第9話 承認の血(火の星 : レオン編)
惑星マーノス──
海岸沿いの森は、赤い閃光と爆炎に包まれていた。
木々はなぎ倒され、土煙が視界を遮る。その混沌とした戦場は森の奥へと拡大していく。
その中を二つの影が疾走していた。
二人は地の利を生かし、太い幹や岩陰を縫うようにして、包囲網の薄い箇所を一点突破しようとしていた。
倒れた大木の影で、レオンはエルザから受け取ったバックを開ける。
レオンとリュシアは、光学迷彩用のナノファイバー素材のスーツに素早く着替えた。
その時、木々の間に銀色の光が反射する。
「リュシア、右だ! 3体来るぞ!」
「はい!」
レオンが叫ぶと同時に、リュシアは迷彩スーツのスイッチを入れ走り出した。
木の幹を蹴って宙に舞う。
空間が歪むと、突如として翠玉の剣が閃き、木陰から現れたアンドロイド兵の首を刎ねた。
光学迷彩服のリュシアの着地と同時に、右の木の枝が揺れる。
レオンのルミナスソードの斬撃が放たれ、別の一体の胴を両断する。
残り一体がブラスターを構えるが、目の前のぬかるみに素早く足跡だけが現れる。それに気付く暇もなく心臓部のコアが火花をあげて、背中に翠色の刃が突き出た。
三つのアンドロイドは沈黙した。
「はぁ……はぁ……」
リュシアの呼吸が荒い。だが、その目に怯えはない。
「最後の突きはよかった、リュシア。 ……でも、キリがないな」
レオンが森の奥を睨む。
木々の隙間から、無数の銀色の影が迫っていた。馬型兵器《Unicorn-287》。
その背にはアンドロイド兵が乗り、ガトリング砲の銃口をこちらに向けている。 その数、目視できるだけでも30騎以上。
「囲まれます……レオン様……」
「ああ。 こちらの武器は剣と、エルザから受け取ったランチャーのみ。 正面からやり合えば勝ち目は無いな……」
エルザから預かった通信機器には、宇宙船に乗り込んだとの連絡がはいる。
今、飛び立てば宇宙船は蜂の巣だ…… レオンは、マックス博士を確実に逃がすため、離陸のタイミングを指定した。
『今、動くな 俺たちが派手に暴れて敵の目を引き付ける 今から5分後──敵が混乱した隙に、俺たちの安否に関わらず離陸せよ』
エルザ『了解…… ご武運を』
短い文字に、軍人としての覚悟と信頼が滲んでいた。
「これより先へ、行かせるわけにはいかない……」
レオンは、迫りくるユニコーンの隊列を見つめ、ある一点に目を留めた。
鞍に刻まれた文字。『Unicorn-287』。
そして、その形状は、エルディアの教会地下に眠っている愛馬『Equus-287S』と酷似している。
「……リュシア。 一か八かだ。 あの馬を奪うぞ」
「えっ? でも、あれは敵のAI制御下に……」
「奴らの兵器はおそらく、古代文明のコピーだ。 たとえ技術を応用していても、オリジナルの起動キーである俺たちのDNAなら、制御を上書きできる可能性がある」
リュシアは一瞬驚いたが、すぐに力強く頷いた。
「分かりました。 やりましょう!」
レオンは、バックからランチャーを取り出し、閃光弾を装填する。
隊列の中央へ狙いを定めた。
「俺が目くらましをする。 その隙に、先頭の二騎を落として乗るぞ!」
ドォッ!
放たれた弾頭が炸裂し、強烈な閃光と煙幕がユニコーン隊の視界を奪う。 馬たちが棹立ちになり、隊列が乱れた。
「今だッ!」
二人は煙の中へと飛び込んだ。 レオンのルミナスソードが、騎乗していたアンドロイド兵を斬り落とす。
リュシアもまた、混乱する別の騎兵を翠玉の剣で突き落とした。
空になった鞍へ、二人は同時に飛び乗る。
ユニコーンが激しく暴れる。拒絶するように、赤い警告灯が点滅し、機体が振り落とそうと跳ね回る。
『警告。 未登録の搭乗者。 排除モードへ移行──』
無機質な音声がふたりに響く。
リュシアは手綱を強く握りしめ、叫んだ。
「静まりなさい! 私はリュシア! エルディアの祈りの家、正当なる継承者よ!」
レオンもまた、鞍に手を当て、強く念じる。
「俺の名はレオン・エルナート! リュミエール王家の守護の血筋だ! 古代の契約に従い、制御権を要求する!」
「LUMIÈRE ELDIA ZOĒ AURORA!」
その瞬間。二人の手から、それぞれ翠と白銀の光が流れ込み、機体の回路を駆け巡った。
『──ピピッ ……バイタルデータ照合。
……リュミエール王家の守護の家、およびエルディア王家の祈りの家のDNA配列を確認。
……最上位権限を承認』
暴れていた機体が、嘘のように静止した。
そして、ユニコーンの眼の光が、敵性を示す「赤」から、従順を示す「青」へと変わった。
「……やった!」
リュシアが顔を輝かせる。
周囲の煙が晴れ、後続のα(アルファ)ブルーの隊長は呆然とこちらを見ていた。
「な、なんだと!? ユニコーンの制御が奪われた!?」
レオンは、ガトリング砲の照準を敵に向けた。
「悪いが、乗り手が変わった。 ……散らしてもらうぞ!」
二騎のユニコーンから、激しい銃火が噴き出した。
ガトリングの轟音が森に響き渡る。味方だと思っていた機体からの至近距離射撃に、グラナディアのアンドロイド兵たちは成す術もなく吹き飛んでいく。
その混乱の最中、後方の森から大気を震わせる甲高い駆動音が響いた。
マックス博士たちを乗せたリュミエール王国の中型宇宙船が、青白い重力波の光を放ちながら空へと舞い上がったのだ。
敵の対空砲火が迫るが、起動したステルス迷彩が船体を空の色へと同化させる。
熱源探知さえも無効化するステルス機能が追尾を振り切り、船は一気に大気圏外へと加速していく。
「行ったか……!」
レオンは見届け、手綱を引いた。
「リュシア、長居は無用だ! 本隊が来る前にズラかるぞ!」
「了解!」
二人は奪ったユニコーンを駆り、森の深部へと駆け込んだ。
上空には、巨大な影──巡洋艦が降下を始めていたが、何かが発するジャミングの影響か、森の奥へと消えた二人を捕捉することはできなかった。
木々がうっそうと生えた森の奥深く。
さらにその奥へと──
二つの光は流星のように駆けていった。




