第28話 衝角の輝(女神奪還 : ソフィア編)
グラナディア王国──
上空の異変に気づいたグラナディア軍の主力艦隊が、次々と山間部から舞い上がった。
無数の噴射炎が空を焦がし、その切っ先は上空のセラフィム号へと向けられる。
「敵艦隊、捕捉されました! ロックオンアラート!」
ミレイの報告に、ソフィアは冷静に指示を飛ばす。
「シールド全開! 陽動しつつ裏山へ退避!」
セラフィム号は大きく旋回しつつ、城の区域より離れた裏山の方角へと舵を切る。
グラナディアの艦隊が、その進行方向へと進路を変える。
追跡されるセラフィム号。
後方より敵艦のブラスター光弾が、セラフィム号のシールドの殻を揺らす。
裏山方面へと加速して遠ざかると、セラフィム号の周囲が虹色の膜に覆われる。
ミレイ『ステルスモード、入ります』
その巨体は瞬時に空の色と同化した。
ソフィア「山陰の死角に入ったら、ハッチオープンします! リュミエール、エルディア連合軍、出撃準備!」
その時、通信機からエルザの声が響いた。
『こちら、エルザ! ミディスとディアナは玉座裏の、隠し通路へ逃げ込みました! 奴らは見失いましたが……ボンドのセンサーがカレン陛下を捕捉!』
ソフィアが身を乗り出す。
「位置は!?」
『信号は地下……かなり深部です。 フェーズ2に移行! 私も地下通路へ突入します!』
「フェーズ2移行、了解! エルザ! 衝撃に備えて!」
衛星エレーネの裏に待機していたケルビィム号から通信が入る。
『こちらレオン。 フェーズ2への移行を確認。 ターゲット捕捉、了解! プランAを実施する! カウントダウンスタート!』
* * *
レオンは、ケルビィム号のスロットルレバーを一気に押し込んだ。
「リュシア! 掴まれ!」
重力推進装置が青い光を爆発させ、巨艦は衛星の軌道を離脱。
放物線を描き、グラナディア上空の大気圏へ、槍のように突き刺さる。
燃え盛るプラズマを纏いながら、音速を遥かに超えて垂直に急降下する白銀の巨体。
それは、空から落ちる裁きの雷のようだった。
「衝角オープン! 対ショック防御、最大!」
ケルビィム号の艦首下部が左右に展開し、内部から巨大な衝角が現れる。
硬度の高い希少鉱石で造られたその先端は、七色の輝きを放ちながら高速回転を始めた。全てを貫く鋭利なドリルが、地上の城を睨む。
モニターに、グラナディア城が急速に拡大する。
しかし、レオンはスピードを緩めない。
さらに加速する。
「きゃぁぁっ!」
隣の席で、リュシアが悲鳴を上げてシートベルトにしがみつく。
レオンもまた、身体がシートにめり込むほどのGに耐えながら、操縦桿を握りしめた。
迫るグラナディア城。
地上では、増援のアンドロイド兵たちが、城の中になだれ込もうとしていた。
轟音に気づいた兵士が、ふと足を止め、振り返って上空を見上げる。
その目に映ったのは、空を覆い尽くす銀色の巨艦だった。
ズドォォォォォンッ!!
城の根元、最も堅牢な基部に、ケルビィム号の衝角が食らいついた。
衝撃波が大地を波打たせ、アンドロイド兵たちが枯れ葉のように吹き飛ぶ。
そのままケルビィム号は、城の構造物をねじ伏せ、突き抜ける。
美しい装飾が施された尖塔も、堅固な城壁も、圧倒的な質量の前には無力だった。
城の上部構造は根こそぎ吹き飛び、瓦礫の雨となって周囲に降り注ぐ。
ケルビィム号は土煙を上げながら地面を削って滑走すると、スラスターを逆噴射させて急旋回。
巨体を横滑りさせながら停止した。
「ハッチ解放! クラスター弾、発射!」
艦の側面から無数の小型ミサイルが放たれる。
瓦礫から起き上がろうとしていた残存アンドロイド兵を、正確無比な弾幕が貫き、沈黙させた。
プシューッ!
エアロックが開き、蒸気が噴き出す。
リュシア「先に道を確保します!」
リュシアは、レオンに上空で助けて貰ったユニコーン型に跨がり先導する。
レオンがハッチから出ると、後ろから馬型が駆け寄ってきた。
レオン「無事だったか! カレンを助けるぞ!」
エルザをここまで乗せてきた、額に傷のある馬型〈Equus-287S〉1号騎は、レオンを背中に乗せるとリュシアのユニコーン型に続いた。
ふたりは廃墟と化したグラナディア城の跡地を駆ける。
ケルビィム号は、主を待つ忠実な番犬のように、城の跡地で自動防衛モードに移行し鎮座する。
「どこだ! エルザ!」
通信機から、息を切らせた声が返る。
『地下30m地点! 崩落で道が塞がれたけど、ボンドがルートを見つけたわ。 信号を送る!』
レオンの腕時計型端末に、位置データが表示される。
光の道筋は、破壊された謁見の間から、玉座を通り、さらに北の地下深くを示していた。
「こっちだ! リュシア!」
その時、グラナディアの格納庫の方角から、瓦礫の山を越えて、さらなる増援のアンドロイド騎兵隊が姿を現した。
赤く光るセンサーの群れが、ユニコーン型『Unicorn-287』に跨がり突進して来た──




