プロローグ
「私たち、上手くいきそうじゃない?」
なびく彼女の髪は甘栗を剥いちゃった色で、丸みを帯びた耳に髪をかける仕草は魔法使いそのものだ。
帽子が飛ばないくらいの風が吹き、目に映る景色は六割弱、雲に覆われた金色色。この世界では珍しい、煉瓦造りの高台に二人はいた。
「でも……僕」
「あら、エセ魔法使いはえらく弱気なのね」
彼女はクスクスと笑い、立ち上がると高台の縁に進む。そしてしゃがみこまずに下を見る。この状況をみて冷んやり感じるのは彼くらいだ。
「どうしたの? 真っ白よ、あなたの顔。あ、私が落っこちるとでも?」
「だって、ロリナさん、一応……」
ロリナは縁の方まで彼を手招きする。そう、と彼は近づき、下を見ようとした瞬間、脳味噌がずれた。間一髪で落ちずに済んだが、誰かに背中を押されたのだ。後ろを振り向けば、年上にも年下にも見える笑顔をもつロリナ。
「あっははは、そんなに驚くこと無いじゃない。あなたの方が助かる確率的には私よりもうんと高いんだから。」
ロリナは悪びれる様子もなく、瓦礫に腰掛ける。彼女の趣味だろうか、凝った造りの懐中時計で時刻を確認し、一息ついた。
辺りは呼吸をしているかのように暗くなっていく。
「いいわねあなた、恵まれてるわ。私が驚くほど。やっぱり私はあなたと、仕事がしたい。部下ではなく、相棒として」
「ですが、僕は」
「…………嫌じゃないの? 魔法使いじゃないとか言われてさ」
魔法使いではない、この世界ではよく使われる皮肉混じりの挨拶だ。この一言は全てを暗喩していたりもする。
「確かに、僕も嫌です。それに親が魔法使いだから子もそうだとは到底思えません」
「そう、私もそう思う。親が未開人だったから私もそうならざるを得なかった。そこなのよ」
雲は一つもない、いつにも増して風が吹く。赤紫から金色のグラデーションは、この高台から眺める為に創り出されたのだろうか。
空を見つめ、奇麗ね、と呟いて彼女は顔つきが変化した。
「私達は遺伝子レベルで腹が立ってんのよ。それをどうにかするには、私とあなた、ロリナとハスヒの力なしではどうにもできないのよ。だからお願い、私と共に世界を変えよう」
ハスヒに彼女の手が差し出される。まだ幼い彼には荷が重すぎる決断だ。
しかし、彼は手を取った。
これがエセニセコンビの誕生秘話……になるはずだった。