第15話「分かるかね、ハトソン君」
ロイズとマルジニアはそこまで離れていないので時差は大きくないがほんの少しだけロイズの方が日かが傾くのが早いようで商会の中はすっかりオレンジ色に染まっていた。
「ひゃ〜今日はなんややること多て疲れたなぁ。」
「アルスも浴場来るのか?」
「俺が案内せなどうやって行くちゅーねん。」
「それもそうか。」
「アベちゃん悪いな留守番頼むわ。」
「あ!僕も今日はここでお風呂を借りるよ。みんなだけで行ってきて。」
マカフィーは笑顔でそう言った。
「そうかぁ。じゃ女の子はシャルちゃんだけかぁ?」
「おう!俺はバリバリデケー風呂で暖まるぜ。」
俺たち男よりもなんか男らしい女の子シャルちゃんは力こぶを作ってガハハと高らかに笑う。
「あ、すまん抜けとった。まずはみんなが寝る部屋に案内するわ。」
そう言うとアベルは三階の空き部屋に俺たちを通した。
そこにはベッドが三つ。
「マカフィーさんベッドが足りなさそうなので良かったら僕の部屋で寝ますか?ソファーベッドで良ければ布団が余分にあるのでご用意できます。」
「ううん!僕シャルと寝るから大丈夫だよ。」
「たまには一人で寝てーよ。行ってこいよマカフィ。」
「...シャルがそういうなら。じゃあごめんねアベルいいかな?」
「はい!今日は沢山お話できますね。」
ニコッと少女とも少年とも取れる笑顔で笑うアベルに俺は少しだけどきっとした。
マカフィーは小声でアベルに囁いた。
こういう時僕ちゃんの獣人としての能力を自覚させられるのだけどオオカミさんなので耳がとても良いようです。
聞きたいなんて思ってるわけじゃないのに聞こえちゃうのよ。
(お腹痛いんでしょ?じつは今日僕もそうなの。だから残るって言ったのだけどお部屋にまでおじゃまして大丈夫?迷惑じゃない?)
(えぇ、平気です。じつは一人になったらなんだか酷く気分が落ち込みそうだったので残ってくださると言ってくれたマカフィーさんが居てくれたら嬉しいなと思いましてお誘いしてしまいました。こちらこそご迷惑ではなかったですか?)
(そっかそっか〜全然大丈夫だよ。ごめん、ナプキン切らしちゃったから買えるところみんながお風呂行ったら連れてって。)
(お易い御用です。)
これ絶対男の俺が聞いてたらやばいよね。
キモいよね罪悪感最後までチョコたっぷりのト〇ポよりたっぷりだよ。
「早く行こうぜ〜。」
シャルはソワソワしてその辺を歩き回る。
落ち着きないなぁ全く。
「こらシャルちゃん落ち着いてください〜。」
俺が優しく諭すとシャルはあっかんべーをしてきた。
「うちのじゃじゃ馬が限界を迎えそうなのでそろそろ行こうか。アルス」
アルスの方を見るとなにやらスマホで作業してた。
疲れてたんじゃないんかい!
「おぉ待ってな。すぐ終わるさかい。」
「ハルート用意できてるか?」
「ええ、簡易魔法カバンに切り替えたのでセキリュティはバッチリですし持ち物もOKです。全員分のタオルと着替えもあります。シャルにはこの簡易カバンに繋がるサブのカバンを渡してあります。」
魔法カバンはカバンひとつで荷物のページを切り替えることができる。
簡易カバンは入る量こそ少ないがそれにしておけば他人からはページ切り替えができない為もし万が一取られてもタオルくらいしか取り出せるものがない。
取られた場合は違う新しいカバンに今繋がっている空間を繋げ直せばそのカバンと繋がっていた空間との接続は切れる。
「アールースー。」
「っとまってな!おっっっけい!やっと終わったわ。行こうか!」
今度は歩いていくらしく夕方のロイズの街並みを歩いて大衆浴場まで向かった。
住宅街の方を通るとなんだかどこからが懐かしいパンのやける香りやシチューの香りがしてそれぞれの世界がいまも周り続けているのだとエモーショナルな気持ちになった。
マルシェ通りや店が立ち並ぶエリアは仲良く買い物をする家族やスーパーの目の前で泣き叫ぶ子供をあやす親がいた。
ガラスの扉の向こう側ではそこに働く人達が居るし、向かいの店は店仕舞いをするために店主っぽい人が外に出てきていて、同時に出てきた隣の店の同じく店仕舞いをしようとするこれまたその店の店主っぽい人と立ち話をしていたりした。
この世界に来てからもう何度も思ったけれど人の営みっていうのはどこでも変わらないのだと思わされる。
俺が感慨深い気持ちになっているとハルートは不思議そうに俺を見ていた。
「ふぁ〜あ!魔法をこんなに使わないとまるで疲れることがないなぁ。」
「ふふっそうですね。エーテルをがぶ飲みするダイゴが見られなくて少々残念です。」
「ハルート君。分かっていないね?俺は魔力なんて自分で回復できるのだよ。」
「はい、そうですよね。」
「それをしないで飲むというのとはどういうことか分かるかい?」
「それはまさかエーテルのお味がお好きなのですか?」
「そうそう!元の世界のジュースにそっくりでさぁ。あの清涼飲料水って感じの味が欲しくなんだよなあ。」
「とても繊細な舌をお持ちなのにあの砂糖と魔学調味料のたっぷり入ったものもお好きなのですか。てっきり自分で魔力回復するのが面倒なのかと思っていました。」
「チッチッチッ。ホンモノを知ってるからこそああいう作り物が欲しくなるのさ。分かるかね?ハルート君。」
「ていうかダイゴ、その喋り方なんですかああ、笑ってしまうのでやめてくださいよ。」
クスクス笑いながら俺の方を見るハルート。
俺はダイロックホームズ。
助手のハトソン君に甘美なジュースの味をわかってもらいたいのだ。
クソ!このネタハルートに通じないのが悔しい。
「ついたで〜。」
アルスはやたらでかいコロシアムのような形の建物の前で立ち止まる。
「でかっ!」
「せやろ〜昔はコロッセオいうてここで決闘なんか行われててそこに入ってた温泉が男たちの癒しやったんや。で闘技場としては役に立たんなった現代では改装されて全てが温泉なったんや〜。アクアベリーみたいな決闘場とちゃうくて観客すごい人数入る施設やったんよぉ〜。勇者レオの時代に表向きの奴隷が開放されたさかい戦わせる文化がのうなってお風呂になったんや〜。」
「す、すごい!ボーッと着いてきてしまいましたがそういえばロイズの街にはそういう施設があると本で見たことがあります。そんなところに来れるなんて幸せです。建物を残すのは歴史を保護するという共通法があるからなんですね!」
あーこれだめ知識箱にスイッチが入っちゃうよぉ。
「ハルート、その話めっちゃ気になるわ。風呂に入りながらもっと教えて貰おうぜ。」
「あ、私としたことが!すみません、皆さん。入りましょうか。」
門を潜ると長めの階段を上り施設の入口へと辿り着く。
暖簾がかかってる!なにこれめちゃ銭湯ぽくない!?
暖簾を潜ると自動で開く横開きの石扉。
魔学ってすげー!...でもこれ風情なくない?
中は茶白のレンガが建物全体にあしらわれていてやはり闘技場の名残なのか所々汚れが目立つ。
修繕はされているようだが魔法で保護するように結界が組み込まれているな。
受付のきゃわいい黒猫獣人のちゃんねーにチップ込みで四人分の代金を渡しシャルとはここで別れ浴場の方へと向かった。
温泉らしい香りが立ち込めてきていよいよ風呂に入るのだと言う気持ちが高まってきた。
中にいろんな獣種が居て色んな国から来てそうな雰囲気。
ローマさながらの文化があるからロイズってのは交流の街なのかもな。
ちなみに日本人から見た外国人ってわかりやすいと思うけど獣種もそんな感じで結構わかりやすい。
もちろん色んな種類の動物が入り乱れているが寒い地域の犬獣人は長毛や狼系の獣人が多い傾向があったり逆に暑いところではシャム系の猫獣人が多かったり。
もちろんそれが全てでは無いのだけど転生してすぐの頃から、何となくこの辺りの国で生まれたのかなぁ?みたいな予測が感覚的にわかる能力が備わっている。
これ結構料理人にとっては重要でこの世界の食文化を理解するのにもとても必要なことなのだ。
神様サンキューな。
多分この世界で生まれ育ってきた奴らには当たり前にある感覚なんだろうけど...。
「ダイゴ見てください。あそこの柱はかの有名な戦いの...。」
はーじまったはじまった。
もちろん話を聞くのは面白いのだけれどこちらがぼーっと考え事をしていても容赦がない知識のマシンガンは思考を濁らせてくる。
決して悪く言いたい訳では無いのだけどそーっとしておいて欲しいよぉって思ってしまうこともないことは無いのでそこは悩みどころである。
脱衣所はすげー広くてでかい鏡やらドライヤーなんかが置いてあってなんだか少し日本のような景色に安心する。
ハルートは備え付けの鍵付きロッカーに荷物をしまい自分の少しだけ値の張るローブもその中に入れた。
俺はやっすい服しか着て来なかったのでただのカゴにしまいハルートに出してもらった小さいタオルを片手にさっさと浴場へ入った。
ちなみにアルスはかなり近い距離を歩いてきてかなり嫌だった。
「なぁ〜裸の付き合いや〜あらいっこしようやぁ。」
きも!こいつきもいい!まじきもい!
「きもっ!やめろよマジで。」
「あはははは自分おもろい反応するなぁ。あはははは。」
何がそんなに面白いんだこっちは真面目に気持ち悪いんだってば!
「連れてきてくれたのは嬉しいが金は俺が出したんだ!すまんが自由に過ごすぞ。」
とアルスを突き放し一旦1人の時間を過ごすことにした。
まずは軽く体を流し備え付けの石鹸で体と頭を洗ってからな真ん中にあるプールみたいなでかい浴槽の端の方の縁に腰をかけ足を入れる。
おっ?思ったよりぬるい?
緑がかった乳白色のお湯は40℃いかないくらいの温度でゆっくりと浸からなくてもとても入りやすい。
体全体を浸からせたあとはゆっくり中心へと足を進めた。
中心に近づくつれ徐々に温度が上がっていくのが分かる。
おー源泉下から出てんのかな?
見渡すと吐き出し口なんかはないのでおそらく中心の湯船の底からお湯が出ているようだ。
というか排水の必要も無いほど湯が溢れているしレジオネラ的なのどうなの?と思ったけど...よく思い出したらタッカンブルで風呂掃除した時魔法でやったことを思い出した。
おそらくその要領でこの浴槽もお湯を抜く必要ないから排水溝とかないのか?
温泉といえば至る所に排水するための穴があると思うのだけどお湯の中にもそれっぽいものは今のところ見つけられないし湯船の縁の方にもない。
あるのは緩やかな下り坂の一番下になっている入口のところの排水溝だけだ。
ちょうどいい温度を自分で見つけられる設計になっていて暑くなればぬるい方へ寒くなれば熱い方へとできるのでサイコーではある。
ということで早速、ちょうどいい所まで練り歩きそこに腰を下ろしてため息をつくと煙の中からハルートが吹き出す声が聞こえた。
「す、すみません。あまりにも間の抜けた声にわらってしまいました。おや?もしかしてダイゴですか?」
「そうだよぉ!俺だよぉ!怖いお兄さんだったらどーすんだ!」
「その時はその時ですよ。」
穏やかなハルートの声は浴場に反響してまるで歌のようだ。
「それよりアルスは近くにいないか?あいつ気色わりーからちょっと距離を置きたいんだ。」
「あっはっはっ!大丈夫。サウナに行くと仰ってましたよ。」
「サウナあるの!?」
「ええ、露天に行く途中にあるようです。私は暑いのダメなので遠慮したいところですがダイゴも気が向いたら私のことは気にせず行ってみたらいいと思います。」
うんうん、これこれ人のプライベートスペースを犯さない...これが気を使うってこと!
そして気を使わせすぎないし気を使いすぎない!これが男の友情だろ!?
あー落ち着くなぁ。
「ハルート!お前は良い奴だなぁ。」
「あはは何を言ってるんですか。知識欲も少し落ち着いてしまったので私ものんびりとここを楽しませてもらいますね。それでは露天に行ってきますので失礼します。」
「おう!行ってら〜。」
どこまで心地よい男なんだ!お前は!
アルス!見習え!距離の詰め方がキモイんじゃ!
しばらく温泉に揉まれ意識が閉じかけそうになっていると突然肩を叩かれた。
「ダ〜イゴ君。」
「げっ!アルス。」
「げっとはなんやねん。」
「近いよぉ〜離れてキモイから。」
「これがアベルだったら喜ぶんやろぉ?冷たいなぁ。」
「そりゃ!アベルは女の子じゃないか!お前はゴリゴリの男だもん!嫌だよ!」
「ふはは...そうかそうかぁ。実はな面白い話があんねん。」
「何?聞かせてくれよ。」
「どぉしようかなぁ。」
「教える気ないのか?じゃあいいや。」
「んもぉ〜ほんま自分冷たいなぁー。」
「いや!マジで近いんだっていきなり!怖いんだわ。」
「あひゃひゃ...そらすまんすまん。」
「で?面白話って?」
「やっぱ気になる?5JANな!」
「金とるんか!じゃあいいわ!」
「冗〜談やって、あははは。実はなグレイスランド教壇にはきな臭い話が出てんねん。君なら知っとるかもしれんけどその詳細の金の流れをふわっと掴んだところなんよね。俺の用事ってのはそれに関することでな。シャルちゃんやマカフィーちゃんおるところではなかなか話せんくてな。」
俺は突然興味のスイッチが入った。
「もっと聞かせてくれ。あしらったりしてすまない。シャルやマカフィーを救いんたいんだ。」
「あはは、そう焦らずに聞きぃ。教団のトップの方はなーんも関与してへんことみたいなんやけどな。とある部隊が腐っとるみたいでそこがバイ菌みたいに少しづつじわじわ侵食して教壇を汚してるみたいなんよね。」
「...。」
「俺もそこまで純白ではないからなぁ。強くは言われへんのやけど...世の中には鉄の掟やマナーっちゅうもんがあんねんやんか?そう言うの徹底してうちら商会が作り上げてきたさかいあまり目に余るとそういうのを目瞑る訳には行かんのよ。」
「あぁ。」
「騎士団長には気をつけ...それから布教チームの一部を率いるバービリオいうやつ...まだ全部がわかってる訳ちゃうくてな。
こっちでも調査が難航してるところがあるさかいにあまり情報はあげられへんのやけど腐った金の流れを作り上げてるヤツらへの献上先はだいたいわかっとるんや。俺はグレイスにおるおばちゃんと相談して必要ならシュリのアクアベリーにも行って三人の商会頭領で会議するさかい。潜入したら少しだけして欲しい調べもんがあるんやけどそこまでお願いするんは厚かましいか?」
「...いや結果的にシャルやマカフィーが場合によってはこれからも所属し続けるかもしれない教団の未来がかかっているなら手を貸したいとは思っている。」
「話が分かるのぉ。そんじゃま...すまんけど今聞いてくれるか?」
「あぁ。」
「まず教団のトップつまりマカフィーちゃんのお父ちゃんやな。この人がその事実を知っているのかを確認して欲しい。
もし知ってて放ってしまってるなら場合によっては教団ごと叩かなあかん。
次に騎士団メンバーの一人一人の情報が欲しい。こっちはシャルちゃんあたりに頼んだらリストなんかを用意して貰えそうやな。
俺から頼めへんし君からシャルちゃんに頼んで欲しいねん。
それから信者の中にも定期的に世界中からわざわざグレイスの聖地へ通ってる熱狂的な人達がおんねんけどそん中にもどうやら良くない金の流れを作り出してる輩がおんねん。そこでそれを出来ればリスト化したい...。これは結構難しいかもしれへんけどマカフィーちゃんにお願いしてその日祈りに来た信者たちのリストがあるはずやからそれを写真撮らせてもらってくれへんか?信者はグレイス教の強い信者であればあるほどそこに来た記録を残したがるさかいリストさえ手に入ればこっちのもんやねん。
あとはうちの紹介のネットを使って調査できるさかい。」
「わかった...できるかは分からんけどやってみる。」
「ありがとう。君スマホ持ってない言うたよな?俺プレゼントしたるからそれを使って色々やってみて欲しい。俺らしか使えん特殊な魔法のかかったアプリなんかもあるさかい少しは役に立つ思うねん。」
「まじ!?それはありがてぇ。」
「こんなとしかでけへんけど、俺があからさまに尋ねるんは教団の黒いやつからしたら怪しすぎるんや。頼んだで。」
「わかった。任された。」
「っしゃ!ありがとうな!」
アルスは抱きついてきた!
勘弁してくれよぉバックハグだよ?
風呂だよ?俺よりガタイ良いんだよ?
無理だアアアアアキモイイイイ!
こわいいいい!
俺が顔をひきつらせてキモがっているとアルスはすぐに俺を離した。
「す、すまん!俺ボディランゲージ激しいねん!親しくしたい思たら止めらんくてな。もうせえへん!すまん!」
「...おう、もうしないでくれ頼むよ。」
虫とアルス同じくらい苦手という意識が俺の中でうっすら芽生え始めていた。
そのあとはアルスに再び一人にしてもらい風呂をめいっぱい楽しんだ後シャルと合流して今度は俺のフープルで商会まで戻った。
「ダイゴ君も瞬間移動できんのやなぁ!もしかしてその魔力量やし世界中どこでも行けるん?」
「あぁ俺が一度行った所なら。」
「おぉ!すごいなぁ。
実は俺の気術では距離に制限があるねん。
東側の大陸つまり...こっち側ならわりとどこでも行けんねんけど西側の大陸に行くには転移札をつこてるんよ。」
「まじで!?」
「あぁそうよ。普通の獣人の魔力や気力量ではおそらくフープルつこてもそれくらいが限界やと思うで。一部賢者クラスとかなってきたら話別やろけど。」
そうなのか少し優越感、いひひ。
あ、そうやみんなお夜食...食べるか?」
アルスはニヤニヤしながらそう言うと二階のキッチンへと登って行った。
「食べるか聞かれただけで答えてないんだけど。」
「まぁお前が食えなくても俺が食うから安心しろ!」
アルスの行動にポカーンとしているとシャルがヨダレを拭きながら嬉しそうにそう言った。
しばらく下の最初に打ち合わせしたガラステーブルで寛いでいるとアルスが戻ってきた。
運んできたのはピザ!?
大きな二枚のピザを大きな皿に1枚づつ乗せてにっこにこしながら戻ってきた。
一緒にアベルとマカフィーも降りてきてみんなでテーブルを囲んだ。
「待たせたな〜。ほおれピザ焼いてきたで。」
テーブルの中心にピザを置きカッターで綺麗に切り分けそれぞれが勝手に取り皿に取れる状態にした。
その瞬間シャルがすごい勢いで食べ始めた。
お行儀悪いわよ!シャルちゃん!
マカフィーとアベルは暖かいハーブティーだけ飲んであまり手をつけようとしなかった。
ハルートはマルゲリータを1ピースだけ食べ、
「もう十分頂きました。」
と手を止めた。
ちなみにこのピザ釜があるなら入るのか?と思わせるほど巨大で直径45cm程ある。
「どうしたんだこれ?」
俺はアルスに彼が貯蔵庫から出してきた
たっかいワインを楽しみながら聞くと、
「イヒヒー実はな新しいビジネスを始めたんやけどそこの社長がこれ作っててなぁ〜。もろたんよ。冷凍して送ってくれたんや、プロジェクトに関わっとった商会メンバー達は試食でアホほど食うとるしいらん言うんで、アベちゃん二人では食いきれんし今や!みんなに食べてもらおう思て焼いてきたねん。釜はないさかい気術で焼いたんやけど上手いこと釜焼きの味が再現できとるやろ?よかったらロイズに店出してるから食べにいってな。」
ここでちゃっかり宣伝をするところがとてもアルスだ。
「ちなみにな、この気術も開発ビジネスやら布教ビジネスをやっとってな。教室なんかも開いたんよ。ダイゴくんさえ良ければ魔術教室のバイトとか何時でもしに来てくれてええからな。バイト代弾むでぇ〜アベちゃんに教えてくれてもええしその場合は俺が大金出すで〜。新たなビジネスになりそうやからな!」
あ〜この人は常に頭の中が商売でいっぱいなんだなぁ。ほんとに生粋のあきんどである。
「ピザ冷めるぞ。」
シャルの一言で俺はハッとなりしらすのような何かとチーズとはちみつそれからパセリオレガノなんかで風味付けされたなんという名前なのか分からないピザを食べた。
ちなみに味は美味いのだが...これはピザか?
イタリアに連れて行ってもらった時に食べたピザとはまた違った味である。
本場のピザというよりかは日本で食う宅配ピザに少しだけ近い印象。
あんなにしょっぱくは無いのだけどなんだかどこか及ばない感じ。
口を出すとめんどくさい事になりそうなので言わないけど。
「なんやダイゴくん?うまなかったん?」
「....答えて欲しい?」
「いうてみ。我々開発側は参考にさせてもらうだけのバリューのある一言をな!」
少し食ってかかってくるアルスがめんどくさかったが俺は正直に答えてみることにした。
「上に乗ってる食材はともかくなによりまず生地ね。これは一度冷凍しているから仕方ないのかもしれないがおそらく店頭販売もしてるのだろ?だとしたらこれでは二流。スーパーでも買える味だ。」
「ほん...利益率は割とええ方だと見込んでねんけどスーパーでも買える味で勝負するんはちがうな...。
どこ直したらええ?価格はな割と強気でいってんねん。マモ大陸のマリジャナル国出身の本場のマリジャナンシェフがつくとるからな。」
マリジャナル...マモ大陸はたしかここより東にあるわりと小さい大陸でモナ大陸の上部だったよな...たしかマモのだいぶ海側にある貿易船が入る国だったっけ?
イタリアンぽいのをつくってるところってことね。
「すごく失礼だと承知して言うのだけど、そのシェフってのはほんとにシェフだったのか?
料理人ギルドに所属しているはずだと思うけどランクは?Sランクが店を出す条件だと思うが基礎がなってない。」
「...そうまで思われてしまうんか。一応SSランクやったと思うで。」
「なるほど....。もう店はやってんの?」
「まだや。オープンは来月を予定しとっていま店舗居抜き工事してんねん。」
「アルスはこれでいいと思って承認を?」
「せやね...実は言い訳はしたくないんやけど飲食の方は俺の専門外でグレイスのところのおばちゃんが取り仕切っとるんよ。でおばちゃんには店を出して会社連結する許可まではとってんけど実際に食べてもろてないんや。食品の味自体には結構自信あんねんけどあくまで流通で流れるもんには俺は強いねんけど美食家を唸らすようなもんはおばちゃんがほぼやっとるさかい今回初めての試みやねん。」
「...うーん。アルスさんはどちらかというと消耗品物流や遺物関係や宝石やら魔導書やらその他ちょっと重たげな仕事をしているイメージがあると思うんで今回ほんと新ビジネスだってなってトントン拍子に話が進んでしまって....。」
アベルもフォローに入る。
「...なるほどな。マルジニアであの食事を食べた時本物の舌を持っていると思ったが担当が別にいるんだな?」
「その通りや。あの店ももともとグレイスのおばちゃんが卸してた店でおばちゃんから引き継がれた通りに上手く立ち回っとるんや。あと欲しいもんとか欲しいコネクションとか相手がどういうことを求めてくるかは何となく商人の感でわかるさかいそこを上手く合わせて計算してやらせてもろてんねん。」
「確かにね、普通に食ってるだけなら結構美味いのよこれ。焼きたてを食ってないからなんとも言えないしこの世界の基準ではもしかしたらこれが最高のレベルなのかもわからん。ただ少なくともともシェフが作っているという飾り文句があるならこの味では俺の舌は納得しない。」
「どこを直したら?」
「まずやり方としては二つ。
一つ目はこのままの味でスーパーに店頭販売か冷凍で卸す。
それならおそらく庶民層の心は多く掴めるしそれくらいの味は間違いなく出せてるから売れはする。
2つ目は味と作り方をガラッと変える。
そして店頭販売と店内飲食のみに主機を置いて高級層も取り入れ、ケータリングも視野に入れた動きを見通す。
冷凍販売は制作コストも含めて一旦見直す。
冷凍が難しいなら瞬間移動が使えるアルバイトを雇って宅配注文に切り替える。というところだろうか?」
「いやそれくらいは俺にも思いつくねん。直すなら味の話をして欲しい。」
「あぁそりゃそうか。ごめん。
味の話はシェフを連れてきてからじゃないと改善案を提案しづらい。
なんなら一から俺が教えてもいいよ。ピザは正直専門外だけど味の科学はある程度心得てるからどう作ったらどうなるかは教えられる。」
「わかった!このプロジェクトは一回白紙にするわ。グレイスから帰ってきたらこの件一緒に手伝ってくれるか?」
「あぁ構わないよ。すまないな余計な口を出して。」
「ええんや。君が繊細な味へのこだわりを持っててくれるからこそ俺のビジネスへの転換も生きると思うねん。今日君にこれ食べてもろて良かったわ。」
「あ、それよりさ、今夜はもうダメなのか?ビジネスのことはよく分からんが動き出した金の流れが止まったらそれだけ損失出るだろ。そんなの勿体ないんだからもし大丈夫なら今指導するよ。」
「連絡してみるわ。開発チームも叩き起してくるわ。シェフが覚えればチーム全体が改善できるやろしちょっとまっててな。」
アルスはアベルにも手伝ってもらいピザ開発に関る従業員や食材の卸元に至るまでを呼び出そうとしたが軒並み断られてしまった。
しかしどの人達もアルスへの信頼があるので明日ならという話になった。
ということでグレイス行きは思わぬ足踏みだが、シャルマカもハルートも俺が決めたことならと承認してくれた。
そんなこんなで次の日、商会の料理研究ができるほどの色々器具が揃ったキッチンへ各面々が集まった。
まずはアルスがみんなに俺を上手い具合に紹介してくれて、俺は口が出しやすくなった。
食材も一通り用意してもらいまずはそのままのやり方をシェフにその場でやってもらった。
そして出来上がったものを試食したところ焼きたなので冷凍もしてない分昨日のものより若っ干...生地はマシだったが、どこを突き詰めるべきか全ての工程を見て覚えたので出来ていないところを指摘しながら出来ているところはここをもっとこうしたらとOJT方式で伝えていった。
また食材の方にも少しこだわりが薄い部分が感じられた為卸元の業者にも指導をさせてもらった。
結局その日は納得のいく物にならず卸元のやそれ以前の野菜農家やらモンスター農場やらとも打ち合わせや現地調査が必要ということになり全て吟味した上で一旦プロジェクトは白紙になった。
で...今は今後の予定の会議が行われている。
「勘違いしないで欲しいのだけど完璧なものを作るって考えは捨てて欲しいんだ。
もちろん完璧を作り出せたらそれはすごくいいことなのだけど欲が無くなったらなにも生み出せなくなってしまう。
その為にここはもっとこうしたいを常に出せることが全ての工場に繋がるということを料理においては覚えて欲しい。」
「ビジネスも同じやダイゴ...しかもそこに人が絡んでくるから食べ物みたいに素直やのうておもしろいんよな。でも今回は本当に勉強になった、ありがとうな。」
「いや謝らせて欲しい。ビジネスのことはわからんのにちゃぶ台返しするような形になってしまってプロジェクトメンバーや卸元にも損失が出る形になっただろうし。」
「ええんよ。そこは皆納得して次また声をかけてくれ言うてたやろ?それは君をホンモンやと思ったからだと思うねん。ただなこの社長...モーティはな今よう聞いたら事業を売却してこのピザのシェフとしてシェフ道を再始動させるつもりやったみたいやねん。そこだけ俺がどうにかしてやりたいと思ってるねん。」
「グレイスの件が終わったら再始動するのはどうなんだ?」
「いや白紙に戻って、一からやることになったやろ?俺今日までモーティが自分の事業全部売ったん知らんかってん。というのもそれを決意して決済組んでもうたのが近々のことらしゅうてな俺の耳に届く前に会社の権利のーなってしまった。事業売却した金も借金に当ててしもたらしくどうも一文無しとまではいかんけどカツカツらしいねんな。
売る前に一言相談して欲しかったなぁ。」
「すみません...自分の事業は元からもう売るつもりでした。
もともとマリジャナルの店を手放したのもこのロイズで店をやりたかったからで...。
夢だったピザだけの店をロイズ出来ると思い開発の為に使った経費やら居抜き工事やら結構自己資金を使ってしまったので、このままでは他予算にまで手を出しかねなくて、従業員たちを守るために、二人三脚のように手を取りあってきた幼なじみのが運営している会社に買い取ってもらいました。
すべて自分の裁量でやってしまいました。」
「いやいやいや!こっちがやろう言うてやめるわ!いうたんやし会社は君のもんやさかい君は悪ないんよ。」
「仕方ない。モーティさん良かったら俺たちと旅しない?俺はそのうち自分のレストランをやるんだ。そこで一緒に働いてみないか?
あんたの夢は100%直ぐには叶わなくなってしまうが何より俺がアンタを直接見れるしそもそも料理以前のこだわりをもっと教えてあげられると思うんだ。将来もし俺の店から独立して俺の屋号を貸してやれるくらいになれば自信もつくし夢も形になる。アルスが居るからそう遠くないうちに形に出来ると思うんだけどどうかな?」
「....。」
「いやいきなりこんなこと言われたら戸惑うよな。でも...もっと戸惑うことを言うぜ。正直な気持ちで話してぇんだ。
あんたの料理に対する熱意や夢を受け取ったからこそ話さしてくれ。
信じられなかったらそれでもいいよ。
俺はさ転生してきて実はこの世界の人間じゃないんだ。元の世界では世界で1、2を争うレベルの店でシェフになれるってところで死んじまったんだ。それで訳あって転生したこの世界で今度こそ天下を取ろうって算段なんだよ。だから俺のところに居れば世界で1番のピザを作るための下地になるかもしんねーぜ!悪い話じゃないだろ!?どうせこのままじゃアルスに仕事を斡旋されてそこで地道にやって夢を叶えてくしかないんだ。俺といることが近道になるとは全くもって保証できないけどよかったらできる所までやってみないかい?」
「ダイゴさん...。
わかりました。こんな俺でよければあなたについて行きます。
モーティ・バグデウスと言います。」
「ありがとう!ダイゴマツカゼだ!
ただ最初に言っておくごめんな。
確実に変なことにも巻き込むし、まだまだレストランを開けられる算段すらないからこのまましばらくは冒険者として金を貯めたりもっと世界中を回って文化や歴史をもっと知りたい。だからどっちにしても時間はかかると思うんだ。
俺が準備できるまでアルスに仕事を斡旋してもらうという手もあるし、そもそも俺との話は聞かなかったことにしたっていい。」
「色々吹っ切れてしまいましたので冒険して世界中を回ることで世界の食材や人々を勉強し直すことも近道になるかと考えました。それにあなたと居ればそれを学ぶ機会や盗める機会が沢山やってくると思っています。」
「その言葉嬉しいねぇ。
そうだ、アルス!この際だから、言っておくが俺は金を出されて店を出しても面白くねぇからな!自分の力で全部やりてぇ。その為に人を繋げてもらうことや紹介してもらうことはあっても金の面は自分で絶対工面するからな!そこは口出さんで欲しい。まぁそもそも俺まだ料理人ギルド所属してるだけみたいなもので以来にすら手が回ってないんだけど。」
ルカとの約束もあるし人の手は借りれない。
「あははははは!おもろい!気に入ったわ!わかった!金はびた一文手伝わん。」
「つーわけで、夢はかなり遠いがそれでも俺と一緒に来てくれるかい?一応アルスに出資してもらってやり直すこともできると思うがそれじゃちょっとちがうだろ?モーティ。」
「男に二言はないです!ダイゴさんと共に勉強しながらやり直させてください。」
「よし!それでこそ料理人だぜ。あ、俺にタメ口でいいからな。明らか俺の方が年下なんだからさ。」
「おう!じゃあ敬語はやめるぜ。すまねぇことビジネスの世界に足を突っ込んでたからな...敬語のが落ち着く時もあんだよ。本心を読み合わないのが鉄則だからなぁガハハハハ。」
突然、見た目のごつさ通りにとても豪快な笑い方をするモーティが面白くて俺は吹き出してしまった。
「話もまとまったみたいやな。俺が言い出したことや、俺に手伝えることは何でもやるで。おばちゃんには上手いこと説明して金積んどくわ。お前らは絶対金を生み出す才能があるさかい俺から逃げようたって離さへんからなぁ。」
こっっっわい笑いをこちらに向けるアルスを一旦スルーし俺はモーティと握手をした。
シャルやマカフィーやハルートは拍手をしてくれていた。
「そんなわけですまん!今日から一緒に行動させてもらうモーティだ。みんなヨロシクな!」
サメの獣人のモーティは大きなしっぽをブンと振り力こぶを作って挨拶した。
「海の男の挨拶だー!すごい初めて見たー!」
「嬢ちゃん物知りだなぁ〜。俺の親父は船乗りだったんだ。親父に憧れて船乗りを目指したこともあったんだよ。だからつい癖になっちまってた。ビジネスやってる間は腰低くしてたから封印してたのにダイゴのお陰で解放されちまったのかなぁ。あはははははは。」
「マカフィーは本当に色々知ってるな。」
俺が感心しているとマカフィーとアベルがモーティに片腕で持ち上げられキャッキャはしゃぎ始めた。
「よし!俺もやるぜ!」
シャルは力こぶを作りハルートを持ち上げている。
なーにやってんだか。
呆れているといきなりアルスが俺の股の下に頭を潜らせ肩車しようと構えた。
「んな!何すんだアルス!」
「なんや羨ましいんちゃうんか?君は重そうやから片腕で持ち上げるんは無理やし肩車したろ思たんやけどあかん、重ーて立ち上がれへん。」
アルスに蹴りをカマし振り払った。
「うごッ!何すんねん!」
その後少し落ち着いた後明日以降の作戦を話し合った。
「そんなわけで明日こそグレイスに飛ぶで。遅なってすまんのシャルちゃんマカフィーちゃん。」
「どうせ船で行くならもっと時間がかかってるはずだから。誤差だよ誤差!」
「そうそう、俺なんてむしろこの期間筋トレが沢山できて最高だったぜ。」
「そうかぁ!ええ子らやな。アベちゃん?マカフィーちゃんとシャルちゃんと仲良うしてもらうんやで。」
「はい。あ、すまんモーティはんは俺とグレイスのマーシェット商会に来てうちの強突くオババに一緒に謝罪して欲しいねんけどええ?」
「もちろんです。私の至らなさで起こってしまったことでもございますので丁寧に謝罪させていただきたいです。」
「律儀やねぇ。あのオババの喜びそうなもん俺が用意しておくから君から言うて渡し〜。」
「何から何まですみません。」
「いやいや俺の責任でもあるさかいもうこの話は終わりにしよ〜や。明日はよろしゅうに。」
俺たちはその後みんなでジュースやワインで乾杯しこれからの活躍を祈る会を開催した。
だいぶ夜遅くまで飲んでしまった俺は自分とハルートに解毒の魔法をかけて、ザルすぎるモーティとセクハラ大魔神と貸したアルスに先休むことを伝え酔いつぶれたシャルを何とか起こして寝室に戻った。
マカフィーとアベルは俺たちより随分早めに休んだようでいつの間にか居なくなっていた。
明日からはいよいよグレイスランド教団へ乗り込むのだと考えたら少し酔いが覚めそうだったので何も考えずに休むことにした。




