第四章 井戸の底
本作はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
大正時代を舞台に、「言葉」と「呪い」をめぐる不思議な噂を追う若き新聞記者の物語。
わずかな時間で読み終えられる短編ですが、読後には“言葉の重み”が静かに残るはずです。
日記帳__「言霊録」の最後のページには、こう記されていた。
>「底に沈むは、言葉の屍。見たいのなら、命を賭けよ」
誠一は、井戸は向かった。
昼下がりの杉林は静まり返り、鳥の声すら聞こえない。井戸の周囲には、誰かが踏みしめたような足跡がいくつも残っていた。
彼は縄と懐中電灯を持参していた。
井戸の石垣に縄を結び、ゆっくりと体を沈めていく。冷たい空気が肌を刺し、石壁には苔がびっしりと張り付いていた。
数メートル降りたところで、足が泥に触れた。
井戸の底は思ったより浅く、しかし異様なほど静かだった。
懐中電灯を照らすと、泥の中に何かが埋まっている。
誠一は手袋をはめ、慎重に掘り出した。
それは、古びた木箱だった。
蓋を開けると、中には無数の紙片__誰かが書いた悪口の言葉が、墨でびっしりと記されていた。
「‥‥これは、呪いの記録‥‥?」
紙片の一枚に、見覚えのある名前があった。
田島支局長__その下には、誠一がい井戸に向かって言った言葉と、ほぼ同じ内容が記されていた。
「‥‥俺の言葉が、ここに‥‥?」
その瞬間、井戸の壁が震える。
泥水が揺れ、底から黒い影が立ち上がる。顔の無い人影が、誠一に向かっててをのばす。
「言葉は、戻ってくる‥‥‥」
耳元で囁く声。懐中電灯が消え、闇が誠一を包み込む。
彼は必死に縄を掴み、井戸の壁をよじ登った。
地上に戻った時、息は荒く、全身が泥まみれだった。
だが、彼の手には一枚の紙片が握られていた。
そこには、こう記されていた。
>「呪いを断ち切るには、言葉を悔い、沈黙を守れ」
読んでくださってありがとうございます!
もし少しでも面白いと感じていただけたら、感想や評価をもらえるとすごく嬉しいです。
次の作品を書くモチベーションになります!




