第15話 恍惚の光(火の星 : ディアナ編)
惑星マーノス 上空の宇宙空間──
レオンとリュシアが、朝の森の奥で、赤い実をかじっていた頃。
旗艦オルトシア号の艦橋で、ディアナは苛立ちをあらわにしていた。
「見失っただと!?」
「はい。アルファブルーの兵隊長によると、ユニコーン型を盗まれ、後を追ったが信号が消えたと報告が……」
「消える訳が無いだろ! 駆逐艦で上空からサーチ信号をかけろ!」
「それも……実施しました。その辺りにDNAのサーチ信号もかけましたが、見つかりません。 ユニコーン型AIのコア信号も途絶えています。 妨害電波が発信されていると思われます……森一帯を焼き払いますか?」
ディアナの眉間にしわが入り、その瞳は報告する兵士を睨みつけた。
「惑星マーノスの資源調査はどうだ?」
「現在、調査区域の30%しか出来ていませんが、真新しい資源はありません。 しかも、地下の資源を採掘して、年代をさかのぼった結果ですが、もともと昔は荒廃した惑星だったようです」
「フッ、マーノスは敵の拠点があるのみか……」
「ディアナ様、森一帯に総攻撃をかけましょう」
「それも面倒だ……戦争は時間が重要。 先に引き金を引かねばやられる」
ディアナは笑いながら兵に告げる。
「敵の拠点がマーノスにあるのは間違いない。 ここを叩くと同時に、マーノスを実験場としよう。 これは、我らのミディス国王の、ご推察どおりだ。 ミディス国王は、やはり先見の目がお有りのようだ……なんと頼もしい事か……」
ディアナは命じた。
「惑星マーノスの部隊は、全艦退却! 衛星フォボスの集結場所まで戻ってくるがいい! 皆に面白いものを見せてやろう!」
ディアナはアメジストの瞳を細めて、微笑んでいた。
* * *
数時間後、惑星マーノス
ノアの祈りの部屋──
白い髪の少年、デュカリオンは、円形の舞台に座禅を組むと祈りを捧げていた。
その周りを鉱石が光を放ちながら、ゆっくりと回転する。
その祈りは、光の粒子となり、部屋の吹き抜けを昇り天へと消えていった。
レオンとリュシアは、コバルトブルーの門まで戻って、子供達と共に胸に指を組んで空を見つめていた。
デュカリオンはレオン達に、こう告げていた。
「レオン様、リュシア様。 この惑星は、数時間後に数百年前の姿に戻ります。
楽園も、滅びてしまうでしょう。 草木や動物たちの命は犠牲となってしまいます。
やがて私のこの施設も朽ちていくでしょう。
しかし、先祖が残したDNAを持つ子供達は途絶えさせれません。
なぜなら、先祖と私達の『希望』だからです。
同じ事を繰り返すだけかもしれません。
しかし私は子供達を、この世界に放ってしまった。
その責任は全うしなければ、私が『AIとしての命』を授かった意味が無くなってしまいます。
私は、まだやるべき事を成していないのです……レオン様、リュシア様、子供達をお守りください……」
そう言うとデュカリオンは、祈りの部屋でひとり籠もってしまった。
レオンとリュシアは、外で祈るように言われた。祈るしかなかった。
しかし、その祈りは、自分たちや子供達、そして誰かに届くと信じていた。
* * *
惑星マーノスの上空、宇宙空間。
ディアナは旗艦オルトシアは艦首を、惑星マーノスの、ある大陸に向けていた。
ディアナは高揚していた。
呼吸は早くなり、心拍数があがる。いつも冷静冷徹なディアナの珍しい姿だった。
ディアナは、全部隊の兵に告げる。
「グラナディアの兵士、いやグラナディア全国民に告ぐ。 見届けるがいい! グラナディアの神は、本日、私という存在の誕生を祝福してくれるようだ!
それだけではない!今日からグラナディア王国はミディス国王の元、新たなる時代へと進むのだ!
今日はその記念日となるだろう!
見よ! これがグラナディアの神の力だ!」
ディアナは、照準を合わせた艦首ミサイルの発射トリガーを引いた。
オルトシア号の艦首から、真紅な大型ミサイルが射出された。
大気圏を切り裂き、ミサイルは回転しながら直進する。
そして、惑星マーノスの大陸中央に突き進んだ。
次の瞬間、耐え難い白色の閃光が視界を埋め尽くした。
突如、第二の太陽が生まれたかのような、直視できないほどの灼熱の光が放たれる。
強烈な閃光が走った瞬間、景色は真っ白に塗りつぶされ、時間の感覚が麻痺するようだ。
その光は丸く、大陸全体に大きく広がっていく。着弾した大陸のすべて……惑星の四分の一が白く染まった。
火球が上昇気流を生み出し、灰と塵を巻き上げながら、おぞましい形相の積乱雲へと姿を変えていく。
破壊の象徴であるかのように、巨大なキノコ雲が空高く舞い上がった。
その禍々しい姿は、世界の終末を告げていた。
ディアナは恍惚の表情で、遮光ゴーグル越しに、その光景を見つめていた。
爆発のエネルギーは、目に見えないガンマ線やX線といった形で宇宙空間に解き放たれ、オルトシア号艦内のセンサーが激しいアラートを鳴り響かせた。
地上では、海水が一瞬で蒸発した。
やがて空から黒い雨が降り始める。それは世界の残骸を含んだ、死の雫だった
ディアナは、その破壊力に手を震わせていた。
それは恐怖から生まれた罪悪感なのか、はたまた歓喜からなのか……本人しか知る由もなかった。
惑星マーノスには、今後……数百年、いや数千年の間にわたり、生命が自然に生まれてくる事はないだろう。
蒼く美しい星は、赤い砂漠の星となったのであった──




