第39話 命の涜聖(神々の闘い : クルー達編)
「ミレイ! オーロラのDNA信号はサーチで見つからない?」
通信機より、ノイズ混じりのミレイの声が響く。
『駄目です! ゲート内では機器が正常に動作しません! センサーが撹乱されています!』
オルトシア号に乗り込んだ、ソフィア達6人は、赤く明滅する通路を駆け抜けていた。
無機質な壁が脈打つように震え、まるで巨大な生き物の体内を進んでいるような錯覚に陥る。
「オーロラ! どこ! オーロラ!」
カレンが焦燥に駆られて叫ぶ。
その時、先頭を走っていたリュシアが足を止めた。彼女は閉ざされた扉の一点をじっと見つめている。
「リュシア?」
「……時間軸が曲がっているせいでしょうか。 この部屋で……オーロラ様が泣いていた『過去』の残像が見えます」
リュシアが指差したのは、医務室エリアへと続く厚い隔壁だった。
「この先です。 微かですが……温かい光の気配を感じます」
「分かったわ、行ってみましょう!」
ソフィアが扉のロックを解除した。
そこは、大きな倉庫を横切る通路だった。
その瞬間だった。
『……いけませぬな、ソフィア女王。 わしの交渉を二度も踏みにじるとは……さすがは、悪魔の血を引く女……野蛮な血が脈々と流れていますな……』
天井のスピーカーから、しわがれた声――ミディスの嘲笑が響き渡った。
『せっかくの儀式の最中なのじゃ。 邪魔をしないでいただきたい。 そんな事をされてはオーロラは返せないですな……魔女の姉妹とその取り巻きどもめ……』
グチャリ……
その時、不快な水音が響いた。
倉庫の奥から、粘度の高い液体がソフィア達の足元に流れ込んできた。
照明のあたらない奥から不快な音が近づく。
青白くぼんやりと光るカプセルの蓋が、開いていた。
グチャリ……グチャリ……
姿を現したのは、生物を模したアンドロイド兵器ではなかった。
「ウゥゥゥゥ……グルルル……ッ!」
猛獣の唸り声。
現れたのは、巨大な獅子のような四足獣だった。その背中からは無数の管が伸び、筋肉は皮膚を突き破って肥大化している。
眼球はいくつもあり、それぞれがデタラメな方向を向いてギョロギョロと動いていた。
ユリスがライフル型ブラスターを構える。
「なっ、なんだコイツは!?」
ハヤセがグレネードに手をかけた。
「アンドロイドじゃない……生体反応がある!」
ソフィアからの視界の画像を見たミレイは、セラフィム号の艦橋で顔をしかめ、通信機のスイッチを入れた。
「こ、これ……ベースはエルディアの原生生物です! だけど遺伝子構造が異常。 無理やり書き換えて、攻撃本能だけを増幅させているわ!」
『かつての古代文明人は機械で生命を模倣したが……わしは生命そのものを再構築したのじゃよ。 これが余分なものをそぎ落とし、目的の為だけの進化した姿……『合成獣』じゃ。 神の御業だよ』
「ふざけないでっ! こんなの神のすることじゃない! 命を何だと思ってるの!」
合成獣は、突如としてナギサに向かって走りだした。
ナギサは怒りと共に、薙刀を水平に振り抜いた。
放たれた斬撃は、弧となり青い閃光の尾を引いて、合成獣の脚を切り落とした。
脚を無くした合成獣は、走った勢いのまま、液体を撒き散らしながら崩れた。
だが――
ボコボコッ!
切り口から肉が泡立つように盛り上がり、一瞬で脚が再生してしまった。
「何!? 再生したの!?」
『痛みも恐怖もないのじゃよ。 あるのは……敵を食い殺す命令のみ』
合成獣が咆哮を上げ、暴れまわる。その背後で、前方の医務室への扉がゆっくりと閉じ始めた。
このままでは全員、ここで足止めを食らう。
ハヤセが叫んだ。
「ソフィア様! カレン様! 先に行ってください!」
「ハヤセ!?」
「コイツは俺たちで食い止めます! 再生が追いつかなくなるまで細切れにしてやる! その隙に!」
ユリスは光学迷彩のシールドを展開して前に出た。
「リュシアさん、お二人を頼みます! ……ここは俺達に任せて、行ってくださいッ!」
「……頼んだわよ、みんな!」
ソフィアは一瞬の迷いを見せたが、即座に決断した。
ソフィア、カレン、リュシアの3人は、怪物の脇をすり抜け、閉まりかける扉の隙間へと滑り込む。
その直後、ドォン! と重い音がする。
鋼鉄の隔壁が完全に閉鎖された。
通路に残されたのは、ハヤセ、ユリス、ナギサの3人。
ハヤセは二丁拳銃の出力を最大に上げると、煙幕型グレネードを投げ放った。
ナギサは薙刀の双刃を解放すると、床を蹴って煙幕の影から大きく宙を舞った。
ユリスは、合成獣から距離を取るとスコープの照準を絞った。
「……悪いな。 すぐに、その苦しみから解放してやるよ」




