第24話 降伏の路(敵陣の懐 : ディアナ編)
惑星エルディア──
エルディア王国から遠く離れた砂漠地帯。
馬型浮遊機〈Equus-287S〉1号騎が、疾走していた。
手綱を握る彼女は、ストロベリーブロンドの長い髪をなびかせ、颯爽と風を切る。
彼女はひとりで、グラナディア城に向かっていた。
その横には、白色の犬型アンドロイドが護衛するように並走している。
犬型は、鋼鉄の毛並みを白色に染めて、着ぶくれしていた。
彼女は、けなげについてくる犬型に目を細める。
グラナディア王国、ミディス国王からの全面降伏署名の猶予時間は、残り2時間──
犬型に向かって声をかけた。
「ボンド! 遅れないでよ!」
彼女はスロットルを開いた。
* * *
グラナディア王国──
グラナディア城、城門。
彼女は馬型から降りると、優雅な仕草で犬型に手招きした。
「参りましょう……『ボンド』」
城門では、2体のアンドロイド兵が槍を立てて、こちらを見据える。
「リュミエール王国のソフィアです。 ミディス国王との契約で参りました」
その声は透き通るように美しく、威厳に満ちていた。
アンドロイド兵は、腰から端末を取り出すと何かをチェックし始めた。
『ピピッ』
モニターに表示が出る。
『認証:ソフィア・リュミエール。適合率99.9%』
『お待ちしておりました。 しかし……ひとりで来いと国王は申したのでは?』
「ひとりですわ。……えっ? この子のこと?」
アンドロイド兵の冷たい声が響く。
『アンドロイドも、帯同は出来ません』
「あら、私のペットですのに……駄目かしら?」
『国王は、おひとりで来いと申し上げました』
彼女は困ったように眉を下げ、犬型に向き直る。
「ボンド……駄目なんですって……」
犬型は、兵士に槍で道を遮られる。
「ボンド! 待て! ここでお座り!」
一瞬、彼女の声に鋭い響きが混じった。
犬型のボンドは舌を出しながらおとなしくその場に座った。
奥から別の門兵がトレイを持って現れた。
『リュミエール、ソフィア。 ここに武器を出せ』
彼女は小さくため息をつきながら、腰の剣を優雅にトレイに乗せた。
アンドロイド兵は、彼女の右腰を見据える。
『リュミエール、ソフィア。 ここに武器を“全て”出せ』
彼女は微笑みながら、ホルスターからブラスター銃を置いた。
まだアンドロイド兵は、彼女の体から目を離さない。サーチしているようだ。
「……あまり、淑女の身体を凝視するものではありませんわ」
彼女は苦笑し、後ろの腰に隠してあったブラスターを置く……。
さらに、右ホルスターの後ろのナイフ。
右足首の小型拳銃。
左足首のナイフ。
右太股のベルトの小型グレネード5個。
左太股の超小型ランチャー
門兵のAIが、困惑するように処理落ちを起こしかける。
最後に、左二の腕からティータイム用のスプーン。それとケーキ用の、フォークとナイフを取り出し『カチャリ』と置いた。
「これで全部ですわ」
彼女は完璧な笑顔で言い放った。
アンドロイド兵は、数秒間トレイをみつめる。
沈黙の後、頷くと謁見の間へと案内した。
* * *
グラナディア王国 謁見の間
テーブルの向こう側に、国王ミディス。
その斜め後ろに、ラベンダーベージュの髪をシニヨンにまとめ、バイオレットの軍服を着た女が立っていた。
(あれが、ディアナね……)
アメジストの宝石のように光る瞳は、冷たさを宿していた。
ミディス「ソフィア女王! なんとお美しい! 妹の謀略の尻拭いの為にわざわざ…… こんな形で其方とお会いする事となろうとは、非常に残念です……」
「ミディス国王……今回は条約のご提案、ありがとうございます」
「わしも、国民を守る為でした……今回の妹君の宣戦布告の奇襲攻撃には、グラナディア国民も悲しみに暮れております」
「カレンは? 妹は生きてるのですよね?」
ミディス「あぁ……戦の際に怪我をなさったので、こちらで治療させていただいた。 今、病室で寝てらっしゃる」
「無条件降伏の契約書にサインすれば、私とカレンの命は保証してくださるのですよね……」
ミディス「あぁ……もちろんです」
ミディスは契約書をこちらへ差し出した。
私の周りは、アサルトブラスターを構えた、アンドロイド兵が遠巻きに取り囲んでいる。
私は再度、契約書に目を通す。
「わかりました……約束ですよ。 私と妹の命だけは保証して下さい」
そう言って、私はペンを取り出した。
視線をあげるとディアナの視線が、私を貫く。
何か言いたげだった……
さすがにペンを持つ手が震える。
今まで黙っていたディアナが口を開いた。
「フッ……あれほど、この世で一番、高貴で高潔な女王と噂の、あのソフィア・リュミエールが……
命惜しさに尻尾を振ってくるとはな……」
私は深く息を吐くと、引きつった笑顔をディアナに返した。
視線を落とし、無条件降伏の書類を見つめる……
もう一度、深く息を吐くと、
ペンを紙に押し当てた……
リュミエール王国の筆記体で……
丁寧に……
綺麗で……
流れるような……
文字で書いた。
『くたばれ! この変態ジジイ!』




