5章・どんな見た目の人も大真面目でその姿をしている
「初めましてぇ。この第12魔術研究所主任の、ロジャー・トレヴァーでぇす♪」
……。…………。……………………。……ハッ!?
一瞬思考が停止してしまった。
俺の目の前に顕れたのは…………なんだろう?
まず白衣を着ている。
やや鬱陶しい女性な喋り方をする。
ここまでは良い。ここまでは、まだ良い。
なんか無駄にマッチョな肉体に渋いオヤジ顔。
そして極めつけは……白衣の下に着込んでいるチャイナ服だった。
「どうも、万屋を営んでおりますリックです」
「ジスティヴァールの学生のアリシアです」
……ってあれ? ここって自己紹介して良いトコだっけ?
「あらぁん、可愛い…………好みだわ」
どっちがだ!? 俺である可能性が否定出来ないのがコワい!
アリシアなんて俺の後ろに隠れちゃったし!
「ほらほら、そんな貧乏そうな男の背中に隠れてなんかいないで出ていらっしゃい。別にとって食べたりはしないわよぉ」
ほっ、俺じゃなかったか。
……なんて安心出来る状況じゃねー。
アリシアがますます怯えてしまって俺の背中に完全に隠れるほどに縮こまってしまった。
「俺達はこの建物の中に迷い込んだ飼い蛇を探しに来ただけだ。用が済んだらサッサと帰らせてもらうよ」
可能な限りこいつらには関わらないようにするべきだろうな。
敵か味方か分からない魔術師と対峙している時間は短いに越した事はない。
「それって、この子のことかしらぁ?」
ロジャーは部屋の明かりを点けると、自分の腰のベルトキットに取り付けてあったフラスコを取り出し、俺達に見せる。
フラスコの中には元気に動き回る蛇の姿があった。
「コンパスが反応してます! 多分この子です!」
「そうか。ロジャーさん、そいつを俺達に渡してもらえないか?」
ロジャーが友好的な人物であれば、これで依頼が完遂出来るが……。
「そうねぇ。ちょっと協力してくれるなら、良いわよ」
「出来る範囲なら、何なりと」
「そう? じゃ、お願いね」
ロジャーが指を鳴らした。
一瞬と待たず、俺達の足元に巨大な魔法陣が顕れ、次の瞬間、世界が裏返り、表返る。
「結界!?」
裏返ったのは俺達の世界、表返ったのは、異形の世界。
「見たところあなた達も魔術師みたいだし、この子達の良い餌になりそうだわぁ」
ロジャーの背後の魔法陣から次々と召喚されるのは、ヒト型をした怪異。
ただ、目は盛り上がり、肌は鱗で覆われており、指と指の間には蛙のような水かきが出来ている。
半漁人を髣髴とさせるその姿は『深きものども』だ。
「別に俺たち、争いに来たわけじゃないぞ」
「聞くと思って? 何のアポも無しに不法侵入してきた魔術師よ。あなた達って」
そうだね。不法侵入者だね。
魔術師云々はともかく、そこは反論しようがないな。
「ついさっき『とって食ったりはしない』って言ってなかったか?」
「あら、そんなこと言ったかしらん?」
すっとぼけやがったよこのオカマ野郎。
「……交渉の余地は無い、か」
今日はここまで。
続きは明日ないし明後日に投下します。……………………たぶん。
サブタイトルが思い浮かばなかったらもっと先になるかも。