第23話 紅赤の蛇(反撃の宙 : リュシア編)
「我はエルディア王国軍副隊長リュシアなるぞ! グラナディア軍副隊長コルシエ! 覚悟しなさい!」
エウノミア号 艦橋──
リュシアはコルシエと睨み合う。
コルシエ「フッ! このエウノミア号に、単身乗り込んで来るとは……その度胸だけ褒めてあげる。 馬泥棒のピーマン娘め!」
リュシア「黙れ! コルシエ! エルディア王国に対しての宣戦布告、奇襲攻撃! カレン陛下の名の元、絶対許さない!」
コルシエ「先に撃ったのはそっちでしょ! 今頃、あんた達の女王様は、串刺しの刑で干からびてるわ!」
リュシアは一瞬、動揺したが、それを振り払うようにユニコーンをコルシエに向けた。
次の瞬間、艦橋のドアが開き、アンドロイド兵がアサルトブラスターを撃ちながら、なだれ込んできた。
コルシエ「この雑魚は、殺してかまわん! 撃てー!」
アンドロイド兵のアサルトブラスターから閃光がはしった。
リュシアは赤い光弾を、翠玉の剣でいなしながら、ユニコーン型のスロットルを開ける。
リュシアは、壁や天井を疾走させながら、ガトリング砲を乱射した。
ガトリング砲の光弾は、トルネードを巻きアンドロイド兵の山を築く。
すると急に、ユニコーン型が態勢を崩した。
前脚に赤く長い蛇が絡み付いていた。
赤い蛇は、体から火花を散らすとユニコーン型の回路を焼き切った。
リュシアは、体を投げ出され、床に叩きつけられる。
ユニコーン型も床に崩れると、目のセンサーから煙をあげた。
コルシエ「フフフッ、ほら! 立ちなさい!」
コルシエは、赤い鞭を床に叩きつける。
バシッ!
鋭い音と共に、床が焼けた。
鞭は生きた蛇のように、かま首をリュシアに向ける。
足もとに食らいつく寸前に剣で払おうとしたが、紅い蛇は急に立ち上がり、リュシアの頰をかすめた。
シュッ!
リュシアの頰から血が流れる。
ふたたび、赤い蛇は宙を踊る。
リュシアの太股をかすめる。
コルシエ「ハッハッ! 盗んだ馬がいないと何も出来ないのね! 存分にいたぶってあげるわ!」
後ろに行けば、追い詰められる。
前に行けば、鞭が直撃する……
バシッ!
今度は、天井に焦げた跡がついた。
コルシエ「ほら! どうして欲しいの!? まず、その腕から切り刻んであげようか?」
バシッ!
リュシアの左腕に蛇が食らいつき、血が流れた。
リュシアの顔が曇り、呼吸が乱れる……
翠玉の剣を構え直してガードする。
赤い蛇は、大きくうねると、剣に巻き付いた。
コルシエ「フフッ! つーかまえた!」
赤い蛇が、赤い火花を散らす。
次の瞬間、剣を通じて、灼けるような衝撃がリュシアの全身を貫いた。
「死ね! 悪魔崇拝者め!」
骨がきしむほどの激痛。視界が白く明滅する。
「あぁぁぁッ!」
「ほらっ! 手を放せば楽になるわよ? その首も一緒に飛ぶけれどねっ!」
コルシエは、鞭のダイヤルスイッチを最大にした。
リュシアの膝が震え、床につく。
意識が遠のく中、彼女の脳裏に浮かんだのは、かつて自分を信じてくれた人々の顔だった。
(……私は、もう逃げない。痛みからも、運命からも!)
リュシアは歯を食いしばり、焼ける手で剣の柄をさらに強く握りしめた。
「……守って……
LUMIÈRE ELDIA ZOĒ AURORA!」
剣の柄に埋め込まれた鉱石が、心臓の鼓動のように強く脈打った。
カッ!
エメラルドグリーンの輝きが爆発的に膨れ上がり、リュシアの体を包み込むと、赤い電流を押し返した。
「なっ、結界!?」
コルシエが目を見開く。
リュシアはその一瞬の隙を見逃さなかった。
鞭を振りほどくのではない。
彼女は、巻き付いた鞭を血がながれる左手で握ると、自分の体へと引き寄せたのだ。
バリバリバリッ!
赤い蛇の体は、リュシアの手の中で大きな火花をまき散らす。手首のアーマーが割れた。
「はぁぁぁッ!」
強引に距離を詰め、驚愕に硬直するコルシエの懐へ。
「清めよ! エルディアの神よ!」
翠の閃光が一閃。
赤い鞭は、半ばから断ち切られ、返す刃がコルシエの胸元のアーマーを切り裂いた。
赤い髪の毛が、後ろに倒れていった──
主を失った、赤い蛇は切り口から、赤い光を血のように飛び散らしながら地を激しくはい回る。
大きな亀裂の入った艦橋のパネル部分に接触するとショートした。
艦橋のメーター類が火花を散らし、メインパネルが爆発する。
次の瞬間、艦内のライトが消灯し駆動音が止まった。
「システムダウン!?」
一瞬、浮いたような感覚——
急に重力を失ったエウノミア号は地面へと吸い寄せられる。
「キャッ!」
リュシアは、手すりに掴まるが、制御を失ったエウノミア号は落下しながらスピンをはじめた。
体が投げ出され、腕だけで手摺に捕まる。
リュシアの乗って来たユニコーン型は、沈黙したまま割れた艦橋デッキの窓から、落ちていった。
この艦もろとも落ちていくしかないのか……それならば、外に出たほうが助かるのか……?
リュシアは、デッキの窓から飛び降りようともがくが窓は遠い。
スピンするエウノミア号の中、リュシアはタイミングを計る。
「今!」
彼女は手摺から手を離すと、宙に体を投げ出した。
しかし、リュシアのブーツを何かがつかんだ。
そのまま艦橋デッキの割れた窓から、空へ……
リュシアの足首を、血まみれのコルシエが執念で掴んでいた。 口から髪の色と同じ赤が流れる。
「最後は……私と一緒に死ね……」
エルディア上空で、リュシアとコルシエは空を墜ちていく。
落下するふたりは、どんどん速度が上がる。
コルシエは腰のナイフを抜くと、狂った笑みでリュシアの太股へ振りかぶった。
「道連れよ!」
リュシアは咄嗟に腰のナイフを引き抜き──切っ先をコルシエの額へ向けて全力で投げ放った。
鈍い音と共に、コルシエの動きが止まる。
瞳から光が消え、力が抜けた指がリュシアのブーツを滑り落ちていく。
赤い髪の残像を残し、彼女は空の彼方へと吸い込まれていった。
* * *
リュシアの視界いっぱいに、エルディアの海と山が飛び込んできた。
城下町は未だに煙が上がるが、自然豊かな碧い海と碧い空、そして翠の山々の風景が彼女を包み込む。
その中を……落ちる……落ちる……
「わたし……幸せだったよ……ありがとうエルディア。 ありがとう……みんな……」
リュシアは急速に落下する中、意識が遠くなっていった……
* * *
その時、後方から急降下する銀の影。
「リュシア! 手を! リュシア!!」
リュシアは遠のく意識の中で、手を差し出した。
(あたたかい手……)
目を開けると、大気を切り裂くような轟音とともに、銀の流星がリュシアの真横に食らいついていた。
ユニコーンのスラスターが限界まで悲鳴を上げる。
「レオン様!」
レオンは、ケルビィム号から射出されたユニコーン型を駆り、全速で降下してきたのだ。
落下するリュシアを手で力強く引き上げると、自分の前にリュシアを騎乗させた。
スラスターの音が静まり、風の音が聞こえる。
背中からレオンの声がした。
「リュシア! 大丈夫か!?」
「ええ、大丈夫に……なりました……レオン様」
リュシアは気を失いかけていたが、騎乗で後ろからハグされるような自分の姿を認識し、一気に目が覚めた。
レオンの独り言のような声が、リュシアの背中に響く。
「女の子は……ひとりで空飛んじゃダメだ……」
レオンが手綱を操作するたびに、その腕にリュシアは後ろから強く包み込まれる。
平静を装いリュシアは馬上で報告した。
「レオン様、敵艦を撃破しました!」
「よくやった! リュシア副隊長! でも、最後は無茶しすぎだったな。 間に合ってよかった……」
「はい! レオン様…… ありがとうございました!」
レオンが、また強く手綱を引いた……
リュシアは、鞭の傷で頬から血を流しているのを気づかれないようにするのではなく……
赤面しているのを気づかれないようにフェイスシールドを下した。
遥か上空にケルビィム号が見えてきた──




