表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

第19話「スコーンのお口でちゅ」

マルシェの近くに飛んだ俺たちは少しだけマルシェを見て回った。

アベルがアルスに派手な女性らしい格好を強いる気持ちが少しだけわかったが胸にしまい込んだ。


「お店はあっちですね!行きましょっ。」

なんだか少し楽しそうに見えるのは俺がそうであって欲しいと願っているからなのだろうか?


店の前に到着し、インターホンを鳴らすと中から小柄なリスの獣人が出てきた。

どん〇りを辿ってもつきません〜と俺の頭で勝手に流れ出すメロディ...。いかんいかん、でもさ...あまりにも森の小さなレストランて感じの雰囲気なんだよこの人...。

「いらっしゃいませ。アルスさんのお使いの方ですかね?」

「えぇ、そうです。こちらを渡すように言われてきました。」


「わぁありがとうございます。あ、申し遅れました。ここのシェフをやっていますマリアと申します。」


「僕はアルスさんの身の回りの事をやっていますアベルと申します。こっちは最近うちの商会がお世話になっているダイゴさんです。」

「どうも、ダイゴと申します。」


「あ!アルスさんが言ってた凄腕の料理人の方ですね!今晩楽しみにしてますね。」

「今晩?」


嬉しそうにするマリアさんの言ってることがいまいちピンとこず首を捻った。

「あー!もしかしてですけど、アルスさんから何も聞いてませんか?今日の夜はうちのレストランでダイゴさんがパーティのお料理を作ってくれるってお聞きしました!私達も手伝うなりお勉強させていただくなりパーティに参加するなり好きにしていいって言ってくださって!そんなすごい方の料理が見れるなら普段から本当にお世話になってますし、今夜は予約も入ってないのでぜひうちの店を使ってくださいってなったんです。」


やられた...。

「あぁその事だったのですね。そのことは事前に聞いております。こちらこそこんなにも素敵なレストランさんの中でお料理させていただくのがとても楽しみです。」


仕方が無いのでアルスの顔を立てるためにも知っている振りをしておいた。

...あいつ全部わかってて俺がいるところでアベルに物を頼んだな!

そして転移で消えたのも問い詰められるってわかってるからで用事があるのなんて本当かどうかわかったもんじゃないぜ。


アベルの可愛さにデートみたいだと浮かれていた俺だったがレストランを後にして商会に戻ってきた頃にはイラつきやらレストランで料理できることが楽しみやらで複雑な気持ちになった。


「アルスはまだ帰ってないか?」

一言文句を垂れようと思ったがやはりいない。

ったくもー!


「あっはっはっ!」

事の顛末を聞いたモーティが大爆笑で笑い転げている。

ハルートは肩を震わせて笑いを耐えてるしシャルは揚げ物と味の濃いものをリクエストしてくるし...。

はぁ...俺の作るものにはシナジーを徹底させたいが今夜はそうもいかないか。


「...いいか?今夜作るのはパーティ料理だ。俺が専門にしてたものとは違うが徹底して作るからな。」


「本気七十パーってところか?楽しみだぜ。」

モーティがガッツポーズをとる。

意図を汲み取って欲しい人物にわかって貰えたようでよかった。

言い訳はしたくないが別モンを作る以上本物のフレンチを作った時に出せるものとではやはり違う気がする。


つうか俺が否定するまもなく勝手に何もかもが進んでる感じ...やっぱり好きになれねーなアルスのやり方はよ。


シャルのリクエストには、フリッター...いや?カツレツ?

もはやフライドチキン...うーん。

食材を見ないことには何ができるか分からないが俺が今猛烈に食いたいのはソテーされた肉だ。


俺が頭を捻っているとアルスが大量の食材の入った袋を持って帰還した。


「ただいま〜。さぁ!ダイゴ!レストランまでフープルや!」

にんまりとした顔でこちら見る整った顔を一発ぶん殴りたい気分だった。


「はぁ...言いたいことはあるが今日はもういいや。みんないくぞ〜!フープル。」


全員を連れ再びレストランに戻ってきた俺はインターホンを押しマリアに中に招き入れてもらった。


「アルスさんダイゴさん皆様!今夜はよろしくお願いします。」


「よろしくお願いいたします。ではマリアさんまずはキッチンへ行く前に衛生を整えたいのですがコックコートはお借りできたりしますか?」


「はい!こちらです。」


マリアに案内され裏から入ったので事務所を通り抜けその奥にあるロッカールームに案内された。

他の奴らは一度挨拶を済ませるとレストランのホールの方へと店の外を一度出て正面入口から案内されていた。

うんうん、キッチンへの衛生観念もしっかりしてるな。

個人経営だと適当なところあるからそういうのあったら指摘してしまうところだった。


店自体はそんなに大きくないし新しくも無さそうだが事務所に至るまで徹底して清掃がされているようで居心地がいい。


借りたコックコートを着ると久しぶりの心地に感動しそうだった。

少し大きかったのでサイズを変えてもらったけど。

こういうのは徹底してぴったりしたサイズにしないと衛生観念が崩れかねない。

獣人用の飛沫防止マスクをつけコック帽をみにつける。


あ〜顔の毛も白いから全身真っ白しろだぁ。

でも落ち着くなぁ。

爪切りを借り深爪しそうなほど爪を切り手を二度洗いしペーパータオルで拭き取る。

この世界にも除菌スプレーがあることに感動を覚えながらしっかりと肉球や指の間にそれを練り込む。

アルコールとは別の成分らしく少し変わった香りがする。


キッチンへ行きまずは環境の確認。

魔法で点火するコンロ...それから何種類かのオーブンにサラマンダーやらフレンチで使えそうな機材が揃ってるな。

器具の方はフライパンにソースパン、ソテーパン、鍋各種、キャセロール、牛刀などの必要な刃物何種類かシノワや木べらなんかも一通りある。

うんうん、これなら割といいものが作れるな...あっ忘れていたが今日パーティか...そうなるとオードブル...といってもフレンチで言う前菜のようなものでなく日本で親しまれる方のオードブルなんかがいいかもしれないな。


「あ〜ありがたい。こんなにもちゃんと器具があるとは。」


「そう言っていただけて嬉しいです。メルディアンの専門店ですのでダイゴさんのお得意な分野だとお聞きしてます。」


「はい。そうなんです。あ、アルスは何を買ってきたのかな?見てもいいですか?」


アルスが買い込んできた紙袋の中身を見てみると...。

食材自体はどれもわりと良いものではあるが...あまりシナジーがない。


「ん〜なんというかまとまりがありませんね。」


「マリアさん!そうですよね!」


マリアさん!わかってるぅ!


「うーん...これならシャルの言ってた味の濃い料理となるとアロゼした鳥魔物肉....せっかく鳥1羽分あるからローストチキンもいいかも...いやでも時間がかかりすぎるか。というかそれにはハーブとかいくら食材が足りない...いっそヴィネガー煮とか?」


「本当にお料理お好きなんですね!パッとこれを見ただけで皆さんのご要望も取り入れていくつか候補が浮かんでいるなんて!」


これくらい普通のことのように思えたが褒めて貰えるのは悪くない。


「いえ...うーん。調味料などはお借りしても?」


「えぇもちろんです。仕込み済の食材などはご予約やケータリングでのて今日予定があるので難しいですがこの中にあるもので未調理のものでしたら私に一度聞いていただけたら問題ないですよ。」


「ありがとうございます。でもやはり買われた食材の中で上手いことやってみるのも面白そうなのでなるべくこの中で済むようにやってみます。」


「流石です!」


そんなこんなある程度の出来上がりの見栄え予測と食材を余らせない計算と作業時間の予測が着いたところで俺は手を動かし始めた。


まずはやはりこの鶏肉を活かす。

アロゼが食いたいのでもも部分をカットをし下ごしらえをしておく。

胸はひとまず皮付きでカットしてバタフライ型に開き叩いておく。

ササミはカットしたあとしっかり筋切りをして氷魔法で冷やしておく。

手羽はコンフィにするためにローズマリーやローリエ、白ワインを入れた袋の中に入れしっかり密閉し少し時間置く。

その間にガラをぶつ切りにし、工程をみて理解してくれたマリアさんが予熱してくれていたオーブンに入れる。


そんなこんなで丸鶏を余すことなく調理するだけで結構な時間がかかってしまった。

まぁ..いいか。

フレンチっぽい方は下ごしらえをある程度終えたのでひとまずそれくらいにして残りの食材で日本料理に近いものを作ることにした。

専門外だがパーティとなったら俺が食いたいので...。

まずはタコやら鯛やらの魔物がパックに入っていたのでそれらをマリネして...っおっとカルパッチョを作ることにした。

...日本ぽいアレンジを加えれば日本料理と...呼べなくもないはず。


それからツナ缶があったのでこっちはリゾットを作るためにトマトをにんにくでアロマティゼしておいたオリーブオイル炒めていく。

ハァンええ匂いや。

日本料理って思ってるのに...どうしてかフレンチやらイタリアンやらに寄ってしまうな。


そのあとはオーブンから出したガラをエシャレット、人参、オニオン、セロリと共にルヴニールしていく。

そこに水を足し煮込んでいる間に今度は他の料理の用意をしていく。

あーこれ一人でやることじゃないな。

だからってマリアさんは一生懸命見てるのに手伝わせるわけに行かんし...気合い入れるか。


氷魔法で冷やしておいたささみをフープロでペーストにしていく。

合間に用意した卵白をそのペーストに加えよく混ぜるとまとまりが出てきて弾力も加わる。

さらにこちらも合間に作っておいた生クリームを少しづつ加えて混ぜていきその後、

パッセする。

そうして残ったものを塩コショウやスパイス、みじん切りにした野菜類を混ぜていく。


指先で炎の魔法を使いスプーンで掬ったそれを味見していく。

うん、パサつきもない...重すぎないし、きちんと締まってんな。


完成したファルスを先程、延した鶏ムネに乗せ巻いていく。

なんだかどれもこれも俺の世界の鶏肉とは魔物だからなのか違っているので感覚が狂いそうになるがそこは感と経験で補ってみる。


ちょ〜っとせこいけど魔法で上手いことつなぎ目を無くすかのように熱を鶏ムネにだけ入れていい感じに開かないようにしてからそれをじっくり焼いていく。


コンフィ用の手羽を袋から取り出し水気ペーパーでしっかり取る。

小鍋を用意し時間が無いのでオリーブオイルを回しがけていき手羽を沈めていく。

タイムの葉を入れ予熱したオーブンで焼いていく...。

まだまだこれでも全て終えるには半分くらいの工程。

そうしてうまいことその他やりかけのことを順序よくこなし全ての料理が完成して行った。


順番的にアルスに最初に食べられるのだろうと思うと腹が立つが盛り付けも完璧にすませ料理を運んでいく。

本当は出来た順番で出したかったのだが今日はそういう訳には行かない。

大テーブルをくっつけ大きなテーブルにその上に美しく並べた料理は我ながら宝石のようだ。うんうん、いいね。


「う、うわああああ!すげー!なんだこれは!」


モーティは盛り付けや皿やシルバーの配置のズレのなさに驚いているな?恐らく。


「いや〜ん!なになにさいこおなんだけどー!ダイゴありがとぉ!」


マカフィちゃん...嬉しいけどコックコートを着ている間はごめんね。

俺は抱きついてくるマカフィを避けてしまった。


「すまない!この服を着ている間は俺は料理人なんだ。衛生観念を崩したくない。」


「うぉおおお!まじかっけー!」

モーティは小学生みたいな喜び方だな。


「流石です。ダイゴ、食材の意味、引き立たせ方、盛り付けにおいての魅せ方...芸術と言っても過言では無いです。」


肝心のアルスは無言でパシャパシャ写真を撮ってる。

はぁ...。


「ダイゴさん!本当に凄かったです。キッチンでのあなたは分身をしているかのように素早い身のこなし無駄のない動き丁寧な作業。私にはまだまだ真似できそうにありません。現場の仲間たちと協力してもあなたがやったことを再現するのは難しいです。後で質問したいことがあるのでご指導お願いします。」


...この子欲しい。


「わかりました。こちらからも後でお話があります。本当に今日は素敵なキッチンをお貸しいただきましてありがとうございます。」


アルスがストックからワインを出しパーティは始まった。

まずはアルスがどれも一口ずつ味見していく。


「うん!完璧や...俺これより美味いもん食うたことないわ。絶対にダイゴ君を離さんからな。うちと取引しような。」


じっくりと味わったあとアルスはニコニコしてそう言った。

じっくり久しぶりにフレンチを楽しみながらルカのことを思い出していた。


あいつとの約束もなんだか霞を掴むようなところから水に片栗粉を解く位の所までは進んだかなぁ。

たとえ変だけど...。


「ダイゴ!?また飲んでるの?よくあれだけゲーゲーして飲めるね。」


「メルディアンにワイン無くして何を飲むつー話なわけ?

苦しかったがもう二度と同じ失敗はしない。既に解毒をかけながら飲んでるし。」


「あははははおめーらしいや。つーかよ俺は今日打ち震えたよ。あんたが作ったホンモン...これがそうなのかと思ったよ。

どれもまず食材へのリスペクトが半端じゃねぇ...。美しく、美味いそしてなにより全てが主役かのように立っていた。

付け合せに出てきたリゾットですら一つ一つ丁寧に化学式を組んでいるというのが食べてすぐにわかったよ。調味料の分量...いや器具一つ一つの使い方、立つ位置...混ぜ方やそれの速度に及ぶまで一つ一つに意味があるんだというあんたの言葉がそのまま生きてるんだと思った。

肌感でわかるようになっていくと言っていたがその場所に立てるようになるまでどんだけくらいついてきたかよくわかったぜ。

本当今日はありがとうな。」


「繊細な味の機微をまずは感じ取れるその舌が身についてきたな!こちらこそ久しぶりに真剣に料理できて楽しかったよ。アルスの勝手に仕組んだことと言うのはなーんか腑に落ちないけど食べてくれてありがとうな!料理は美味いと思って食べてくれる人がいてこそだからな!」



「ダイゴさん、本当に私もモーティさんと同じ意見です。目の前で見ていたからこそあなたの無駄のなさや常に計算をし尽くしているその動きに感動しました。」


「あは、マリアさんにもすぐ出来るようになりますよ。良かったらいつか僕がやるお店で働きませんか?」


「いいんですか!是非...と言いたいところですが私には父が残してくれたこのお店があります。

もしダイゴさんが大丈夫なら私がこのお店でできる限りの事を全てやり切っていつか私と主人の子供が産まれてその子に継承できるくらいに育ったら...その時はあなたのお店で働かせてください。」


「あはは先は長そうですがそれでもマリアさんは素晴らしいものを持っていると思います。そのいつかをお待ちしていますね。」


「はい!今日見たことを忘れずにやっていきます。よかったらここでたまにこうしてパーティを開いてください。その時わたしにできることがあればお手伝いします。」


「いいですね!マリアさんさえ良ければ定期的にやりましょう。その時はアルスを通していただければと思います。」


「はい、今日は本当に素晴らしい機会をいただいてありがとうございました。」


パーティはまたもや朝方まで続き片付けやら掃除やらを全員に手伝わせて徹底してやっていたら昼過ぎになっていた。

外に出ると日差しが暖かくて心地いい。


「ん〜もう眠い通り越してあたまがぽや〜とするね。」


マカフィは半目で笑う。


「俺は風呂によって帰りたい。この前のところとか!」


「お〜いいね。じゃあたしとシャルはそうしよっか!場所覚えてるの?」


「あぁなんとなくな!こっから近いと思うぞ。」


「おっ!いいね!他の人たちはどうするー?」


「俺は帰る。ちょっと昨日の料理の感動を忘れんうちにノートにまとめたいんだ!」


「私もご一緒していいですか?」


「おっけーー!モーティは帰って、ハルートは来るのね!」


アベルは行けないだろうしここは俺も商会に残るか。


「俺は商会に帰るよ〜。シャワーだけ浴びて昼寝するわ。」


「えー!ダイゴこないのぉ!まぁいいか!」


「俺もやることあるさかいに遠慮しておくわ〜。」

アルスはそういうと転移でどこかに消えた。


というわけでそれぞれ散り散りになった。

モーティの家はここからすぐの所にあるらしく歩いて帰っていると手を挙げて路地の中に消えていった。


「二人になっちゃいましたね。」


「だなぁ。なんかあれだけ騒がしかったから少し寂しく思えるな!ははっ。」


「ダイゴさん...その、ありがとうございます。」


「んー?なにがぁ?」


「僕、普通に温泉入れないので気を使っていただいたのですよね?」


「なんの事だー?わからんな。」


「本当にありがとうございます。」


「んー、まあ変に気負うなよ。

今度、タッカンブルの宿でも貸し切ってもらって温泉いこうな。」


「はいっ!ぜひ!」


決まったぜ!俺めっちゃ男らしくない!?


「そんじゃ帰るか!転移で。」

「いえ、ダイゴさんさえ良かったらこのまままた街を散策しながら帰りませんか?」


んー!めっちゃ嬉しい!ちょうどこの辺りからあまーい匂いがしてるからつまみ食いしててぇなぁと思ってたんだよな。

「おん、いいよ。」


「わーい!嬉しい〜。」

本当にこの子は男に見られたいと思ってる?

女の子にしか見えませんけど...。

という気持ちは心にしまっておこう。


「甘いもの苦手じゃないですか?

この辺だとあそこのスコーンが有名なんですよ。僕、ご馳走するので良かったら行きましょっ!」

「おぉ!スコーンね!大好き。」

昔イギリスに連れてってもらった時唯一美味かったのがスコーンだったので記憶深くに残っている。


「あぁ!ダイゴさん見てください!ちょうどお昼時だから行列です!どうしましょっか!」

レンガや石造りの可愛い街並みに似合うデ〇ズニーみたいなオシャレな店の前にはとぐろを巻く列が。

...ぐぬぬもう既にスコーンのお口でちゅ。


「並ぼ。お前となら行列も嫌じゃないよ。」

深い意味は無く素直にそう言っただけなのだけどアベルは少し赤くなってしまう。


「あはは...僕もダイゴさんとならやじゃないです。」

か、かわいいいいいいい!

なるほど...言われるとこんな気持ちになるのか。

多分俺、誰にでも言ってるから気をつけよう。


「僕同年代のお友達が沢山できて本当に嬉しいんです。対等に話せるってこんなにも楽しいんだって思いました。」


「あはは...俺も全く同じこと思ってた。でも、お前にはアルスもいるだろ?」


「いや〜あはは、アルスさんには拾ってもらったご恩もありますし、気を使っては貰ってますが...なにより僕が彼の役に立ちたいなって思ってるので養ってもらってるし対等かって言われるとちょっと微妙なんですよね。」


「まぁそういうもんなのか。確かにあいつは腹の中がわからなすぎるしな。」


「あはは...僕ですらそう思います。

ダイゴさんは自分の世界を創って、ストイックにずっとお料理をされていたんですもんね。」


「まぁな〜そんなこんなで敵ばっかりだと思い込んで生きてたし...だから青春なんてもんは皆無の年齢イコール彼女なし歴だよ。あはははは。」


「かっこいいです!僕は人の懐に入り込んでしか生きて来れなかったから...自分の道を生きてきたダイゴさんめっちゃ尊敬します!」


「それはお前に与えられた生きる方法がそれしか無かったからだろ?お前は逃げずにそこと向き合ってきたんだ。それはそれですげーことだって。」


「ありがとうございます。僕そんなふうに言って貰えたの初めてでめっちゃ嬉しいです。」

それからアベルはこの街の歴史や成り立ちを教えてくれた。

まあ...全部神から与えられた知識の中にあることだけど、人から聞くと面白いもんでその世界に生まれたものから見た新たな視点が得られるのでとても新鮮だった。


そこから約一時間弱夢中帰って話しているうちに俺たちの順番がやってきた。


店の扉はオシャレすぎると言っても過言では無いオシャレなブラックチェリーのような色味の木に湾曲した黒い鉄の持ち手がついている。

扉を開けると鳴るドアベルがまた洒落ている。

店の中は満杯という訳ではなくテーブル席とテーブル席の間隔もありそのうえ空いているテーブルもあってが密接しないようになってる。

おそらく余裕を持った人が余裕を持った接客を受けるための店という感じ。

他の客を見るとオシャレなマダムや落ち着いた雰囲気のカップルなんかが多かった。


俺たちが案内されたのはステンドグラスが嵌められた窓側。

白のテーブルクロスに午後の陽射しに照らされキラキラと色んな色の光が反射している。


「うわぁ〜綺麗。」

アベルはそれを見て喜んでいる。

シルバーの水差しで切子のようなグラスに水を注ぐ。

俺のは青色、アベルのは赤色。

それぞれグラス色の影がテーブルクロスを染めていた。


「ダイゴさんこのお水美味しいですよ。」


お!?水が美味いのか!これはスコーンに付け合わせる紅茶に期待できるな。

アベルに言われて俺も一口飲んでみる。

おぉ〜これは結構硬度の高い水だな。

ちゃんとイギリス風の紅茶になりそうだ。

俺は軟水で淹れるアールグレイが大好きなのだがたまには本場っぽい紅茶もいいかもね。


「うんうん、本当だ。硬度がある水だな。飲み口は重みがあってミネラル感あるな。」


「すごーい!そんなことわかるんですか!?僕には美味しいことしか分かりませんでしたよ!」


「あははまぁ料理には使う水も重要だからね。」


水魔法でpHまでいじくれるようになったら便利だろうなぁ。

メニュー見るとランチものもあったが今は気分じゃなかったのでスコーンと地球で言うところのアッサムにあたるアルボスの紅茶をホットミルク別添えで頼んだ。


アベルは同じものをと言って俺と同じものを頼んだ。

しばらくグラスを眺めたりアベルと他愛もない話でクスクス笑いあっていると紅茶とスコーンが運ばれてきた。


付け合せのアプリコットジャムやブルーベリージャムなんかも一緒に来てテーブルを彩る。


まだほかほかのスコーンを早速一口行きたいがまずは紅茶だ。

オシャレな花柄のティーポットで中は見えなかったが同じ柄のカップに注ぎ淹れると赤茶色が満ちていき、ほんのり茶葉が踊っているのがわかる。

タンニンが硬水に反応しているのか色濃くバーガンディ色にも見えるそれはうっすらとだけメープルのようなアッサムならではの香りを放っている。

一口含むとやはり香りは強くないがアッサムで目立ちがちな渋みと苦味も薄くほんのり甘くまろやかな味わい。


ここで熱々のミルクを足していく。

深く濃い赤茶色に細い純白が注がれるとまるでダンスをしているかのように絡み合う。

混ざりあっていくうちにベージュ味がかってグラデーションを作り出す。

スプーンで少し解いてやるとベージュによりに近づく。


まずは一口。

うまい...紅茶は薄くなっているはずなのに先程より香りはシャープにミルクの濃厚な香りと混ざり合いその奥で感じる花のような紅茶の香り。

舌触りはより滑らかになりミルクの甘みも加わって入れていないのにまるで砂糖が入っているかのようだ。


「ん〜ダイゴさんの真似をして飲んでたらなんですかこれ!美味しすぎます!紅茶一つでこんなにも色んな楽しみ方があるんですね!」


「うん実はまだあるよ!紅茶にジャムを入れるんだ。本当はイチゴジャムを入れるんだ。

ここにはないから後で聞いてみよう。」


「ブルーベリーやアプリコットじゃだめですか?」


「うーん悪くはないけどブルーベリーの方は酸味や渋みがでるだろうし...アプリコットは少しアンマッチすぎる様な気がするんだよね。香りが強い分紅茶と殺し合いをしてしまうんじゃないかな。」


「うーん。ここうちが卸しているのでなんとなくわかるのですが恐らくイチゴはなくて...というのももともとはここのお店イチゴ農園にあったのですが...ちょっとオーナーとそりが合わなくなったみたいで以来いちごは使わない方針にしたみたいなんです。」


なんそれ〜勿体ねぇな...。


「あらぁ...そうなのね、じゃあ仕方ない。ジャムはスコーンにつけて楽しもうか。スコーンを紅茶につけるとまた味が変わって面白いから色々やってみるといい。」


スコーンそのものはサクッとした食感なのにボソボソしないしっとりとした生地うん、完璧。

バターの香りが思ったより強くイギリスのものより美味い。

ただ、紅茶を魅せたいのかスコーンを魅せたいのかどっちか分からないというところは少し残念だが今はものすごく腹が減っているのでバター感の強いスコーンは大歓迎である。

ジャムを付けるとなるほどとなった。

ブルーベリーの方は思った以上に香りが強く酸味も結構ある。

その変わり甘さは控えめでバターの香りと殺し合いにならず薄いはずの甘みが強く感じられる。

アプリコットの方はこれでもかと言うくらいに甘い代わりに酸味やえぐみが抑えられていて香りもそこまで強くなくこのスコーンに乗せるために調整されたジャムなのだということがわかる。

アプリコットの方は行き過ぎるとジャスミンを甘くしたみたいな香りになるので俺としては他のものにもこのジャムをつけて食べたい。


「んーーー!美味しい。ダイゴさんこのジャム最高ですよね!あ!これうちの商会でもここから取り寄せて通信販売してるんでよかったら買ってくださいね。」


ん〜やめて〜今宣伝しないで〜!

白いライオンの男の顔がチラつくから不味くなる。


「お、そうだな。考えとくよ。」


アベルもアルスに徹底して教え込まれてるのか染み込んだ商売人根性がこういう所でシミ出すらしい。


ひとしきり紅茶やスコーンを楽しんだあと宣言通りアベルにご馳走になり俺たちはフープルで紹介まで戻ってきた。


既にアルスやシャルたちも戻ってきていて茶化されたのは言うまでもない。


「明後日はついにグレイスの洞窟行くさかい買い物は明日のうち済ませとくんやで。まぁ必要なもん言うてくれれば俺が用意せんこともないけど...できたらこの街の店たちにお金落としてって欲しいさかいよろしゅうに。」


夕飯前の作戦会議ではここでもアルスのいやらしいあきんど根性が垣間見えた。


「はぁ〜エーテルやポーションはお前が用意してくれよな。あと装備品もできたら頼む。防寒耐性のアクセサリーやらはこっちでもどうにかするし個人の買い物は自分たちでもするからその辺は頼むぜ。」


「せやな〜、しゃあないか。」


金は使わないで取っておくに越したことはない。


そこから夕飯を食べブッキンアドベンチャー以外のボードゲームもやったりしてなかなかに盛り上がったがみんなそれぞれ対して寝ていないので眠気の限界がすぐにやってきてもう寝ようかということになり俺はシャワーだけ済ませ早々にベッドへと入った。

時刻は午後六時。


直ぐに抗えないほど眠気が襲ってきて(抗うつもりなど毛頭ないが)そのまま夢すら見ない深い眠りの中に俺は落ちていった。

甘いもの食いたくなりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ