第10話 楽園の実(火の星 : リュシア編)
惑星マーノス──漆黒の夜の森。
グラナディア軍の襲撃から逃れた、レオンとリュシアは森の中をひたすら走っていた。
自動操縦に切り替えた、2騎の馬型兵器《Unicorn-287》が並走して走る。
紫色の重力波が草木を揺らしていた。
やがて、夜は明け始め、霧がやわらかな光を返していた。
レオンは腕に装着している小型モニターを操作した。
「この辺りは、電波も通信も何も届かない……かなり奥地へ来たようだ……」
リュシア「レオン様……なんか、この辺りは空気が違う気がします……シールドか何かに囲まれているような……」
自動操縦の騎上で、少し眠ってしまっていたリュシアは、目をこすりながら空を見上げる。
明るくなりだした空は、虹色の波紋がところどころに広がっている。
リュシアは次の瞬間、制するように手をあげる。
レオンにサインを送るとユニコーンのスロットを緩めた。
「前方、11時……何かいます……」
2騎のユニコーンは、静かに地面へと足を降ろした。
レオンがルミナスソードに手をかけて、前方の木々を見渡す。
……木の影から、薄茶色に白い斑点が姿をだした。
レオン「鹿だ……」
その鹿は、こちらに気付き、レオンと目を合わせると、何も無かったように草木を食べ出した。
レオン「アンドロイドでは無いようだ……」
ユニコーン型をゆっくりとすすめる。
その鹿の背後には、子供の鹿が数匹……同じように木の実を食べていた。
リュシア「鹿さん……逃げないの?」
リュシアもゆっくりとユニコーンをすすめる。
「待って、リュシア……」
レオンは、周りを見渡しながらユニコーンから降りると、近くの木に手を伸ばした。
「実がなっている……」
それは、赤く大きな実だった。
レオンは実をかじると、もう一つ木の実を採って、リュシアに優しく投げた。
リュシアは落としそうになりながらも、両手で木の実をつかんだ。
レオン「食べれるよ……水分を補給しておこう」
朝日が昇りだして明るくなる森の中。
あらためて周りを見渡すと、実を沢山貯えた木々が並び、小動物達が朝の食事を探しに出掛けるように、せわしく木の上をかけていた。
ソフィア達から聞いていた、アンドロイドの襲撃にあった惑星マーノスの姿とは違う、楽園のような、その光景に二人は目を見張った。
レオン「これは、もしかしてAIノアが進化させた生態系……」
リュシアもユニコーンから降りる。
目を閉じると、背伸びをしながら朝の日差しの光を大きく吸って、赤い実をかじった。
ひとときの戦闘の疲れを癒すように、その光はリュシアの翡翠色の髪の毛を朝霧の中で輝かせていた。
* * *
惑星マーノス 衛星軌道上──
グラナディア旗艦 オルトシア号
艦橋のモニターには、森から逃げ出した2機のユニコーンの姿が映し出されていた。
その騎乗には、背景が滲むように揺れるが誰も乗っていないように見える。
「ユニコーンの制御を奪い、我が軍の包囲を突破するとは……」
ディアナは、アメジストの瞳を細めてその映像を睨みつける。
「隠れ家を破壊した時の画像を出せ!」
ディアナは画像解析班に命じる。
モニターには、建物から出てきた数名の人影が映る。
「拡大せよ!」
背の高い男と、翡翠色の髪が僅かに見えた。
ディアナは、画面を食い入るように睨む。
「隊長、あの動き……データ照合しました。 エルディア王国のレオン・エルナート、およびリュシア副隊長と断定します」
側近の報告に、ディアナは冷ややかな笑みを浮かべると、堪え切れずに声を出して笑いだした。
「ハハハッ! やはりな。 マーノスからの攻撃信号……それは、エルディアがこの星を拠点とし、我々を陥れるための罠だったというわけだ!」
ディアナの中で、推測は確信へと変わる。
「奴らは、ここで我々の足止めをするつもりだ。 ……だが、甘い」
ディアナは通信スイッチを入れると、副隊長コルシエに命じた。
「コルシエ! 貴様は直ちに艦隊の半数を率いて惑星エルディアへ戻れ!」
「えっ? しかし、マーノスの制圧は……」
「ここのネズミ狩りは私がやる。 貴様の任務は『本丸』だ!」
ディアナは、モニターに映る、煙をあげる黒い機体を指さした。
「エルディア王国の『戦力の要』は、今マーノスの森で逃げ回っている。 つまり、今のエルディア城は抜け殻も同然!」
「和平交渉など破棄だ! 奇襲をかけろ。 王城を制圧し、魔女カレンを捕らえよ! 抵抗するなら……全て焼き払ってしまえ!」
「ハッ! 了解いたしました!」
コルシエは艦長席を立ち上がり、艦内へ指令をとばした。
「二番艦エウノミア号、抜錨せよ! 旗艦オルトシア艦隊より離脱、回頭せよ!」
オルトシア号の横に並んでいた巨大な戦艦──姉妹艦エウノミア号が、重低音と共に回頭を始める。
それに従い、多数の艦が隊列を組んでセラフィムゲートへと向かった。
ディアナは再びモニターに向き直った。
「さあ、レオン・エルナート。 貴様がここで足掻いている間に、魔女の国がどうなるか……楽しみだな」
アメジストの宝石のように、その瞳は妖しく輝いていた。




