第19話 白い部屋(金属の輪 : カレン編)
惑星エルディア──
セラフィムゲート離脱直後に、グラナディア軍の襲撃にあったソフィア達は、辛くも猛攻から逃げおおせた。
大気圏航行中、ファランの青いランプが激しく点滅し、マックス博士からの緊急暗号通信を展開した。
『……こちらマックス。 非常事態だ。 グラナディア王国の奇襲により、エルディアは現在、戦争状態にある。 我がリュミエールも同様だ』
艦橋に緊張が走る。ファランが続けて、無機質だが沈痛な声でデータを読み上げる。
『追加情報です。 惑星マーノスにて、高エネルギー反応……新型のミサイルによる惑星の半分に及ぶ爆発を確認。 アルファ線、ベータ線、ガンマ線などの放射線が発せられ生物の生存は不可能……現地にいたレオン王配、およびリュシア副隊長とは……連絡が取れません。 行方不明です』
「そんな……レオンたちが……!」
ナギサが息を呑む。しかし、次の報告がさらなる絶望を告げた。
『さらに……王都防衛戦において、カレン女王陛下が敵軍に拉致されました。 繰り返します、カレン女王が拉致されました』
ソフィアは操舵輪を握る手に力を込め、血が滲むほど握り締めた。
マックス博士は、オラクルの古代文明のシールド解析データをチェックすると、通信連絡を行った。
「ソフィア陛下、エルディアの城周辺のドーム型シールド内に着陸して下さい。 敵艦の攻撃はしばらく凌げるでしょう。 おそらく、セラフィム号の認証ならば、外からゲートを通過が出来るようです」
ソフィア「ありがとうございます。 マックス博士。 城の前に緊急着陸します」
エルディア城の庭園広場に、セラフィム号が垂直着陸する。
まだ魚雷型ミサイルを受けた傷跡は生々しく、装甲がめくれあがり、内部の骨格が見えていた。
セラフィム号、ハッチから降りてきたソフィア達を、マックス博士と護衛隊長のエルザ、そしてエルディア王国軍の兵士数名が迎えた。
エルザは、潤んだ目でソフィアに〈耿月の剣〉を両手で差し出す。
「私が居ながら、申し訳ございません。 カレン陛下は連れ去られ……サディス軍隊長は、皆を守って名誉の戦死を……」
ソフィアは痛ましげに目を伏せ、黙ってエルザを抱擁した。
「……そう。あの忠義の男が……。 立派だったわね……
マックス博士を守ってくれてありがとう……
あなた達の戦いは、胸を張って欲しいわ。
エルザ……聞いて。 まだ、この戦い……負けてはいない! 力を貸して……」
「はい! 陛下、もちろんです!」
エルザは、直立のまま敬礼すると、涙が落ちないように空を見ていた。
* * *
エルディア城の謁見の間を作戦室として、セラフィム号クルー、マックス博士の護衛部隊。そしてエルディア王国軍隊メンバーは議論を重ねていた。
その時、通信室より連絡がはいった。
「グラナディア王国より、フォログラム通信が届いています!
……エルディア王国とリュミエール王国宛です……」
ソフィア「映して……」
「はい!……投影します……」
通信機からノイズ混じりのホログラムが投影される。 映し出されたのは、無機質な笑みを浮かべる小柄な老人だった。
『グラナディア王国のミディスだ──
通告する。エルディアおよびリュミエールは、無条件降伏せよ──
両国は、宇宙の秩序を乱し、我が国グラナディアに武力を行使した。
悪魔の下部、姉のソフィアと妹のカレンは、リュミエール王国とエルディア王国の王座を自ら失脚せよ。
両国は、グラナディア王国の傘下となり、国民とその資源を全て差し出せ。
ソフィア、カレン、および、その取り巻きの悪魔崇拝者は、グラナディア王国の捕虜となり罪を償え。
12時間以内に、魔女のソフィアはひとりでグラナディア王国に出頭し、無条件降伏の契約書にサインせよ。
12時間経過しても、この契約が締結出来ぬ場合。
まずは、悪魔の下部、妹のカレンを、その悪しき血筋の血が肉体から流れ落ち、枯れ果てるまで、串刺しの刑とする──
その後に、姉のソフィアと、その血縁者を全て捉え、同様の刑に処する。
もしも、我が国グラナディアにふたたび反旗を翻した場合……
エルディア王国は、火の海となるだろう。
そして、惑星リュミエールは、惑星マーノスと同じ赤い砂漠の星となるであろう──』
沈黙が流れた……
その沈黙を破るように、ハヤセが拳を壁に強く叩きつけた。
* * *
一方、グラナディア王国──
カレンはまどろみの中にいた。
遠くで、泣き声が聞こえた……
寒い霧の中で、目をこらすと誰かにオーロラが抱かれていた。
遠ざかるオーロラ……
カレンは白い霧の中を追いかけた。
『待って! その子は私の娘よ! 返して! 返してよ! オーロラ! オーロラ!』
「オーロラ!」
カレンは、自分の叫び声で目が覚めた。
白い霧は、目を開けても白く輝き、視界が晴れない。
もう一度、目を閉じて開くと白い天井があった。
白く無機質な「医療室」のような場所。
カレンは夢で流れた涙を拭おうと、手をあげる。
しかし、金属の冷たい輪が手首と二の腕に食い込み、涙を拭う事は出来なかった。
体を捻ろうとしたが、金属の冷たさが体にささる。
目だけを下に向ける……身体は、拘束され、無数のチューブが繋がれていた。
金属の冷たい声がした。
「やはり、叫んだ途端に数値が跳ね上がりました」
続いて、少ししわがれた声がする。
「目が覚めたか……素晴らしい……」
頭上で声がするが、頭部も固定され頭を動かす事さえ出来ない。
「誰! 私はエルディアの女王カレン! 無礼は許しません! 今すぐ、この拘束を解きなさい!」
カレンは、まだ状況が理解出来ない。恐怖で呼吸が荒くなる……
その時、彼女のアクアマリンブルーの瞳に男が映る。
顔をのぞき込むように、見下ろしていたのは、豪奢な衣装をまとった小柄な老人だった。
「ミディスじゃよ。 はじめて会うのがこんな形になるとは……カレン陛下……」
その男の目は、女性を見る目ではなく、珍しい昆虫を観察するような、冷たく濁った熱を帯びていた。




