第5話 決別の想(調査の道 : リュシア編)
惑星リュミエール──
リュミエール城の議会場では、セラフィムゲートの使用権を、グラナディア王国にも供与するか否かを議論していた。
グラナディアで発掘された新しい鉱石、ウラニュウムはリュミエール王国でも未知であった。
エルディア王国を経由して、グラナディア王国から事前に送られた資料。電力供給に課題があるリュミエール王国にとって、ゲート使用権との交換条件は説得力のある交渉だった。
「しかし、そのグラナディア王国は信用出来るのですか? セラフィムゲートを解放するのは、リュミエール王国の庭先まで来るのを許可するようなものです」
ソフィア「その懸念こそが重要です。 ゲートを解放するのは、彼らをわが国の防衛ラインの内側に入れることと同義。 だからこそ、交渉の主導権を握るために、私が自らエルディアへ赴きます。 まだ使用許可を与えていないのですから、 向こうからセラフィムゲートを使って来ていただく訳にはいきません」
誰も反論が出来なくなっていた。
「では、惑星エルディア、グラナディア王国のミディス国王と謁見して参ります。 今回の旅は平和交渉の為の旅です。 ご心配には至りませんので……」
決議は下された。
ソフィア女王は、観覧席のミレイ博士と目があうと、女神のような輝きで微笑んだ。
* * *
エルディア王国のはるか上空──
レオンは、黒い偵察用の宇宙船に身を沈めていた。後部座席にはリュシアが膝を抱えて横向きに座っている。
リュミエール王国と情報を共有して、新たな作戦をすすめる為だった。
リュシアの回収したコアの調査の為である。
リュミエール王国まで行く、または逆に来てもらうにもセラフィムゲートの通過で一週間はかかる。
惑星マーノスに研究滞在中の、マックス博士にコアの分析を依頼すれば、早期にコアの謎を解明出来ると判断した。
ソフィア女王もマックス博士も了解済みだった。
エルディア王国の女王カレンは、コアの調査を秘密裏にすすめる為、自らは城に残り玉座を空席にするのを避けた。
レオン王配とリュシア軍副隊長に、その任務を託したのだった。
* * *
宇宙船のキャビンは、稼働中の重力制御音だけが低く響き、深い闇に包まれていた。
レオンは操縦席で姿勢を崩さず、前方の星図を睨む。
リュシアは体勢を変えずに、後ろの席の端で横向きに座ったまま。椅子の隙間からレオンの横顔を見つめていた。
船内の淡い青い灯りが、レオンの横顔の鋭いラインを照らす。
リュシアは、この宇宙の静寂の中で、彼と二人きりでいることに緊張と小さな歓喜を覚えていた。
レオンが不意に振り返り、リュシアの顔色を確認するようにまっすぐ見つめた。
……
彼の群青の瞳が、私を捉える。
一瞬、心臓が大きく跳ねた。その熱はすぐさま、彼の薬指に光る指輪に遮られ、急速に引いていった。
「大丈夫か?リュシア…… 顔色が優れないようだね……」
彼の声は優しかったが、このミッションの隊長としての気遣いだけを宿していた。しかし、その声は私を奮い立たせる。
私は無言で首を振ると、視線を窓外の深い星の海に向けた。
レオンは、リュシアの微かな動揺と、その指先が唇に触れる仕草を見逃さなかった。彼は何も言わず、コンソールの灯りをわずかに落とす。
「疲れているだろう。 あと1時間ぐらいでゲートに到着予定だ。 私も少し仮眠をとる。通信の監視を頼めるか」
冷たい金属の端末が渡された。彼のあたたかい手が一瞬、私の手に触れる……
それは私的な優しさではなかった。あくまで任務。
しかし、そのプロフェッショナルな距離こそが、私の乱れた心を「エルディア王国軍、副隊長リュシア」という立場へと静かに調律し直してくれた。
* * *
セラフィムゲートが近づく。
レオン「ミレイの計算では三時間ほどで、惑星マーノスに到着するそうだ。 セラフィムゲート内の通過中は幻覚などが見えて、精神的ストレスが高まるから睡眠した方がいいらしい。 それ用の薬を持ってきた。 リュシアも飲むといい」
レオンは、計器をチェックして自動操縦に切り替えると錠剤を飲んだ。
「何かあったら起こしてくれ。 深い眠りについているだけだから……大丈夫、ゲートを出る頃に薬が切れるように処方してもらっているよ」
私は素直に錠剤を飲むと、前方の景色を見つめた。
前方のセラフィムゲートに光の膜が現れた。二重の大きな輪が回転する間には、いくつもの鉱石が光る。ゲートの中央に張った光りの膜に、虹色に波紋が広がる──
しばしの沈黙の中、ゲートが迫る中で私はやっと口を開いた。
「レオン様……ひとつだけ。 ひとつだけ、私のわがままを聞いてくれませんか……」
眠気が迫る中、レオンは振り返る。
「どうした? リュシア……」
「手だけ……ゲートの中だけでいいです……手を握ってて下さい」
レオンは黙って、後ろを振り返ったまま手を伸ばした。
その温かい手を握る……
「私のわがままは、これが最後…… このゲートを抜けたら、私は今よりも強くなります。
もうAIノアのトラウマも、辛い思い出も過去の事……
カレン陛下の為、レオン様の為、エルディアや平和を祈る人達の為に……
私は……強く……」
リュシアは、レオンの手を握りながら深い眠りについた。
レオンは、リュシアのまだあどけさの残る寝顔を見届けると、手をつなぎながら、ゆっくりと目を閉じた。
黒い偵察用宇宙船は光速航行で突き進む──
窓の外は光の束が走る。
そのまばゆい光は、少女が真の戦士になる決意を照らし……
決して実らぬ淡い想いが、『少女の頃の思い出』になるように、優しく包み込んでいた──
こんにちは!
リュシアです。
今日は、任務をちょっとだけ忘れて、
皆さまにご挨拶にきました。
いつも『ふたつの星シリーズ』を読んでくれて、
本当にありがとうございます!
私たちがどんなに遠い星にいても、
皆さまの声はちゃんと届いていますよ。
少女でいられる時間は、思ったより短いみたいだけれど、これからは一人の戦士として、皆さまに希望を届けられる存在になりたいです。
私、がんばりますね!
これからもずっと応援してくれたら嬉しいです。
エルディア王国
軍副隊長 リュシアより❤




