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新しき星命 最後の祈り(パート3)  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第38話 咆哮の神(神々の闘い : ソフィア編)

 

 セラフィムゲート内を航行する、真紅の戦艦オルトシア号──医務室。


 カプセルの中のエルディア王国の王女オーロラの周囲は、まばゆい光の粒子が漂っていた。


 それは、危機に瀕した幼子が放つ、無垢なる魂の輝きだった。


 だが、その輝きも今のミディスには単なるエネルギー源でしかない。


 「素晴らしい……。なんと美しい『光の雫』だ……直接いただくぞ。 まずはわしの記憶と人格データを、ディアナの脳へ上書きする……転送開始……」


 ミディスが呟くと、太いケーブルを通じて膨大な情報がディアナの脳へと流れ込み始めた。


 「がっ……あぁ……っ!」


 隣のカプセルの中で、深い眠りについている筈のディアナの口から声にもならない悲鳴が発せられ、彼女の体がおぞましく痙攣する。


 ディアナという個人の記憶が、ミディスのデータによって塗り潰され、削除されていく。


 * * *


 ディアナは気付くと、黒い海を漂っていた。

 冷たい海にひとり……

 波と共に、海水がディアナの口から流れ込んでくる。

 ディアナは波の間で大きく口を開けるが空気は入ってこない。


 「負けない! 私は……私の物よ!」

 波間から空を見上げる。

 遠くに星が輝いた気がした……


 しかし、もがいても光は近づかない。


 ディアナは漆黒の海深くへと、ゆっくりと沈んでいく……


 * * *


 その頃、オルトシア号の背後には、猛スピードで迫る白銀の巨影があった。

 戦艦セラフィム号のブリッジでは、けたたましい警報音が鳴り響いている。


 「レーダーで敵艦を捕捉出来ません! 空間歪曲率、さらに上昇!」

 ミレイの悲痛な報告に、カレンは絶望的な表情でモニターを見つめた。


 目の前に、愛する娘が乗せられた船があるのに、手が出せない。

 「そんな……。じゃあ、どうすれば……」


 だが、艦長席に座るソフィアの瞳に、迷いはなかった。

 彼女は笑みを浮かべると、マントを翻して立ち上がった。


 「突っ込むよ! 総員、衝撃防御姿勢ブレイス・フォー・インパクト! 艦首、衝角ラム戦用意!」


 その号令に、カレンは耳を疑った。

 「えっ……お姉様? 衝角戦って……まさか!?」


 「そのまさかよ。 絶対に外さない!

 自動制御解除! 私が操縦します! 装甲ブラストシャッター、開放オープン!」


 ソフィアの無茶な命令にも関わらず、ハヤセとユリスは「待ってました」と言わんばかりに親指を立てながら視線を交わす。


 ミレイ「了解! エネルギーをシールドと艦首装甲へ集中! イナーシャル・キャンセラー最大!」


 ファランも冷静にサポートに入る。

 『今、空間歪曲率が軽減しています。 相対速度計算。……衝突角度、良好。 オルトシア号の右舷後方、機関部周辺への接触軌道に乗っています』


 ソフィアは、操舵輪を強く握った。

 「行くわよ! 全速前進フル・スロットル!!」

 

 ソフィアの咆哮と共に、セラフィム号が加速する。

 それは優雅な白鳥ではなく、獲物に襲いかかる銀色の猛禽類そのものだった。


 「みんな! 掴まって───!」


 ズガァァァァァァァンッ!!


 虹色の亜空間で、赤と銀、二つの巨体が激突した。


 セラフィム号の鋭利な衝角が、オルトシア号の分厚い装甲を紙のように抉り取り、深々と突き刺さる。


 凄まじい火花と衝撃波が、時空の壁を震わせた。


 * * *


 「な、何事だッ!?」


 天地がひっくり返るような衝撃に、ミディスの意識が老いた肉体へと強制的に引き戻される。


 医務室の補助電源がショートし、火花が散った。その余波で、データ転送を行っていたメインケーブルの一部が焼き切れ、弾け飛んだ。


 「ぐあぁぁぁぁっ!!」


 脳へ直接逆流した電流と情報の濁流に、ミディスは絶叫した。

 老いた肉体が床に叩きつけられ、口から泡を吹いて悶絶する。


 「おのれ……ソフィアか……! ゲート内で攻撃してくるとは……!」


 艦内警報が鳴り響く中、衝撃でロックが解除されたカプセルから、一つの影が這い出した。


 ディアナだ。

 彼女の瞳は虚ろで、焦点が定まっていない。脳への過負荷で、意識は朦朧としているはずだった。


 だが、彼女の視線の先には、金色の光があった。

 

 「オー……ロラ……」


 ディアナは、ふらつく足取りで隣のカプセルへ近づくと、拳で非常用開放ボタンを叩き割った。

 プシューッ、と蒸気が上がり、ガラスが開く。


 「逃げ……なきゃ……この子を……」


 それは思考ではなく、魂に刻まれた母性本能だけがさせた行動だった。


 ディアナは、光り輝くオーロラを抱き締めると、軍服のマントで包み込む。

 オーロラの周りの光の粒子は、抱き締め返すようにディアナを包み込む。


 床を這いずりながらミディスが手を伸ばす。

 「待て……! その素体モジュールは……わしのモノだ……!」

 ミディスも意識が朦朧とする中、超人的な能力を発揮する事が出来なかった。


 ディアナは振り返らなかった。


 重い扉をこじ開け、赤く明滅する廊下へと姿を消していく。


 * * *


 廊下を染める赤い明滅は、ディアナの目には『赤い松明』に見えていた。

 ディアナは幼少期に閉じ込められていた、教会の地下室を脱すると、冷たい石の長い通路を歩く。


 今度は、自分の力で、自分の意志で……



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