第三章 代償
本作はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
大正時代を舞台に、「言葉」と「呪い」をめぐる不思議な噂を追う若き新聞記者の物語。
わずかな時間で読み終えられる短編ですが、読後には“言葉の重み”が静かに残るはずです。
田島支局長が階段から落ちたという知らせを聞いた時、誠一は言葉を失った。
「頭を強く打って、意識が戻らんらしい」__同僚の声が遠くに聞こえる。
誠一は、昨日の自分の言葉を思い出していた。
井戸に向かって吐いた悪口。
「まさか‥‥いや、偶然だ。そんなはずはない」
だが、心の奥底では確信していた。
あの井戸は、何かを吸い取った。自分の言葉を、憎しみを、呪いとして。
その夜、誠一は眠れなかった。
夢の中で、井戸の底から誰かが這い上がってくる。顔の無い人影が、耳元で囁く__「次は、お前だ」
翌朝、彼は支局へ向かう途中で足を滑らせ、膝を強く打った。
「‥‥ただの不注意だ」
そう言い聞かせながらも、背筋に冷たいものが走る。
資料室で古い新聞を探していた誠一は、埃をかぶった木箱を見つけた。
中には、手帳ほどの大きさの古びた日記だった。表紙には、墨で「言霊録」と書かれている。
ページをめくると、そこにはこう記されていた。
>「井戸に言葉を落とす者は、己の魂を削る。呪いは他人を蝕み、やがて自分に返る。人を呪わば穴二つ__それは、言葉の墓穴である」
誠一は震えながら日記を閉じた。
言葉は、記者にとっての武器であり、責任でもある。
その重みを、彼はようやく理解し始めていた。
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