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序章

 ここに来られた方は、あらすじを読んで来られた方でしょうか?

 どうも私はあらすじって言うものが苦手で……ついやっつけな感じになってしまいました。

 あのあらすじを読んで、まだこの小説を読もうと思ってくれた方には、いくら感謝してもしきれません。ありがとうございます。

 ちなみに、私は今回初投稿なので、「ストーリーがキモイ」とか言わないで下さい。ショックによる身投げ自殺の原因となります。

 それでは、ゆるりとご堪能下さい。

 魔術とは。

 世界の深淵を見つめる事。

 世界の真理を探求する事。

 世界の可能性を追求する事。

 世界の不可能を実現する事。

 どれが正しい? どれが誤り?


 ――――《世界》は狭い。


 理由は簡単。世界の九割以上が宇宙なのだ。

 空間は在る。だが物質で満たされていない。

 いや、暗黒物質とか言うものがあるのだから実は物質で満たされているのかもしれない。

 だが、その中で人知が及び、暮らせる場所は余りに少ない。

 在って無きような空間が殆ど。世界は、その殆どが虚無に等しい。

 その虚無の中で、物質が寄り添い合って、《世界》は成り立っている。

 限りなく虚無に近い世界の中にある《世界》。

 そして、今俺という世界の中の《世界》も、残りあと僅かだ。

 視界が霞む。意識が朦朧とする。体に力が入らない。

 俺の《世界》は今まさに消滅しようとしていた。


 ――――要するに、腹減って死にそう。


 ここ最近口にしたのは塩と水ぐらいのものだ。

 ちなみに、それ以外には乾いた米、数粒だったりする。

 路地裏の野良犬の方がまだましな食事をしているのではないかと思う今日この頃だ。

 そもそもの問題が、俺の経営する万屋に依頼が全く来なかったせいだ。

 借金はしない主義な俺は、貯金を全て今月の家賃に持って行かれ、無一文に。


「…………腹減ったぁ」


 こんな時、たかる相手がいれば良いのだが、生憎そんな気のいい知り合いは俺には居ない。

 そして、外に出るという一見無謀な行動は、落ちている食べ物やお金を探すという非常に建設的な思考に基いたものだ。

 こんな生活でよく今まで生きていられたなと、自分で苦笑する。


 ああ、もう、視界が霞んできた。


 このまま俺の人生はデッドエンドでエピローグに突入?

 どこからともなくクリスマスソングが聞えてくる。

 俺の人生のエンディングテーマはクリスマスソングか……。

 お経や、聖書の言葉よりこっちの方が堅苦しくなくて良いかもしれない。デッドエンドだけど。

 そんな事を考えてる内に、もう寒いのか、暑いのかも分からなくなっていた。感覚まで鈍感になってきてるらしい。


「――――パトラッシー、僕もう疲れたよ。」


 月並みな辞世の句を詠み終えると同時、俺の意識はブラックアウトした。


   ▼


「ハッ!?」


 昇天した俺がたどり着いた場所は……病院?

 周りの風景はやたら白い。一瞬天国かと間違えるほどのものだったが、どうやらこの世の病院のようだ。


「あ、気が付きましたか?」


 俺は横から掛けられた優しい声に振り向く。


「良かったです。目の前で急に倒れられたときはどうしようかと思いましたよ」


 ……やっぱり天国だったのかも。

 こんな可愛い娘が俺の隣に居るなんてこの世なワケがない。

 さらりとした銀色の長髪と大きなリボン、そしてサファイアのような澄んだ碧色の瞳が印象的な女性。

 いや、今は彼女の容姿より状況確認の方が先か?


「……アンタは?」


 まずはここだ。彼女が何者なのか、それが重要だ。


「あ、自己紹介がまだでしたね。私、アリシア・エーミス。この病院の近所のジスティヴァール大学に通ってる三回生で、道端で倒れてたあなたの第一発見者です」


 成程、それで救急車を呼んだってワケか。OK、それは許そう。

 だが、だがな。アンタは致命的なミスを犯している。


「俺、金持ってないんだが……」

「あ、大丈夫です。私が既に支払っておきました」


 ……神よ、普段全く信じてないけど、今の俺はアンタのために何だって出来そうだ……。


「じゃあ、返した方が良いか? 保険入ってないし、かなりかかったろ?」

「いえ、結構です。栄養失調で倒れてる人がお金なんて持ってないですよね?」


 ……お察しの通りで。だが――――

「そう言うアンタも、そんなに金に困らない人間には見えないけどな」

「そんな事ないですよ。結構な数のバイト掛け持ちしてますから、大学の教材買うにも困った事はないです。エッヘン」


 金持ちをアピールしたいのかもしれないが、苦学生って自白してるぞ。


「家賃の滞納もした事はありません!」


 でも幾つものバイトあってのものだろ? 最近は無職に等しい俺が言うのもなんだが……。


「三食おやつ付き。しかも朝はパンにジャム塗り放題なんですよ~!!」


 そ、それは……なんて羨ましい!

 三食欠かさず食べられるなんて、夢のような生活じゃないか!


「完敗だ。骨の髄まで、完敗だ」


 何か上の句が出来上がってしまった。


「ふっふっふ、恐れ入りましたか?」


「あぁ。俺の負けだよ」


 金持ちって、凄いな……。

 いや、普通の人なら誰でもできることなんだろうけど、赤貧の俺からしたら、それだけで十分金持ちだ。


「ところで、あなたのお名前は?」


 あ、そうか。まだ名乗ってなかったな。


「俺は、リック・イースデイル。一昨年度にジスティヴァールを卒業して、今は万屋やってるよ」


「……一昨年度に卒業してるなら……私から三年先輩なんですね」

「まぁ、そうなるな」


 俺は特に留年もしなかったし、誕生日もまだ迎えてないから歳が四歳以上離れてるって事は無いだろう。


「ちなみに、リックさんは、何学部だったんですか?」


 ……本当の事を口に出してはならない。表面上は確か……


「考古学、だったな」

「そうなんですか? 実は私も考古学専攻なんです」


 ……彼女は、本当に考古学専攻か?

 それとも…………ちょっと試してみるか。


 ――調査魔術サーチ……魔術師探査マギウス・ダウンジング


 彼女はすぐそこに居る。引っ掛かるなら一瞬で引っ掛かるはずだが……


「ふふ、栄養失調の赤貧男性が、無理しちゃいけませんよ」


 そう言って彼女は一冊の本を取り出し、俺に見せた。


《新訳・無名祭祀書ネームレス・カルツ


「――そうかい」


 手間とエネルギーが省けた。

 彼女も魔術師か。それもかなり優秀な部類の。


 普通、ネクロノミコンをはじめとする貴重な魔導書を閲覧する事の出来る人物は、人類の中で一握りの人種である魔術師の中で更に一握りの人物だ。

 仮に写本であったとしても、持ち出しが許可されるなんて在り得ないと言っても過言ではない。……って先輩に聞いた。


「……って、新訳?」

「はい、新訳です。もちろんオリジナルには程遠いですけど、優秀な魔導書ですよ」


 新訳なんてモノがあったのか。相変わらずあそこの図書館の蔵書は底が知れないな。


「それで、この道に進んで後悔はしてないか?」


 正直な話、世界の深淵へと手を伸ばす魔術に触れ、自殺した者。術者の放つ闇の臭いに誘われて現れた怪異によって命を落とした者は後を絶たない。

 もし命の恩人でもある彼女が悩んでいるのであれば相談にくらいは乗ってやりたい。


「どうして後悔するんですか?」


 彼女は首を傾げて言う。彼女は、世界の深淵の闇を何とも思っていないのか?


「え? あ、いや、魔術師になれば怪異に襲われたり、色々面倒だろ?」


 彼女の返答に面食らった俺は適当な言葉しか言えなかった。


「大丈夫ですよ。私、結構強いんです。普通の怪異くらいなら倒しちゃいます」


 ……だろうな。新訳の力がどれ程弱いものであったとしても、無名祭祀書の持ち出し許可が下りるぐらいだ。そこら辺に居るオカルトマニアなんかよりずっと強いだろう。


「……と、そろそろ時間ですね。私はこれから講義なので、失礼しますね」


 アリシアが立ち上がり、病室の扉に手を掛ける。


「じゃ、リックさん、また後日、会いましょう」


「ああ、またな」


 …………また後日?


   ▼


 理由はすぐに知れた。

 数日後、病院から帰った俺を待っていたのは郵便受けに入った一通の手紙。


 ジスティヴァール大学からだ。


《教員が不足してるから無職のプータローなお前に教師と言う職を与えてやる。感謝しろ》


 こんな相手にへりくだる気ゼロな文章を書ける人物を俺はまだ一人しか知らない。

 間違いなく、アイツだ。


 とはいえ、手紙の文面に腹を立てている場合ではない。

 幾ら病院食を詰め込めるだけ詰め込んだとはいえ、無一文じゃ餓死も時間の問題だからな。


「……しゃーない、行くか…………」


 一瞬だったが、あの銀髪の少女が脳裏を掠めた。

 ただ、俺が彼女に教えられる事なんて無いだろうし、やっぱ教えるなら別の人間だろうな。


 一応卒業したとは言え、俺の卒業は単位を取っただけの本当に『一応の』卒業だ。

 世界の闇の奥深くに入り込んでゆく勇気が、俺には無かったのだ。


 俺の他にも何人か学生自体は居たが、そいつらの大半は皆闇に呑まれて正気を失った。

 残された人間も俺のように臆病で基礎以上に踏み込まない者か、正気は保っていても性格が歪んでしまった者が殆どだ。


 だから、俺は気になったのかもしれない。

 世界の深淵を垣間見つつも、なお正気を保ち続ける彼女が。


 ってあれ? アリシアみたいな逸材が居るなら狭いあの学部だ。多少なりと噂になるだろうし、第一、あんな美人を見落とすとは考え辛い。

 だが俺は、彼女を見た記憶が全くない。どういうことだ?


「……妙だな…………」

 違和感を拭い去れないまま俺の意識は闇へと消えて行った。


   ▼


「お~、やっと来たか。待ってたぞ、若いの」


 俺を出迎えたのは俺よりも頭二つは背の低い少女の容姿をした……

 齢四百を下らない魔女、フィーリス・ユーヴェルゲ。


「俺を教師にするって、正気か?」


 ハッキリ言って魔術の本懐の『ほ』の字にも足を踏み入れていない事はコイツも理解しているはず。

 何故なら、俺になけなしの単位を与えていたのは他ならぬコイツだからだ。


「もちろん正気だ。魔術を知り、なおかつニートな人間など他に居らぬからな」


 俺、魔術は深く知らないんですけど?

 これは、アレですよ? 小学生が自分にとって新しい発見を先生に教えに行くようなものですよ?


「流石に、無理がねぇか?」

「無理ではない。今から魔術の本懐に足を踏み入れれば良いだけの話だ。幸い基礎はしっかり出来ておるしな」


「……。…………。…………悪ぃな、やっぱり断らせてもらうよ」


 やはり俺は、どこまでも臆病な人間だったようだ。

 どういうものかもよく知りもしないものに怯えて、背を向けてしまった。

 それも、1度ならず、2度も。


「そうか。引き受けて貰えないのであれば、この報酬は無意味だな。さっさと仕舞ってしまおう」


 そう言ってフィーリスは懐から札束を幾つか取り出すと金庫を開き、


「喜んで、お引き受けします!!」


 金欲に負けた俺がそれを全力で止めた。


「そうかそうか、引き受けてくれるか。妾はとても嬉しいぞ」


 止めてしまった今、この瞬間に思えば、なんて軽率な行動なのだろう。


「と、言うわけで、魔導書も持たぬ魔術教師など前代未聞だ。適当に見繕ってやるから付いて来い」


了解ラジャー!」


   ▼


 ジスティヴァール地下、機密図書館。

 当然一般には公開されていない図書館だが、地下が気になる普通科の学生などごまんといる。

 毎年何度か侵入を試みる生徒が居るが、彼らは例外なくこの地下への螺旋階段で諦める。


「触るなよ。一瞬で入り口まで逆戻りだからな」


 一定段数までは普通の階段だが、その一定の段数を超えれば触れただけで螺旋階段の入り口付近にまで戻される転位魔術が施されている。

 その上、空中を通るにしても幾重もの感覚系魔術が施されており、例え螺旋階段に沿って動いているように思えても全く別方向に動いていたり、入り口に向かったりするなど、簡単に通れるようにはなっていない。

 また、中央の吹き抜けにも転位魔術が施されており、階段同様、一瞬で入り口付近にまで戻されてしまう。

 少なくとも基礎の基礎しかやっていない俺が独りで突破出来る代物ではない。


「さて、着いたぞ」


 更に厄介なのはこの扉、内部の図書館から漏れ出す魔力に連動して扉の表面に結界を生じている。

 そのため、力ずくで結界を破ったとしても扉を開くまでに結界が再構成される。

 また、扉自体が異空間へのポーターになっているため、扉ごと破壊する程の威力を出すワケにもいかない。

 そして、結界を突破出来るのはここにいるフィーリスと、彼女の『連れ』として招待された人物のみだ。


「で、どうやって解除するんだ?」


 フィーリスにしか出来ない結界の解除法は純粋な好奇心として見てみたかった。


「ああ、まず体から一切の魔力を出さないようにする」


 成程、魔術なら幾らでも誤魔化しがきくから、魔術に関連しない部分で解除するのか。


「そして結界手前の魔法陣までゆっくりと歩き、身体認証を行う」


 それだけだった。それだけで扉を皮膜のように覆っていた結界が霧散した。


「今から六十秒間、結界が解除される。それまでの間にこっちに渡っておけ」


 そう言ってフィーリスは扉の向こうへと消えた。


「……よし! 行くか!」


 意を決した俺も続いて扉へと入る。

 はい。まだ序盤の序盤です。

 序章なんて大体そんなもんです。

 続きは……書いてますけど、投稿日は未定です。

 ま、こんな小説を読み続ける人も珍しいでしょうから、罪悪感は欠片ほどもありませんよ。

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