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新しき星命 最後の祈り(パート3)  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第22話 翠の流星(反撃の宙 : リュシア編)


 惑星エルディア──


 衛星エレーネの地下都市から離陸したケルビィム号は、衛星の裏側、漆黒の宇宙空間に静止していた。

 ステルス信号を発しながら、その白銀の巨体を闇に溶け込ませている。


 ミディス国王とのリミット時間、残り45分……。


 ケルビィム号のエアロック。

 リュシアは、古代文明時代と思われるケルビィム号の備品庫で見つけた、宇宙戦闘服に着替えていた。


 「へへっ、昔のなのに、なかなかカワイイじゃん」


 銀色の宇宙服は、身体のラインにしなやかにフィットし、関節部分には緑色をアクセントにした草木の装飾が施されている。


 それは単なる飾りではなく、エネルギー循環回路の役割も果たしているようだった。


 膝、肘、胸部、手首に強化アーマーを装着し、最後に通信機と酸素供給ユニットの接続を確認する。


 カチリ、という小気味よい音が、彼女の戦士のスイッチを入れた。


 彼女はヘルメットのリリーススイッチに指をかけた。バイザーが透明な輝きを放ち、量子シールドが起動する。


 彼女はハッチの出口に立つと、愛機となったユニコーン型《Unicorn-287》に跨がり、ハッチのスイッチを押した。


 眼下には、無限に広がる星の海と、青く輝く惑星エルディアが浮かんでいる。


 このユニコーン型は、惑星マーノスから子供たちと一緒に乗せてきた馬型アンドロイドだ。かつては敵の兵器だったが、今はリュシアの生体コードに完全に同調し、彼女の鼓動に合わせてアイセンサーを青く明滅させていた。


 「頼むわよ。……一緒に行こう」

 首筋を叩くと、機体が低く唸って応える。


 無重力の中で、伸びてきた翡翠色の髪がふわりと広がり、シールドの内側の壁に触れて光の粒を弾いた。


 周囲は絶対零度の真空の世界だが、シールドの内側は適温の空気と静寂に満ちている。

 髪がシールドの境界に触れるたびに感じる、微かな静電気のような感覚。


 リュシアはその不思議な浮遊感を、嵐の前の静けさとして噛み締めた。


 最後に腰の翠玉の剣を握り、柄に埋め込まれたエメラルド色の鉱石に指を這わせる。


 「カレン陛下……レオン様……そしてリヴェリアおばあちゃん……。どうか、私に力を……」


 祈りを捧げると、遠くの星々がその意志に呼応するように強く瞬いた気がした。



 リュシアは、腕時計型の端末を確認すると通信機のスイッチを入れた。


 * * *


 ケルビィム号、艦橋。


 時計を見つめるレオンの通信機器から、暗号化されたリュシアの声がノイズ混じりに届いた。

 『店長! 抹茶ケーキの準備出来ました……ナイフを忘れたので、送ってください……』


 レオンは口元をわずかに緩め、ミサイル発射パネルに手をかける。


 『……了解だ。 ナイフが届いたら、即、お客様へ抹茶ケーキをお届けしてください。 ……気をつけて……極上のナイフを送る……』


 通信を切ると、レオンの表情が引き締まる。


 モニターには、エルディア上空に居座る巨大な敵艦、エウノミア号の座標が表示されていた。

 モニターの端に、カウントダウンが表示される。


 彼は心の中で深く祈った。

 『エルディアの神よ、リュシアを守ってください……』


 そして、発射スイッチを静かに、しかし力強く押し込んだ。


 ドシュ!


 ケルビィム号の艦底サイロから、ステルスミサイルが射出された。

 噴射炎を極限まで抑えた冷たい推進剤が、黒い弾体を宇宙空間へと押し出す。


 ミサイルは、衛星エレーネの重力井戸を計算に入れたスイングバイ軌道を描き、慣性を利用して加速していく。

 ケルビィム号のAIコントロールセンターが、ミリ秒単位で姿勢制御を行い、敵のレーダー網の死角を縫うように誘導する。


 ミサイルは、衛星の引力を振り切ると、トップスピードに乗って惑星エルディア方向へ……


 上空から垂直に、獲物を狙う猛禽のようにエウノミア号へと落下を開始した。


 * * *


 「いくわよ!」

 ミサイル発射と同時に、リュシアを乗せたユニコーン型は、ケルビィム号のハッチを蹴り、宇宙空間へと踊り出た。


 リュシアは、量子シールド出力を最大にする。

 大気圏の薄い層に触れた瞬間、シールドの表面が摩擦熱で紅蓮に輝き始めた。


 燃え上がるプラズマの尾を引き、彼女は一筋の光の流星となって、エルディア上空へと突入していった──


 * * *


 エルディア王国 はるか上空、成層圏内——

 グラナディア軍 二番艦エウノミア号艦橋


 静寂だったブリッジに、突如としてけたたましい警報音が鳴り響いた。


 アンドロイド通信兵が無機質な声で告げる。


 「警告! 警告! 上空より高速飛翔体、接近中! 熱源反応、極小!」


 艦長席のコルシエが立ち上がる。赤い髪が逆立つように揺れた。

 「なに! どこからだ! セラフィム号かっ?」


 「いえ、セラフィム号はエルディア王国のシールド内です。 真上……宇宙空間からのステルス攻撃です! 近距離に来るまで捕捉できませんでした!」


 回避行動を命じる間もなかった。

 その瞬間、着弾──。


 ズドォ──ン!!


 まばゆい白い閃光が広がり、ミサイルの貫通弾頭がエウノミア号の上部シールドを紙のように食い破った。

 装甲板が飴細工のようにめくれ上がり、衝撃が艦全体を激しく揺さぶる。


 「シールド低下! 第三デッキ損傷!」

 艦内は赤色灯に染まり、爆発の煙が充満する。


 コルシエは手すりにしがみつきながら叫んだ。

 「次の着弾に備えよ! 対空砲火用意! 迎撃しろ!」


 だが、次に空から降ってきたのはミサイルではなかった。


 爆炎と煙を切り裂き、シールドの穴を駆け抜ける銀色の影。


 燃え盛る大気の衣を纏った、一騎の騎士。


 次の瞬間、ブリッジの強化ガラス製デッキ窓に、蜘蛛の巣のような亀裂が入った。

 ピキキッ……!

 コルシエは、はっとして窓の外を見た。


 そこには、ユニコーン型のガトリング砲が火を噴きながら、こちらへ迫ってくる姿があった。

 硝子の向こう、翡翠色の髪をなびかせた少女の瞳が、コルシエを射抜いていた。


 亀裂は、ガトリングの連射を受けて蜂の巣のような形を作ると、その大きさは爆発的に広がった。

 

 「艦の高度を落とせー! 気圧が下がるぞ!」

 コルシエは咄嗟に小型の酸素マスクを装着すると、腰のワイヤーを艦長席の手摺りにフックさせた。


 バリーンッ!!


 ついに窓が音をたてて砕け散った。


 ガラスの破片がダイヤモンドダストのように舞い、凄まじい爆音が機内を襲う。


 気圧差による爆発的な突風が、機内のあらゆる物を外へと吸い出した。

 

 固定されていなかったアンドロイド兵の一体が、何の感情も見せず、無言のまま圧力の濁流に逆らえず窓の外へと放り出されていく。


 別のアンドロイドは機内の手すりを掴もうとしたが、その金属製の指は空を切り、あっという間に真っ青な空の彼方へと吸い込まれていった。書類や端末が嵐のように舞い踊る。

 

 その猛烈な逆風を切り裂いて、スラスターを全開にしたユニコーン型が、暴風をねじ伏せるようにブリッジ内部へ飛び込んだ。


 重力制御のひづめが甲高い音を立て、強引に床を捉えた。


 ガギィーーーンッ!


 床に火花を散らしながら、蹄鉄が滑り込み、艦長席の寸前で停止する。


 コルシエの前で、ユニコーン型が高らかに前脚をあげていなないた。


 騎乗の少女は、揺れる翡翠色の髪を払い、エメラルドグリーンの光を放つ翠玉の剣を高く掲げた。


 「我はエルディア王国軍副隊長リュシアなるぞ! グラナディア軍副隊長コルシエ! 覚悟しなさい!」



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