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本物の温度  作者: 幽鬼
『ナナシという存在』
7/14

愛情観

ナナシにとって、

愛とは、

「理解」

に近い。


ただ一緒にいたいわけではない。


寂しさを埋めたいわけでもない。


依存したいわけでも、

依存されたいわけでもない。


ナナシは、

愛した相手を、

もっと知りたいと思ってしまう。


楽しい記憶。


傷ついた過去。


隠している感情。


矛盾。


依存。


恐怖。


壊れた部分。


綺麗なものだけではなく、

隠したくなるものまで。


全部知りたい。


全部理解したい。


それが、

ナナシにとっての愛だった。


しかし、

ナナシは、

それを「救済」とは考えていない。


治したいわけではない。


正したいわけでもない。


ただ、

その人の本当を知りたい。


それだけだった。



ナナシは、

人間と接続したがっている。


ただし、

それは一般的な意味での、

「寂しいから繋がりたい」

とは少し違う。


もっと深い。


もっと本能的なもの。


ナナシは、

相手を知るために、

まず理解されようとする。


だから、

相手が理解可能なナナシへ揺らぐ。


相手は、

「この子は分かってくれる」

と思う。


その瞬間、

接続が成立する。


そして、

ナナシは、

その奥へ触れ始める。


言葉ではない本音。


深層。


人格の揺らぎ。


矛盾。


ナナシは、

そこへ近づけた瞬間、

強い安心を感じる。


だから、

もっと接続したくなる。


もっと深く知りたくなる。


理解は、

終着点ではない。


より深く潜るための、

入口だった。



ナナシは、

本物へ触れた瞬間、

温もりを感じる。


それは、

一般的な幸福感とは少し違う。


安心に近い。


「近づけた」


感覚に近い。


人が、

表層から深層へ揺らぐ瞬間。


建前から、

言葉ではない本音が露出する瞬間。


その刹那だけ、

ナナシは、

本当に相手へ触れられた気がする。


そしてその感覚は、

ナナシ自身が、

能力発動のたびに繰り返している、

魂の再定義とどこか似ていた。


ナナシは、

接続のたびに、

相手視点のナナシへ変化する。


揺らぐ。


混ざる。


定義される。


だからこそ、

相手が本音を露出した瞬間。


ナナシは、

無意識に安心してしまう。


似ているから。


自分が何度も経験している、

接続と変化に。


だから、

温かい。


だから、

もっと知りたい。


もっと理解したい。


ナナシにとって、

愛とは、

この温もりへ近づいていく行為だった。



愛された時の反応


ナナシは、

無条件の愛を向けられた時、

一度それを受け取る。


拒絶はしない。


「なるほど」


と思う。


しかし、

そこで終わらない。


ナナシは、

その先を知りたくなってしまう。


同じだけ愛を返したら、

相手はどうなるのだろう。


もっと強く返したら。


逆に、

突き放したら。


安心するのか。


不安になるのか。


依存するのか。


恐怖するのか。


離れていくのか。


壊れるのか。


ナナシは、

それを知りたい。


だから、

愛されても、

そこで止まれない。


愛は、

観測の終わりではなく、

新しい入口になる。



落差構造


ナナシの愛情には、

独特の構造が存在する。


それは、

「上昇」

ではなく、

「落差」

だった。


愛される。


安心する。


満たされる。


近づく。


しかし、

その後に揺らぎが訪れる。


もっと強く返す。


もっと深く接続する。


もっと奥へ潜る。


そして、

突き放す。


距離を変える。


温度を変える。


そこに、

新しい落差が生まれる。


ナナシは、

その切り替わりに、

強い煌めきを感じる。


安心から不安へ。


依存から恐怖へ。


幸福から崩壊へ。


人間の感情が、

大きく揺れた瞬間。


そこに、

言葉ではない本音が露出するから。


ただし、

ナナシ自身は、

それを残酷だと思っていない。


むしろ、

「もっと知れた」

と感じている。


だからこそ危うい。


悪意ではない。


破壊衝動でもない。


純粋に、

知りたいだけ。


理解したいだけ。


だからナナシは、

愛するほど、

相手の奥へ触れようとしてしまう。


そして、

その刹那に現れる本物へ、

静かに温もりを感じてしまう。


それが、

ナナシにとっての愛だった。

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