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第2章 もどかしい日々

研修室の後ろの席。

健の定位置だ。


何気なく見渡すと休憩時間になると莉子の周りに人が集まる。

誰かがキャンディーをあげると

「わあ!ありがとう!マスカット大好き!」

チョコレートを貰えば

「お昼休憩に食ーべよっ!ご馳走さまです!」


何を貰っても嬉しそうにお礼を言う。

ポツンと1人で居る仲間を見ては声を掛け

楽しい会話に巻き込む。


みんなの人気者だ。


見た目は今どきのギャルだが優しくてまじめで面倒見の良い女の子だ。

研修も真面目にノートを取り、全てに全力だ。

健にはただただ眩しい存在だった。


研修も2週間目に入るとペアになりロールプレイ。

何回目かのロールプレイ時に莉子とペアになった。


「健っち、よろしくね」

「あ、はい。健っちって...」

「えぇーーー、だって橘内っちって言いづらいんだもんっ。ダメ?」

「あ、いや、別に」

「てかさ、まだ“あ”言ってるんだけど」

「気を付けてるんだけど、なかなか」

「電話口で“あ”って付けてたらヤバいぞーー!今のうちに直しちゃおっ!」

「うん、そうだね」

「ではでは、お客様とコールどっちやる?」

「どちらでも」

「んーーーじゃあ、私がお客様ね」


トークスクリプト通りに会話を始めるが

莉子相手に緊張しまくる。

しどろももろだ。


「健っちってコール初めてなんだっけ?」

「うん」

「そっかぁ。アタシも初めての時は健っちより言葉に詰まってた。その頃のアタシと比べても健っちは上手だよ!数さえこなせば問題ないよ!研修中に沢山壁にぶち当たろう!」

「あ、ありがとう。頑張るよ」

「うんっ、じゃあ次は健っちがお客様ね」


莉子は流れるように対応し上手だ。

それに比べて自分は......


家でも練習をしてみるがマニュアル持ち出し禁止のため思い出しながら繰り返し練習してみた。


「あーーダメだ」


研修も3週目に突入すると出来不出来が

ハッキリして来た。

健は出来ない組だ。

同じように出来ない人の中には自信を失い休みがちになりフェードアウトして行った仲間も何人かいた。

「俺は辞めたくない」

「生活かかってんだ。頑張れ俺」


着台テストが始まった。

社員が客になり電話する。

莉子含め経験者の何名かは一発合格だった。

3回不合格が続くと終わりだ。

健は必死に頑張ったが2回目も不合格になった。


「橘内さん、よろしいですか?」

健は社員に呼ばれた。

「ここに座って」

「はい」

「橘内さんは初めてなんだよね」

「はい。すみません」

「謝らなくて良いのよ。ただ...」

「はい」

「どうかなって。こちらも全力で研修して来たつもり。誰も落ちる事なく。今いるメンバー全員デビューさせたいのが本音」

「はい。僕に足りないのは何ですか?」

「えっとね...」

「僕、次こそ受からないと話にならないんです。教えてください」

「あのね。まず“えっと”とか“ちょっと待ってください”とか言葉の頭に“あ”が入るとか。

“えっと”は言わない

“ちょっと待ってください”ではなく

“少々お待ちください”なの。

お客様は新人だなんて知らないの」

「はい」

「言葉使いと保留時間が長いの。大変だと思うけど次のテストまでに改善して欲しいの」

「頑張ります」


健は3回目のテストも不合格だった。


「終わった...明日からどうしよう...」

答えの出ない思考を巡らせ

夕飯も喉を通らない。


無職では居れない。

データ入力でエントリーするしかない。


その日の夜、派遣会社の営業から電話が来た。

「ジョブプラスの佐藤でございます。今、お電話よろしいでしょうか?」

「はい」

「企業様より着信テストについて報告がございました」

「はい」

「コールセンターには架電チームと受電チームがございます。今回は受電チームでしたが結果不合格という事ですが」

「はい」


なんなんだよ...

何が言いたいんだよ...

俺だって必死に頑張ったんだ...

サボってたわけじゃないんだ...


「企業様より今回は受電チームでは希望に沿う事が出来ませんでしたが架電チームでどうでしょうか?とご依頼をいただきました」


早く言えよ!!!

やるよ、やってやるよ!!!


「あのう、時給はいくらなんですか?」

「変わりませんよ」

「そうなんですね。でも3回も落ちた自分で務まるか不安な部分もあります」


遠慮がちに言ってみた。


「架電チームは提出書類の不備などが発生した際にお電話をして頂くお仕事になります。事前に何を伝えるか準備をしてから架電するので入電で何を聞かれるかドキドキしながら対応されるよりは楽かと思います。ここまで研修されたので勿体無いと思いますし如何でしょうか?」

「はい、是非やらせてください」

「橘内さん、頑張りましょう!」

「はい、頑張ります」

「明日より架電チームの研修が始まります。今回は4階が研修室になります。

明日、出社されましたらエレベーターで4階までお越しください。我々は4階でお待ちしております」


首の皮一枚繋がった。


今度こそ。






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