6章・知っていると使えるは違う
俺は彼我の戦力分析を行う。
向こうは魔術師一人と深きものども、数多数。
こっちは魔術師一人と魔術師もどき一人。
依頼がアリシアのいない一週間くらい前だったら魔術師もどき一人だったワケで……確実に負けるところだった。
危ないところだったな。マジで。
さて、深き者どもの能力だが……呼び出した術者によりけり、ではあるものの、一般的に身体能力は人間のそれを大きくとまではいかなくとも上回っている。
とは言え、ブッチャケた話、一体程度であれば普通の人間でも十分に太刀打ちが出来る。
何故ならば……
腰のホルスターから黒い塊を抜き取る。
アタイアM94A2。フィーリスに護身用にと預けられた実銃。
俺はまずトリガーセーフティを解除する。
グリップを握り締め、銃口を向ける。
狙うは正面の深きものども、と言っても数が多いので狙いを定める必要はないだろう。
「現代人を、侮るな!」
引鉄を引いた。
マズルフラッシュと共に射出されるのは九㎜弾。
凡人にも扱いやすい口径なので、反動はやや少なめ、それにより命中精度も比較的高い。
また、威力としても深きものども相手には申し分ないだろう。
そして、その予想は正しかった。
深きものどもの一体から血液らしき液体が噴出し、そいつは悶えながら倒れ伏した。
「よし!」
この調子で全部始末してやる!
俺は弾倉内の弾が無くなるまで連射し続けた。
……有効打のみを見れば、命中率は4割強ってとこか。野球なら首位打者だ。
いや、そんな事より問題なのは……
「全然減ってないような気が……」
リロードを行いながら呟く。
「じゃ、次は私の番ですね」
いつの間にか法衣を纏ったアリシアは鞄を置くと俺の前に出、透き通った声で詠唱を始める。
常人には発声することは愚か、聞き取る事さえ出来ない異形の呪文が彼女の口より紡ぎだされる。
「イア、イア――――ハスター!」
結局、俺が聞き取れたのはこの最後の1節だけだった。
詠唱の終了と同時、強烈な光と共に顕現したのは剣、異形の剣。
風を連想させる流麗なフォルム、そしてカマイタチを連想させる鋭く輝く片刃の刀身。
ハスターの剣。
「はぁああああ……」
剣に魔力を込め、物質化。さらに確率事象を固定させ、完全に具現化する。
「征きます!」
次の瞬間――――剣が咆哮した。
「グッ……」
不快感しか感じられないこの音は何だ?
発泡スチロールを擦った音や、黒板を引っ掻いた音なんかとは格が違う。
嫌悪感と同時に絶対的な畏怖を脳に、魂に、直接叩きつけられたかのような感覚。
見れば深きものどもも剣の咆哮にすくんでいた。
「やぁぁぁあああああああああああ!!」
アリシアが踏み込む。
迷いも何も無い、純粋で、真っ直ぐで、そして疾い踏み込みだった。
俺が気付いた時には既にアリシアは一の太刀を打ち込んでいた。
「あ――――」
剣戟は一瞬。
正眼の構えから振り下ろされた剣は、深き者どもの身体を頭から腰にかけてを、まるで水滴でも切るかのように抵抗なく降りて行った。
深き者どもの1体が左右対称に、両断された。
綺麗な断面は瞬く間に崩れ、臓物や血液を垂れ流してゆく。
そんな間もアリシアは行動を続ける。
横薙ぎに一閃。
右隣にいた深き者どもが上半身と下半身に分割される。
仲間2体が殺されて、やっと深き者どもは状況を理解したようだ。
各々アリシアに向かって飛びかかってゆく。
「あ、あぶな…………!」
「――――イア、ハスター」
アリシアが一瞬で詠唱を終える。
次の瞬間には彼女の周囲数メートル以内にいた深き者ども全てが、見えない何かに切り刻まれ、ただの肉塊と化していた。
これは……カマイタチか?
「…………この程度ですか?」
アリシアはカマイタチを収めると、余裕しゃくしゃくの表情で残った深き者どもを剣で切り裂きはじめた。
それは戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的で、まるで処刑者と、罪人のように、殺し、殺される関係が明確だった。
「……と。仲間にビビってる場合じゃないな」
俺は内心で自分が連れてる魔術師の規格外の力に戦慄しながら、援護射撃を開始する。
「当たれよ……」
赤貧生活を送っていた俺が銃の扱いに長けているはずはない。
なのでアリシアに当てぬよう、魔術による補正を掛ける。
俺はアリシアに当たらない可能性を引き寄せ、手に取る。
引鉄を、引いた。
銃声が結界内に木霊する。
……やっぱ、しっかり学んでおけば良かったかもしれない。
確かにアリシアには当たらなかったが、あれだけたくさん居る深きものどもの中のどれにも当たらないとは……。
「今度は外さないからな……」
再度術式を展開。
命中する可能性と、アリシアから逸れる可能性を同時に引き寄せる。
「食らえ!」
引鉄を引く。
火薬の破裂音がした。腕に反動がかかった。弾が射出された。
次の瞬間、深きものどもの一体が悶絶して倒れる。
「よし、次!」
しかし、狙いを定める先からアリシアに捌かれてしまうので引鉄を引くことすら出来ない。
「これで、終わりですか?」
そして、遂に次弾を放てないまま、最後の1体がアリシアの剣の下に切り伏せられる。
「あら、可愛い顔に似合わず、強いのね。そっちの貧乏そうなのは酷い有様だったけど」
うるせー、余計なお世話だ。
「じゃ、ちょっと大物出しちゃおうかしら」
ロジャーが詠唱を始めた。
「――――いあ、いあ、くとぅるふ・ふたぐん。いあ、いあ、くとぅるふ・ふたぐん」
新たな影が結界内部に入り込む。
巨大、そう、巨大な存在だった。
「何だ、これ……?」
本作品初、戦闘シーンですね。
と、言うワケで、残酷な描写ありになりました。
ボーダーが分からないから、念のため。