第2話 交渉の石(隣国の魔女 : カレン編)
エルディア城 謁見の間──
カレン女王とレオン王配は、グラナディア王国からの使者の到着を待っていた。
幾度となく交渉が煙となり立ち消えた案件なだけに、両国の国交正常化と貿易交渉の進展に期待が膨らんでいた。
カレン「今回は、王が来られないのよね?」
レオン「うん。 まだ心から信頼されていないのか……。 それでも向こうから何度も打診してくれるのは感謝すべきかもしれないね」
その時、城の外で重力推進装置の音が響き渡った。
カレンは窓の外へ身を乗り出す。
「なに……馬型浮遊機だわ! なんで、あんなに沢山……」
レオン「グラナディアも、古代文明の研究が進んでいると聞いてはいたが…… 騎兵隊までとは……」
門兵より連絡が入る。
「王国グラナディアの、軍隊長ディアナ様はじめ、総勢20名様ご到着です!」
カレンは玉座から降りるとエルディア王国とグラナディア王国、両国の国旗の前に立った。
「どうぞ、お迎えください」
謁見の間のドアが開く。
ディアナは、パープルのブーツで床に甲高い足音を立てながら歩いてきた。
「エルディア王国 カレン陛下! お会い出来て光栄です!」
「ディアナ軍隊長。 長旅でしたでしょう。 私もお会い出来て大変光栄です」
ふたりは、握手を交わした。
ディアナ「陛下は、噂どおりの大変美しい方でらっしゃる……まるで魔女のような美しさです」
カレンの周りの侍従達から笑顔が消えた。
カレンの隣にいるレオンの目が、鋭くディアナを見据える。
「ハハハッ、冗談ですよ! カレン陛下! わたしも、グラナディアでは、影で魔女と呼ばれています。 同じDNAを持つ者同士ですのよ」
カレン「そうですか。 DNAの事も既に解明されているのですね。 それは、とても深い交渉ができそうですわ」
カレンもアクアマリンブルーの瞳を輝かせて微笑んだ。
「どうぞ、中央のテーブルへおかけ下さい」
端で、その様子を見ていたリュシアが呟く。
「あの紫芋女! ほんと嫌な感じ!」
サディスがたしなめる。
「リュシア! 声にだすなっ!」
* * *
両国の会談は、順調にすすんだ。
最大の交渉内容は、グラナディアで発見された、『ウラニュウム』という鉱石の資源、そして、それを活用した発電技術の供与だった。
その代替として、グラナディア王国は『セラフィムゲート』の使用権を掲げてきた。
カレン「セラフィムゲートは、現在エルディア王国と惑星リュミエールとの共有資産となっています。 リュミエール王国とも交渉が必要なので、検討のお時間を下さい」
ディアナ「いいでしょう。 リュミエール王国へも条件として、ウラニュウムの発電システムの資源供与、技術供与は問題ありません。 三国で平和条約が結べれば、わが国の古代文明のDNA認証の謎。 あわせて宇宙船の技術供与も検討しましょう。」
レオン「貴国では、宇宙船も開発が進んでいるとおっしゃっているのですか?」
ディアナ「フフフ、貴方達が思っている以上にわが国の技術進歩は早いのです。 古代文明の謎が全て解ければ、容易い事でした」
その言葉に、カレンの隣で聞いていたレオンの目が鋭くなる。
ソフィア達と共に、AIノアと戦い、古代文明の力を間近で見てきた自負を、真っ向から「遅れている」と嘲笑されたも同然だった。
ディアナ「平和を享受されたいのであれば、この交渉は貴国にも、これ以上の条件は無いと思いますよ」
レオン「ディアナ軍隊長、もう一つだけお聞かせ下さい……そこまで、セラフィムゲートに拘るのは何故ですか? 使用目的は何ですか?」
ディアナ「それは、他の惑星の開拓による資源の入手と、我々人類の新たに生きる道の拡大でしょう」
カレン「分かりました。 リュミエール王国のソフィア女王とも検討します」
ディアナ「いいでしょう。 しかし、我が国の国王ミディスは気が短い方です。 この好機を逃さぬよう、お早めにご決断を……」
* * *
交渉が終わると、ディアナ率いる騎馬隊は、エルディア城を後にした。
カレンはじめ、エルディア王国の幹部がその後ろ姿を見送った。
砂煙を撒き散らしながら、ユニコーン型アンドロイドの騎兵隊は、次第に遠くへ小さくなっていった。
リュシアがカレンに歩み寄る。
「カレン陛下……今回の交渉……私は気乗りしません」
カレン「そうね……リュシアの気持ちは分かるわ。 だけど、和平交渉を蹴るというのもね……。 条件的には何も問題は無いのだけど……」
レオン「本当にセラフィムゲートを、平和の為に使ってくれるのか……我々の何世代も前の歴史では、ゲートを使用した乱獲が戦争の火種の一つとなったと聞いてる……」
サディス「武力では確実に、エルディアは劣る……武力行使をしてくるとは思いたくないが……」
エルディア王国とグラナディア王国。両国の旗が舞い散る砂埃の中で、激しくはためいていた。




