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新しき星命 最後の祈り(パート3)  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第3話 十字の枝(隣国の魔女 : リュシア編)


 惑星リュミエール──


 リュミエール城内。

 日の光りは傾き、鳥たちが巣に帰るべく城の上空を羽ばたいていた。


 リュミエール王国、ソフィア女王は、エルディア王国のカレン女王との通信を続けていた。


 エルディア王国の衛星を中継してゲートを利用した通信方式は、AIノアの管理からリュミエール、エルディア、両国の管理下となり両国の交易も順調に進められていた。

 

 ソフィア「セラフィムゲートの使用権が条件なのね……もともとは先祖が作ったもので、誰でも使用していいものであるべきなのだろうけど……」


 隣に座っていたミレイ博士が口を開く。

 「平和の為に使用するという約束を、守ってくれるかが重要ね」


 ソフィア「グラナディアの王に会ってみたいわ」


 カレン「もし来てくれるなら、頼もしいわ。お姉さま……」


 ソフィア「そうね。リュミエール含めて三国の条約になる訳だしね……。 カレン、別件だけど、マックス博士からの連絡は? そちらにもいってるの?」


 カレン「ええ、惑星マーノスの生態系が急速に進化してるらしいわね。 リュミエールの兵士も同行しているとはいえ、兵器型アンドロイドも姿を消したみたいで……なんか……バカンス気分らしいわよ、ミレイ博士のお父様。 海で泳いだり、釣りも出来るように海の生物も進化してるそうね。 兵士さん達も、毎日が楽しそうだったわ」


 ミレイが驚きの声をあげて、ツインテールが回転した。

 「えー! そうなの!? なんか、いろいろと調査が大変で、寂しいって泣き言ばかりを私には言ってたのにー!」


 カレン「あれっ……言っちゃいけなかったかしら……ミレイ、聞かなかったって事にしておいてwww」


 ソフィア「あらら……では、また連絡するわ。 セラフィムゲート使用許可を、リュミエールの議会決議にかけないといけないから。 カレン女王、レオン王配、採決がとれたら、連絡するわ」


 レオン「ソフィア姉さん。 了解しました。 連絡をお待ちしています」


 * * *


 その日の夜──惑星エルディア

 

 エルディア王国の国境の外れ。

 軍副隊長のリュシアは、ひとり森の入り口にいた。


 カレン女王からの特捜指令を受けて、隠密で捜査に来ていた。レオン王配からの意見もあり、何かあった時の為に、機動力の高いエルディアの古代兵器である馬型浮遊機〈Equus-287S〉3号騎に騎乗していた。


 リュシアは、ディナアが来国した際のブラスター音がどうしても気になっていたのだ。


 大胆な調査は、グラナディア軍の武器が使われたと想定される事でもあり、隣国の感情を逆なでする。

 そのような事とならぬように、リュシアは極秘での行動を自ら申し出た。


 賛同したカレンから、『女王からの特捜命令』として、その許可を得ていた。


 リュシア「夜の森か…… ちょっと怖いかも……」

 リュシアは恐る恐る馬型浮遊機を森の中に進めた。


 森の奥には、月明かりさえ届かず漆黒の闇が広がる。

 リュシアは、ナイトビジョン用のゴーグルを装着して森の獣道を進んだ。


 「強がるんじゃなかった……『カレン陛下!ひとりで大丈夫で~~す!』だなんて……。 レオン様と一緒に……なーんて贅沢を言わないから、サディスにでもついて来てもらえばよかったわ……」


 リュシアは怖さを紛らわす為か、ひとりでブツブツと呟いていた。


 馬型〈Equus-287S〉の重力浮遊音がかすかにハミングを奏でる。リュシアの不安な心を紛らわすように……

 そのハミングのメロディーラインをなぞるように、リュシアは翡翠色の髪の毛をなびかせていた。


 ちょうど、森の出口が肉眼で見える所まで来た時だった。

 木々は少しずつまばらになり、空には満月が昇っていた。


 「来る!」

 リュシアは馬型を止めた。


 重力浮遊音の音量が静まり、草木の擦れる音だけがリュシアの耳に届く。


 リュシアはゆっくりと目を閉じた……


 次の瞬間、リュシアは馬型を空に向かって走らせた。

 その僅か下を、オレンジ色の閃光が甲高い音をたてて、大木たいぼくを貫いた。


 オレンジ色の光が獲物を探すように、空を照らす。

 ふたたびの閃光。光弾は、甲高い音をたてながらリュシアに向かう。

 リュシアは、上空で翠玉の剣を素早く抜くと、エメラルドグリーンの光で弧を描いた。オレンジの光弾が弾き飛ぶ。


 木の間から、地を這うように黒い巨体が這い出てきた。

 月光に鈍く光る鋼鉄の甲殻は、尾の先端だけをオレンジ色に光らせている。


 体長は5メートルはあるだろか……、尾は、しなやかに曲がり上空に向かって伸びる。

 「さそり型!?」


 蠍型アンドロイド兵器は、両手のはさみを広げ上空に向けた。その中央部から小型ミサイルが発射された。


 「やばっ!」

 剣で弾くと爆風に巻き込まれる──

 

 リュシアは、馬型を横へと滑空させる。蠍型の両手から発射された2つのミサイルは、馬型の後を追うように軌道を変えた。


 リュシアは、馬型のスロットを全開にして、木々の間をすり抜ける。

 木の枝が馬型の体に何本もあたる。小型ミサイルが馬型の背後に迫って来る……


 ひときわ大きな木に向かうと、ぶつかる寸前で、リュシアは手前へと手綱を引いた。


 大木の前で縦に急旋回する馬型〈Equus-287S〉。

 ミサイルは、大木に当たると大きな爆発音と共にその木をなぎ倒した。


 リュシアは旋回しながら、その高速のまま蠍型に手綱を向けた。

 蠍型の尾がこちらを向き、エネルギーを充填するようにオレンジ色の光が大きくなっていく。


 光弾が放たれた瞬間、リュシアは馬型を左に走らせて、自分は右に体を投げ出した。

 その間を光弾が通りすぎる。


 リュシアは、着地の体制をとりながらくうで体をねじると、翠玉のエメラルド刃を横に凪いだ。


 蠍型の尾が、火花をあげながら崩れ落ちる。


 着地すると同時にリュシアは翠玉の剣を高く振りかぶる。翠玉の切っ先が蠍型の脳天を貫いた。


 月光に鈍く光る鋼鉄の甲殻は、静かに地面に沈んだ。


 「はぁ、はぁ……」


 馬型がリュシアの傍に舞い戻ってきた。


 「危なかった……」

 リュシアは馬型の首を優しく撫でると、その場に座りこんだ。


 「蠍型がなぜ……?」

 リュシアは、恐る恐る蠍型の頭部を見つめると、亀裂の隙間に光る部分を見つけた。


 「えーっ、わたしがやるの?……怖いけど調べなきゃよね……」

 リュシアは、独り言のように、馬型に話しかける。

 馬型が大きく頭を振って頷いた。


 慎重に剣先で亀裂を裂くと、楕円形のカプセルを引き抜いた。カプセルにはヒビが入っているが、息をするようにカプセルの中で鉱石が光っていた。


 「これがコアかな?」

 リュシアは、配線が何本も出ている楕円形のカプセルをバックに入れると、蠍型の残骸を木の陰に引きずり、上から草木をかけて隠すようにした。


 「たぶん……見つからないほうがいいよね。 あっ、そうだ……」


 彼女は木の枝を十字に交差させ、紐で結ぶと、盛り上がった草木の中央に優しく刺した。

 


 リュシアは、馬型に跨がると森を抜けた。


 森を抜けたすぐの場所……


 砂漠の中で、月光を反射する銀色に輝くものを見つけた。何十体も砂に埋もれているようだ。


 砂を掘り起こすと銀色の毛並みが表れた。何発ものブラスターを浴びたと思われる、破壊された頭部も出てきた。


 「これね……なにが野犬よ!……狼型アンドロイドだわ……あの紫芋女、やっぱり私たちに嘘ついてた!」


 彼女は、頭部からコアを抜き取るとバックに入れた。そして、銀色の体に優しく砂をかけた。

 森に一旦戻ると小枝を十字に結んだ。同じものを何十本も……すべての埋もれた銀色の体にそれを優しく刺していく……


 満月と馬型だけが、リュシアのその姿を見守っていた。


 「誰かしら……古代兵器を操って紫芋女達を襲うだなんて……でも、エルディアが襲撃したと思われてもしょうが無いわね……」


 

 リュシアは馬型にふたたび跨がると、エルディア城へと手綱を向けた。


 天高く舞い上がると、月に吸い込まれていくようにその姿は小さくなる。


 馬型3号騎の重力駆動音がハミングの音符となり砂漠と森に降り注ぐ。


 夜風は彼女の翡翠色の髪の毛をなびかせ、月光は砂漠と森の十字架を優しく照らしていた──



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