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新しき星命 最後の祈り(パート3)  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第1話 紫色の瞳(隣国の魔女 : ディアナ編)


 こんにちは。慧ノ砥 緒研音 (えのとおとね)です。


 星の数ほどある作品の中から、『新しき星命 最後の祈り』に足を運んでいただき、ありがとうございます。


 本作は、シリーズ『ふたつの星』のパート3です。


 パート1『ふたつの星 ひとつの祈り』

 および

 パート2『ひとつの光路 三つの星命』


 をお読みいただいてからのほうが、より楽しんでいただけると思います。


 それでは、パート3も最後までお楽しみ下さい。



 ソフィア達が、惑星マーノスでAIノアと対峙してから半年後──


 エルディア王国、国境付近の荒野。


 夜明け前の薄闇の中を、騎兵隊が砂塵をあげて疾走していた。

 エルディア王国の隣国、グラナディア王国の騎兵隊だ。


 先頭を行くのは、グラナディア軍の指揮官、ディアナ。


 彼女はラベンダーベージュの髪をシニヨンにまとめ、アメジストの宝石のように光る瞳は、冷たさを宿していた。

 パープルカラーの軍服は、彼女の研ぎ澄まされた意思を映すかのように一切の隙がなく、その凛々しい横顔を輝かせていた。


 グラナディア王国はエルディア王国と、何度となく貿易交渉の折が合わなかった。グラナディアの国王ミディスは、この難局を打開するため、国で一番信頼のおけるディアナに使者としてのめいを授けたのだった。

 

 騎馬隊の馬の鞍には『Unicorn-287』の文字。

そう、彼女たちの乗る馬はアンドロイドで、足元からは紫の重力波が砂を巻き上げていた。


 グラナディア王国もエルディア王国と同様に古代文明の研究をすすめていた。エルディアが「特定の血筋」に頼らざるを得ないのに対し、グラナディアは「ある種のDNA」を起動キーとして軍全体で運用し実用化する事に、いち早く成功していたのだった。



 砂漠を抜けて木々が見えてきた。はるか遠くの山々の間から恒星の光が差し込み、朝霧が薄れてきたころ——


 ディアナは、重力推進器の音とは違う ”遠吠え” のような音を耳にした。

 

 ディアナは右手を上げると大きな声をあげた。

 「隊列! 止まれぇ—!」

 騎兵隊は森の入り口で、ディアナを先頭に止まる。


 「今の遠吠えのような声、聞こえた?」

 副隊長のコルシエは、ディアナの横までUnicorn-287をすすめると、周りを静かに見渡しなが答えた。

 「遠吠えでしょうか……? 何か金属が擦れあうような音でしたが……」


 その時だった──前方の森から、銀色に光る群れが姿を現した。

 「狼……?」ディアナは、息を呑む。


 コルシエが端末を確認した。

 「隊長! エルディアの古代兵器とは発している信号の波形が違うようです」


 次の瞬間、狼型アンドロイドが一斉にこちらへ駆け出した。

 赤い目のようなふたつのセンサーが光り、口からはナイフのような牙が光りを垂らす。


 ディアナ「総員!戦闘体制! ユニコーンのブラスター砲を装填せよ!」

 

 ディアナの掛け声と共に、ディアナ達の騎乗する《Unicorn-287》の胸が大きく左右に開く。その中央から大型のガトリング型ブラスターが前に迫り出した。


 ディアナは躊躇なく叫ぶ。

 「撃てー!」


 銀色の群れは、ガトリング砲のレーザー弾を一斉に受け、次々と弾き飛ばされる。


 粉々となった銀の破片が宙に舞う……


 「撃ち方、止めー!」

 ディアナが叫ぶと、砂煙がゆっくりと風に流される。


 砂煙の中で五十は居たと思われる狼型アンドロイド、その全てが崩れ落ちていた。


 「コアを回収せよ!」

 コルシエが、馬型を前方へ滑らせる。左の腰から先端が丸く筒状になった工具を狼型の頭部に突き刺した。

 楕円形のカプセルを引き抜くと、コルシエは長い赤髪をかき上げながら呟く。

 「やはり、見たこと無い型だわ……」

 

 後ろからディアナの馬型が近づく。

 「どう? コルシエ。 エルディアの兵器?」


 「隊長、違うようです。もしくはエルディアの新兵器かも……持ち帰って分析します」


 「フフフ…… エルディアには、この襲撃は報告しないでおこう。 相手の出方が楽しみだわ」

 ディアナは、アメジストの宝石のような瞳を細めると静かに笑った。


 「総員! 前進せよ!」

 ディアナの掛け声と共に、グラナディアの騎兵隊は森の奥へと進んで行った。



 森を抜けた、その先の崖の向こう側。

 そこには、エルディア王国の軍隊がグラナディア王国の使者の護衛の為に待機していた。


 先頭はエルディア王国軍隊長サディス。その横には軍副隊長のリュシア。


 リュシアは遙か遠くでの銃撃音に嘶く、馬の首を優しく撫でていた。

 「よし、よーし。 大丈夫よ……」



 しばらくすると、崖の向こうから馬型アンドロイドの騎兵隊が姿を現した。


 大きな橋を、隊列を崩さずに進む馬型アンドロイド。


 サディスは、目を見開くと額の汗を拭った。

 「な、なんだ!? アンドロイドか……しかも、全て……。アンドロイドの騎兵隊だ……」


 エルディア王国の軍隊の馬達が、その姿に驚いたのか、ある馬は後退りし、ある馬は前足を上げて落ち着かない様子を見せた。

 

 リュシアが声をあげる。

 「総員、落ち着け! 馬を静めよ! 彼らは敵ではない。 交渉しに来たのだ!」


 その声には、ただの大声ではない、人の神経に直接響くような不思議な「調律」が宿っていた。

  その声が興奮した馬たちの本能に伝わったのか、あれほど騒いでいた馬たちが一斉に落ち着きを取り戻したようだ。


 ディアナを乗せた馬型がゆっくりと、サディス達に近づく。


 「我はグラナディア王国の軍隊長ディアナ! エルディア王国のサディス殿か!?」

 

 「お待ちしておりました。 ディアナ軍隊長。 エルディア王国の軍隊長サディスでございます。 ここからは私どもが護衛させていただきます」


 「フフフ、護衛? それは、ご苦労! では、先頭を頼みます。 アンドロイドに踏み倒されないように頼みますよ!」

 サディスは苦笑いしながら、額の汗を拭った。


 リュシア「ディアナ軍隊長。遠いところ、わが国との交渉の為にありがとうございます。私は副隊長のリュシアです。 ところで、ブラスターのような音がしましたが、何かあったのですか?」


 「あぁ……野犬がいたので安全の為に威嚇した。 心配ご無用で……」


 ディアナはそう言うと、アメジストの瞳を楽しそうに細め、笑いながら馬型を進めた。


 その後ろの赤髪のコルシエは、剣に手を掛けながらリュシアから一時も目を逸らさないでいた。


 アンドロイドの騎兵隊が先頭で走る。

 サディス達、エルディアの軍隊は遅れまいと馬を必死に走らせた。


 リュシア「何よっ!あれ! なんか、嫌な感じっ!」

 サディス「リュシア! 声が大きい!」


 ディアナ達のアンドロイド騎兵隊と、サディス達の騎兵隊は、朝日をバックにそびえ立つエルディア城に向けて砂煙をあげて進んで行く。


 しかし、砂煙の中で小型ドローンが騎兵隊の後ろ姿を映していた事は、誰も気づかなかった。



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