第7話 召集命令(交渉の裏 : ソフィア編)
惑星リュミエール──
街より遠く離れた荒野。
リュミエール王国はオルディン軍隊長指揮の元、治安維持の為に部隊を各地に派遣させていた。
その荒野には、王国軍隊と同じ目的ではあるが、別行動をとる二つの影が物陰に潜んでいた。
赤い閃光が、彼らの横をかすめた。
「なんで、お前と一緒にいると、いつも危ない目にあうだよ! また、シーフに囲まれた!」
「それは、こっちのセリフだ!」
ハヤセは、そう言うとエンマク型グレネードを投げて、向かいの建物の影に滑りこんだ。
「早いっつーの!作戦をちゃんと教えろ!」
ユリスは呟くと、建物から僅かに顔を出す。
左目に装着した熱感知ディスプレイで敵の位置を捉えた。
「建物の上。11時方向に2。10時方向に2。1時の方向に3。 地上。距離100。右の建物の影に1。左の建物に3 」 素早く腕に装着した端末で伝える。
敵の連射音が、赤い閃光とともにふたりの間の空気を切り裂く。
ハヤセと目があう。
ユリスは、右のディスプレイを調光モードに切り替える。ハンドサインで伝える。
『上は俺がやる。 カウント3で……』
( 3……2… )
マキビシ型の閃光グレネードをハヤセが投げ放った。
「まだ 1を 言ってねぇーよ!」
ハヤセは閃光の中を走り抜け、ブラスターで右に引き金を引くと同時に左へシュリケン型グレネードを投げ放ち、建物上に再度閃光弾を投げた。
地面をスライディングしながら左の建物影へと連射、爆風の中で三つの光弾が赤い閃光を貫いた。
ユリスは、その瞬間。調光モードの右目でスコープを覗き込む。
1時方向に三発放つと、地面に転がり込む。閃光の中、左方向に4発撃ちぬいた。
シーフが建物上から地面に崩れた。
砂煙の中から、ハヤセがゆっくりと歩いてきた。
「ユリス! 俺たち、息があってきたな!」
ユリスは、ヘッドアップディスプレイをあげると微笑みながら、言葉を返した。
「俺が合わせてるんだよ!」
その瞬間、ユリスはハヤセの背後の砂煙の中に影を見た。ゆらゆらと立ち上がる。
「やばい!」
ユリスは降ろした銃口を構えた……ハヤセは、ユリスの動作を見ると横に飛び込む。
しかし、それよりも早く蒼い波紋が水平に砂煙を切り裂いた。
ハヤセの背後で、ブラスターを構えたままの影が倒れる。
その後ろには……砂煙の中で、スチールグレーのポニーテールが揺れていた。
「あんた達、相変わらず仲良しよねっ!」
ユリス&ハヤセ「ナギサ……」
ハヤセ「どうしてここへ?」
ナギサ「あんた達を探してたのよ。 通信装置切ってるでしょ!」
ユリス「通信当番は、ハヤセだ!」
ハヤセ「今週はユリスだろ!」
ナギサ「どっちでもいいわ! あなた達の女神様が『通信に出ないわ』って悲しんでいたわよ」
ユリス&ハヤセ「女神様が……❤」
ユリス「何?何? 女神様、寂しいの……?」
ハヤセ「やっと俺に……わざわざ女神様から連絡が……」
ユリス「俺宛てだろうに!」
ハヤセ「いや、俺宛てだろ!」
ナギサ「召・集・命・令・です!」
* * *
惑星リュミエール
セラフィム号 艦内──
ソフィア、ミレイ、ハヤセ、ユリス、ナギサ、ファラン。そして、ソフィアの肩で毛づくろいをするルゥが、作戦ルームに集まっていた。
ソフィアのアクアマリンブルーの瞳に、3Dフォログラムの光が写る。
「……と、いう訳で、惑星エルディアに向かいます。
カレンの報告によると、公式の場で、理由は分からないけど襲撃の事を隠されていたようなの。
狼型兵器と、エルディアのではない蠍型兵器の出現もある。
今回は、表向きはグラナディア王国のミディス国王との和平交渉だけど……何か裏がありそう。
平和の為の旅だけど、危険な匂いがするわ」
ユリス「狼型が、惑星エルディアに……」
ハヤセ「ノアが活動してるって事なのか……それとも過去にエルディアに送り込んだ残党か……」
ミレイ「そこが謎なのよ。
惑星マーノスにいる父……マックスからの報告では、異常な動きは見られない。 ノアの不審な動きは確認出来ないとの事です。
代わりに、マーノスの自然生態系がどんどん進化してるらしいわ」
ミレイはフォログラムをセラフィムゲートの航路図に切り替えた。
「唯一の手がかりは、蠍型と狼型のコアね。
今、レオン王配とリュシア副隊長が、マーノスにいるマックス博士の所へコアを運んでいる所。 遅くても、明日には合流して結果が出ると思うわ」
ファラン『我々も急いで行ったほうがいいですね。 セラフィムゲートでも一週間かかりますから……』
ソフィア「どう? みんな。 なるべく早く行きたいわ……明日の出航でもいい?
というか……また一緒に来てくれる?」
ハヤセ「今から出航でもいいですよ。 ソフィア艦長!」
皆が頷いた。
ソフィア「みんな、ありがとう…… では、六時間後に出航とします」
* * *
旧リュミエール城の跡地、教会の裏手。
ソフィアは、ひとり墓石の前に立っていた。
暖かな夕日で、墓石はオレンジ色に塗られていた。
「お父様、お母様、ダリウス……また旅に行きます。 カレンの事も、皆の事も守ってて……
LUMIÈRE ELDIA ZOĒ AURORA 」
ソフィアの腰で、暁光の剣が夕日を反射して光を放った。
ソフィアは、浮遊型バイクに荷物を入れると、裏山にあるセラフィム号格納庫へとスロットルを開いた。
夕日が、彼女の長いストロベリーブロンドの髪を輝かせた。
* * *
数時間後── セラフィム号 艦橋
宇宙空間に白銀の大型戦艦の姿があった。
ファラン『惑星リュミエールの大気圏を無事に離脱しました』
ソフィアは、自動操縦に切り替えると操舵輪から手を離した。
ミレイ「セラフィムゲート、同期チェックOK。
ファラン位相データ測定お願い……セキュリティコード送信します」
ソフィアは艦長席に座らずに、ミレイの操作するモニターを一緒に見つめた。
その時、ミレイは通信データをキャッチする。
『こちら惑星マーノス。 マックスよりセラフィム号へ……』
ミレイ「お父様! どうしたの?」
マックス『今、そちらからの通信データをチェックしていた。 セキュリティコードは通ったか?』
ミレイ「ええ、今、セキュリティを解除したところよ……」
マックス『ならいいが……ログにバックドア(裏口)のような接続痕がある……
今はもう消去されているが……何かのバグか……? ミレイ、何かしたか?』
ミレイ「いえ、何もしてないわ……ファランは?」
ファラン『何もしていません。 ……解析しました。 データログにマックス博士のおっしゃる接続痕は確認出来ましたが、それ以外は何も異常はありません』
ソフィア「レオン王配達は? セラフィムゲートは抜けたのですか?」
マックス『ああ、ソフィア陛下。 彼らは、先ほど無事にマーノスのゲートを通過して、惑星の上空を飛んでいる所です』
ソフィア「よかった……航行には支障ないのですよね?」
マックス『シミュレーションをかけてみたが、問題は無いようだ』
ファラン『こちらからの、チェックも問題ありません』
ソフィア「ありがとうございます。 マックス博士。 セラフィムゲート航行、続行します」
* * *
セラフィムゲートが目視で確認出来る距離まで来た。
光の膜に波紋が広がる。
セラフィム号の艦内は、ゆっくりと照明がおちていく。
ディープスリープ装着のカプセルの中、ソフィアは目を閉じた。
太陽の形の、星宿のペンダントがソフィアの鼓動にあわせて点滅をくり返す。
「皆が無事でありますように……」
セラフィム号は、光の海へと吸い込まれいった。
ゲートの光膜がゆっくりと消えていく。
光膜が消えた輪の中では、遠くの星達が輝きを放っていた──




