第2話 魔王城への道
縄で縛られたまま、
リオネルは歩かされていた。
両脇には、
巨大な魔族が二体。
一歩でも遅れれば、
首が飛びそうな迫力である。
「……夢だ。
これはきっと夢だ」
そう呟いても、
頬をつねる余裕すらない。
村は、
すでに見えなくなっていた。
森を抜け、
岩山を越え、
黒く濁った川を渡る。
人間が通れるとは思えない道を、
魔族たちは迷いなく進む。
(俺、
どこに連れていかれるんだ……)
頭に浮かぶのは、
処刑台の光景ばかりだった。
「なあ……」
勇気を振り絞り、
隣の魔族に声をかける。
「俺、
ほんとにただの村人で……」
魔族は、
ちらりとリオネルを見る。
「分かっている」
「え?」
「だからこそ、
貴様は危険なのだ」
意味が分からない。
「人類最強の戦術を、
無自覚で使う者ほど、
恐ろしい存在はない」
リオネルは、
本気で泣きそうになった。
(畑の話をしただけなのに……)
やがて、
巨大な城が見えてくる。
山を丸ごと削ったような、
黒い城壁。
空を突き刺す無数の尖塔。
雲が、
城を避けるように流れている。
「あれが……
魔王城……」
足が震える。
門の前で、
バルザークが振り返った。
「魔王陛下は、
知を重んじる御方だ」
「正直に話せ」
「下手な虚偽は、
魂ごと砕かれる」
「ひいい……」
門が、
ゆっくりと開く。
ギギギギ……
重苦しい音が、
腹の底に響いた。
城の内部は、
意外なほど整っていた。
血の匂いも、
死体もない。
代わりに、
整然と並ぶ兵士と、
静かな空気。
(思ってたのと違う……)
玉座の間へと通される。
広大な空間。
赤い絨毯の先、
高い玉座に座る影。
銀髪の青年。
黒い外套。
冷たいが、
どこか理知的な瞳。
「貴様が、
例の村人か」
声は静かで、
若い。
リオネルは、
思わず叫んだ。
「す、すみませんでした!」
額を床にこすりつける。
「俺、
変な意味で言ったんじゃなくて!」
「畑の話は、
その場しのぎで!」
沈黙。
魔王は、
じっとリオネルを見る。
「ゼフィロス・ノクスだ」
「魔族を統べる者」
名乗りを聞いただけで、
心臓が止まりそうになる。
「人類は、
戦わずして勝つ道を
確立しているのか?」
「え?」
「答えよ」
リオネルは、
必死で首を振る。
「そ、そんなの
知りません!」
「俺、
字も読めないし!」
「戦争とか、
よく分からないし!」
ゼフィロスは、
顎に手を当てる。
「無知を装う必要はない」
「貴様の発言は、
高度な兵站支配理論だ」
「兵站……?」
ゼフィロスは説明する。
「軍が戦うために必要な
食糧、武器、輸送など、
後方支援の仕組みだ」
「それを握れば、
戦場に立たずして勝てる」
リオネルは、
頭を抱えた。
「ちがううう……」
ゼフィロスは、
ゆっくりと立ち上がる。
「ならば、
貴様に教えさせる」
「何を……?」
「人類最強の戦術をだ」
「俺、
何も知らないんですけど!」
「だからこそ良い」
ゼフィロスの口元が、
わずかに歪む。
「貴様を、
我が軍の教育係とする」
リオネルの世界は、
音を立てて崩れた。
「い、
いやああああ!」
こうして――
最弱の村人は、
魔王の教師となった。
望んでもいないのに。




