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言霊の井戸  作者: ぺどん
6/7

別視点 : 言霊の継承者 【前編】

大正時代の地方紙に残された一本の記事――

「黒羽町に伝わる言霊信仰」。


その古い記事に惹かれた大学生が、

記者の足跡を辿り、ひとつの“声”に出会う。


言葉を信じる者と、語らぬことを選ぶ者。

時代を超えて響く“言霊”の物語。

大学の卒業論文で「地方紙に見る民間信仰の変遷」をテーマに選んだのは、正直、教授ウケを狙っただけだった。

図書館の古文書室で、埃をかぶった地方紙の縮刷版をめくっていたとき、ふと目に留ま

った記事があった。

「黒羽町に伝わる言霊信仰__言葉が持つ力について」

大正時代の記者、白井誠一という人物が書いたものだった。

内容は淡々としていた。井戸にまつわる言い伝え、言霊の概念、沈黙の選択。

だが、妙に引っかかる文があった。

>「語らぬことで守れるものもあるーそれを、私はこの町で学んだ。」

守る?何を?

興味が湧いた。ネットで「黒羽町井戸 言霊」と検索しても、何も出てこない。地図にも「旧井戸」の記載はない。それでも、僕は行ってみたくなった。


春休み、レンタカーで黒羽町へ向かった。

町は静かで、観光地でもない。地元の人に井戸のことを尋ねても、誰も答えなかった。

町の古地図を片手に、僕は商店の前で立ち止まった。

店先に座っていた白髪の老人が、じっとこちらを見ていた。

「‥‥あんた、何を探しとるんだい?」

低く、しかしどこか澄んだ声だった。

「昔の井戸を探してて。言霊の話、知ってますか?」老人はしばらく黙っていた。

そして、ぽつりと呟いた。

「言葉は、落とすもんじゃない。拾うもんだよ」「‥‥え?」

「昔、うちのばあさんが言ってた。井戸に向かって言葉を吐くと、耳元に戻ってくるってね。風になって、囁くんだと」僕は息を呑んだ。

その言い回しは、白井誠一の記事に出てきた"おきよ"の言葉と、ほぼ同じだった。

「その井戸、今もあるんですか?」老人は目を細めて、杉林の方をちらりと見た。

「あるかどうかは、あんたの言葉次第だよ」そう言って、老人は立ち上がり、店の奥へと消えていった。

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