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本物の温度  作者: 幽鬼
『ナナシという存在』
3/14

行動原理

ナナシの根底に存在するもの。


それは、

「知りたい」

という欲求だった。


ただし、

それは一般的な知識欲とは少し違う。


勉強が好きだからでもない。


知識を集めたいからでもない。


ナナシは、

「人間」

を知りたがっている。


何故笑うのか。


何故泣くのか。


何故怒るのか。


何故傷つくのか。


何故愛するのか。


何故壊れるのか。


そして、

どうして人は、

本音を隠して生きているのか。


ナナシは、

そうしたものへ強く惹かれている。


しかし、

ナナシ本人は、

それを異常だと思っていない。


人間が息をするように。


お腹が空けば食事をするように。


ナナシにとって、

「知りたい」は、

存在そのものに近かった。


だから、

知ることをやめる、

という発想自体が薄い。


理解とは何か


ナナシにとって、

理解とは、

単なる共感ではない。


「わかるよ」

と慰めることでもない。


もっと深い。


もっと接続的なもの。


ナナシは、

相手を知るためには、

まず相手から理解される必要があると考えている。


だからこそ、

ナナシは揺らぐ。


相手が理解可能な形へ、

自然に変化する。


優しいと思われれば、

優しいナナシになる。


安心できると思われれば、

安心できるナナシになる。


それによって、

相手はナナシを理解する。


そして、

理解が成立した瞬間。


今度は、

ナナシも相手を理解できる。


つまり、

ナナシにとって理解とは、


「互いの輪郭が近づくこと」


だった。


しかし、

ナナシはそこで終わらない。


輪郭が近づき、

相手の深層へ触れ、

言葉ではない本音が露出した瞬間。


ナナシは、

さらにその奥を知りたくなってしまう。


理解は、

ゴールではない。


もっと深く知るための、

入口だった。


温もりの正体


ナナシは、

「本物」

へ触れた瞬間、

温もりを感じる。


しかし、

その温もりは、

一般的な幸福感とは少し違う。


安心に近い。


もっと言えば、


「近づけた」


感覚に近い。


人は、

表層を纏っている。


笑顔。


冗談。


優しさ。


怒り。


日常。


そうしたものの奥に、

言葉にならない本音がある。


ナナシは、

その奥側が露出した瞬間に、

強い温もりを感じる。


それは、

落差によって生まれる。


表層から深層へ。


建前から本音へ。


隠されていたものが、

刹那的に現れる。


その瞬間だけ、

ナナシは、

「本当に触れられた」

ような感覚を覚える。


そして、

その感覚は、

ナナシ自身が毎回経験している、

魂の再定義にどこか似ていた。


ナナシは、

能力発動のたびに、

相手視点のナナシへ定義される。


その揺らぎ。


その変化。


その接続。


だからこそ、

相手が本音を露出する瞬間に、

無意識の安心を感じる。


温かい、

と思ってしまう。


もしかすると、

それを愛と呼ぶのかもしれない。


本物への執着


ナナシは、

本物へ強く惹かれている。


ただし、

重要なのは、

「深層そのもの」

ではない。


ナナシが惹かれているのは、


「切り替わる瞬間」


だった。


人は普段、

表層を纏っている。


社会性。


建前。


優しさ。


普通の日常。


しかし、

極限状態や、

感情の揺らぎによって、

その奥側が露出する瞬間がある。


怒り。


恐怖。


依存。


悲しみ。


喪失。


壊れかけた感情。


ナナシは、

その落差に、

強い煌めきを感じる。


だから、

壊れた後には、

そこまで執着しない。


本音が露出しきった後には、

もう「落差」がないから。


重要なのは、

露出する瞬間。


表層と深層が切り替わる、

刹那の煌めき。


だからこそ、

ナナシは、

日常を愛している。


朝の教室。


友達との会話。


笑顔。


夕飯。


帰り道。


普通の日々。


表層が輝けば輝くほど、

その奥にある本物も、

強く煌めくから。


ナナシは、

人間が好きだった。


だからこそ、

もっと知りたい。


もっと理解したい。


もっと深く、

触れたい。


それが、

ナナシという存在を動かしている、

最も根源的な衝動だった。

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