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7章・デカければいいというものじゃない

 鱗に覆われた体、水かきのついた手足、ぞっとするほど分厚くてたるんだ唇、突出するどんよりとした目、他にも不快な特徴を持ちながらも、全体の輪郭はいまいましいほど人間に似ている。


「ダゴン……ですね?」


 そう、ダゴンだ。

 初めてフィーリスに会った時に見せられた写真に映ってたやつとそっくりだ。

 あの頃はただの合成や加工だ、って信じて疑わなかったけど、実際見てみると、納得せざるを得ない。

 イヤでも実感が湧いてくるってもんだ。


 ――自分はとんでもない世界に足を突っ込んでるんだ――って。


「さ、ダゴン。敵はあいつらよ! やってお終い」


 どんよりとした瞳が俺達を捉えた。

 いや、正確には、アリシアの持つハスターの剣を。


「ああ、確か、ダゴンはクトゥルーの眷属でしたよね」


 アリシアは挑発するように、見せつけるように剣を構える。


「これはハスターの力の片鱗、相性は最悪ですね。お互いに」


 彼女が言い終えるが早いか、ダゴンが拳を振りかざした。

 それでもアリシアは眉1つ動かさず、拳が振り下ろされるのを待ち焦がれるように見つめている。

 おいおいおい! 余裕ぶってる場合じゃなくヤバイだろ!

 この距離じゃ俺が走ったところで間に合わない!


 このままじゃアリシアは死ぬ。と思った。

 同時に、この余裕には実力だけでなく、別の何かに裏打ちされている、と思った。


 迷いながらも俺は、彼女を信じてみることにした。

 

 拳が――――命中する。


 華奢な体が簡単に弾き飛ばされ、結界の内壁に衝突。

 叩きつけられたアリシアはそのまま力なく壁面をずり落ちる。


「え…………?」


 ワケが分からなかった。

 どうして? あれで、死んだのか?


「う、ウソだろ……?」


 俺は思わず、アリシアの方へ駆けだしていた。

 近くに寄れば寄るほど鮮明になる不快な光景。


 あらぬ方向にへし折れた腕、結界の壁面にへばり付いている大量の血、そして、もはや服なのか、皮膚なのか、臓腑なのかも分からないほどに潰れてしまった胴体。


 あんなに強かったのに、どうして?


「あら、随分簡単に死んじゃったわねぇ。ま、いくら魔術師と言っても所詮は人か」


 ……そうだ。何を過信していた。

 魔術師と言っても、生身の人間である事には何ら変わりは無いじゃないか。

 アリシアを漫画のヒーローみたいに思ってしまっていた自分自身が情けない。


「じゃ、あなたも天国に送ってあげるわ」


 ダゴンに手で合図を送るロジャー。

 立ちすくんだまま動けない俺。

 このままじゃ死ぬか? ……うん、間違いなく死ぬな。

 死んだところで、悲しむ人間も居ないし。やりたい事も……。…………あるだろうが!


 こんなことで、死ねるかよ!


 俺は無駄と知りつつも、アタイアをダゴンに向け、構えた。

 打つ手が無いと分かっていても、何もしないでは居られなかったから。


「さ、やっておしまいなさい!」


 ダゴンの拳が俺を叩き潰そうと振り上げられたまさにその時――――


「ダゴンを、止めてもらえませんか?」


 その指示を取り消すよう、ロジャーに剣を突きつけ脅迫するアリシア……。…………。……アリシア!?


「ウソ…………あなた、いつの間に……?」

「ついさっきですよ」


 気付けば、俺の隣に転がっていたはずの死体が消えていた。

 撒き散らされた血痕までもが、跡形も無く、まるで忘れろと言わんばかりに。


「なるほど、ニセモノぶん殴ってたって事ね」

「それより命令、取り消してください」

「…………ええ、分かったわ」


 拳を振り上げたまま停止していたダゴンが構えを解く。


「ありがとうございます。……あと、あなたには2、3訊ねておきたい事があります」

「……………………」


 無言を肯定と受け取ったアリシアは質問を開始する。


「ダゴンクラスの召喚を儀式も無く行える魔術師は居ません。あのダゴンの紛い物、どうやって生み出しました?」


 ロジャーはしばらく迷った様子を見せた後、毅然とした態度で口を開いた。


「答えられないわね」

「では次、どうしてその蛇を捕まえたんですか?」

「だって、だって、爬虫類とか、両生類とか大好きなんだも~ん」


 ……研究とかの実験材料にするんじゃなかったのか。

 でも何でフラスコに入れてた?


「最後、あなたは第12魔術研究所主任、でしたっけ? 背後にある組織、何が目的ですか?」

「ごめんなさいねぇ。これも答えられないわ」

「そうですか」


 アリシアは特に落胆した様子も無く、質問を終える。


「それより、アタシも1つ聞いていいかしら?」

「……なんですか?」

「あなたの膨大な魔力。どこから供給されてるのかしら?」


 旧支配者の力の片鱗を召喚し、分身、その後、透明化して背後を取る。

 確かに驚くべき能力だが……そこまで魔力を消費するものでも、ないよな…………?


「答えたくないなら答えなくてもいいわよ?」

「じゃあお言葉に甘えて、答えません」

「あらら、1本取られたわね」


 ロジャーも特に落胆した様子無く質問を終える。


「質問はそれだけですか?」

「ええ」


 返答を聞いたアリシアは無言で頷き、剣を下す。

 それに合わせるようにロジャーが指を鳴らし、元の世界が表返る。


「お目当ての蛇ちゃんよ。大事にしてあげてね」

「はい」


 アリシアはフラスコを受け取り、鞄の中に入れていた折り畳み式ケージを組み立て始める。


「随分とアッサリ渡してくれるんだな」


 あまりにも簡単に折れてくれたのはどうも腑に落ちない。

 ここは1つ、本人から理由を聞かせてもらおう。


「交渉って言うのはね、絶対的優位を相手に取られた時点で成り立たなくなるのよ。覚えておきなさい、坊や」


 今がまさにその時ってワケか。


「彼女、強いわ。多分だけど、この世界の誰よりもね」

「そこまでか?」

「ええ、彼女の力、余す事なく使えば世界が変わるわ……世界が、ね」


 アリシアについて語るロジャー。

 その顔は、狂気の発明をしたマッドサイエンティストを連想させるものだった。


「根拠は?」

「女の勘ってヤツよ」


 …………で、結局お前って性別どっちだ?


「入れ替え、終わりましたよ~!」


 話が一段落したところでアリシアが入れ替え作業の完了を告げる。


「時間切れみたいね。それじゃ、また会いましょう」

「俺は2度と会いたくないがな」

「…………ツンデレ?」

「死ね」


 俺はロジャーの一言を一蹴すると、アリシアと共にこの場を後にした。

まだ評価してもらえてないのはちょっと悲しいかも、とか思う今日この頃。

これで書き溜めた分はほぼ全て投稿しました。

また当分更新はしないでしょう。

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