12章・餌付けと買収、何が違う?
「うむ、今回はなかなか見ごたえがあった。納めるがいい」
いよっしゃあ! 2ダロだー!
この1時間足らずの間に、俺はすっかり餌付け…………もとい、買収されていた。
「あ、そろそろ時間ですね」
「では、我々は目撃者として、退散させてもらおう。君は自分の思うように犯人を捕まえてくれ」
「気をつけろよ。何してくるか分からないからな」
男2人して路地裏へと消えてゆく。
「…………なあ、あんたと俺、目撃者になるはいいにしても、何で俺らがここにいたのか、って話にならないか? アイツもそうだけど」
「なに、心配は無用だ。男2人連れて、廃墟街。アレ気な関係と言えば理解してもらえるだろう?」
「おいコラ待て」
「他にいい理由でもあるのかな?」
無い! 確かに無いけれども!
「お嬢さんについては…………そうだな、街中で見かけたちょうちょを追いかけてたら辿り着いた、とでも言えばいいだろう?」
「随分と可愛らしい理由ですなあ」
男2人と比べて随分とメールヘン、な理由だ……。
「なに、心配はいらない。いざとなればこちらかお嬢さんかで記憶を改ざんできるからな」
俺ら、善い事しようとしてるはずなのに、何か悪者っぽいぞ?
「(む、誰か来たぞ)」
「え、どこ?」
途端に密やかな声で話しかけられ、対応が追い付かない。
「(あそこだ。どうやら男が2人。あの中に犯人は居ないとは思うが……)」
俺は指さされた方に意識を集中させる。
「最近、仕事どうよ?」
片一方、どう聞いても会話内容含め、普通のオッサンの声だ。
「もー、最悪よん。昨日なんてチンピラと可愛い娘ちゃん2人組が殴りこんでくるし、しかも責任は全部アタシ持ち。信じられる?」
もう片方。思い出したくない。
「(あんたらの身内みたいだな……愚痴られるくらい酷い労働条件だったのか?)」
「(う、うむ…………素の意見、と言うヤツ、だな。参考になった。改善しよう)」
改善しよう……って。
「(あんたって、もしかしてけっこー上の方の人?)」
「(自慢じゃないが…………あー、やっぱり自慢だが、トップだ)」
そーですかー。トップですかー。
……………………ってオイ。
「(トップがこんなトコで油売ってていいのか?)」
……と、ここまで言った時点で、今更のように気づいた。
――――いつの間にか、タメ口になってるよ、俺!
イカンイカン。TPOもわきまえられないようじゃ、社会人失格だ!
「(少なくとも、会話の途中でいきなり頭抱えて悶えてるよりは、いいと思うが……)」
ですよねー。
「(それより、本命が来たぞ)」
「(マジか?)」
俺は魔術を行使。
感覚範囲を一気に広げる。
引っかかったのはさっきの2人と…………怪しげオーラをまとった男が1人。
「(ヤツか……アリシアは気づいてるか?)」
「(もう念話で送った。準備は整えているはずだ)」
俺達は感覚範囲を維持しつつ、事態の推移を見守ることにした…………。