第18話 白黒の海(希望の艦 : ソフィア編)
惑星エルディア──
上空の宇宙空間。
グラナディア王国の旗艦オルトシア号から、魚雷型ミサイルが放たれた。
銀色に輝く艦影の後部に吸い込まれていく。
ゲートを出ると同時に、マックス博士からの通信を受け取ったファランは、咄嗟にボタンを押した。 セラフィム号は水色の膜に包まれる。その膜はシールドを形成した。
しかし……
着弾の直前、魚雷型ミサイルの弾頭から目に見えない特殊な波動が放たれた。
それは「スーパーキャビテーション(超空洞化)」と呼ばれる現象を、エネルギーフィールドに応用したものだった。
かつて、海中を進む魚雷が「泡」で機体を包み、水の抵抗を無くして猛スピードで進んだように──
この宇宙魚雷もまた、対シールド干渉波によって、防御壁のエネルギーを「泡」のように沸騰させ、そこに真空の「空洞」を穿つ。
シールドという名の海を、抵抗なく滑るように突き抜ける。
グラナディア軍は、それをミサイルではなく「魚雷」と呼んでいた。
魚雷は無防備なセラフィム号の船体へと牙を突き立てた。
──轟音
セラフィム号の後部装甲が、内側から食い破られたように爆ぜた。
セラフィム号 艦橋──
ファランは、その衝撃に椅子から転げ落ちた。
ゲートを抜けて、ディープスリープモードが解除されたカプセルの中。
眠っていたソフィア達は異常な艦の揺れで、目が覚めた。
ルゥが、ソフィアのカプセルの周りを、大きな鳴き声をあげながら飛び回る。
緊急警報が、艦内を赤く染めた。
「なに!?」ソフィアは、カプセルを開け、通信装置と暁光の剣を握ると、艦橋へと走った。
その後をルゥが追いかけて、ソフィアの肩にしがみ付く。
ソフィアは、足をもつれさせながら、通信装置のスイッチを入れた。
「ファラン! ファラン! 応答して! 何が起きてるの!?」
ファラン「ゲートの出口を無事に離脱しましたが、後方より、グラナディア王国の攻撃! 大型戦艦です。 シールド突破されました!」
ソフィアは艦橋へ走りながら指示を飛ばした。
「取り舵いっぱい! 船首を敵戦艦に向けよ! 艦首ミサイル装填!」
第2派の魚雷が迫る。
側面に着弾──
セラフィム号の装甲がめくれ上がり、爆音が館内に響き渡る。
艦橋にたどり着いたソフィアは、艦長席の手摺りに掴まり衝撃に耐える。
後ろから、ハヤセやユリス達も艦橋に姿を現した。
ユリス「ミサイル装填完了!」
ハヤセ「敵ミサイル迎撃します!」
ソフィア「エネルギーを前方シールドにすべて注いで!」
第3波の魚雷が発射された。
ハヤセがミサイル発射の引き金を引いた。
セラフィム号船首より、白銀のミサイルが魚雷に向けて進行する
しかし、AI制御を搭載した魚雷はセラフィム号の迎撃ミサイルを横に交わすと、軌道修正をして、セラフィム号前方に着弾した。
全エネルギーを注がれたシールドは、辛うじて魚雷をシールド外壁にて破壊させた。
ミレイ「シールドレベルが急速に降下!次に着弾したら防げません!」
ソフィア「くっ!……全エネルギーをシールドから、ブラスター砲へ切り替え! 目標、敵戦艦の船首発射口…… 一か八か相撃ちにします」
その時だった──
セラフィム号のレーダーに光の点群が浮かび上がった。
急速にこちらへ接近する。
ファラン「未知の艦隊出現! その数……100……いや200です!」
ミレイ「ファラン……未知の艦隊では無いわ……これは……」
3Dフォログラムにその艦影が映し出された。
シルエットが立体化され、輪郭線が白く縁どられた。
背びれ、尾びれ、流線型の胴体。白と黒のコントラストが宙域の星光を反射していた。
ソフィア「シャチ型アンドロイド……」
約半年前に、セラフィム号を襲撃した後、宇宙の海を彷徨っていたシャチ型は、何かに引き寄せられるように集結していた。
オルトシア号は、その群れをレーダーで捉えていないのか、再度の魚雷が放たれた。
シャチ型の群れがセラフィム号の前に躍り出る。
魚雷がシャチ型の装甲を貫いた。
閃光──
シャチ型の装甲が、白と黒の破片と散った。
シャチ型の群れは、オルトシア号に向きを変えて突進する。その数……200。
オルトシア号は、船首を下から突き上げられる。
続けて、違う群れが横からオルトシア号をなぎ倒した。
真紅の艦は、白黒の無数の艦から何度も決死の体当たりを食らい、姿勢制御すらままならない。
オルトシア号は対空砲火をシャチ型に浴びせるが、その圧倒的な数と、捨て身の突撃に翻弄される。
ミレイ「この子達……守ってくれてる……」
ソフィア「彼らの犠牲を……無駄にはしない…… 船首をエルディア王国に向けよ! 全速にて、この空域より離脱!」
セラフィム号は、蒼いスラスターを光らせて、惑星エルディアの大気圏に突入した。
オルトシア号は、シャチ型に囲まれたまま、弾薬やエネルギーを使い果たしていった。
シャチ型アンドロイドの群れ──
その献身は、創造主AIノアによる制御なのか……
それとも、自らの意思が選んだ奇跡なのか……
ソフィアは、胸のペンダントを握る。
心の中で、シャチ達にいつまでも祈りを捧げていた──




