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第3話 例え話が戦術になる


リオネルは、

小さな部屋に閉じ込められていた。


牢屋――ではない。


ベッドがあり、

机があり、

窓もある。


だが、

扉の外には常に魔族が立っている。


「これ、

 軟禁だよな……」


机の上には、

分厚い羊皮紙の束と、

羽ペン。


インク壺。


そして――


「本日の講義内容を

 まとめよ」


という紙。


「む、無理だって……」


リオネルは、

頭を抱える。


自分は、

畑仕事しかしてこなかった。


戦術も、

理論も、

知らない。


知っているのは、

村での暮らしだけだ。


コンコン。


扉が叩かれる。


入ってきたのは、

黒いローブを着た女性の魔族だった。


肌は青紫色。


細身で、

長い黒髪。


金色の瞳が、

鋭く光る。


「私はシャドゥラ」


「魔王陛下直属の記録官」


「あなたの発言を、

 一言一句、

 記録する役目です」


「やめてええ……」


シャドゥラは、

無表情で椅子に座る。


「では」


「講義を開始してください」


リオネルは、

震えながら口を開く。


「えっと……

 その……」


沈黙。


シャドゥラは、

羽ペンを構えたまま、

瞬きもしない。


(何か言わないと、

 殺される……)


リオネルは、

必死で考えた。


「た、例えば……

 村でケンカが起きそうな時……」


シャドゥラのペンが、

ピクリと動く。


「どうするんですか?」


「間に入って……

 両方の話を聞きます」


「ほう……」


「片方だけ怒鳴ると、

 余計こじれるので……」


シャドゥラのペンが、

走り出す。


「敵対者双方の

 主張を把握し、

 感情の沈静化を図る……」


「高度な心理誘導……」


リオネルは、

背筋が凍る。


「えっと……

 それで……」


「ケンカの原因が、

 畑の水の取り合いなら……」


「水路を増やします」


シャドゥラが、

目を見開く。


「資源拡張による

 対立根源の消滅……」


「戦わずして、

 争点を消す……」


リオネルは、

泣きそうになった。


「いや、

 普通のことです……」


シャドゥラは、

静かに首を振る。


「普通ではありません」


「これは、

 魔族史上に存在しない

 思想です」


「えええ……」


その後も、

リオネルは、

必死に話し続けた。


「隣の村と、

 作物を交換するとか……」


「一緒に収穫祭するとか……」


「困ってる人がいたら、

 助けるとか……」


シャドゥラのペンは、

止まらない。


「共同体構築理論……」


「信頼形成プロセス……」


「支配ではなく、

 結束による統治……」


リオネルは、

机に突っ伏した。


「俺、

 もう帰りたい……」


そのとき、

扉が開く。


入ってきたのは、

ゼフィロスだった。


シャドゥラが、

すぐに立ち上がる。


「陛下」


「成果は?」


シャドゥラは、

分厚い束を差し出す。


「人類最強の

 思想体系です」


リオネルは、

全力で否定する。


「違います!」


「俺の村では、

 みんな普通にやってます!」


ゼフィロスは、

リオネルを見る。


「……人類は、

 恐ろしい種族だな」


リオネルは、

叫びたかった。


(違うのは、

 あんたたちの解釈だー!)


こうして――


例え話は、

戦術書になった。


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