶバーンス。

男はバーンスの言葉にニヤリと笑った。


「問われたならば名乗れねばならぬな。拙者、御剣(みつるぎ)一刀流剣術免許皆伝! 名を御剣一心! 最強の剣客を目指して修行中でござる!」


先代を更新せずこんなのを投稿。


時代背景はあえて語りません

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